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群青の空へ  作者: 朝霧美雲
第三章 -The fate of the white-winged demon will change drastically-
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第19話[ 前編 ]「継承される力」




魔の湯、という小さな温泉のある旅館へやってきた。名を知らせずに存在する、由里さんが昔好んで行っていた所だ。

つまるところ、もう100年近く営業している。それなのに古びる事なく割と綺麗な木材を使用しているのは、とある御神木を使っているからとの事。


「由里さんが言うには、実家にあった御神木をお祓いとかお祓いされた道具を使って丁寧に職人達が仕上げたのがこの宿なんだって」


「大丈夫なのか?それ」


「由里さんが言うにはそれで神様が怒ってないから大丈夫だって」


廃業にならずに経営し続けているのは、御神木で作られた事による加護があるからとも言っていた。

中に入れば、外と中で境界があるように感じる。何か不思議な力で護られているような、そんな感じ。


「いらっしゃいませ」


「二人分でお願いします」


私がレジで名簿を書こうとすると、店主と思われる女性は首を横に振った。


「あんた、霧乃宮の譲さんだよね。お代はいらないから、第二の家だと思ってゆっくりしていって」


第二の家という事について聞こうとした時、私は店主の目の色を見てすぐに理解した。


「そんな大層なものじゃないよ。ほんの少しだけ、霧乃宮の血が入ってるだけ」


彼女もまた黒髪に青い瞳。どうしてそんな関係の人が宿を経営してるかと言えば、この御神木を維持する為。

そんな役割を任されてから100年。今は3代目だと言う。


「由比、この宿入ってから若返ってないか?」


「そう?すごく体が軽いなとは思ってたけど」


この宿は本当に不思議で、まるで私の存在がどういうものか理解しているかのよう。

体は軽いし、なんだか気分が高揚している。


「・・・」


ライアーがじっとこっちを見ている。けど今はまだそんな時間じゃないと思うし、まずは温泉に入って体を温めたい。

そう言うと、ライアーは賛同してくれた。


温泉は廊下を進んだ奥にあり、私とライアーは男女分けられた更衣室へ入っていく。

更衣室は脱いだ時に体が冷える事が無いように暖房が効いていて、とても親切だ。

気になる夕食前の体重は一時期よりも減り、それでいて過去の一番少なかった時期よりは多い。




ライアーと一緒に湯船に浸かるのは久しぶりだ。そして、このお湯は私にとっては効果が凄まじい。

さっきまでズキズキと痛む事があった傷跡が、ゆっくりと癒されていく。


「染みたりしないのか?」


「全然。むしろすごく心地いいよ」


今度来る時はみんなで来たいなと思いながら、私は背伸びをした。

その時、視界にライアーの準備が整っている様子が映り私は顔を赤らめて困惑する。

意識しないようにしていたのに。


動揺している素振りを可能な限り見せないように振舞いながら湯船から上がり、先に更衣室へと戻る。

以前なら赤面するだけで済んだけど、何度かのライアーとの事々のせいでそれだけでは済まなくなった。


落ち着く為に衣服を着てから更衣室内にある自販機でフルーツ牛乳を購入して、それをゆっくりと飲む。


「動揺、隠せてないよね・・・」


はぁ、とため息をつきながらドライヤーで髪を乾かしていく。

心なしか、いつもよりも欲も強くなっている気がした。気のせいだと自己暗示をかけるように呟いた後、更衣室を出る。

ライアーと同じタイミングで退室し、入り口の所で私は思わず挙動不審に。


「顔赤いぞ」


「見ないで」


私はこういう時素っ気無い態度を取りがちで、でもライアーはそんな時の私も好きだという。

少し怒ったような態度を取っても、本心は怒っていないのを見透かされる。


「まあ、続きは夜にでも」


「・・・」


しぶしぶ頷くような仕草を取って、私はライアーと一緒に部屋へ戻る。




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