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群青の空へ  作者: 朝霧美雲
第三章 -The fate of the white-winged demon will change drastically-
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特別編「守りたい人の過去」




予定していた営業が終わって、私は由比の両親の住んでいるマンションへと到着した。

何を目的に来たかと言えば、由比の血液への異常なほどの恐怖心の原因。


由比は以前、両親と生き別れた原因は幼い頃にナールズの特殊部隊による襲撃であると言っていた。

もしかしたらそこに原因があるのかもしれない。


「こんにちわ、柿本です」


チャイムを押してからそう呼びかけると、由比のママである由美さんがひょこっと顔を出した。

相変わらず元気そう。


「あ、友香ちゃん!いつも由比がお世話になってます!」


「こちらこそ、由比にはいつも助けてもらってばかりで」


「どうぞ上がって!」


由美さんに言われて玄関から上がると、とてもおいしそうなにおいがした。


「今ね、ちょうどチョコケーキを焼いてたの!よかったら食べない?」


「じゃあ是非!」


私は結構チョコケーキが好きで、週に1回は食べている。

焼きたてのチョコケーキはとてもおいしそうだ。由美さんは紅茶も用意してくれて、それも私の大好きなストレートティーだ。


「由比ちゃんから、友香が来たらストレートティーを出してあげてってね」


「さっすが由比!」


後で由比への称賛のメールを送らなきゃ。


ケーキと紅茶の用意が済んだところで、私は由美さんへ本題を話す。

本当は由比のパパである弘幸さんにもお話を伺いたいけど、今日は北部方面の陸軍の視察に行ってるという。


「由美さん、家庭の事情に深入りするようでご迷惑かと思いますが、由比はどうして血をあんなにも怖がるんですか?」


私が思っていた以上に、由美さんは深刻そうな表情へと変わる。


「ごめんなさい。少しお話が長くなるから、もしよかったらソファに座ろっか」


「わかりました」


由美さんはケーキと紅茶を持つと、ソファの前にあるテーブルへと乗せた。

私も由美さんの隣になるように移し、ゆっくりとソファへ腰掛ける。


「この話はヒロくんとおばあちゃんしか真相を知らないの。由比ちゃんはあの事件で幼い頃の記憶が消えちゃって」


「そんな深刻な・・・」


それは由美さんがあんな表情をするはずだ。


「それと、この話は由比ちゃんがすごく慕っている友香ちゃんと、由比の旦那さんのライアーくんにしか話すつもりはないんだ」


「わかりました」


由美さんは紅茶を一口だけ飲んだ後、ようやく話を始めた。


「20年前にあった扶桑とナールズの戦争で、ライラプスと同等に名を馳せたのがヒロくん」


撃墜数は1年に満たない戦中期間で190機近くを誇り、ナールズが扶桑と平和条約を結ぶ事になったきっかけだという。


「戦争が終わって、6年が経った時かな。由比ちゃんがまだ2歳の時に、それが起きたの」


私は固唾を飲んで由美さんの話を集中して聞く。


「由比ちゃんのお洋服を買いに行く為にショッピングモールへ行って、帰ろうとした時に駐車場で突然後ろから斬りつけられた」


由美さんは服を脱いで、脇腹にある古傷を見せてくれた。


「すぐにヒロくんが戦ってくれたけど、ヒロくんも4箇所斬られて、血を流しながら相手をどうにか気絶させる事が出来た」


「でもすぐに意識失って倒れちゃって、救急車で病院に行ったんだ」


その時、由比はあまりの恐怖で失神してしまっていたとの事。


「私は服が赤くなって蹲っていて、お父さんであるヒロくんは出血多量で倒れて・・・由比ちゃんは怖かったよね」


かける言葉が見つからず、沈黙が訪れる。でも、由美さんは静寂を破って話を続けた。


「それから、ヒロくんはアスタリカ空軍に私達の身を守るようにお願いした」


保護されるまで、何年も各地を点々とした。最終的に由比が8歳の頃、長野の実家に由比を残してアスタリカへと逃げた。

その事件以来、何事も無かった。だけど、弘幸さんも由美さんも、怯えながら暮らしていた。


「聞いたよ。由比ちゃんもパイロットになってから一時狙われたって」


「ええ。由比達を巻き込んでの殲滅作戦や、ナールズ軍のトップエースに撃墜されて・・・」


由美さんは目を閉じて、流れる涙をそっと拭った。


「由比ちゃんは強いね。怖い思いをしながらも・・・」


「違うんです。由比は弱くて、誰かにいつも助けを求めてて・・・だから誰かが傍に居てあげないとダメなんです」


静音から、過去に行っている時に由比に起きた事を教えてもらった。自分の師匠のお姉さんを救えなくて、未来で自分の師匠を撃墜してしまって。

自分を強く憎んで、壊れて、自ら命を絶とうとした事を。


「・・・生みの親なのに、わかってあげられてないなんて」


「それは仕方が無いと思います。悪いのは由美さん達でも、ナールズの兵士達も無くて、戦争が引き起こした事です」


「・・・そうだね。ケーキ、少しだけ食べよっか」


「そうですね。いただきます」


ケーキを食べて、時計を見た。まだ13時を過ぎたばかり。まだまだ話は続きそうだ。


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