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群青の空へ  作者: 朝霧美雲
第三章 -The fate of the white-winged demon will change drastically-
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第12話[ 前編 ]「その意味も無く無情にも」




秋も深まってきて、私は紅葉を見るために山奥の旅館へとやってきた。

もちろん一人ではなく、ライアーともう一人。由里さんの合計3人。


案内された部屋からは大きな湖があって、夜には満月が湖面に反射してとても綺麗な景色が売りらしい。

紅葉もライトアップされ、和の雰囲気を楽しむ事が出来るとパンフレットには記されていた。

夜にはそんな景色が見られるけど、その前には豪華な夕飯が用意されている。


「夕飯は国産黒毛和牛すき焼き鍋だって」


「神様はお酒を所望してるみたいだな」


目を輝かせて扶桑酒を指差す由里さん。なんだか意外と食いしん坊な神様だ。

鍋が運ばれてくると、私達の目の前で香ばしいにおいを漂わせながらグツグツと音を立てている。


今回の旅行の予算は3人で20万円を確保しているので、よっぽどじゃない限り破産はしない。

ただしそこの神様がどれくらいお酒を飲むかがわからないので、由里さんには少し抑えてもらうようにお願いした。


「由比はまだお酒飲めないよな」


「この国じゃ、ね」


私は以前お酒を飲んだ事がある。扶桑から南西に、およそ5500キロメートル離れた遠い国で。

共に空で戦ったパイロット達は今、何をしているだろうか。もし会えるなら、再会をしたい。


「一度戦い交えたエース同士が地上で再会をしたいってのはよくある事だ」


私が話せば、ライアーはそう答えてくれた。

ライアーは私が人間である事を間接的に証明してくれている。それが嬉しくて、私はつい微笑む。


「新婚旅行はルーガンでも行こうか。俺と由比の出会った場所だ」


「うん、決まり。でも今はまだまだ戦いの最中だから」


私の周りの、大切な人を守る為の戦い。そして、生き残る為の戦い。

死に場所を求めていたあの頃から、私は大きく変わった。


私だけじゃない、私達の為に。



由里さんに扶桑酒を少しだけ注いでもらうと、周りを見渡した。

他に誰もいないかを確認する為。そして乾杯をしようとコップを手にした所でライアーが何かをそれに注いだ。

黄色くて甘い香りのする飲料。これはオレンジジュースだ。


「由比はまだ未成年だからな?」


「それじゃ、改めて」


3人だけの部屋にはガラスが小さく綺麗な音が響く。






結局、私はほんの少しだけの扶桑酒に留められた。

旅館にある中庭で、私はいつものように星空を眺めていた。やっぱり綺麗で、ついつい手を伸ばしてしまう。

再びこの夜空を飛びたいと願っても、今はまだ飛べない。それがとてももどかしい。


何の主題歌だっただろうか。

空を舞う翼を代償に、手を繋ぐ事を選んだ。だけど空が恋しくて、手を伸ばすのは罪か。

私がそう口ずさんでいると、横に由里さんが並ぶ。何も言わず、ただ同じように空を見上げている。


やがて、彼女は口を開いた。


「私の長男ってさ、小さい頃から空に憧れてさ。もちろん、ずっと生きていてほしかった」


由里さんのお兄さんは義弘さんだ。生前は海軍航空隊の魔王と呼ばれ、扶桑で一番の撃墜数を誇った。

でも、戦争はそんなのは関係無い。どんなに強くても、誰かを守る為にその身が犠牲になる事だってある。


「これ以上私と同じように、誰かが大切な家族を失う事が無いように。私は身を捧げた」


「だけど世界は無情にも、再び戦争をした。それも、何回も」


由里さんはとても悲しそうな目をしている。だけど、なんて声を掛けたらいいのかはわからない。


「霧乃宮家の大空の巫女が身を捧げなきゃ訪れない平和って、それは本当に平和なの?」



ねえ、教えてよ。誰か。



彼女はそう言い、拳を握り締めていた。



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