第11話「人の知る限りを超えて」
人類に誰が与えたか、科学では全く解明できない未知の能力。
扱えなければ死に、扱えても適合できなければ異形へと成り果てる。
その異形は人ならざる者と呼ばれ、人類の脅威だ。
人々はそんな異常に対して対抗策を取った。AISASとMIASによる対抗、無力化。
だけどいつどこで、誰にその厄災が降りかかるかはわからない。
私とライアーが2体の人ならざる者の無力化を終えた時、私に再び頭痛が起こる。
いや、痛みというより拒絶反応だ。何かに意識が吸われるのを、私の意識そのものが拒絶した。
「大丈夫か?由比」
「うん、大丈夫。それより」
人ならざる者は無力化すれば、残るのは死体だけだ。生かす事も救う事も出来ない。
一度それになってしまえば、二度と人には戻れない。それがこの異常だ。
私はMIASを解除して、近くに咲いている花をその死体の上に置いた。
誰がどうしてこんな運命を彼らに課したのだろうか。ただただ悲しくて、私は空を仰ぎ見た。
人類と神は、一体いつまで争うんだろう。
やっぱり、私の存在を欲しているんだろうか。私の存在が幽界に無いからなんだろうか。
「由比、戻ろう」
「うん。指揮指令所、応答願います。これより帰投します」
『了解。そちらにPCを向けてます。それで本部へ戻ってください』
「了解」
私達が帰る頃には雨が降り出し、空は薄暗くなっていた。
警察署での報告が終わると、私はおばあちゃんの家へ立ち寄っていく。
由里さんがすぐに出迎えてくれて、お茶とおはぎが出された。
「由里さん、今日は遠征に行くって言ってたじゃないですか?一体どこへ?」
「ナールズのシベリアだよ。あそこに何かいるんじゃないかって探したけど、見当外れ」
「そうですか」
出されたおはぎをいただきながら、時々お茶で口の中のつぶあんを流していく。
甘すぎなくて、小豆の風味を楽しめるおはぎはやっぱり美味しい。
「で、次は北欧へ行く予定。シングフォシュとかその辺りだよ」
確かに北欧の国々は色々な神話があったりするし、それに紛れて何かの神がいるかもしれない。
由里さんは今回の騒動に乗じて暴れている神を鎮めていく事が目的だ。
「そっちはどう?」
「こっちは・・・」
特に異常は無い。あるとすれば、人ならざる者を倒す度に頭痛が起きるくらい。
由里さんに話しても、特にこれといった情報は得られなかった。
「蒼空の果てにいれば色々な情報が頭に流れ込んでくるけど、人間界は全然」
何もわかんない、と言いながら彼女は畳の上に寝転がった。
「破壊之天空神だっけ?あれ以来そういうのは無いんでしょ?」
「ええ。全く」
「ただの夢だとは思うけど、今後も様子見だね」
話が終わったところで、私もちょうどおはぎを食べ終えた。
雨は強まるばかりだ。台風も来ていないのに、どうしてこんな大雨が降っているんだろう。
「・・・天皇の身に何か起きてなきゃいいけど」
「天皇陛下?」
「そう。あの人も半神だよ。天照大神の末裔」
「だからあんな事が・・・」
数年前、私が扶桑を発ったばかりの時の出来事。天皇陛下の交代の儀式の時の事をはっきりと覚えている。
儀式が始まったとたん降っていた雨は止み、晴れ空が出現した。
神話に登場する神々の血を引く者は、人知を超えた力を有している。
「私達だって例外じゃない。風は本来山や海の、気温だとか環境で発生するもの。それを意のままにできるんだから」
「そうですね・・・」
私は横にある鏡で自分を見た。神格化の影響で、色が変わった髪。
知らずに能力を使い続けていれば、いつかは神格と成り果てる。
「大丈夫だよ、由比ちゃん。私が絶対にキミを連れさせないから」
由里さんが言うなら、きっと大丈夫だろう。霧乃宮家の先代の、大空の巫女なんだから。




