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群青の空へ  作者: 朝霧美雲
第三章 -The fate of the white-winged demon will change drastically-
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第10話「その運命に抗う」





扶桑軍中央方面隊本部。兵庫県の伊丹市に所在するこの施設は厳重な警備が敷かれており、関係者で無い限り入れない。

私とライアーはその施設の地下の待合室で扶桑陸軍の高官から説明を受けていた。


使用方法は試作と全く変わらず、継続時間が2時間から3時間半へと延ばされ、より長時間の戦闘行動が可能になった事。

防御規格が1ランク上がり、5.56ミリ機関銃弾の直撃に耐えられるくらいにはなった。

それ以上に試作から強化されたのは補助的な方面で、暗視装置と赤外線探知能力が大きく強化された。


これにより夜間の戦闘能力が大きくあがり、一日のあらゆる状況下においての戦闘行動が可能となっている。



「では、以上で説明を終了します」


説明が終わると受領書が渡され、そこに名前を何箇所かに書き込む。

ちなみにMIASのデバイスはとても未来的で、デバイスを起動するだけで全身をアーマーが覆う仕組みだ。


「よろしくね、サイファ」


「よろしく頼む、ピクシー」


それぞれが新たな武器を手にして、期待に胸を寄せているのがわかった。

受領が終わって敷地内の駐車場に停めてある一台の車へ乗り込む。


「終わったみたいだね」


「じゃあ運転よろしくね、友香」


「はーい」




ライアーが見ている中、私の桜宮空奈としてのボイス収録作業が行われていく。

少し恥ずかしげに、時折嬉しそうに。色々なシチュエーションのボイスを友香から要求される。


「ダメ。全然気持ちが感じられない」


高い頻度でリテイクがあり、収録にかなり時間が掛かっている。

上手くできれば最短で10分で終わるのに、現状40分。さすがに疲れてきたので友香が小休止にしてくれた。


「ライアーへ伝えるつもりでやってみたらどう?」


「ライアーへ?」


「そう。それなら気持ちがこもるかなって思ったんだけど」


私はしばらく考えた。確かにライアーへ向けてのセリフだと思ってやれば、上手くやれるような気がする。

そうだ。少しやってみよう。


「アンタが一緒に行きたいって言うなら・・・行ってあげてもいいけど」


一つ目の収録がようやく終わった事が友香によって知らされた。

友香の隣にいる幸喜は少しにやけている。ちょっと気持ち悪い。


「じゃあ、残り2つだね」


残る2つのセリフは戦闘系だ。これなら普通に上手くやれるはず。

なんせ私のゲーム実況の切り抜きは基本的にカッコイイ系の切り抜きが多くて、本領とも言える。


それでもリテイクが多少はあって、30分で残りの2つのボイスが収録できた。

イラストとそれぞれのボイスのNG集込みで1500円。それが5種類販売されるのは3日後。

ネームは空奈とお出かけボイス。友香と幸喜の二人が編み出したらしいけど、正直私にとっては少し恥ずかしい。





「はっ・・・はっ・・・ちょっと、休憩取っていい・・・?」


帰宅してからはリングファイトアドベンチャーという、スポーツテイストなゲームの実況をしていた。

他のライバーのプレイを見ていると、少し如何わしい声を出してしまったりしている人もいる。

だけど私はスタミナには自信があって、あんまりそういう声は出ていない。


「さすがに疲れたから水飲む・・・」


とはいえ久しぶりにトレーニングをやって、腕にはかなり疲労が溜まっている。

それから30分ほど続けて、シャワーを浴びてから雑談配信へ切り替える。


服を脱いで手に持ってみると、少し汗で湿って重たくなっていた。

その服を持っている右手に、鏡に映る少しだけ残った傷。これは私がかつて、あの戦地にいた証拠だ。

同時に私が沢山の人にとっての癒し、もとい偶像になろうと決めた理由。


「痛っ・・・!」


突然頭が痛んだ。一瞬だけだったとはいえ、何か強い力に意識が吸い込まれたように思えた。

右手に持っていた服は床に落ちた。それを拾って洗濯物のカゴに入れて、私は自分の姿を見る。


「・・・」


そして私は自分が自分である事を認識する。藍色の髪に青い瞳。両親から受け継がれた容姿。

目立つ位置の着けた黄色の髪留め。これは私が友香にとって大切な人である印。

他にもある。いずれも私が色々な人にとって大切な存在である事を示してくれるもの。



私は運命に抗って生きている。死が約束されている運命から逃れ、戦い。

そんな私の背中を預かってくれるのがライアーだ。


「由比、いるか?」


「えっ」


私は反射的に近くにあったプラスチック製のコップを投げた。最愛のライアーに向けて。

いくら最愛とはいえ、いきなり下着姿を見られる覚悟は日常的にしていない。

けど、まんざらでもない気持ちもある。ちょっと酷い事をしたなと反省しながら、私はドア越しにライアーに謝った。


「ライアー・・・ごめん」


「俺が悪かった。何かしてやるから」


「うん・・・」


少しだけ赤面しながら、私はシャワーを浴びるために浴室へ入った。





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