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群青の空へ  作者: 朝霧美雲
第三章 -The fate of the white-winged demon will change drastically-
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第9話[ 後編 ]「秋空の下、二つの異象」





百里基地の門は大勢の観客で賑わい、奥へ進めば色々な出店が並ぶ繁華街のような様相の内周道路。

私とライアーは一緒に並びながら出店を順番に見ていく。射的だとかは無いけど、普段見る事の無い食べ物も売っていた。


「ライアー、タピオカ飲んでみていい?」


「いいけど、はぐれるなよ」


「わかってるって!」


私は子供のように小走りで列の最後尾に並んだ。タピオカは数年前にブームが来て、そろそろ去ったと思ってた。

でも意外と並んでいて、5分ほど待たされてようやく購入出来てライアーのもとへ向かう。


「遅かったな」


「ごめん、結構並んでて」


普通のものより太いストローでタピオカミルクティーを飲んでいると、基地のいたる所にあるスピーカーからアナウンスが流れる。

9時からオープニングフライトが始まるという事で、私とライアーは会場へと歩き始めた。


もうじき会場というところで、聞き覚えのある音が聞こえてきた。私がかつて乗っていたイーグルのエンジンを始動する音だ。

この音を聞くとなんだか懐かしく思えると同時に、少しだけ後悔の念が湧き上がる。でもあくまで過去の事だ。


「イーグル2機による航過飛行がオープニングか」


「百里基地はイーグルがたくさんいるからね!ほら、ライアー!!」


私は離陸のために滑走路へと移動を始めたイーグルを指差した。かつては私も同じイーグルに乗って同じ場所を移動していたのがなんだか不思議。

やがて滑走路へと到着すると一旦停止して、エンジンのチェックをする為に数秒間だけ最大出力アフターバーナーにする。

外部から聞いていると凄まじい爆音で、思わず耳を塞いでライアーの方を見た。ライアーは耳を塞ぐ事なく、ジッとイーグルの方を注視している。


「ライアーは平気なの?」


「ああ。慣れてるんだ。それに意外と耳塞がなくてもいいぞ?」


「・・・今までずっと耳を塞いでたけど、意外とい―――――」


いきなり離陸し始め、私の話し声はイーグルの爆音によっていとも簡単にかき消された。

離陸していくイーグルに目を向ければ、一機はグイっと機首を上げて上昇、もう一機は50度くらいの傾斜バンクをして斜めに旋回しながら上昇していく。


「俺と由比なら出来るな」


「うん、私もライアーとやったらいけると思う」


イーグルは機速を上げて基地から離れていった。おかげでようやくまともな会話ができる。

近くの人の話を聞いていると、2機のイーグルは空中で集合して基地上空を通過して再び地上に戻って終わり。

その後は静岡県の浜松基地のE-767AWACSエイワックスによる展示飛行。でも正直私は興味が無かった。


「旅客機ベースの機体も意外と迫力あるから見てみな」


「・・・ライアーが言うなら」


やがて2機のイーグルは基地の上空を通過していき、1機ずつ着陸していく。

滑走路上から2機のイーグルがいなくなると、会場にアナウンスが流れる。

ライアーが言った通りE-767によるデモフライトがこのあと行われる事が告知された。


「で、この次がイーグル4機の機動飛行か」


「その後お昼ごはんにする?」


「ああ、そうするか」


そんな会話をしていると、再びイーグルのエンジンの始動する音が聞こえた。

今度は4機で、次の機動飛行の為の準備をしているんだと思う。やっぱりいつ聞いてもこの音は好きだ。


それから数分と経たないうちにアナウンスが流れ、会場にE-767が接近している事が告知される。。

ちなみに私とライアーは二人とも視力はかなり良くて、ライアーは1.8.私は1.6の視力。

だから遠くに旅客機のような飛行機が来ているのは誰よりも早く見つけていた。


『まもなく会場左手より、E-767AWACSエイワックスが進入してまいります』


「そう怪訝な顔するなって、由比」


「輸送機がすごい機動できるのは知ってるよ?でも旅客機って・・・」


「由比は知ってるよな。飛行機はパイロットの技量で性能が変わるって」


「・・・」


E-767が会場の正面で突然ほぼ垂直に機体を傾けた。思わず声を出して驚き、ライアーの顔を見る。


「浜松のパイロットは優秀だって聞くからな」


「そうなんだ」


私はてっきり千歳や青森の三沢基地の隊員がかなり強いのかと思ってたけど、浜松のパイロットも優秀と聞いて安心した。

一回離脱した後、今度は時速800キロメートルの高速で進入してきて、低空でも意外と速度が出る事を知った。


「もしかして旅客機って意外と性能いい?」


「そりゃな」


最後に着陸態勢で一度滑走路に着陸した後、再び加速して離陸するタッチ&ゴーの後に機体を左右に振ってお別れ。

なんだかこういうのもいいかなと思っていると、今度はイーグルがいつのまにか滑走路へ移動していて、どんどん離陸をしていく。


爆音が轟く最中、視界の端にうずくまっている人が見えた。でも次にそこを見た時にはその人はいなくて、気のせいなんだとすぐにイーグルを見る。

最後の4機目が離陸したのを確認した直後だった。爆音が徐々に静まってようやく人々の阿鼻叫喚が聞こえた。


「由比、何かはわからんが緊急事態だ」


「知ってる!どうするの!」


「まずは人の避難だ!あとは近くの衛兵に知らせて、場合によっては俺らも加勢する!」


「わかった!」


人々が持ち合わせている食べ物のにおいに紛れて、異臭が鼻をついた。

これは人が焼けている臭いで、まさかと思って私は辺りを見渡す。すると、人々が逃げている方向と反対の場所に火柱が上がっていた。

恐らく人ならざる者だ。


「ライアー!人の避難に集中しよう!」


「そういう事かよ!クソッ!」


段々と人が基地の外へと逃げ出していくと同時に、基地内に警報が鳴り響く。

情報ではAISASはまだ警察にしか配備されていなくて、おまけに現場に展開するまで30分ほど掛かる。

だからまずは人々を避難させ、時間を稼ぐ事が先決だ。後は基地の消防隊による被害抑制を提案した方がいいかもしれない。


「衛兵さん!消防隊の要請をして!」


「今基地司令が緊急会議をしてる!待っててくれ!」


「それじゃ遅いんです!!」


人ならざる者の近くには既に数人が倒れていて、まだ逃げ切っていない人もいる。

MIASもまだ私達に配備されていないし、対抗手段はただ一つだけ。


「・・・ライアー、私にもしもの事があったらお願い。多分まだ大丈夫だと思うから」


「最大限掩護はさせてもらうぞ、相棒」


その直後、人ならざる者が人々へ向けて数メートルの火球を放った。

お願いだ。間に合ってほしい。


私は手を合わせて人々を守るように風が吹くように祈った。私を包む青白い光と、人々が逃げていく方向から火球へ向けて吹く風。

火球が風によって空へと吹き飛ばされ、やがて燃え尽きる。


「これ以上はさせない!私が相手だ!」


人ならざる者の前に立ちはだかると、私は20年前にボリスと戦った時のように全力で風を操る。

身体から何かが消えていくような感覚と共に、空気の塊が相手を包んでいた炎を完全にかき消した。


ボリスがかなり強かったんだ。と、そんな事を考えながら滲む汗をハンカチで拭きながらライアーの方を向く。

そこで私は気が付いた。



私は完全にやってしまった。



人々がいる前で能力を使って、その姿をメディア機器で撮影されてしまった。

これがツブヤイヤーや動画サイトで拡散されたら、どうなってしまうんだろう。


何が起こってしまうかわからない恐怖で、私はその場で膝をついた。

膝に荒いコンクリートの表面が食い込んで少しだけ痛い。だけど、それどころじゃない。

他の隊員や観客は私をバケモノを見るような目で見ている。




ライアーだけが、私をそっと抱いてくれた。



「由比、大丈夫だから」


「・・・うん」




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