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群青の空へ  作者: 朝霧美雲
第三章 -The fate of the white-winged demon will change drastically-
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第6話[中編]「その運命から」






「ごめんね、小夜ちゃん。大親友だったキミを置いてけぼりにしちゃって」


寂しかったよね。と言い、由里さんはお墓に花束を置いた。

ぽたぽたとお墓に落ちる涙はシトシトと降る雨に流されていく。


事の発端は一昨日の事で、おばあちゃんの家に私と朝奈で訪れた。

その時に朝奈のおばあちゃんの話題になって、由里さんがご存命かを聞いた事が事の経緯。


「孫の朝奈ちゃんから聞いたよ・・・何十回も私を救うために・・・」


小夜さんは由里さんの運命を変えたくて何十回も、三島家に伝わる能力を使った。

朝奈も使ったその能力はとてつもない負担が掛かる。儀式で精神と自身の血液を消費して、時を遡った先で奔走。




何十回もそれを繰り返しても、由里さんを救う手立ては無かった。

やがて小夜さんは儀式を成功させるだけの精神力が無くなり、大親友の居ない日々を、長い年月を過ごした。




「・・・由比、私ちょっと行ってくる」


帰り道に、朝奈は突如そう言いだした。私がどこへ行くかを尋ねると、5年前と朝奈は言う。


「5年前って・・・」


「由里さん、おばあちゃんに・・・小夜さんに伝えたい事や、渡したい物はありますか?」


朝奈に尋ねられて、由里さんは再び泣き始めた。


「そっくりだね・・・小夜ちゃんと朝奈ちゃん・・・すごく優しい所・・・」


私も朝奈の優しさというか、友達を守る為の覚悟に尊敬を抱いている。

その後の話し合いで、おばあちゃんの家で儀式をやる事になった。


三島家に伝わるその儀式は、時の流れに逆らい遡る。故に相当量の血液が必要になってくる。

そして儀式に使用する場所のお清めを、私と由里さんの能力を以て行っていく。


部屋の中心に由里さんと二人で正座をして、二人同時に手を合わせて能力を引き出す。

すると、部屋が空を思わせるような青い光に包まれ、やがて部屋を覆いつくした。


その時だった。私の中で何かが吸われたような、そんな気がした。


私は相当な体力を消耗して、立ち上がった時に目眩からふらついた。

だけど様子を見守ってくれていたライアーがすぐに私を支えてくれて、思わず苦笑いをする。


「ライアー、ありがとう」


「歩けるか?」


「うん、大丈夫」





儀式は明日の深夜行う事になっていて、私はそれまで自分の住居で過ごす。

今日のお清めの時に能力を使ったのが思った以上に体力を消耗していて、夕飯を作る気力が私には無かった。


なんだか、能力を使う度に消費量が上がっている気がする。いや。


「間違いなく上がってる・・・」


手を見れば、怖いわけでもないのに手が小さく震えていた。

このまま使用頻度が上がれば、私は無事でいられるかどうか。そんな不安が芽生える。

もしも何かが起きて、誰かを守る為に能力を過度に使ったら?


考えたくなかった。

そういえば何かの映画で見た事がある。誰かの幸せの為にその能力を使い、やがて消えた少女の話。


そんな事・・・ないはずだ。あれは架空の話で、人が消える事なんか。

否定しようとした時、私は由里さんを思い出す。彼女は戦時中に兄を亡くし、これ以上の悲しい事が起きてほしくないとその身を犠牲にした。


思考が不安で支配されかけた時、ライアーが帰ってきた。

ライアーはリビングにいる私を見るなり、どうしたと声を掛けてくれた。


「・・・ライアー、私の運命は・・・」


変えられたようで変えられてないのかと、私は不安な表情で尋ねた。


「大丈夫だ。何があっても、俺はお前を守る」


「ライアー・・・」


「何かが起きても、俺はお前を救ってやる。だから安心しろ」


これまで、私が不安な時にライアーは助けてくれた。居てくれた。

だからか、胸の内を埋め尽くしていた不安が抜けていく。


「ありがとう・・・」


「今日は疲れてるだろ。夕飯は俺が作るから、由比は休んでろ」


ぶっきらぼうだけど、どこか優しげにそう言ってくれた。

ライアーが作ってくれた夕飯はとても美味しくて、私は思わず笑顔になる。

夕飯を食べ終えて、お風呂へと入る。その後にベッドに入り、私の隣へライアーが入る。


「たまには一緒に寝るのもありだな」


「うん。・・・ふふっ」


嬉しくてつい笑みがこぼれた。しばらくライアーと一緒に寝る事もなかったから、今日は安心して寝られそうだ。


「ライアー、おやすみ」


「ああ。おやすみ」





翌朝に目が覚めた私は、先に起きて朝食を作っていたライアーに挨拶をした。

ライアーが振り向いて私を見た途端、驚いた表情に変わる。


「由比、どうした?その髪」


「髪?別に何も・・・」


「ちょっと鏡見てみろ」


ライアーに促されて鏡の前に立つと、私の容姿は昨日までと全く違っていた。

濃い藍色だった私の髪は少しだけ色が薄くなり、より空の色に近くなっている。


「なんで・・・!」


「落ち着け!俺が思うのは、昨日の儀式だ」


「儀式って・・・」


そういえば、昨日のお祓いで力を使った時に違和感を感じていた。

まさか、あれがこの異変の兆候だったとしたら。


「朝奈と由里さんなら何か知ってるかもしれないけど・・・」


「なら、とにかくわかる奴に聞くしかねえ」


私は半ば混乱した思考の中、ライアーについていく形を取っておばあちゃんの家へ向かう。

おばあちゃんの家に到着してすぐに、朝奈と由里さんが私を見て驚く。


「由比ちゃん、その髪!」


「どうしたのよ!」


事情を説明すると、由里さんが何かを思い出したように私へ耳打ちをした。


「由比ちゃん、キミの身体が神格化し始めてる」


「えっ」


「私はいくら能力を使っても、既に神格化してるから問題ない。だけど」


まだ人間である私が今後能力を使っていけば、どこかのタイミングで神格化して消えてしまうという。


「今後は能力を使わない事。いい?」


「はい・・・」


私の運命は振りほどいても、再び絡み付いてきた。逃げられるんだろうか。




この運命さだめから。

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