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群青の空へ  作者: 朝霧美雲
第三章 -The fate of the white-winged demon will change drastically-
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第6話[前編]「想定外」



それは、おばあちゃんが亡くなってから数日後の事。家の整理の為に私と朝奈の二人で訪れた時だった。

今は夜。誰もいなくて電気が点いていないはずの家で、ガサゴソと物を漁る音が聞こえた。


「朝奈」


「ええ、わかってる」


私と朝奈は連携を取りつつ、物音のする部屋へと、倉庫の方へとゆっくりと歩み寄る。

二人とも、あれから鍛錬した固有の能力を使う準備をしながら。


不審人物アンノウンはこの奥。やろう」


「ええ」


二人で息を整え突入して、犯人を取り押さえようとした時だった。

急に凄まじい勢いで風が吹き、二人とも吹き飛ばされて玄関横の下駄箱に身体を打ちつけられた。


「っ・・・何が起きたの・・・」


「今のって私の能力じゃ・・・」


私には今の現象が何なのかを瞬間的に判断できた。私はナンパをされて、塩対応をした時に襲い掛かられたりする。

その時に防衛手段として使うものだったから。


「警察に付きだすか今すぐ退散するかどっちかを勧めるよ。どっちがいいの?」


二人の前に立ち塞がったのは、私が何度か目にした少女だった。





翌朝、私と朝奈はおばあちゃんの家で一人の少女と対面する形で座って話をしていた。


「私の孫って事になる由比ちゃんと、三島さんの孫の朝奈ちゃんだね。よろしく」


そう言って、彼女は丁寧に頭を下げた。やがて話は本題に入っていく。

彼女の名前は霧乃宮由里。彼女が言うには、私は由里さんの生まれ変わりのはずだったそうだ。

けどこうして二人の「大空の巫女」が存在してしまっている現状は、私にあると言う。


「本来ならこの世界の人々の意識が荒んで、大きな戦争へと向かっていく」


それを私自身が身を捧げて、大きな争いを鎮めていくのが本来の運命。


だけど今は違って、私が血を捧げる事で世界の人々の意識が荒れる事が無くなった。

それが原因で理が乱れ、本来は神格となっている由里さんがこの世界に戻ってきてしまったと。


「どうすればいいのかもわからないし、今はこの家に住まおうかなって」


「そこに私達が来て、泥棒と間違えられたって事なのね」


「由里さん、ごめんなさい・・・」


私が申し訳無さそうに頭を下げると、由里さんは首を横に振って気にしないでと言った。


「それより・・・幸治、49で亡くなっちゃったんだね・・・」


幸治という名前を聞いて、私は朝奈の方を見た。それで察した朝奈は、耳打ちで私にその名前の人物について教えてくれる。


「由里さんの弟よ。あんたいい加減自分の家系について調べなさいよ」


「ごめん」


彼女は幸治さんの遺影に二拝二拍手一拝をして、再び私と朝奈の前に座る。


「改めて、霧乃宮由里です。これからよろしくお願いします」





その後も話し合って、由里さんはおばあちゃんの家に住む事になった。

物の置き場所の変化やテレビ、電話など困惑しながらも、一生懸命に使い方を覚えようとしている。

一通りの使い方を私と朝奈が教え、7時を過ぎた頃に自分のマンションの部屋に帰った。


「ただいま」


「おかえり。遅かったな」


「うん。色々あって」


既にライアーは帰宅していて、晩御飯も用意済み。おかげで私のやる事は洗濯だけ。

時間も余ったので、今日の夜は配信をする事に。


『今日の夜配信ね、了解。今日はあれをよろしく』


「うん。わかってる」


今日の配信は何をするのかと言えば、友香からお願いされている月末の報告会みたいなものを行う。

明日はまた色々忙しくなるだろうし、それに備えて早く寝たい。

報告会は30分に留め、いつもつけている日記を広げた時だった。

誰かが家のチャイムを押して、ドアを叩いている。不思議に思いつつも鍵をそっと開けて外を覗き見た。


誰もいなくて、私は更にドアを開けて外に人がいないか念入りに探す。


「・・・何だったんだろ」


ドアを閉じようとした途端、私の腕を誰かが掴んで強い力で引っ張った。

全く警戒もせず油断していて、そのせいで抵抗できずに引っ張られて外へ突き飛ばされる。


「きゃっ!?」


でも私は一般人ではなくて、仮にも元軍人だ。すぐに体勢を立て直して私を突き飛ばした人を見る。

相手は私と同じか、それより少し高い男。いくら衰えたとはいえ、反射神経と判断力は自信があった。


「いきなりなにをするんですか!」


「頼むからお金くれよ・・・この部屋のお前がお金持ってんのは知ってんだよ・・・」


よく見れば相手は服もかなりボロボロで、本当にお金を持って無さそうだ。


「くれないなら殺してでも・・・」


「殺してでもって・・・」


私は彼の言葉を聞いて、先ほどまであった敵愾心は完全に消失してしまった。


「あなたは・・・どうしてそんな事を?」


「どうしてって・・・お前にわかるわけないだろ!中東方面の紛争が終わって、そこに物資を輸出していた企業がどうなったか!」


黙って彼の話を聞く事にして、私は構えを解く。もし彼が世界の平和への道の犠牲者だとしたら。


「俺は多額の借金抱えたまま廃業だよ!ただでさえ売上は上がらなかったのに!」


「・・・」


もはやかわいそうとしか思えなかった。とても同情したくなる気持ちで一杯になり、私は抵抗しない意思を見せる為に両手をあげた。


「なら少し待ってて。あんまり大声出すと警察来ちゃうから、静かに」


「なんだよ・・・」


私はライアーを呼び、彼の事情を説明した。更には友香と幸喜も呼んで、彼を私の住んでいる部屋に上げて会議を始める。


「多額の借金って、いくらなの?」


友香の質問に彼は頭を抱えながら答えたが、金銭感覚の少し狂った私達にはそこまでの額ではなかった。


「360万か。どうする?」


「それぞれの貯金額は?」


私が40万とだいぶ減っていて、ライアーは400万。友香が280万で、幸喜が70万の貯金額。

私に至っては現状無職に近い状態であり、少し自分が情けなく感じた。


「・・・ねえ友香、バイトしていい?」


「いいけど、大丈夫?接客とかできる?」


「接客かぁ」


そんな話はすぐに終わらせて、再び彼の借金の話へ。友香がノートを取り出して、何かを書いた後に彼に見せる。


「福利厚生はばっちり。少し狭いかもしれないけど、住居も提供する。基本給は16万でちょっと少ないけど、その代わり食費以外は8割負担」


最後に簡単な説明でごめんなさいと言い、友香はそのノートを書き写してからそれを渡す。


「借金については話し合って、必ずどうにかしてあげるから。よかったらどう?」


「・・・罪をおかしたのに雇ってくれるのか?か弱い女性を脅し」


「言っておくけど、あのまま私を襲ったらあなたは無事じゃ済まなかったから」


私はバンと机を一回叩いて、彼の言葉に被せるように強く言った。

少なくとも私は素人の扱うナイフも銃も怖くなくて、それよりも熟練兵士のコンバットグローブの方がよっぽど怖かった。


「こう見えてここにいる4人全員元軍人だから。よかったね、相手がとっても慈悲深い由比で」


「本当に申し訳ありませんでした・・・」


友香はそんな彼に、最後に一言辛辣な言葉を浴びせた。


「この後は事務所に備え付けのシャワールームで綺麗にして、そこから簡易布団で一晩寝てね」


「友香、それはさすがにかわいそうだから・・・」


「・・・由比がそう言うので、とりあえず今からベッドと枕を用意します。事務所へついてきてください」


ため息交じりに友香が立ち上がって、彼を連れて部屋を出た。その後を幸喜もついて行く。

部屋には私とライアーだけが残り、新たな仲間が出来た事を微笑んだ顔で祝う。


「相棒、お前にはやっぱり人を惹きつける力があるな」


「みたいだね」


気が付けば深夜の1時を過ぎていて、私はすぐにベッドへと潜り込む。

今日だけで二人も新しい人と出会った。それが嬉しくて、ふふっと笑いながら目を瞑る。


これからも新しい人との出会いがあるといいな。と、睡魔に呑まれていく思考の中願った。


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