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群青の空へ  作者: 朝霧美雲
第三章 -The fate of the white-winged demon will change drastically-
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第0話「予期されぬ反響」





2021年 7月2日。



今から23年前、一切の開発がされないこの地で沢山の兵士が散っていった。

私を守ってくれた長倉さんもここに眠り、きっと世界の行く末を見守っているんじゃないかと私は思っている。

連合軍の礼服姿の元ライラプス隊の3人とお父さん、喪服姿のお母さんの5人で敬礼をして、殉職した兵士達を弔う。

私達以外にも沢山の人がいて、ナールズ軍の高官と思われる人もいた。それだけじゃない。


「ブリタニア軍も、ゲルマニア軍からも・・・」


本当に多国の連合軍との衝突があった事がわかる。


「来たな」


「うん」


扶桑空軍のF-2戦闘機が数機、遠方から飛んでくるのが見えた。斜めに並んだ数機のうち、先頭から2番目の機体がゆっくりと編隊を抜けて上昇していく。

慰霊飛行編隊ミッシングマンフォーメーションと呼ばれる編隊で、辺りには虚しく爆音が轟くだけ。やがて静寂が訪れれば、蝉の鳴く声が聞こえる。

いつもは常に楽しそうにしているお父さんも、少し悲しげな表情で上昇していく機体を見つめていた。


「長倉のおっさん、・・・またな」


「長倉さん、ありがとうございました」


私達は兵士達の眠る草原に頭を下げた後、ゆっくりと駐車場へと戻っていく。

今ある駐車場の開発の時以外、建造物の建設工事は監督が病に倒れたり、身内の不幸があったりと、まるでそれを許さないかのような出来事が起きている。

それがこの草原で、そんな出来事からこの地の開発は一切されなくなった。故に、この地は『兵士達の墓場』と呼ばれるようになった。


「懐かしいな、それ」


「長倉さんがくれた大切な形見だから」


私はお父さんの運転する車の後部座席で、最後の作戦の時に積み込んだくまのぬいぐるみをそっと抱きかかえる。

これは本当に大切にしていて、毎日汚れを拭いたり毛並みを整えてあげていた。


「おっさんも、まさか自分が守ったのが俺たちの娘だなんて思わなかっただろうな」


「そうだね・・・」


追悼は終わっても、まだまだ夏は始まったばかりだった。






それから数日後、私は実家で静音と友香を招き入れてのお泊り会をやっていた。


「ライアー、静音達案内してあげて。私はその間にスイカ切ってお茶出すから」


「奥の居間でいいか?」


「うん」


ライアーに案内を任せた後、私はスイカを切ってお皿に盛り付ける。それを静音達に渡してから椅子に腰掛けた。


「結婚したけど苗字は変えてないの?!」


「本来であれば、霧乃宮家は私の代で最後。でも歴史が変わって、それは無くなった。だから霧乃宮で居続けてるの」


「との事だ。それに、いくら結婚したとは言え、由比が俺の苗字を名乗るのも違和感大アリだからな」


結婚して半年が経つけど、特にこれと言った進展は無い。従軍していた頃と同じような生活をしていて、強いて言えば時々一緒に遊ぶくらい。

おしどり夫婦みたいなものより、私達にはこれくらいの距離感が合っている。

それに、その辺の新婚夫婦とは比べ物にならないくらい上手な連携で、日々の暮らしをお互い支えている状態だ。


「二人は今どんな仕事してるの?」


「ライアーは民間の高速輸送機パイロットで、私はー・・・なんて言えばいいの?友香」


「由比は私と幸喜が立ち上げた事務所のライブエンターテイナーだよ。収入はまだ幸喜が作る3Dと2Dモデルだけどね」


私はバーチャルライバーへの道を歩み始めたばかりで、そこまで面白い話が出来ているわけでもない。

だけどそれが出来るように頑張って色々な事をしていた。


「売上は多い時で一日35万くらいかな。主に幸喜の頑張りのおかげだけど、これで由比が収益化したらもっと増える


事務所、とは言ってもだいぶ古い建物。配信に適しているわけではなくて、外からの物音とかは普通に入ってしまう。


「そこでだけど、この静かな由比の実家を借りようと思ってるの」


「いい?おばあちゃん」


私は居間の隅にあるテレビの前でニュースを見ていたおばあちゃんに話を振った。


「いいけど、深夜は静かにね」


「うん」


おばあちゃんとの簡単な話が終わった後、私が生まれる何十年前も前に亡くなったおじいちゃんの神棚へお参りをすませる。

横へ同じようにおばあちゃんが座り、お参りをする様子が横目で伺えた。


「由比、あの時は嘘をついてごめんね。そうする事でしか、弘幸と由比を切り離す事が出来ないと思ったから」


「・・・」


おばあちゃんが嘘をついた事は、それまで一度も無かった。あの日、私についた初めての嘘。それがあの事件の事だった。

だからずっと信じていた。


「やっぱり憎いでしょ?」


それが嘘だとわかった時、私はおばあちゃんを憎んだんだろうか?

憎んでないかと言えば、もしかしたら嘘になるかもしれない。でも一つ言えるのは、憎んだとしてもその時だけ。


「由比が戦闘機に乗るって言った時、やっぱりあなたは霧乃宮の血を引いてるんだなって。本当にそう思った」


おばあちゃんは深く頭を下げ、私へ謝罪の言葉を述べた。


「大丈夫だよ。おばあちゃんのおかげで、共に戦ってくれる大切な友達が出来たから」


もし戦闘機乗りでなかったら、友香やライアー、幸喜だとか誰とも出会う事は無かった。

そして、ライアーと結婚する事も無かった。朝奈も同じ事を言っていて、別の世界線では私は今はもういない。


「由比がそう言うなら、きっとそうなんだね」


それから私はおばあちゃんに挨拶をして、友香達と共に家から少し離れた町へやってきた。

ここには昔通っていた中学校がある町。中学を卒業してからもう4年近く経つけど、今は私の顔を覚えてる人なんていないと思う。

人とあまり会話せず、成績だけを上手く取りながら過ごしていたから。


この町へやってきた理由としては、横浜から拠点を移す為の事務所探し。ちょうどカラオケ屋が廃業するらしく、友香がそのカラオケ屋を買い取って改装しようとしている。


「予算としては400万くらいかな」


その予算のうち、300万で配信用のフライトシミュレーター装置、100万程度で3D配信に適した部屋を作る。

ちなみにフライトシミュレーターを使った配信では時々静音に協力してもらう事も視野に入れていると友香が話す。


「400万もどこから出すの?」


「会社から200万と、幸喜が200万を出してくれるって」


そういえば幸喜も戦闘機乗りだったからお金には困っていないんだっけ。


「私は何かした方がいい?」


「ううん。由比は何か不満があったら言ってくれればいいだけ」


「本当にそれで大丈夫?」


「大丈夫だって」


友香はそう言って会話を無理やり終わらせた。少しだけ気になる点があるけど、それは夜に探りを入れていく。

探りを入れるとは言っても、友香に直接聞くわけではない。







「それで霧乃、話って?」


「その呼び方は前止めてって言ったでしょ。話っていうのは、友香の事」


幸喜はごめん、と謝りながら私の質問に答えてくれた。私が友香の事で何を質問したか。


「あぁー、友香さん最近ろくに寝てないよ。会社の運営の仕方とか、1年くらい前に起きたVライバー運営の大炎上事件の教訓とかの勉強ばっかり」


ちゃんと寝てほしいんだけどと、ため息交じりに言う幸喜の表情には心配の色が見える。

私自身もその話を聞いてすごく心配になり、友香へメールを送ろうとした。でもすぐに幸喜に止められた。


「友香さんが前に言ってたんだよ。由比に傷付いて欲しくないから先ず自分が勉強して教えられるようにしなきゃって」


「そんな事を・・・」


「だから今はそっとしてあげるのがいいと思う。あくまでも僕の意見だけど」


友香はそんな事をしているというのを私に話してくれなかった。幸喜の言う通りそっとしておくのがいいのか、それとも相談に乗ってあげるのがいいのか。

私にはどっちが正しいのかはわからなくて、沈黙の後に私は幸喜にお礼を言って外へ出た。


「私が無茶をしなくなった途端友香が無茶をするなんて・・・」


本心は無茶をしてほしくない。だけど、友香には自分の決めた事をやってほしい。

相反する友香への思いに戸惑う中、私はこの悩みをお母さんに相談する事に。


帰宅した時、机に書き置きが残してある事に気が付き、それを手に取る。

どうやらお母さんは今日泊り込みで仕事をしているらしく、お父さんはお父さんで扶桑空軍の教導で静岡県に行っていて不在。

ライアーは今実家にいるし、そうなると誰とも接する事が出来ない。今日は少し寂しくなりそうだ。


家に置いてあるパソコンの電源を入れると、私はライラプス隊の離陸の様子が撮影された昔の動画を開いて見ていた。

ちなみにあの時代から帰ってきた時に乗っていたイーグルは横田基地に秘密裏に保管されている。

扶桑の駐留基地の歩兵が数十人体制で警備していて、攻め入ったりしない限りは入れない。

入れるのは元ライラプス隊の3人と、ストラトアイなどの関係者のみ。当然、それ以外は許可は出てない。


かつて故郷を守るために舞い上がり戦っていたとは思えないくらい、今が平和だった。

それなら歌の一つや二つを聴いてもらいたいな、などと考えていると、友香から着信。


「どうしたの?」


『あ、由比?三日後のスケジュール空いてる?そこで由比に曲を歌ってもらって、それを収録してアップロードするから』


友香からそう提案され、私は一つ返事で了承した。それ以外にもフライトシミュレーターでオンラインプレイをして、その様子も撮り収めるらしい。

特にフライトシミュレーターは静音とやり込んだりしていて、時々二人で相手陣営から制空権を取っちゃったりする。


『そういえば、この間のシミュレーターの戦闘の動画がもうすぐアップロードされるから』


「は?」


いつの間にか撮影されていて、それの編集が終わってアップロード中らしい。そんなの聞いてない!

撮影されている事を知らずにやっていたから丁寧な言葉遣いもしてない。


『今回は見所沢山あったから期待できるよ!楽しみにしてて!』


友香はそう言い残して通話を切った。どうなるかはわからないけど、結果を待つのが今やれる事なのかな。






翌日、私は朝9時に起きた。スマホを見ると友香から何件も着信があり、メールも着ていた。

内容は昨日アップロードした動画が沢山の人に注目され、大好評だとの事。


「動画の再生数は・・・5万再生!?」


あまりにも多数の人が見ていて、思わず叫んでしまった。他にも注目のシーンが切り抜かれた動画もあり、私は急いで友香に電話する。


『その・・・由比が撃墜した人の中に、ワールドランキングに名前を刻むくらいの人がいたらしいの・・・』


「・・・へ?」


『たった2機で制空権を掌握したバーチャルライバーって名前で切り抜き動画が沢山あるよ・・・』


カタカタとタイピングする音と、友香の乾いた笑いが混じった言葉がスマホ越しに聞こえる。

私も検索してみたところ、どうやらシミュレーター界隈とVライバー界隈で大いに盛り上がってるようだ。


「ねえ友香!こういう時ってどうすればいいのよ!?」


『落ち着いて由比!まずは幸喜も集めて会議するから!』


友香に場所を指定され、私は急いでその場所へと向かった。

一体どうしてこうなったんだろう・・・。そこまで盛り上がらなくても、という気持ちが半ばだった。

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