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群青の空へ  作者: 朝霧美雲
第二章 -The Sky Dominated by Aces in 1998-
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最終話「変わる過去と未来」

1998年 12月11日



作戦名:Lots of borders.




いよいよ最後の作戦が発令された。私達三人はブリーフィングルームでみんなが集まるのを待つ。

数十分をかけて全員が集まり、アスタリカ空軍の総司令と各国駐留軍の司令、そしてアスタリカ合衆国の大統領が私達の前に立つ。

その重々しい空気に思わず静音が苦笑いしているけど、朝奈と私は表情を崩さずにいた。今日の作戦はナールズをはじめとした多国籍のクーデター軍の打破が最終目標だ。


「諸君、よく集まってくれた。先の件のクーデター軍の目的が判明し、それと同時に奴らの居場所を突き止めた」


ブリーフィングが始まり、作戦の詳細が私達へ伝えられていく。

ナールズのカムチャツカ半島より北西にあるカラガ地方にダムがあり、その地下にアスタリカ本土と扶桑を射程に収める7発の弾道ミサイルが数発収容されている。

そしてその弾道ミサイルの弾頭は核であり、もしこれが発射されれば最悪な事態になる。


ダムの10キロ手前からは堅固な防空システムが存在し、高度700メートルよりも上を飛べば多数のミサイルが飛んでくる。

平坦な地域なら700メートルは高いけど、そこは山々に囲まれた場所。限られた空域を通過しないといけない。

新兵が参加しても撃墜か、もしくは墜落する危険性が高い最後の任務だ。


「これまで多数の敵機と交えてきた君達なら出来ると信じている」


作戦に参加する部隊はライラプス隊とクーガー隊が主力となり、その他の部隊は掩護をしていく。

この作戦の結果で未来が変わる、私達にしかできない任務。必ず出来るという自信と、どこかで死ぬんじゃないか。もしくは失敗するんじゃないかと、心のどこかにそんな不安も存在する。


「シフィル、ちょっといい?」


「朝奈?」


格納庫へと向かっている途中で朝奈に話しかけられ、私は立ち止まった。よく見れば、朝奈は手の先が少しだけ透けているように見える。


「朝奈、手・・・!」


「私がこの時代に来た目的は、由比がいなくなってしまう最悪な未来を変える為。多分、私がこうなっているのは・・・」


遅かれ早かれ、朝奈は元の時代に戻る事はわかっていた。だけど、もう少しだけ一緒にいたかった。

胸が締め付けられるように苦しくて、私は朝奈をゆっくり抱きしめる。


「大丈夫よ。未来が変わったんだから、きっとまた会える」


「・・・うん。約束だよ、必ず」


「もう二度と自分を犠牲にして、いなくならないで。これも約束」


「それも約束する」


ゆっくりと朝奈の体も薄く消え始め、徐々に感触も薄くなっていく。それでも私は最後まで朝奈を抱きしめていた。

やがて完全にその姿が無くなり、私はただ一人静寂の中に立っていた。


「・・・朝奈」


彼女の名前を呼んでも、返事が返ってくる事は無い。あれだけの時間を過ごしたというのに、最後にはたった一瞬で。

静音にはどう説明すればいいのだろうと考えていると、すぐにその本人がやってくる。


「由比、朝奈は?もうすぐ出撃なのに」


「朝奈は一足先に戻ったよ」


「どこへ?」


その問いに答えずにいると、静音は何かを察して私へ背を向け歩き出した。静音の向いた方向は格納庫のある方で、私もその後に続く。


「じゃあ私達だけか。やるよ、由比」


「うん」






グッと座席に押し付けられるような加速度に耐えつつゆっくり操縦桿を引くと、機体がフワッと浮き上がる。

左斜め後ろを見れば静音の機体がピッタリと編隊を組み、地面はどんどんと離れていく。


管制塔タワーよりライラプス隊、必ず成功させてこい!』


私達は一度編隊を組むのを止め、基地上空で機体を左右に振りながら通過していく。

この基地へ着陸する事は二度と無い。だから挨拶をしていこうと離陸前に静音と話し合っていた。


基地を離れて数分後に静音と再び合流した。私達が基地上空を通過した後に離陸したクーガー隊や、連合軍所属の航空機も合流していく。

レーダーには映っていないが、別方向からも数十個もの編隊が作戦空域へと向かっている。


『腕利き揃いと聞いたが、各国から寄せ集めればこんなにもいるんだな』


『これだけの数が、最後には何機が残るんだ?』


『ライラプスは必ず生き残るさ。5万ドル賭けてもいい』


『じゃあ俺は控えめに2万ドルで』


みんなが一斉に私達にお金を賭け始めた。作戦中だから気が緩んでいるわけではないけど、ちょっとだけ呆れて笑う。

静音も困った様子なのか、水平飛行をしている私の前に出てゆっくりと旋回している。


『こちら空中管制機ストラトアイ。これより賭け事を禁止とする。全機作戦に集中しろ』


『おーおー、お堅い事言うなぁ』


ストラトアイの制止でみんなが文句を言いつつも、再び作戦に関する事が話題になった。

そんな時、一機のイーグルが私の横に並び、無線で私を呼ぶ。声の主はかつて空の王として君臨していた人物だ。


『久しぶりだな。無駄な争いを終わらせる為に呼ばれたんだ。よろしく頼む』


両翼をダークブルーに塗装したイーグルはお父さんが乗っている機体で、どうやらこの作戦の為だけに呼ばれたらしい。


「この戦いを終わらせなきゃ、世界が終わる」


私は自分に、みんなに言い聞かせるように無線でそう呟いた。作戦空域まであと20分。敵のクーデター軍も必死で迎え撃ってくるのは目に見えている。


『歴史に名を残したい奴だけ命を懸けろ。エースになりたい奴は生き残れ』


お父さんはそういう人だ。死にたくないし、誰かを守り続けたいから無駄死にしないように敵を落とす。そして、エースパイロットと呼ばれる。

私はどこかで自分の命を懸けてしまう事がある。だからまだ未熟だ。未熟だとわかっているなら、私は生き続けられるようにするだけだ。


「静音、生き残ろう」


了解オーケー


カラガ地方へ到着し、ダムへ続く渓谷が見えてきた。渓谷を低空で音速寸前である時速1200キロで飛んでいるゆえに、かなり集中力を要する。

こんな状態で数分飛べば、肉体は平気でも精神的に大きく疲労する。それでも私に続いて静音とお父さんは後ろをしっかりと付いてきている。

時折放たれるミサイルもフレアを使い回避していく。機関砲に捉えられても高速飛行をしているとほぼ当たらず、それに加えて回避機動を混ぜる事で全く当たらない。


『ヘンリー5が墜落した!』


『スワロー3被弾!操縦不能アンコントロール!』


後続の部隊から次々と墜落・被弾・撃墜の報告が流れ、それ以外にも混線して聞き取れない無線もある。

だけど助けられなくて、とても胸が痛む。


『とにかくライラプスだけはやらせるな!』


『スワローリーダーが被弾した!応答しろ!』


色々な隊が戦闘不能になっていく中、私達3機は半分のところまで来た。既に十数機は落ちた。

ダムに到達してからも腕効きにしか頼れないのが今回の作戦で、ダムの水路内にある発電施設の撃破。

最後に7つの核ミサイルの撃破。それが最終作戦であり、私達が現代に戻れるかもしれないタイミング。


『こちらクーガー隊、先頭の3機はライラプス隊か?』


「たぶんそう!クーガー隊、何か異変でも?」


『まもなくそちらと合流する。ヴァイパーの方が速いからな』


後続のクーガー隊がもうじき私達と合流するとの無線があり、私は後ろを振り返った。

3機の飛行機が時々白い飛行機雲を曳きながら私達を追うように飛んでいるのが見える。


『ライラプスとクーガー、目標地点まで3マイル!』


『もうすぐダムだ。正面に捉えたら一旦上昇して水路に飛び込め!』


右や左に旋回し、とにかく撃墜されないように飛ぶ。近接空戦ドッグファイトほどの加速度は掛からないけど、長引くとじわじわと体力を奪われる。

最後の難所の橋に設置された対空機関砲の弾幕を掻い潜ると、正面にダムが見えた。


『ストラトアイからライラプス、クーガーへ!ダムの水路に入り発電機を破壊しろ!』


ここまで私達は無傷だ。燃料も余裕があり、武装は全く使っていない。


「フィーラ、プラム!このまま・・・」


突入に際して合図を送ろうとした時、一足先に現代へ戻った朝奈の事を呼んでしまった。

そのせいで判断が一瞬遅れ、突入に失敗。一度旋回して再び突入するために距離を取る。


『シフィル、落ち着いて。状況を把握しよう』


そうだ、朝奈はいない。だけど、朝奈と共に未来を変える為にここまで来た。私がしっかりしないでどうする。


『次、行こう』


ゆっくりと旋回しながら突入コースを取り、推力を最大まで上げた。機体は一気に加速し、反転して水路へと突入。

水路内は輸送機クラスの航空機が入れるかどうかぎりぎりの狭さで、一瞬たりとも気を抜けない。


『狭い・・・私でもやれるかどうか・・・』


「大丈夫。朝奈が言ってたから」


未来は変わって、朝奈が役目を終えて戻った。つまり、今ここで私達が全力でやれば、必ず成功する。


『ふふっ、そうだな』


狭い水路内を右に旋回した時、赤いランプの点いている発電機が見えた。照準器レティクルを発電機へ合わせ、1秒の射撃。

発電機から火柱が上がり、それを避けて一度水路内から出る。


『シフィルの次は私だ!』


離脱した私の次に発電機を破壊しに行ったのは静音で、すぐにキルコールが報告された。

三番手のお父さんも冷静に機体をコントロールして、一個だけでなくもう一つの発電機も破壊して地表へ出てくる。


『発電機は残り1!』


再び水路内へ突入すると、もう一つの発電機はすぐに発見できた。それも破壊すると、今度はミサイルサイロが地表に姿を表す。


『全機地表に出現した核ミサイル本体を叩け!アレを破壊すればこの戦いは終わる!』


お父さんがそう叫ぶように伝える。本当にアレだけで終わるんだろうか?正史ではもう一つ重要な局面の空戦があった。

もしも願いが叶うのなら、アレクサンドルとの空戦はしたくない。避けられるのなら・・・。


そして6つ目のミサイルが撃破され、最後に私が照準器レティクルを合わせ射撃すると、ミサイルは崩れるように折れていく。


『・・・まだ、あるはず』


『ストラトアイから作戦行動中の全機へ。作戦は終わった』


終わったんだろうか。本当に。

そんな杞憂も虚しく外れ、作戦は終わった。基地へ帰投中にストラトアイから一報があり、アレクサンドルはナールズ政府によって拘束されたとの事。

私はそんな一報にホッと胸を撫で下ろし、左斜め後ろを振り向いた。


「フィーラ?」


編隊を組んでいたはずの静音は姿を消し、お父さんはクーガー隊と共に千歳基地へと直接向かっている。

気が付けば私の手も透け始めていて、戻る事ができるんだと安心した。やっと、みんなに会える。

出来れば静音や、朝奈。それだけじゃない。


この時代に出会った全ての人と、私達の現代で会えたらいいなと、切に願うばかり。



基地が見えてくると、いよいよ私の姿もかなり薄くなっている。

いつも通り滑走路に差し掛かった時、私はあの時と同じようにまばゆい光に包まれ、少しずつ意識が遠のいていく。









ここまで来るのにとても長かった・・・。少し物足りないかもしれませんが、伏線などの関係もありこんな結末になりました。次はエピローグを投稿します。

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