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群青の空へ  作者: 朝霧美雲
第二章 -The Sky Dominated by Aces in 1998-
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特別編「冬将軍の訪れ」


数日間を昔の故郷で過ごした私は、静音達とあの街へやってきていた。

アスタリカ軍専属の優秀なカウンセラーのおかげもあり、私の心の傷は以前と変わらないくらいにまで回復した。

それでも血に関しては以前よりも回復したわけではなくて、以前とほぼ同じ。血だまりなんてまだ見れない。


「あそこがそのホテル」


「・・・資料で見た事がある。けど本物は初めて見たわね」


ホテルはまだ一部が残っている。だけど、火元の部屋は私が見たあの火が燃やし尽くしたからか、外から中が見えた。

ほんの少しだけ私の呼吸が荒くなり、手が震えだす。


「由比、大丈夫?顔色悪いよ」


静音が私の異変に気付いて声を掛けてくれた。おかげで我に返り、深呼吸をして落ち着かせる事ができた。


「私があそこで由比を見つけなかったら、由比はどうしてたの?」


「・・・死ぬつもりだった」


「死ぬって・・・やめてよね・・・静音はたとえ平気でも、私は・・・」


消え入りそうな声で朝奈が言うと、私はいたたまれなくなって歩みを止めた。


「ごめん・・・」


「私が何のためにこの時代に来て、命がけで戦ってるか・・・もうちょっと考えてよ・・・」


「うん・・・」







雲行きも怪しくなってきた頃、私達は街を出た。雪はまだ降っていないけど、気温は少しずつ下がってきている。

そろそろ基地へ戻ろうと道を歩いていた時、急激に温度が下がっていくのがわかった。


「何だ、急に冷えるなんて事あるか?」


「そんなわけないでしょ。でもおかしいわね」


私は背後から何かを感じて、朝奈達から離れて後ろを振り向いた。同時に、それを狙っていたかのように雪の塊が飛んできた。


「突風を!」


避けるのも間に合わないくらい大きくて、私は反射的に手を合わせて祈った。風はそれに応じてくれて、その雪の塊を壊すように風が吹く。


「由比!大丈夫!?」


「私は大丈夫!でもこれは雪崩?」


雪崩なら、近くに斜面や針葉樹があるはず。だけどここは緩やかな舗装路で、そんなものはどこにも無かった。

それならどうして?


「雪崩じゃなくて、僕の能力チカラ。まさか捕獲対象も同じようにチカラを持ってるなんて聞いてないよ。КГБも大した事ないな」


ふと聞こえた声の方を見ると、ポケットに手を突っ込んで歩いてくる子供の姿があった。流暢に英語を話していて、でも顔はナールズ人で。


「僕はコードネームジェネラル・マロース。扶桑語だと冬将軍だっけ?スフィルさん、大人しく捕まってくれないかな」


そんな彼の要求も、私は首を横に振って拒否した。すると彼は大きくため息をついた後、ゆっくりと私へ近づいてくる。

それを塞ぐかのように朝奈と静音が私の前に立つ。


「静音、あんたは基地へ連絡して。多分コイツは由比と私じゃなきゃ撃退なんてできない」


「・・・どうして?」


静音は納得がいかない様子で、朝奈に理由を尋ねていた。理由は私にはわかる。

きっと、私と同じように能力がある人じゃないと倒せないから。


「早く!」


「はっ、はい!」


まるでクリスさんに命じられた時のように、静音は急ぎ駆け足で基地へと向かった。

朝奈がここまで怒る様子を見たのは初めてだ。そのくらい危機的状況なのかもしれない。


「由比、どうにか逃げるチャンスを作るわよ。あんたの能力だけじゃ勝つのは難しいから」


「・・・だろうね。朝奈、あなたの能力は」


「自分の時の流れを変える能力。けど出来れば使いたくないわね、疲労があまりにも大きすぎるから。あと、外部には影響しない」


了解ラジャー。私の能力も風を操る程度だし、防げても雪崩だけか」


とにかく今は増援の到着か、隙を作って逃げ出すか。それが任務ミッションだ。


「朝奈、行くよ!交戦開始エンゲージ!」


私はとにかく彼と距離を置くために、吹き飛ばす作戦を考えていた。猛烈な突風が彼の周辺を巻き込み、雪が舞い上がる。


「今よ!」


朝奈が私の手を掴み、基地の方へと駆け出す。だけど雪の壁が出現し、私達の前を塞いだ。

どうやらまだ交戦可能な状態らしい。


「しぶといな・・・」


私は苛立ちながらそう呟く。先ほど吹き飛ばした場所を見れば、雪が固まって出来た流線型のドームがあった。

あれが私の起こした風を上手に受け流したんだ。


「空では無敵と言われる風使いも、地上じゃ大した事ないな!みんな、誰も大した事のない奴らばかりだ」


大した事の無いと言われ、私は頭に来ていた。あれでも軽自動車を動かす程度の風量だというのに。


「なら、これならどう!どこまで飛ぶか知らないよ!」


私は再び風を起こすために祈る。今度は何もかも吹き飛ばすように。

舞い上がる雪と共に、小石や枝を巻き込んで彼の周囲を爆風のような風が襲う。彼の周囲は雪がめくれ上がり、地面が見えていた。


「由比、ちょっとやりすぎよ!」


「このぐらいやらなきゃ・・・!」


だけど、地面の真ん中に雪の塊が見えた。あの爆風のような風でも防ぎきった事を私は信じられなかった。


「朝奈、逃げよう・・・」


「だから最初っから言ってるじゃない!そこの壁砕いて!」


私は言われるがままに風をぶち当て、壁を崩す。壁の破片を飛び越えて舗装路を走り出した時、私の左足が突然動かなくなった。


「きゃあっ!?」


「由比!」


そのまま積もった雪に転がり、私は立ち上がろうと手を付いた。だけどどうしても左足が動かなくて、恐る恐る左足の方を見た。片足が無くなっているんじゃないかとも思った。

私の目に飛び込んできたのは氷に包まれた左足で、瞬時に理解した。勝ち目なんて無くて、逃げる事すら叶わないと。


「朝奈、彼の目的は私だ!!だから朝奈は逃げて!!逃げて静音達に状況を知らせて!!」


「っ!」


朝奈は今にも泣き出しそうな表情で私を見つめた後、すぐに走りだした。


「吹き飛ばせないなら!下降流ダウンバーストはどう!」


横からがダメなら、上空から。それでダメでも諦めず、色々な手を考えるしかない。

クリスさんから教わった「戦闘機乗りは最後まで足掻け」という言葉を思い出しながら、私は風を食らわせていく。


「いい加減しつこいな。いっその事手も足も、全てを凍らせちゃうか。死なない程度に」


「くっ・・・!いい加減吹き飛べえぇぇ!!!」


近くの小さな木が根から折れるくらいの風が吹いた。それでも彼は今度は流線型に氷を張り、それすらも凌いだ。

その光景を最後に、私の足からゆっくりと氷が包んでいき、最終的に私の意識は途絶えていった。


きっと、死にはしない。だけど、しばらくはどこかに閉じ込められるんだと、そんな考えに至った。

静音が緊急事態を知らせて、朝奈が詳細な情報を与えてくれる。少し我慢すれば、助けは来るはず。

だから今は耐えよう。この冷たい時間を。

以前からファンタジー要素は出していましたが、ちょっとこのあたりから強くしていきたいところですね。

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