The Silver World of Darkness
事件の夜、私は静音のベッドに日記帳を放り投げるように置いた。静音がこのノートを見れば、きっと私の死に場所の近辺を探すだろう。
私はもう生きていてはいけない人間だ。色々な人を殺すだけ殺して、誰一人救えない人間のままなら・・・。
「みんな・・・ごめんなさい・・・」
きっと今の私は酷い表情をしているだろう。泣きに泣いて、自分を憎みに憎んだから。
涙も既に枯れたように感じる。あの光景と彼女の気持ちを思い、そして思いを託した人を殺したのは私だ。
もし私があの時に殺さずにいれば、私の成長を祝い生き延びた事も有り得たのに。
外へ出るために宿舎のドアノブに手をかけた時、見慣れた人物が視界の端に移った。
「由比、こんな夜中にどこへ・・・」
私は口をぎゅっと閉じたまま俯く。静音がゆっくりと歩み寄ってくるのをチラリと見て、ゆっくりとその場に座り込んだ。
静音に会っても無視をしようと思っていたけど、結局できずじまい。
「静音・・・私どうすればいいの・・・」
今、私は間違いなく死のうとしていた。自分に圧し掛かる罪の重さに耐え切れずに。
枯れたと思っていた涙も再び溢れ出し、抱え込んだ感情が一気に押し寄せる。
「リリーさんもクリスさんも・・・長倉さんも、誰一人と救えないのに・・・!」
「由比・・・」
「こんな人殺しになるのなら空なんて選ばなきゃ良かったって・・・本当は思いたくないのに・・・」
そんな考えに至りたくなんかないのに、しつこく付きまとうその文字が私の感情を支配していると言っても過言じゃなくなっていた。
友香やライアー、幸喜達と出会い変わった私を再びどん底へ突き落とすような、そんな出来事だった。
「・・・由比!」
名前を呼ばれ、同時に頬に鈍い痛みが走る。静音を見れば涙ぐんでいて、私の頬を叩いたんだと理解した。
「キミがそんな状態でどうするの!辛いなら抱え込まないで私達に話してくれたっていいでしょ!?友香さんだって絶対そう言う!」
「朝奈だっていつも話してた!キミは全部一人で抱え込んで、私達の前から消えるんじゃないかって!ずっと不安だって!!!」
静音はボロボロと涙を流し、宿舎に響くくらいの声で私に対して怒りをぶつける。
「キミがいなくなって悲しむのはキミと関わった全ての人だよ!!!もっとそれをわかれよバカ!!!」
そのまま、静音は私に抱きつくように泣きじゃくっていた。
「由比が辛い思いをしてたら私達だって辛いんだよ・・・」
「ごめん・・・」
大きく沈み、どん底へと向かっていた私の感情はいつのまにか少しだけ浮き上がり、死ぬ気なんてのは完全に消えていた。




