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群青の空へ  作者: 朝霧美雲
第二章 -The Sky Dominated by Aces in 1998-
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番外編②「並び、進んでいく」

※入れ替わり要素あります。苦手な方はブラウザバックを推奨します。



私が起きてすぐに、由比が起きた。いつも二時間遅れくらいで起きるのに珍しい、などと思いながら歯を磨く為に洗面所へと歩く。


「由比おはよーう」


「あ、おはよう」


由比は台所で顔を洗い傍にあるタオルで顔を拭いていた。


「ねえ由比、キミっていつも洗面台で長めに顔洗ってなかった?」


「・・・そう?」


なんだか変だなと思いながらも、私は歯磨きを終えて朝食の準備に取り掛かる。

今日は私と朝奈が担当になっていて、由比は自由にしていても大丈夫だった。


「外走ってくる」


「は?なんて?」


思わず聞き返した。終戦を迎えてから由比の考え方が変わった?そんな事ある?

朝奈はあと5分ほどで起きるけど、どうしよう。とりあえず由比には走ってきてもらおう!


「外走ってくる。これで聞こえただろ」


「だろって・・・」


唖然としたまま由比を見送った後、私は朝食を作り始めた。

卵を割って焼いていると後ろで物音がして、ようやく朝奈が起きてきた。


「おはよ、静音」


「朝奈おはよー。ちょっと聞いてよ、由比がなんかおかしいんだよ」


「ふうん・・・それよりあんた卵焦げてるわよ」


「えっ」


朝奈に言われて初めて焦げてるにおいに気が付いた。慌てて火を止めたけど、もう後の祭り。

一から作り直すことにして、私は卵をもう一度割って焼き始める。


「で、由比がおかしいってどういう事?」


「まずこの時間にしっかり起きたんだよ。そんでもって、外に走りに行くって・・・」


「ただいま」


「おかえり」


由比が帰ってきた。なにやら困った表情でジャージを脱いでいる。


「もう一回寝る・・・」


「ちょっと、パジャマくらい着なさいよ」


由比はパジャマすら着ずに二度寝を始めた。でもよく見れば、手にはペンダントが握られている。

このペンダントには確か、由比が好意を抱いている男性とのツーショットが入っているんだっけ。ちょっと見てみよ。


「へえ、イーグル二機の前でのツーショットか」


二機のイーグルの前で、その男性と並んで写っている由比の表情は本当に嬉しそう。思わず私も頬が緩む。


「そういえば、朝奈って好きな人とかいる?もしよかったら教えてよ!」


「・・・いたわよ」


不意にそんな質問をした途端朝奈の表情が曇ってしまった。私は咄嗟に謝った後、朝奈の反応を見た。

少しだけ泣きそうになっているけど、すぐに私の顔をじっと見てくる。


「あんたには関係ないってずっと思ってたけど・・・話そうと思う。それが、私があんたを仲間と認める行動だと思うから」


「無理だと思ったら話さなくても私は大丈夫」


私なりの一番の気遣いの言葉をかけた。


朝奈のその話は私にとって大きな衝撃だった。由比に聞かれてはマズイからと二人で部屋を出ると、決して誰にも聞かれる事の無い格納庫の一室へやってきてドアを閉めた。

内容は朝奈には現代で数人の大親友がいて、高校の放課後にカラオケへ行ったりコンビニでみんなで買い物をしたりして、とても楽しい日々を送っていた。

朝奈と、霧乃宮由比、そして二人の同級生の男子。朝奈は男子のうち一人と付き合っていて、高校を卒業してから本格的に付き合う予定だった。

由比は由比で恋人は作っていなかったけど両親と暮らしていて、将来は母と同じように教師を目指していた。


「けど、高校2年の時にね。ナールズのせいで扶桑国内でアスタリカ軍と全面的な戦争になったの」


「戦争って・・・それじゃあ扶桑はズタボロじゃないか」


「うん・・・20年前の戦争でただでさえ経済的にも成長なんてできなかったのにね」


その戦争のせいで同級生の男二人は基地防衛要員として徴兵され、由比はどうしてかいなくなってしまった。

でも不思議な事に戦争はすぐに終わって、扶桑は独立をする事ができた。


「そんな最悪な未来を変えたいの。だからお願い」


絶対に変えたいという思いが誰よりも感じられる瞳からは涙が溢れそうで、朝奈はそれを拭って私を見ていた。


「由比が別の世界線にも存在してるなんて・・・ちょっとどころじゃないくらい驚いたよ」


「私もよ。あの子はみんなの宝物みたいなもの。由比を悲しませないためにも、由比を守るためにも・・・絶対に生き延びなきゃいけないの」


だからこの間はごめんなさい、と朝奈は頭を下げた。この間とは、あの首都奪還作戦の事。あの時、長倉さんがいなければ由比は撃墜されていたかもしれなかった。

長倉さんの死はほぼ運命的なものだった。と割り切ろうとしているけど、私達の力不足であった事も事実。


「もっと強く羽ばたけるようにならなきゃね・・・」


「そうね・・・。一旦戻りましょ」


「うん」


部屋へ戻ると、由比はまだ寝ていた。そっと毛布をかけてあげると、少し冷めた卵焼きをレンジで暖めて、今度はベーコンを焼いていく。

食パンもオーブンで焼き、三人分の朝食が出来上がった。


「ふあ・・・おはよう・・・」


先ほどと少し変わっていつも通りの由比が起きて、私達は朝食を食べ始める。

朝奈はずっと溜めていたものが吐き出せたからか、いつもよりも笑顔が多い気がした。


「由比、あんた今日ずいぶん早起きだったけどどうしたのよ」


「いや、私はさっき起きたばっかりだけど・・・」


「そういえば昨日からおかしかったよね」


昨日は昨日で、由比はいきなり煙草を買い始めたりしていた。すぐに私と朝奈で止めたけど。

それ以外にも運動後にみんながいる前で上着を脱ぎだしたり、なかなかにおかしかった。


「でもなんか、ライアーになった夢は見てたっけ・・・」


由比は少しだけ頬を赤らめながら、嬉しそうにそう話した。


「トレーニングしなきゃーとか思ったりしたけど、ちょっと眠いから寝たりした」


「ふうん・・・?」


朝奈はそれを聞いて考えた後、とある結論に至った。私へ耳打ちでとあるワードを教えてくれて、頷く。


「世の中色々な事があるけど、これって入れ替わりじゃない?」


「そんなまさかぁ」


とはいえ、言われてみれば確かに由比のあの行動は男性が取るものに似てはいた。口調もおかしかったし。




朝食を終えて、私と朝奈は飛行場を見渡せる建屋の屋上へと来た。


「ねえ朝奈」


「何?」


私はあっちの世界の由比について尋ねた。どんな性格をしていたのか、どんな学校生活を送っていたか。

朝奈は思っていたよりも快く話してくれて、私は思わず拍手をした。


「そうね。こっちの由比が、やっとあっちの世界の由比に・・・」


言葉を詰まらせ、朝奈の表情はは急に焦ったように変わった。

だけどすぐに首を振って平静を装おうとする。朝奈は由比について何をどこまで知ってるんだろう。


「ううん、なんでもない。今の由比みたいにたくさんの人と関わったりしてたわ」


「そっか。こっちのあの由比は出会った頃さ、家族を失って、復讐だけを糧に空軍へ入隊したんだ」


「えっ、でも生きてるって・・・」


「前話してた時に言ってた。現代あっちにいる仲間が、由比の両親は生きてるって教えてくれたって」


その話をしていた時、由比は思わず涙ぐんでいた。いいなぁ、私も家族と再会して・・・謝りたいな。

そういえば、朝奈の家族って無事なのかな。


「私の家族なら大丈夫よ。ただ、高校の女子寮に住んでたから一人暮らしだったけどね。由比の家は歩いて数十分の場所にあった」


「由比の家に行った事あるの!?」


「ふふっ。何度か泊まった事もあるわよ。あの子の家、結構広いから」


由比の家がどんなのかは聞いた事がなくて、私は次々質問を朝奈にぶつけていく。どれくらい広いのかとか。


「・・・もしさ、この時代の戦いが終わって現代に戻ったら、絶対に朝奈と一緒に由比の家に行こうよ」


「約束、破ったら許さないから」


私は朝奈と指きりげんまんをした。絶対にこの約束は破らない。破りたくない。絶対に守る。

そう何度も繰り返し言い聞かせるように言葉にした。


「じゃあ戻ろっか。由比を待たせてるわけだし」


「そうね。戻ったら由比と一緒にショッピングモールへ行かない?」


「いいねそれ!じゃあ先に戻ってる!」


私は屋上を出て階段を急ぎ足で降りていくと、私達の住んでいる寮の部屋へと戻った。

ドアを開けて部屋を覗き込むと、由比がこっちを振り向いておかえりと言ってくれて、それが嬉しくて私はついつい抱きついた。


「ちょっ、いきなり抱きつかないで!」


「ごめんごめんー」


そんなやり取りをしているうちに朝奈も戻り、私達はショッピングモールへと出かけるために準備を始める。

朝奈が色々教えてくれたおかげで、由比と一緒にいる時間がすごく大切なものだと知ることが出来た。


「朝奈、さっきはありがとね!」


「こちらこそ。また二人でお話でも」


「うん!」


準備が終わり、私達は並んで歩いていく。

こんな日々がもっと続いてほしいな。早くみんなで色々な事をやりたいなと、澄み切った群青の空へ願いを添えるように手を伸ばした。




つい最近ですが、とある監督の作品を連続で二個見ましてね!色々なアイデアを得たんですよ!!!

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