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群青の空へ  作者: 朝霧美雲
第二章 -The Sky Dominated by Aces in 1998-
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番外編①「取り戻すことのできない宝」






「別にいいですよ。由比さんは悪くないんです」


戦争が悪いんです、と彼女は言った。私は長倉さんの一人娘の長倉晴香さんへ会うべく、一人で東京へ来ていた。

明日は晴香さんの母親に同行し、あの場所へ向かう事になっていた。東京郊外の、兵士達みんなが眠る場所。

東京奪還作戦での連合軍の損失は少なくなくて、陸空合わせて500名以上が犠牲になった。


「晴香さん、悲しくないんですか?」


「悲しくないわけでは無いですよ。ただ・・・」


彼女は東京の街並みをゆっくり眺めた後、再び私へ視線を向けた。


「お父さんは泣いてる私が嫌いなんです。泣いてる私を、いつも笑顔にしようと色々やってくれてました。だから泣くわけにはいかないんです」


笑おうとしている彼女の目からは大粒の涙が溢れていて、私はそっとハンカチを差し出した。

見ているのが辛いけど、今は晴香さんの傍に居てあげなきゃいけない気がした。私も両親が亡くなったと聞いた時、何日も泣いていた。

その時はおばあちゃんが横についていてくれた事を覚えている。とてつもなく辛い時、誰かが横に居てくれる安心感は必要だ。




私はアスタリカ空軍第6飛行隊が駐留している茨城の百里基地を離れ、長倉さんの家族のいる東京へと来ていた。

まだまだ復興が始まったばかりだけど、みんな一生懸命に盛り上げようとイベントが多く開催されている。

街のいたるところに爆弾によるクレーターや、倒壊した建物が見られ、撤退時の攻防の激しさを物語る。


「由比さんの髪って不思議ですよね」


「不思議?どうして?」


「太陽に照らされると、少し空の色に似てるなって思っちゃうんです。家の中にいるとそうでもないのに」


彼女は私の髪をじっくりと見ながらそんな事を言った。手鏡を取り出して髪を見てみると、少しだけ空の色に近くなっている気がする。前はそんな事無かったのに。


「確かに・・・」


そんな事はさておいて、初めての東京という事で私は内心大はしゃぎしていた。予算は最後の作戦の成功で貰った報酬の10分の1にも満たないとは言え12万を持ってきていて、自分の金銭感覚の狂いに少し戸惑っていた。

早速近くに雷門があると言うので、そこへ向かう。道中でチュロスの売店を見つけ、二人分を買った。

晴香さんはチュロスが好きらしくて、美味しそうに食べている。


「由比さんはどうして戦闘機に乗るんですか?死ぬのが怖くないんですか?」


突然そんな事を聞かれた。どうして戦闘機に乗るのか、死ぬのが怖くないかと。


「私が戦闘機に乗ったのは、たぶん運命的なものだと思う。偶然に偶然が重なって、結果として戦闘機に乗ったんだ」


お父さんも、まだ決まったわけじゃないけど私のおじいちゃんも戦闘機に乗っていて、私も戦闘機に乗る事を選んだ。

これを運命と言わないでなんと言うんだろう。霧乃宮家は永代的に戦闘機に乗るのかな。


「死ぬのが怖いかって聞かれたら、私だって怖い。でも私には空を舞う翼があって、その翼で戦う力がある。その力で誰かを守りたい」


戦場を生き抜いて、身近な親友たちや家族、住まう故郷、国、そして未来。色々なものを守るために私は戦う。


「・・・」


私の言葉を聞いた直後、晴香さんは食べる手を止めた。どうしたのと聞くと、少し嬉しそうな表情で再び食べ始める。


「言ってる言葉が、お父さんと全く同じなんです。みんなそんな想いで戦ってるんですか?」


「ううん。みんながっていうわけじゃないけど、少なくとも私の周りの人達はそんな想いで空を舞ってる」


お金を目的として飛ぶ傭兵や、憎悪で飛ぶ人もいる。かつての私もそうだった。

アスタリカの兵士という存在が憎くて、とにかく復讐を果たしたくてルーガン空軍へと志願した。


「憎悪で飛ぶ空なんて、ただひたすらに雲の中を飛ぶようなものでしかないよ・・・」


自嘲するように小さく呟いたその言葉は晴香さんには聞こえず、ただ虚しく賑やかな街の中へ消え去る。

あの頃の私と今の私はもう別人の如く違う。今はただ、誰かを守って、戦争を早く終わらせる為に飛ぶ。

友香が言っていたあの言葉は、今でも強く胸に刻まれている。


それからはタクシーを使い、あの場所へやってきた。


「この空でお父さんが戦ってたんですよね」


「うん」


長倉さんをはじめとした、扶桑もナールズも問わず多数の兵士が眠る場所。

扶桑奪還に成功し、多数の戦力を削がれたナールズ。今は戦いの場所を国際会議場に移し、この争いの終結へと動き出している。

正史では数週間後にクーデター軍の存在が確認されて、まだまだ私達は戦う事になる。

だけど今私がする事はただ一つ。


「由比さん・・・」


私は一日も早く平和が訪れるように祈った。これ以上辛い思いをする人がいなくて済むように。

誰かを、何かを守るために誰かを殺さなければいけない矛盾。戦争が起きれば、それが当たり前になってしまう。


「うん・・・ごめんね」


目尻からこぼれた涙を拭いた後、私は微笑みながら晴香さんへ謝った。








夜になり、私は百里基地へと戻る支度を整えはじめた。傍では晴香さんが読書をしていて、ときおり空の上について聞いてくる。

明日の朝には出発しないといけないし、支度が終わり次第寝ないと起きれなくなってしまう。


「由比さんはどこ出身なんですか?」


「長野だよ」


私の生まれは長野県の山のふもとにあって、時々濃霧が発生したりする。

そういえば・・・濃霧が発生した時には家から出ないように言われてたのを思い出した。どうしてかは未だにわからない。


「今度遊びに行ってもいいですか?」


「ごめん、今は無理・・・」


本来なら、私はまだ生まれていない時代。だから家に帰っても誰も認知してくれるはずもない。

当然、招き入れる事なんてできるわけがない。


「でもいつか・・・」


「はい!いつか遊びに行きますね!」


この時代に出会った人たちはいい人ばかりで、本当にいつかみんなで遊びたい。

例え年齢が違ってしまっても、みんなで遊ぶ事が出来たら・・・。


「うん、その時は是非!」


現代に戻って、再び平和が訪れたら探しに行きたい。この時代に出会った人達を。

だから今は生きよう。生き延びて、みんなに会いたい。


私はバッグにしまってあったあの不思議な腕輪を着けると、ゆっくりとベッドに潜り込んだ。

すぐに晴香さんが電気を消してくれて、部屋から去った。いつもは静音や朝奈がいるけど、今は私一人だけ。

外からは車が走る音が聞こえたりするけど、特には気にならなかった。今日もゆっくり眠れそうだ。


と思っていたけど、平和を実感したからか寝付けずにいた。瞼を閉じると、友香や幸喜、ライアーの事を思い浮かべてしまう。

こちらの世界に来て4ヶ月ほど経つけど、体感的に半年以上に感じていた。少し寂しくて、私は気を紛らわすために寝返りを打つ。


「ライアー・・・会いたいよ・・・」


ずっと我慢していた想いを言葉にした瞬間、涙が止まらなくなってしまった。

なるべく声を抑えようとしても抑えられなくて、枕に顔を埋めて無理やり抑える。

またあの言葉をかけてほしい。嬉しいことや辛いこと、他愛も無い話を、もっと話したい事もたくさんあるのに。

夢でもいいからライアーに会いたい。そんな気持ちで一杯になり、とても寝れそうになかった。









気休めで書きました。雑だけど書きたいものを書いてもいいよね・・・?

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