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群青の空へ  作者: 朝霧美雲
第二章 -The Sky Dominated by Aces in 1998-
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第12話「守るもの」



「またこの場所・・・」


気が付けば、私はまたあの場所にいた。ここは朝奈が言っていた、蒼空の果て。

でもライアーはいなくて、私一人だけだ。やっぱりわからない。どうして私はこの場所へ?


しばらく近くを探索する事にして、私は歩き出した。建物も道路も、木の一本さえも無い。

今この場所に存在するのは見渡す限りの雲海と草原と、全てをつなぐかのようなひたすらに広い青空だけ。

ここが蒼空の果てというのなら、間違いの無い名前だ。


それからどれくらい経ったかわからないくらい歩いても景色が変わる事は無かった。雲が動く事も無く太陽は照り付けているのに暑くは無くて、とても不思議な感覚。

時の流れが存在するかどうかも怪しくなってきた。それでも私はこの場所の謎を探るために歩き続けた。

私がふいに瞬きをした直後、遥か前方に人影が現れた。私と同じくらいの・・・いや、私より少しだけ年上の女性に見える。


だけど一歩前に進んだ瞬間、まるで床が抜けたように足が地面を抜けて、そのまま墜ちて行く感覚に襲われる。

私は冷静に目を閉じて深呼吸をした。再び目を開けると、そこは見慣れない天井が見える。


「ん・・・おはよう由比・・・」


身体を起こしてすぐ、朝奈が目を覚ました。朝奈は起きてすぐに髪を櫛で梳かしながら立ち上がり、洗面所へ向かった。

あれだけ長いと髪の手入れも大変だろうけど、それでも朝奈の髪は殆ど痛んでいない。


「由比、あんた今日あいさつ回りでしょ・・・ふあぁ・・・」


朝奈にそう言われ、私は今日がどういう日なのかを思い出した。

先日実行された東京奪還作戦へ向けての作戦は成功した。私達が所属する第6航空隊は三沢から百里基地へ拠点を移し、アスタリカやリアストラからの増援部隊も多数が東京を囲むように各地の奪還に成功した。

作戦後のデブリーフィングで、ナールズの侵攻部隊は4割以上損失した事を知らされた。一般的にはこれで4割かと思われるだろうけど、軍事作戦において4割の損失は著しい損失。

ナールズ軍は今回の作戦を受けて連合軍の予想通り東京周辺へと戦力を集中させている事も知らされ、いよいよ終わりが近づいている実感がわいてきた。



そして今日の予定は、百里基地へ戻っていた扶桑空軍第305飛行隊へ挨拶しに行く事になっている。

ここ百里基地は茨城県にある扶桑の空軍基地で、ナールズ侵攻時の防衛でもっとも活躍して、同時にもっとも損害が出た基地であった。

基地の滑走路から少し離れたところには数日前に建てられた墓地があり、あいさつ回りを終えた後に花束を添えに行く。


「朝奈ー、ハンドクリーム使わせて」


「いいわよ別に。三人で使うために買ってきたから」


静音はハンドクリームを少量塗りこんだ後、すぐに部屋の外へ出て行った。どうやら近くのショッピングモールへ用があるらしく、昨日から楽しみにしているようだった。

残された私と朝奈は私服に着替え、部屋の鍵を閉めてから初めに基地の格納庫へとやってきた。

格納庫には整備中の私のイーグルと、新しく配備された朝奈用のF-16が駐機されている。


「私の戦闘機ヴァイパー、派生型に代わったのね」


「レーダーと兵装システム、搭載可能な兵装の増加だっけ」


こんな時友香がいたら、きっと念入りに調べて独自のマニュアルを作る気がした。

幸喜はそのサポートをするだろうし、ライアーは経験から色々な事を教えてくれる。


「どうしたのよ、そんな暗い顔して」


「ううん、なんでもない」


今までずっと気が張っていたけど、ここ数日は少しだけ気が緩んでいた。ライアーや友香、幸喜の事を考える余裕が出来て、私はあっちの世界へ帰りたい気持ちが強くなっていた。

もしもだけど、この時代から帰れなかったら。この戦争が終わって帰れなかったら。


そんな考えを振り払い、私はあいさつ回りを終えて外出許可を取って町中を散歩していた。

人々で賑わう町並みを見ていると、なんだか微笑ましく思えた。子供がはしゃぎ、それを注意する母親。そのやり取りを見て笑っている父親。

とても幸せそうな家族で、幼少期の頃を思い出す。


「私にもあんな頃があったのかな」


あまりはっきり覚えていない幼少期の記憶。でも、記憶ははっきりしていなくてもこれだけは言える。


「うん、あの頃は・・・楽しかったな」


それから10年の、両親の消えた日々。仲のいい友達はいたけど、それ以外の人と対立してしまう事もあった。

やがて中学を卒業して、ルーガン空軍の士官学校アカデミーへ。そこでロックウェル少佐と静音に出会い、配属後に友香とも出会って、そして静音の戦死。

ライアーと出会い、幸喜と出会い、ロックウェル少佐と永久の別れ。


「・・・・」


でも今は楽しいとも辛いとも思わなくて、戦いの空をただひたすらに生き抜こうとしている。

そしてそれも終わりが近づいてきているのかと思えば、だいぶ気が楽になる。


「あれっ、由比じゃん。どうしたの、こんなところで」


そんな事を考えていると、聞きなれた声がして後ろから圧し掛かるように抱きつかれた。

聞きなれた声と、抱きついてくる人物なんて一人しか知らない。だからすぐに誰かを理解した。


「静音?ショッピングモールへ行ったんじゃないの?」


「もう行ってきたよ。で、元々帰り道にここへ寄る予定で、ちょうど由比がいたってわけ」


静音は片手に大きめの紙袋を持っていて、有名なブランドのロゴが描かれていた。もしや数万をこの紙袋の中身に注ぎ込んだんだろうか。

私も高めの服を何着か買いにいってみよう。でも私一人だとわからないから静音と朝奈の三人で・・・。


「由比もいい加減もっとおしゃれな服を買いに行ったら?由比だって90万近く貰ってるんだから」


よく考えてみれば、私は貯金ばかりでおしゃれにお金を回す事はあまり無かった。

そもそも貯金をしても意味が無い事に今気が付いた。どうしようか・・・。


「由比、入らないの?」


「ごめん、すぐ入る」


静音に促され、私達は店に入る。店内は今まで以上に活気に満ち溢れていて、千歳にいた時よりも、三沢にいた時よりも更に笑顔の人が多い。

それを見た静音は店の入り口で立ち止まって、なんだか嬉しそうに笑っていた。


「いらっしゃいませ。二名様でよろしいでしょうか?」


「はい、二名で」


店員に窓際の席に案内してもらうと、すぐに注文をした。入る前から二人とも決まっていて、私はベリーチーズケーキとミルクティー、静音がチョコモンブランとカフェオレ。

いつも静音は私よりもちょっと大人びた注文をする。


「うーん・・・由比の事これからゆいゆいって呼んでいい?」


「別にいいけど、どうして?」


「中学時代とかそんな感じで友達呼んでたし、そういう呼び方の方が楽なんだよね」


今までも決して否定的な態度を取る事はあまり無かった静音だけど、こうして親しく呼んでくれるのは初めてだった。

なんだか照れてしまい、思わず視線を逸らしてしまった。


「それにしたって、みんなに笑顔が戻ってきて・・・なんだか嬉しいな」


「静音?」


私が視線を逸らしている間に、静音が涙ぐんでいる事に気が付かなかった。そっとハンカチを差し出すと、静音は顔を伏せて顔を横に振っている。


「のーせんきゅー・・・」


「一応ここに置いとくから」


腕の下に挟むように置いた後、私は窓の外へ視線を移した。家族連れやカップル、友達とはしゃぐ人達。それがさっきよりも目についた。

静音や朝奈といる時間も楽しかったりはするけど、やっぱりあの三人とも会いたい。友香とライアー、幸喜の三人。


「・・・」


歴史が変わってしまった以上、帰れるかどうかも少しばかり不安だった。



やがて注文した品物が机に並べられ、私達はそれをゆっくりと口に運んでいく。

私達の間にあったさっきまでの雰囲気はどこかへ消え去り、今は他愛も無い話で笑ったりしている。

この間やったモンスターアラートの話や、スカイクロスという戦闘機のシューティングゲームの話。


「由比さ、現代に戻ったらスカクロ一緒にやらない?」


「いいけど、まだ過去でしょ?とにかく今は真剣にやるべき事をやっていかなきゃ」


「そうだけどさー・・・由比ってちょっとお堅い部分あるよね」


お堅い部分・・・そういえば、お父さんも少しそんなところがあったのを覚えている。

お父さんか・・・。


「今お父さん何してるんだろ」


「あ、そうだ。これこれ」


カバンの中から新聞紙を取り出した静音は、私の目の前にバッと広げた。


「長野県を占領中のナールズ軍機甲師団が降伏・・・」


それは私にとって嬉しいニュースであり、数年前におばあちゃんから聞いた話と一致していた。

1998年の7月の初めに長野が解放され、制限されていた物流が戻ったと。


「由比はどうする?20年前の長野に行く気は?」


「・・・私はいいや。少し怖いし」


何が怖いかと言えば、歴史が変わり私の存在が消えるとか、何かが変わって両親の安否など。

それに・・・10年会っていない両親と違い、おばあちゃんは私がルーガンへ行く前日まで一緒に過ごしていた。


「だから私はおばあちゃんに会えない。会ったらきっと未来が変わってしまうから」


「あはははっ、言うと思った」


静音は笑いながら新聞をしまうと、頬杖をついて外を眺めた。きっと空でも見ているんだろう。


「最近さ、あっちに戻って戦争が終わったらアクロバット飛行チームでも立ち上げようかなって思ってるんだ」


「アクロバット?」


「演目を決めて、みんなを湧かせたいんだ!」


「静音らしくていいと思う!」


目を輝かせて楽しそうに話す静音を見ていると、こっちまで楽しくなってくる。

私は現代での戦争が終わったら・・・。


「私も何か、みんなを幸せにできる事をやりたいな」


「私は由比が楽しそうに歌ってる姿見て幸せだったよ」


それはこの間の、イヴァンナがいた時に行ったカラオケの出来事だとわかった。

そういえば、イヴァンナは今は表向きは拘留とされてはいるけど、実際は半分ホテルのような場所でゆっくり過ごしているらしい。家族のシベリア抑留についても、ナールズ軍上層部がそれどころじゃないらしく、結局はされていない。


40分ほどかけて食べ終え、支払いを済ませて外へ出た。これから少し散歩した後に基地へ帰る事にして、まずは近くの公園へやってきた。

でも私達は背後からの怪しい気配を察知して、すぐに公園を離れようとする。


「少し待とうか、白翼シフィル


私はコードネームを呼ばれた私は、思わず歩みを止めた。振り返ると、一見ライアーのような男性がそこにいた。でもライアーではない。彼とは少し違う。


「なんで私のコードネームを知ってるの?」


諜報員イヴァンナがな。この戦争はもうじき終わる。そこからの革命に協力してくれないか?金は5万ドルだろうが10万ドルだろうが払うつもりだ」


「ありがとう。でも協力する事は出来ない」


誘いを断ると、彼は不思議そうな表情で私達を見た。


「傭兵隊だってのに金に興味が無いのか?ますます面白いパイロットだな。じゃあ聞くが、金が目的でないなら」


手をポケットに入れて彼は私達、いや・・・私に尋ねてきた。


「シフィル、お前が飛ぶ理由は何だ?」


「私が飛ぶ理由は一つだけ。みんなを守るため」


直後に彼は何かを取り出した。黒色の金属で出来た物体。

それが銃だと認識して、私はすぐに身構えた。


「俺がお前を撃つ時は空にいる時だけだ。護身用に持っておけ」


「っわ」


取り出した銃はすぐに私へ投げられ、慌ててそれをキャッチする。


「ライアー・フォルクハルト。それが俺の名前だ」


「ライアー・・・えっ」


私が銃から彼へと視線を向けたが、その時にはいなかった。

すぐに公園から出て辺りを探しても見つからず、静音が後から追いかけてきた。


「由比、私あの人の名前聞いた事がある!」









ライアー・フォルクハルト。

1998年の戦争でナールズ側の傭兵として従軍。アスタリカ軍相手にS-37という実験機で186機の戦果を挙げた翌日に撃墜されるも軽傷。

戦後は故郷であるゲルマニア共和国で旅行中に交通事故に会い、一人の子を残して結婚相手であるライアー・ヘレーネと共に他界。


静音が記憶にある限りの文章をノートにまとめてくれた。以前にライアーから聞いた交通事故で両親が他界したという話と合致していて、私は一つの考えが浮かんだ。


「静音、あの人を守れない・・・かな」


「ねえ由比、キミは少し前からいつもそう。何かを守ろうとして肝心な事を忘れる」


わかってる。あの人に待ち受けている運命を変えてしまえば、本当に今ここにいる私の存在が消えてしまう。

何度もライアーに命を救われているから。正直言えばライアーと初めて飛んだ時だって、あのタイミングでライアーが教えてくれなければ・・・。


「例え自分の信念に背く事になっても・・・自分を守ってよ。お願い・・・」


「うん・・・」


私はライアーの両親を救う事が出来て、ライアーが幸せになってくれたらと考えた。でもそれが出来なくて、なんだか自分が無力に思えて。

思わずベッドに乱暴に仰向けになった。


「ただいま。って、どうしたのよ二人とも」


「ちょっとね。でもそこまで重大な事じゃないから大丈夫」


朝奈は買い物に行っていたのか、買い物袋を机の上に置いた。

中には弁当や野菜、ちょっと高そうなお肉などが入っている。


「夕飯はお弁当。野菜とかお肉は明日の朝食と昼食の分あとアイス買ってきたわ」


「やったぁアイスだ」


静音が嬉しそうにアイスを取り出して、丁寧に封を開けて一口ずつ食べ始めた。さっきデザート食べたばっかりなのに。

でも私は何も食べる気が起きなくて、ベッドに寝転がったまま目を瞑った。


「由比、墓地ってどんな感じだった?」


「どんな感じって・・・」


さっき行った滑走路端にある墓地の風景を思い出していると、ふと昔の記憶が脳裏に蘇った。


「あの墓地、昔行った事ある・・・」


「由比・・・その・・・」


静音が何か言いたげな仕草をして、すぐに首を振って台所へと逃げるように歩いていく。

追いかけて声を掛けようとも考えたけど、それよりも今は少しだけ寝て気分を紛らわせたかった。


「朝奈、ごめん。少しだけ寝る」


「寝すぎないようにね」


そっと目を閉じて、さっき訪れた墓地の風景を再び思い浮かべる。昔行った事のある気がして、どうもモヤモヤする。

しばらくは寝れそうに無くて、仰向け状態から体を横に向けた。

本当にあいまいな記憶で、いつの頃に、誰と行ったかもはっきり覚えていない。






結局目を瞑っても寝られなくて、私は二人が出かけたタイミングを見計らって外へ出た。目的地は墓地。

竹の柵で仕切られた敷地の引き戸を開けると、先客がいた。


「ああ、シフィルか」


「長倉さん、どうしたんですか?」


長倉さんは合掌をしていたけど、私を見てゆっくりと手を降ろした。


「同期がこの墓に眠ってんだ。バカな奴でな・・・部下を全員千歳に逃がす為に敵の集団に突っ込んでそのまま帰ってこなかったんだとさ」


その話を聞いた私はすぐに静音を連想した。静音もまた、味方を逃がす為に集団に挑んでそのまま帰らなかった。


「俺を含めた同期の中で一番豪快な奴だったな。しょっちゅう上官と揉めてて、どいつもこいつも呆れてた」


「そうですか・・・」


ポケットから煙草を取り出すと、私を配慮してか反対を向いて火を点けた。


「部下を大切にしないような教官が空大にいたんだが、アイツはその教官の鼻を折って謹慎処分食らった事もある」


本当に豪快な人だな・・・。でもだからこそ、部下を見捨てて逃げるどころか、部下を一番に逃がして・・・。

なんだか涙が出てきて、私は手の甲で涙を拭いながら殉職した彼の墓を見た。


「さて、辛気臭い話は終わりだ。俺はこれから北海道で戦果挙げてるミスト野郎に電話するけど、話すか?」


お父さんとまた話をできるチャンスではあるけど、私は首を横に振った。千歳を出る時に決めた覚悟のまま、最後の最後まで戦いたいから。

戦い抜いて、現代に戻ったらお父さんとお母さんや、ライアーや友香、幸喜のみんなとたくさんお話をしようと決めた。


「そうか」


長倉さんとの話を終えてすぐ、静音と朝奈が覗き込んでいる事に気が付いた。その様子を長倉さんは微笑ましそうに見ていて、私はすぐに二人のもとへ駆け寄った。


「じゃあ長倉さん、私達はこれで」


「ああ。じゃあな」


墓地を離れて滑走路の端に立ってみると、その大きさがよくわかる。普段は戦闘機でここから空へ舞い上がり、少し短く感じる。

でも地上からこうして2700メートルという滑走路の端を見渡すのはあまり無くて、その差が不思議に思えた。


「朝奈は今度の首都奪還作戦ミッションは参加できそう?」


「ええ、おかげさまで。もうリハビリも終えたから大丈夫よ」


朝奈の回復は担当医も驚くくらい早くて、まるで昔のヨーロッパ大戦の時に発生した何人かのおかしな人種の一人じゃないかと言われた。

そのおかしな人種というのは静音曰く、戦車を300両撃破した魔王だとかの事らしい。私にはよくわからなかったけど、朝奈は頷いて納得していたのが意外だった。


「由比は・・・今度の作戦、もしかしたら知己の誰かが犠牲になるかもしれない」


まただ。静音は何か知っている。


「ねえ静音、それってどういう事?静音は何を知ってるの?」


「もし・・・」


でも静音もすごく辛そうに何かを伝えようとしていて、私はそれ以上詮索する気にはなれなかった。

今度の作戦は・・・何かが起こるというのは理解できた。何かを失う覚悟をしないといけないのだろうか。



夜になり、私は食堂で一人で勉強をしていた。内容は千歳にいた時にお母さんに教わった高校の内容。

進学をせず軍人となる道を選んだ私は、中学卒業当時で言えば優秀な方ではあった。でも今は出遅れている事は間違いない。

この歳で兵士になったからといって同級生に遅れを取りたくないという気持ちがあってずっとモヤモヤしていた。だから、少し余裕の出てきた今を期に勉強をしていく事に決めた。

体感時間で1時間ほど経った頃、私は少しだけ欠伸をした。寝る準備も整えてからの勉強だし、今日はこの辺にして寝ようかな。


「んんーっ・・・」


背伸びをしてノートと鉛筆を手に取ると、ゆっくりと席を立つ。部屋へ戻る最中にも何度かの欠伸が出て、目尻に少しだけ涙が溢れた。

部屋には静音だけがいて、聞けば朝奈はシャワーを浴びているそう。


「由比はもう寝るの?」


「うん。勉強してたらちょっと疲れちゃって」


「疲れた時は寝るのが一番。私はまだ起きてるけど、ゆいゆいは寝てていいよ」


「じゃあお先に。また明日ね」


「いい夢見ろよー」


静音はテレビの音量を小さくして、私に手を振った。






前回の投稿からかなり間が空いてしまいましたが、12話投稿です。

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