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群青の空へ  作者: 朝霧美雲
第二章 -The Sky Dominated by Aces in 1998-
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第10話「二つの力」




6月21日。それは私の誕生日であり、1948年に起きた南海洋戦争の終戦の日。

私はとても疑問に思っていた。激化するであろうアスタリカとの戦争がなぜ数週間で終わったのか。

世間では南海洋事変とも呼ばれていて、あまり気に止められていない。それは犠牲者は一部の兵士に留まったから。

殉職した兵士の遺族は当時の事を語り継いでいるけど、関わる事の無かった市民達はあまり語り継いでいないと聞いた。


「由比、そろそろ寝なよ・・・」


「うん。わかってる」


私はベッドからそう促す静音へ返事をして、ノートに十何枚かの資料を挟む。

静音には高校1年生の内容を勉強していると言ってある。けど本当は違う。

大空戦の翌朝に町へ行った時に耳にした老夫婦の会話。内容はその南海洋事変終戦の時の話。



―今でも覚えてるよ。あの日の朝、世界が変わった気がした。そして昼になって事変が終わったっけ。



それを聞いた時、私はなぜだか引っかかりを覚えた。どうしてそんな感覚を覚えたのかはわからない。

私はそのまま古本屋や図書館を巡って資料をかき集め、書き写したりスクラップにしたり。一日中その作業をしていた。

今は深夜11時を過ぎ、堪えていた眠気に勝てる気がしなくなってきた。ノートと資料一式を一つにまとめると、カバンに入れて更に私の洋服棚へしまいこむ。

結果から言えば、今日集めた資料では特にこれといった情報は得られなかった。辛抱して明日も情報収集をしようと思う。

既に寝る支度は整えてあるので、私はゆっくりとベッドの布団へと潜り込む。




翌朝。私は少し寝不足のまま7時半に起床し、おにぎり2個で朝食を済ませて基地を出た。

向かう先は昨日訪れた図書館の近くの古本屋。昨日の帰り道に見つけたけど、時間が無くて立ち寄れなかった場所。


「ぃらっしゃい」


店内へ入ると同時に聞こえる挨拶。店主らしき初老の男が本を積み上げながら私を横目でチラリと見た。

思わず会釈をすると、その男は視線を積み上げている本へ移す。なんだか近寄りがたい雰囲気で、私は避けるように店の奥へと進んだ。

数多の本の中から40年前の戦争に関する本と、神道に関する本を一冊一冊手に取ってはじっくりと読み漁る。


「・・・これじゃない」


半ばまで読んだところで一冊を戻して別の一冊を手に取る。今の本で既に三冊目で、次で四冊目。

四冊目を手にして読み始めて数分が経過した時、不意に持っていた本が取り上げられた。


「お譲ちゃん、困るよ。ウチは図書館じゃないんだ、読み漁るなら買っていってくれ」


「あっ。すみません・・・」


仕方が無い。今は5000円しか持ち合わせていないけど、数冊買って近くのレストランでじっくり読もう。

会計を済ませて店から出ると、私は正面に見えるコンビニへと歩き出す。

三沢をはじめとした青森県の解放からもう2ヶ月近く経つけど、まだまだ食料品は行き渡っていない状態だった。

売られているのは手作り弁当やパンなど間に合わせの品物がほとんど。


「ごめんね。今は食べ物が中々入ってこなくて」


私が何を買おうか悩みながらおにぎり売り場の前を歩いていると、店員のおばあさんに謝られてしまった。


「あ、いえ・・・」


振り向いて手を横に振ると、そのおばあさんはおばあさんは私の目を見てすぐにハッと何かを思い出したように見えた。


「おや・・・アンタ、扶桑人かい?」


その問いに、私は頷いて答えた。するとおばあさんはしばらく考えた後、私を建物の二階へと案内した。

お茶とお菓子を出され、畳部屋で座らされる。


「アンタ、霧乃宮じゃないのかい?その蒼色の瞳」


ジッと顔を見つめられ、私は否定できなかった。


「・・・はい。私は霧乃宮・・・由比と申します」


「由比ちゃんねえ。あの子の次がアンタとは・・・霧乃宮の悲しい運命さだめはホント嫌いだよ」


「悲しい運命さだめ?」


私が聞き返すと、おばあさんは一瞬驚いた表情になってすぐに真剣な表情になる。


「なんだい、自分の家系の事知らないのかい?」


「戦闘機乗りの家系である事と・・・私が大空の巫女である事は存じています」


でも、たったそれだけ。過去に何があったかも全く知らない。だからこそ知りたかった。

大空の巫女の存在の意味を。


「・・・やめときなさい。アンタ、覚悟が出来てないよ」


「覚悟なら」


「出来てない目だよ。やめなさい」


言葉を遮られ、私は閉口した。覚悟は出来てるはずだった。色々な事を乗り越えてきた私なら出来ていると思っていた。

それでもおばあさんの目を見ていると、どこかで覚悟が出来ていない事を突きつけられたようで、思わず目を逸らした。

次におばあさんは立ち上がると、棚の前に立って一枚の写真を取り出した。


「どうしても知りたいなら・・・そうだねぇ」


しばらく考えた後、おばあさんは紙に名前と住所を書いて私へ差し出した。


「三島・・・小夜さよ


「私の名前と住所。この戦争が終わったら横浜へ来なさい。全部教えてあげるから。いい?余計な事はするんじゃないよ」


「・・・わかりました。あの、一つだけいいですか?」


私は三島と聞いて浮かんだ疑問を言葉に出した。三島家に、時代を超えて何かを変える能力は無いか、と。

するとおばあさんは豆鉄砲を食らった鳩のような表情で私を見つめる。


「なんでアンタがそれを知っているんだい?」


「・・・それは」


おばあさんは目を瞑ってしばらく考えた後、ため息をついて瞑っていた目を開いた。


「来てるんだね?三島家の誰かが」


「・・・」


「全く困った子だねぇ、うちの家系は」


そう言うと、おばあさんは懐かしむような表情で笑った。


「いつだったかねぇ。私もあの子を救うために三島家に伝わる秘術ちからを使ったよ」


そういえば、あの子って誰だろう?私はすぐに尋ね、回答を得る事が出来た。


「あの子。霧乃宮由里」


「霧乃宮由里・・・」


霧乃宮由里。その名前を聞いた瞬間、またあの景色が浮かんだ。ただ浮かぶのでは無く、どこからか流れ込んでくるようで、頭が少しだけ痛んだ。

痛みが引いて顔を上げると、おばあさんは再び話をしてくれた。


「・・・救いたくて何度もやったよ。でも救えなかった。大空の巫女の運命さだめは残酷だよ、全く」


悲しげな表情で床を見つめるおばあさんに、私は話しかけられずにいた。

つまり、霧乃宮由里さんは亡くなったという事らしい。でもどうしてだろう。

私がそれを聞いても、おばあさんは何も答えてくれなかった。


「アンタもいずれ、大空の巫女の存在意義を知るかもしれないけど」


おばあさんはそこで一旦言葉を切って、私の頭を優しく撫でた。


「自分ひとりで解決しないようにね」



―あんたが自分ひとりで解決しないようにとしか言えないの



確か朝奈も同じことを言っていた。もしかしたら、朝奈は・・・。

帰ったら少し話をしてみよう。


「・・・わかりました」


「あの子にたくさんの友達がいたように、アンタにもたくさんの友達がいる。それを忘れないで」


そう呟くように言うおばあさんの表情は、とても悲しげで・・・。でもすぐに微笑んで、私の手に何かを持たせた。


「これはあの子が持ってたお守り。大空の巫女の力を強くしてくれるから、これで色々な人を救えるから」


ぎゅっと私の手に押し込むように渡した後、下の解へと降りていった。

渡されたのは腕輪で、一つの綺麗な宝石が飾られている。





◆   ◆   ◆   ◆   ◆






「この宝石はロイヤルブルームーンストーンだよ」


基地に帰ってすぐ、宝石に詳しい人がいないか探し回っていたところ、エリがかなり詳しいとの事。

試しにこの宝石が何なのかを聞くと、すぐにその宝石の名前を言い当てた。

次に私は、朝奈にこれが何なのかをこっそりと聞いてみた。


「このお守りって・・・由比、これ誰からもらったの?」


「それは・・・」


チラリと扉の方を見たあと、私はエリたちに退室してもらう事にした。


「ごめんエリたち。ちょっと大事な話があるから外にいてくれない?」


「大事な話ね。わかった」


「じゃあ格納庫行ってくるよ」


静音とエリは手を振って部屋から立ち去ると、別々の方向へ行ったのが見えた。


「・・・朝奈のおばあちゃんの名前ってわかる?」


「おばあちゃんの名前?確か・・・三島小夜」


やっぱりだ。朝奈は間違いなく小夜さんの孫娘で、自分の意思で過去へ行ける能力を持っている。

だからこの時代へ来ることができたんだ。


「そのおばあちゃんからもらったの」


「おばあちゃんに会ったの?!」


いきなり大声を出した朝奈にびっくりして、思わず身体を震わせた。

でもすぐに怪我をしている箇所が痛んだみたいで、その箇所を押さえて涙目になっている。


「ねえ由比、おばあちゃん元気だった?」


「うん。結構気が強そうで、なんだか朝奈みたいな雰囲気もあったよ」


私が印象を教えていくうちに、朝奈はポロポロと涙を流し始めた。

理由は、すぐに朝奈が言葉にしていく。


「おばあちゃんね、私が高校に入る直前に亡くなったの」


「そう・・・なんだ・・・」


「前日まで元気だったのに、起きてこないからどうしたんだろうと思って見に行ったら・・・」


「・・・」


朝奈はまだ止まっていない涙を強引に拭うと、痛みを堪えながらも立ち上がって歩き始めた。

でもそれも10秒も持たず、痛みに気をとられて躓いた。


「朝奈、無理しないで」


「ごめん・・・私どうしても会いに行きたいの。おばあちゃんに」


その朝奈の表情は、あの時と同じだった。未来を変えに来たと告げた時の、あの表情。

どんな言葉も、人も、機関も、きっと止められない強い意志を感じさせる表情。

私は朝奈を支えながら、さっき行ったコンビニへと案内する事にした。


「正直、おばあちゃんが近くにいるだなんて知らなかったわ。おばあちゃん、はぐらかしたりして昔の事詳しく話してくれないんだもの」


「確かに。でも朝奈だって結構はぐらかすよね。おばあちゃんの影響?」


「・・・そうね。私ってお母さんよりもおばあちゃんを見て育ってきたし」


「そうなんだ」


信号待ちで、私はさっき貰った腕輪をじっくりと眺める。

飾られた宝石は、飛んでいる時に見える大空の色と同じ青色で、とても綺麗だ。


「私は・・・10年前に両親がいなくなって、それからおばあちゃんに育ててもらってたよ」


「それってもしかして・・・霧乃宮美崎さん?」


ピタリと名前を言い当てられ、私は青信号になっても歩き出せずにいた。

朝奈はどうしてそこまで知っているんだろう。やっぱり話してもらわないと・・・。


「ねえ朝奈、おばあちゃんのところについたら・・・朝奈の知ってる事全部話して」


「わかったわよ・・・」


4度目で、ようやく折れてくれた。次の青信号までの間、私達は言葉を交わさなかった。

青信号になって歩き出しても言葉が出る事は無くて、コンビニが見えてきた時に、朝奈はようやく口を開く。


「私は・・・あんたに生きていてほしいから話さなかったの」


立ち止まってそう伝えると、朝奈はすぐに歩き出した。私は遅れて歩き出すと、コンビニの入り口前で周りを見渡す朝奈の横へ並んだ。


「会っていいの・・・?」


不安げな表情で私へ尋ねられたけど、私はすぐに微笑んで小さく頷いた。


「会いたい人がいるなら、会ってあげなきゃ。会いたくても会えないって人はたくさん居るから・・・」


半ば自分に言い聞かせるように言うと、私は朝奈の手を取ってコンビニへ入るべく歩き出す。

困惑する朝奈だけど、一切の抵抗は無かった。


「・・・霧乃宮の血を継ぐ人は、必ずと言っていいほどたくさんの人に好かれるの」


「それは・・・いつの時から?」


「家に残されてた文書だと・・・少なくとも第一次世界大戦の時には霧乃宮という人は存在していて・・・でも突然現れたそうね」


突然という事はもしかして、その力を持った誰かが霧乃宮を名乗ったって事?

それを聞くと、朝奈は頷いて話を続けた。それも、とても重要な話を。


「おばあちゃんが言ってたの。霧乃宮は第一次世界大戦で戦闘機の登場と共に名乗りを上げたって」


巫女の家系で且つパイロットだった人物が、第一次世界大戦で自ら戦闘機乗りとして欧州へ向かったのが霧乃宮の始まりだという。

それを話してすぐに、朝奈は口を閉ざして苦しむような表情になったのを私は見逃さなかった。


「その巫女の家系は・・・人々の争いを鎮める為に・・・」


よほど話したくないからか、朝奈は涙を流し始めた。でもとても重要な事を知れた。知ってしまった。

ここまで知ることが出来たら、後はもう自分で調べていく方が迷惑は掛からないと思う。


「ごめん・・・朝奈・・・」


私が謝ると、朝奈は涙を流しながら再びあの言葉を口にした。

自分ひとりで解決しないように、と。そして私は理解した。これは朝奈が誰か大切な人を失ったからこその言葉である事を。








◆   ◆   ◆   ◆   ◆








夜になり、私は静音と共に格納庫で愛機イーグルの整備をしていた。整備と言っても、簡単に点検をする程度。

パレンバンにいた頃は友香と一緒に作業をしていたのを思い出して、私は少し切なくなった。


「友香、今何してるんだろう」


「友香さん?あの人って私がいなくなってからどうだった?」


「ごめん、何?そっからじゃ聞こえない」


静音はイーグルの空気吸入口エアインテークに身体ごと突っ込み、中をライトで照らして点検しながら話をする。

おかげで声が反響して聞こえづらくて、私は聞き返した。ちなみにイーグルの吸入口インテークは人一人がしゃがんで入れるくらい大きい。

降りてきた静音は、髪を降ろしてから吸入口にカバーを掛けて格納庫入り口へと歩いていく。


「由比、お風呂入ろ」


「いいよ。ただちょっと待ってて」


私は操縦席に座ると、HUDの根元部分に手を当てた。そこにSurvive、英語で生き残れと書き込んだ。

生き残って、色々なものを守りたい。共に飛んでくれる仲間を守りたい。扶桑のみんなを助けたい。

そんな思いをこの言葉に込めて、私は操縦席を離れ静音のもとへ向かう。



朝奈はあの後おばあちゃんと今日一日過ごす事になって、私は基地へ戻るとそれをストラトアイへ報告した。

ストラトアイも快く承諾してくれて、朝奈のいない今日は久しぶりに静音と一緒に行動している。


「あー・・・せっかくだし銭湯でも行こうよ」


「近くにあったっけ」


基地の近くの銭湯というと、一箇所しか思い当たるところは無かった。

数分話をした後、その銭湯へ行く事になり、すぐに支度を整えて外出届けを基地司令に提出した。


「久しぶりじゃないか?お前達二人が揃って出かけるのは。この間喧嘩したって聞いたぞ」


「あ・・・その話は・・・すみませんでした・・・」


「ごめんなさい・・・」


二人揃って頭を下げて謝罪すると、司令は大笑いしていた。

ここの基地の司令は元戦闘機パイロットで、実戦こそ経験していないけど飛行教導隊アグレッサーにいた事もあるらしい。


「まあ、気をつけてな。最近この付近で暴行事件が多発してるらしい。大丈夫だとは思うが、護衛でもつけようか?」


司令は新聞を渡すと、煙草を取り出して口に銜える。でも静音がすぐに大きくため息をついて司令に苦情を申し出た。


「司令、私達まだ二十歳にも満たない少女なんですよ?その前で煙草を吸うってどうなんですか」


「わはははっ、悪かった悪かった。この間長倉にも言われたよ、俺は煙草吸いすぎだって」


煙草をくの字に折ってゴミ箱へ棄てると、司令は外出届けに判子を押してファイルへ閉じた。

そのまま椅子に座り、見た感じ冷めているコーヒーを一口飲んだ。


「冷めてるな・・・まあいい。気をつけて行ってきな」


「はい」


二人同時に敬礼をすると、私達は外へと出て空を見上げた。

少し曇っているけど、星空が綺麗な夜空で、思わず声をあげる。


「じゃあ行こっか」


「うん」


基地の門を出て信号で待っていると、基地から二機の戦闘機が飛び立っていくのが見えた。

サイレンも鳴ってないし、あれは多分空中哨戒。いわゆるパトロールだ。


夜間哨戒ナイトフライトもいいよね。満点の夜空の下を飛ぶってすっごい気持ちがいいよ」


「でも夜間の空戦は嫌だな。敵機が見えない時もあるし」


「そこだよね、問題」


見えないのは敵機だけじゃなくて、味方も見えない時もある。それ故に味方と空中接触して墜落した事故事例があって、私は夜間戦闘は避けている。

何より・・・


「あと、由比は夜起きてられないから仕方ないよね」


「・・・」


夜遅くまで起きていられた事が無くて、召集に応じれなかった事が何度かあった。

とは言っても訓練生時代の話で、私達は夜間の実戦経験はゼロ。


「そういえば聞いた?今度カラオケコンテストやるらしいよ」


「・・・参加するしかない」


しばらくボイストレーニングやっていなかったけど、静音とか朝奈に見てもらいながら再開していこう。

早速今日の夜にでも外で歌の練習も兼ねてやろうかな。


「だと思って、もう由比の名前書いたよ」


「へっ?」


この人は何してるの!?人の名前勝手に使うって酷くない?

私は静音の頬をぐにっとつねると、いぢぢぢと痛がる静音。


「ご、ごめんって・・・」


「もう・・・私が参加しなかったらどうするつもりだったの?」


「ちゃんと消すつもりだったから・・・」


「はぁ・・・」


何はともあれ、カラオケコンテストはとても楽しみだ。

銭湯に到着すると、私は入り口に張り紙がしてある事に気が付いた。


「店主休暇中のため7月までお休みいたします・・・」


「うーん・・・仕方ないから戻ろっか」


「そうだね」


私と静音は入り口から離れ、基地へと戻るために歩き出した。

だんだんと湿度が高くなってきたように感じて、私は空を見上げた。


「そういえば、入梅だっけ」


「うん。明日からしばらく雨だよ」


「ふうん・・・」


近いうちにまた大規模な作戦があるらしく、しかもその作戦は雨天時を狙っているとの事。

雨天での作戦はちょっと怖いけど、その作戦が成功すれば一気に東京奪還への道が開ける。


「由比ってさ、パレンバンの時は撃墜数いくつだったの?」


「確か・・・」


覚えてる限りだと70は超えてたはずだけど、公式記録はルーガン空軍が所有してるので戦後に見れるかどうか。


「あーもう、風が無いのに湿度高いから暑い!」


静音は着ていたパーカーを脱ぐと、腰に巻いた。言われてみれば確かにちょっと蒸し暑い。

そうだ、ちょっといい事考えた。


「静音、ちょっとこれ持ってて」


「いいけど、どうしたの?」


「いいからいいから」


私は手を合わせて、小さく呟くように祈った。ほんの少しの風をイメージして。

すると、近くの木々の先端が揺れて風が巻き起こった。


「あっ、そっかこんな使い方もあるんだ!」


「ふふっ。ちょっと疲れたけどね」


私のイメージでは広範囲での小さな風をイメージして、これはこの間の事故の時よりもエネルギーみたいなのを使う気がした。

でも、腕輪から何かが流れ込んできたような感じがあった。


「この腕輪のおかげでちょっと軽減されたのかな・・・」


「うわ、なんかすごい綺麗な腕輪じゃん!ちょっと見せて!」


静音が腕輪に気が付き、じっくりと見始めた。確かに綺麗だけど・・・。


「静音、これ大事なものだから勝手に弄ったりしないでよ」


「はーい」



基地へ戻ると、順番にシャワーを浴びてベッドの上に寝転がった。

やっぱり朝奈がいないのは少し寂しくて、私は身体を起こして静音へ話しかけた。


「静音は、朝奈の事どう思ってる?」


「どうって、朝奈かぁ・・・。私は好きだよ。色々教えてくれたりして」


「色々、か・・・」


確かに色々教えてくれたけど、結構はぐらかされたりしてる。

そう考えているうちに、時刻は10時を過ぎた。明日は明日でまた調べたりしたいから今日も早く寝よう。


「と思ったけど・・・」


私はしばらく寮の入り口で夜風に当たりながら読書をしていた。読んでいる本はちょっとした恋愛小説。

ちょうど電気も当たり、蒸し暑さも無くて心地が良かった。


「由比、眠れないの?」


エリに話しかけられ、私は後ろを振り返った。

そういえばエリは最近扶桑語の勉強に熱心で、時々私達のところへ単語の確認に来たりしている。


「眠れない・・・というわけじゃないんだけど、この小説の続きが読みたくなっちゃって」


「あんまり夜更かししないようにね」


「うん、ありがと。エリ、おやすみなさい」


「おやすみなさい・・・ふあぁ・・・」


エリはあくびをしながら階段を上っていき、やがてドアの開閉の音が聞こえる。

私は周りを見渡して人がいない事を確認してから、深呼吸をした。


いつか友香の前で歌った歌詞を、ライアーとの日々を思い返しながら歌う。

久しぶりに歌って気分が晴れた私は、部屋へと戻った。静音は既に寝息を立てて寝ていて、物音を立てないようにベッドへ潜り込む。

カラオケ大会に備えて何か練習しなきゃ、と思いながら目を瞑ると、少しずつ眠気に呑まれていった。



大変ながらくお待たせいたしました!!モチベーションの低下やゲームにはまってたり仕事が忙しかったり眠かったり・・・期間が空いてしまい申し訳ありません!!!次話もまた期間が空いてしまう事が予想されます・・・。

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