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群青の空へ  作者: 朝霧美雲
第二章 -The Sky Dominated by Aces in 1998-
31/135

第9話「その力でも」




あの事故から二日が経っても、朝奈は目を覚まさなかった。

私は静かな病室で日記を書き終え、朝奈のベッドの横にある椅子へと座る。日記に何を書いたかと言えば、朝奈の様子や今日予定している事、静音との現状など。

静音は昨日病室に来たけど、挨拶を一言と去り際に「もうちょっと待ってて」と言って私が返事をした限り。手紙にまた戻ると書いてあったから、私は待っていようと思う。


「・・・ふあぁ」


小さく欠伸をした後、外の景色に視線を移した。まだ昼だというのに外は雷雲で覆われて少し暗い。

今朝に飛び立っていった航空機も雷の予報を受けて次々帰還し、格納庫へ退避させている様子が病室からでも伺うことができた。

朝奈の表情は事故翌日のように少し苦しそうな様子は見られず、今は気持ちよさそうに寝ているように見える。

私が再び日記帳を開いた時、外から誰かが歩いてくる音が聞こえた。やがてその音は私のいる病室の前で止まる。


「・・・どうぞ?」


けど、声を掛けても入ってくる事は無かった。私は少し気になって足音を立てないようにドアへ近づき、ゆっくり開ける。

そっと覗いて左右を確認すると、右の通路にゆっくりと歩き去っていく静音の姿があった。

きっと静音も心配で仕方が無いんだろうけど、今は私との接触を避けている。


「・・・」


私は椅子の上に置いていた荷物を持って病室を出ると、宿舎の自分“達”の部屋へ戻った。

もう何度か経験している事。部屋に私一人だけが住んでいる状況。だけど何だか、いつも以上に寂しく感じた。

小棚の上に置かれた写真立てに手を伸ばすと、私はじっとその写真を見つめた。千歳で撮ったみんなとの写真。

その写真を見ている途中で部屋のドアが開くと、誰かが入ってきた。


「由比、いる・・・?」


そっと顔を覗かせたのは、さっき私との接触を避けた静音だった。

静音はいつもは結んでいる髪を降ろしていて、なんだか別人に見える。


「その・・・中庭で話がしたくて。さっきキミと話をしようかなって思ったんだけど、中々勇気が出せなくて・・・」


そういえば、静音は訓練生の時から筆記試験の時など緊張する場面では髪を降ろしていた。

深呼吸をしてから覚悟を決めたように目を瞑った後、静音は頭を下げた。


「由比、待たせてごめんなさい。そして、待っててくれてありがとう・・・」


「うん・・・いいよ。それより、病室戻ろっか」


すんなりと許された事を意外に思っているのか、静音は呆気に取られていた。

その後私の横へ並んだのは数十秒後の事。




私達が病室へ戻ると、ずっと寝たきりだった朝奈が上体を起こして外を眺めていた。

なんて声を掛ければいいんだろうか。と考えるまでもなく、朝奈から私達へ言葉を掛けた。


「おかえり。二人とも」


「・・・朝奈、ただいま」


「朝奈こそおかえり」


朝奈は自身の右腕に手を伸ばし、ため息を一つ。きっと理解しているんだろうか。

自分がしばらくの間飛べない事を。


「そんな心配そうにしなくていいわよ。ちゃんとわかってるし、今は仕方無いじゃない」


朝奈はそう言い笑った。その笑いはどこか諦めているようにも見えた。

そんな時、病室へ更にお客さんがやってきた。エリが慌てた様子で私達の横へ立ち止まると、安心したように近くの椅子へ座る。


「良かったぁ・・・。って、そうだ!」


「何よ」


エリが再び慌てて立ち上がると、朝奈が驚いた様子でエリを見る。


「大変なんだ!能登半島沖でアスタリカとナールズの大規模な空戦が発生して、今は劣勢!ライラプスに増援の要請が出てる!」


私と静音と朝奈は顔を見合わせた後、頷いた。


「二人とも、生きて帰ってきなさいよ!」


「もちろん!キミはキミで今の任務は休む事だよ、しっかりね!」


静音が先に行った後、エリもその後を追って部屋を去った。

残された私と朝奈は無言でお互いの顔を見つめている。


「由比、あの力の次に・・・ううん。なんでもないわ」


「朝奈は・・・私の、霧乃宮家について何をどれだけ知っているの?」


「・・・私から言えるのは、あんたが自分ひとりで解決しないようにとしか言えないの」


また、朝奈にはぐらかされた。朝奈は最悪な未来から来た、と言っていたけど・・・彼女の言う最悪な未来は、何が最悪なんだろうか。

どうして私の能力ちからをそこまで詳しく知っているの・・・?

本当はもっと話をしたいけど、今は増援として飛ばないといけない。


「朝奈、帰ってきたら話を聞かせて」


私はそれだけ言い残すと、駆け足で格納庫へと向かった。

既にF-15のエンジンが唸りをあげているのが聞こえ、私を急かすように感じた。

機首に掛けられたタラップを使って操縦席へ乗り込み、愛機イーグルのエンジンを始動していく。




◆   ◆   ◆   ◆   ◆




高度6000メートルまで上昇し終え、私達は時速1160キロメートルの高速度で能登半島沖へと向かっていた。

事態は一刻を争う状況という事が管制塔から伝えられ、ストラトアイも一足先に向かっている。

私達と同時に飛び立ったエリは、F-22の超音速巡航能力を生かして増援の先駆けとして向かった。


『ストラトアイからライラプス隊へ。到着まであと20分』


「ストラトアイ、現地の状況は?」


『作戦機は現在35%を消失。撤退も間に合っていない状況だ』


『35%って、ほぼ全滅じゃないか!どうして早く撤退させなかった!』


「フィーラ、落ち着いて。とにかく急ごう」


軍事作戦において35~40%の戦力消失は全滅とされていて、このままだとアスタリカ軍は大きく戦力を損ない、今後の作戦の遂行が怪しくなる。

もうじき作戦空域ではあるけど、私達はもっと速度を上げるために機外燃料タンクを棄てて出力を全開にした。

速度は音速を超えて1550キロにまで達し、到達時間も短縮されていく。


『キャリーより入電。敵も更に増援を送ってきたようだ。彼女だけでは手に負えん!急げ!』


「っ!」


このままではエリも撃墜されかねない状況になる。

私は静音に秘匿回線で無線をつないだ。


「静音。能登半島沖の大空戦はここまでの規模はあった?」


『ううん。30~40機同士ではあったけど、50機を越えるなんて聞いていない』


「やっぱり・・・」


あの日、歴史が変わった事によって戦争の規模も大きくなってきているのかもしれない。

それとも、ナールズが手段を変えて短期決戦に持ち込んだ?


『ライラプス隊、作戦空域まで残り5分』


私が前方を注視していると、微かに伸びる白煙や赤い点が高速移動している様子が見えた。アレは恐らくは機関砲の曳光弾やミサイルだ。

急いで加勢しないと。


『シフィル、突入するよ!』


「行こう!」


敵味方入り乱れる空へ、私達は全速力で突入していく。

ストラトアイから送られてくる情報では、敵の方が明らかに数が多くなってきている。


『また数が増えたぞ!』


『ふざけんなよ!撤退すらできねえじゃねえか!』


味方もだいぶ追い詰められ、私達の所属を確認する余裕すら無いように感じた。

私は敵味方識別装置と無線のスイッチを入れ、静音の方を振り返った。

少しずつ距離が離れているけど、しっかりついてきている。


「ライラプス1、交戦開始エンゲージ!」


味方からの応答を待つ前に、味方の一機の背後にいる敵を機関砲ガンで狙い撃つ。

弾は翼の付け根に吸い込まれるように命中し、根元から折れて錐揉み状態で墜ちていく。


『シフィル、ナイスキル!』


レーダーを確認して、3時方向にいる敵機へと機首を向ける。相手もこちらを向いているけど、反応が遅い。

正面対峙ヘッドオンの状態のまま、私は機関砲のトリガーを引いてすぐに回避。


『シフィル!2機目を撃墜!』


2機目も撃墜。なんだか今日はとても調子がいい。


『クラースヌイ1から全ナールズ機へ。スヴェートを食らったヤツが紛れ込んだ。気をつけろ』


敵の無線らしき声が聞こえた。私には全部が理解できなかったけど、スヴェートという単語は理解できた。

恐らくはスヴェート級戦艦の撃沈に関係した事を言ったのだろう。


『ストラトアイからライラプス2、2機目の撃墜を確認!』


静音も2機目を撃墜したとの報告が入った。私は更に敵を撃墜すべく、背後を振り返る。

なんとなくで振り返ったけど、やっぱり敵機が私の背後を取ろうと旋回していた。


『貰ったッ!!』


敵の無線が聞こえると同時に、操縦席内にミサイルアラートが鳴り響く。

私はフレアをばら撒いてすぐに急旋回をして、後ろにいた敵機を追い始める。


『今のを避けるかッ!?』


敵も必死で食らい付こうとして旋回を試みているけど、私の方が旋回率は高かった。

30秒くらいの時間で背後を取ってミサイルを発射、そして撃墜。でもすぐにまた警報が鳴る。

今度は正面からのミサイル。でもミサイルは私を感知できず、命中する事は無かった。


「ライラプス1、FOX2!!」


今の敵を無視して、その後ろにいた旋回中の敵へ向けてミサイルを発射した。

さすがに角度が悪くて、ミサイルは外れた。でも敵は旋回方向の判断ミスをして、わざわざ私へ排気口を見せてくれた。

このチャンスを逃すはずもなく、機関砲を数十発撃ち込んで火を噴かせる。


『また一機食いやがった!誰でもいいから白い尾翼のヤツを落とせ!』


『ダメだ!こっちは青線のヤツで手一杯で落とせねェ!クソッ、被弾した!』


無線を聞く限りだと、静音も相当な数を撃墜しているようだ。

負けてられないとばかりに更に一機、二機と撃墜していく。


そうだ。エリはどこ?彼女の状況は?


『こちらキャリー、どうも機体の調子が悪いみたい。スコアは稼げないけど一度撤退させてもらうわ』


彼女はどこからかやってきて私の横を数秒飛んだ後、翼を翻して作戦空域外へと離脱していく。

先ほどまで緊迫していた味方の無線も、今はどこか余裕が感じられるようになっていた。


『こちらアロー3、今後ろ食いついてたのを撃墜してくれたのは誰だ?ライラプスか?』


『ライラプス2からアロー3へ、回避が甘いと食われるよ!もっと鋭く!』


『ああ、次からはそうするぜ!ありがとな!』


私は一度高度を上げて戦闘機が飛び交う空域を上から眺める事にした。

F-16にF-15、旧世代のアスタリカ空軍の戦闘機。戦況は先ほどよりも優位になってきていて、こちら側の戦闘機の方が追尾している機数が多い。


『ライラプス2から全機へ、損傷の激しい人から撤退して。足手まとい扱いされても知らないよ』


『たった二機の増援で戦況がここまでひっくり返るなんてな。夢でも見てるのか、俺は』


『さて、もう一踏ん張りだ。奴らを撃墜おとして制空権を掌握するぞ!』


それから私もまた何機か撃墜して、味方の撤退を援護しつつ私達も徐々に後方へ下がっていく。


『シフィル、もう少しの辛抱だよ。頑張ろう』


「・・・何だろう。様子がおかしいような気がする」


私達が増援に来てしばらくしてから、敵機が増えていない。敵はこの空域の制空権を諦めたのかな。


『ストラトアイからライラプスへ。当該空域に高速で接近する機影を捉えた!数は2!』


『今更?』


『味方の完全撤退まで15分。それまで持ちこたえてくれ!』


了解ラジャー。フィーラ、・・・やろう」


『そうこなくっちゃ!燃えるねぇ・・・!』


静音は生粋の近接空中戦派ドッグファイターで、こういう状況ならどんな味方よりも頼もしい。

でも2機編成の小隊という事は私達のように相当な実力を持っている可能性もある。覚悟して臨まないと。


『遅かったようだな』


『ええ。既に制空権は敵にあります。こちらへ向かってくる機影は2機。恐らく噂のライラプスでしょう』


『・・・面白い』


レーダーに映る機影は猛スピードで距離を詰めてくる。心拍数が上がり、額からは冷や汗が出てくる。

私は操縦桿をグッと握り締め、スロットルレバーを最大推力位置まで押す進める。


「ライラプス1、交戦開始エンゲージ!」


『っ、アイツは!』


彼らは私達を正面で迎え撃たず、傍を通り過ぎていく。その時に見えた敵機のカラーリングは。




―・・・貴様は、20年経っても空に君臨するか。




間違いなくアレクサンドルだ。私を撃墜したあの戦闘機。私は機体を傾け一気に急旋回すると、ヤツを撃墜すべく機影を追う。

11Gから12G、そして13G。全身が痛むけど、今ここでアイツを撃墜しなきゃ・・・朝奈の未来を変えられない!

そして私の未来も守らないと・・・!


『ヤツの身体はサイボーグか?バケモノみたいな機動だな』


『隊長もヤツもなんら変わらない。これはバケモノ同士の戦いですよ』


私が旋回をすると、相手も反対方向へ旋回した。もちろん食いついて離すはずもなく、私はグイグイと距離を縮める。

そういえば、もう一機は?


『シフィル!後方に敵機!』


静音からの無線で、私はハッと後ろを振り返った。でもそれが更に隙を生み出してしまった。

後ろを振り返っている間にアレクサンドル機は小さな半径で宙返りをして、静音までも後方を取られる形となってしまった。

私、敵の二番機、静音、アレクサンドル。例え静音が二番機を撃墜しても、アレクサンドルが私と静音を連続して撃墜するだろう。

連携も個々の空戦能力も、私達より上だ。



どうすれば引き離せる?

どうすれば互角に戦える?




―どうすれば勝てる?





ダメだ。答えが見つからない。

私達はもうここで撃墜されて、朝奈の未来も私の未来も壊れていくんだろうか。




諦めるしか無いんだろうか。











『クッソがあああああッ!!!二度も死んでたまるかあああぁッ!』


静音がヤケクソになって私に当たりそうな勢いで機関砲を乱射した。敵も私も突然の乱射に戸惑い、今この場を飛んでいる4機全てが散り散りになった。







そうだ。私達は死んじゃいけないんだ。諦めちゃいけないんだ。

今ここで諦めたら全てが終わってしまう。諦めたら白翼の悪魔でもなんでもない。







「フィーラ、巻き込む!」


『ふざけるなふざけるなふざけるな!私はここで死にたくなんか無い!帰らせろよ、現代あっちに!!』


私が止めようとしても、静音は聞く気配なんて無かった。

でも助かった。絶体絶命の状況から脱して、背後を取るチャンスが出来た。このチャンスを逃がすわけにはいかない。


『ッ!隊長、フォローを!』


不可能ネガティヴ。白翼はこちらと互角か、それ以上だ』


静音は一気に形勢逆転をして、敵機の背後百数メートルのところでピタリと付けていた。

一方で私はアレクサンドルと取っ組み合いとも言えるくらい近距離での背後の取り合いになっていて、背後を取っては機関砲を撃ち、背後を取られを繰り返していた。

機関砲の残弾は残り100発しかない。アレクサンドルを落とせるかどうかわからない。


「でも・・・やらなきゃ生き残れない」


生き残れ、という言葉が脳裏に焼き付いて離れない。でもその言葉のおかげで急に時間がゆっくり感じられるようになった。

機速、旋回角度といった全ての情報を処理して、どうすれば敵機の背後を取れるかを計算していく。


『オリョール2被弾!操縦不能アンコントロール!』


敵の二番機が被弾し、緊急脱出ベイルアウトをした。静音は勝った。あとは私が勝たなきゃいけない。


『シフィル!!勝て!!』


言われなくてもわかっている。でも、やっぱりアレクサンドルは強い。

私が背後に付くと、相手は翼端の補助翼エルロン方向舵ラダー昇降舵エレベータを使って機首を上げながら巧みに右へ旋回していく。

かと思えば、一気に左へ機体を傾けて更に捻りながら急減速してきた。


これはマズイ。


「くッ・・・!!」


私も急いで左へ捻りながら追尾しようとする。だけど機体がそれを拒否した。私の機体イーグルは失速寸前だった。

低速域での機動力は相手のSu-27の方が有利で、それ故に急速反転クルビットも可能だ。


『クソッ、なんでこんな時に武装アームが残って無いんだよ!!』


静音は残弾0で加勢ができない状況らしい。頼れるのは私だけ。

操縦桿を操作して機首を地面に向けて加速してから一気に引き起こすと、お互い背面を見せている状態になった。


『不利な状況でもなお諦めず、持ち直すか・・・!』


今の私に喋る余裕なんて無かった。間違いなくロックウェル少佐よりも強い。

諦めたくなる気持ちも徐々に湧き上がってくる。だけど。

ロックウェル少佐ならどうするか。ライアーならどうするか。・・・お父さんならどうするか。

きっと物凄く強い執念を以て、果敢に戦って、生き残ろうとするだろう。


敵機の背中を見ていると、相手がグイッと急旋回をしてきた。砲口がこちらを向いた。撃ってきた。

その瞬間を狙って、私は背後にピッタリ付かれる覚悟で相手と同じ方向へ一気に操縦桿を引く。


『チッ、外したか。その上リスクを承知で!』


私の判断は間違っていなかった。見事相手の背後を取れた。今がチャンスだ。

操縦桿の引金を引いて機関砲を撃った。


『シフィル!!!』


撃った機関砲弾は相手の右エンジンの部分に数発が命中して、黒い煙を吐き出した。

でもそれっきりだった。私は残りの100発を一秒で撃ち尽くしてしまった。


『・・・見事だ』


アレクサンドルは私の様子を見て攻撃は不可能と判断したのか、そう呟くように言ってからゆっくりとユーラシア大陸へと機首を向けていく。

例えこのまま続行しても、相手は被弾して機体の本来の性能を発揮できないし、私達は攻撃ができない。

少し悔しいけど、私達もゆっくりと機首を三沢基地へと向けていく。





◆   ◆   ◆   ◆   ◆





基地へ帰還した私達は、操縦席から降りてすぐに近くの車両に崩れるように背を預けた。

既に日は暮れていて薄暗い。そんな中で私達は本心を口にした。


「「死ぬかと思ったぁ・・・」」


でも生き残れた。そう呟いた後、私はふらふらしながらもゆっくりと立ち上がった。

視界の端に映っていたこちらへ向かってくる車椅子の女性の方へと歩き出すと、静音も急いで立ち上がって私の横へ並ぼうと走り出した。


「おかえり。二人とも」


「ただいま、朝奈」


朝奈は私達の様子を見て、今回の空戦がいかに熾烈だったかを察した様子。


「朝奈、ただいま」


「静音もお疲れ様。アレクサンドルと戦ったそうね」


「アイツとの戦いは決着は付けられなかったけど、小隊チームとしては勝ったよ」


「あっ・・・」


私は静音のその発言で、思わず声をあげた。一般的に捉えたらそういう事になるんだ。

そっか。私達は勝ったんだ。今は勝ったと言えるんだ。


「よう。ナールズ最強の隊に勝ったんだってな?」


声を掛けられて振り向くと、長倉さんの姿があった。彼は私達に袋を渡すと、すぐに宿舎の方へ去っていく。

渡された袋を開けると、スイーツファクトリーパムパというお店のデザートが何個か入っていた。


「あっ、これ今話題のスイーツ!ねえ由比、部屋行って食べようよ!」


「それもいいけど、私は早くお風呂入りたいよ・・・」


「じゃあ私は先に部屋へ行ってるわ。あんた達お風呂長いのよ」


朝奈はそう言い残していつの間にかいたエリと共に部屋へ。

空でもそうだったけど、エリって神出鬼没な気がする。ステルス戦闘機に乗ってる人って全員ああなんじゃ・・・・?



私と静音は宿舎の横にある入浴施設で入浴を済ませた後、部屋へと戻った。

紙の切れ端に、出撃前の話はまた明日でいい?と書いて朝奈へ渡すと、小さく頷いた。どうやらいよいよ話してくれるらしい。


「それより由比、あんたまだあのゲームやってないでしょ?ほらー、やりなさいよー」


「えっ、アレ強制なの?!私はやりたくないんだけどっ!」


「由比、逃げちゃダメだよ。キミはやらないといけない運命にあるんだよ!」


朝奈と静音に迫られ、エリは淡々とゲームをテレビに接続していた。

これ、ホントにやらないといけないパターンなのかも・・・。ホラーなんて得意じゃないのに。


「ってのは冗談で、由比がそこまで嫌がるなら私は強制しないよ」


静音は私から離れると、コントローラを手に取ってゲームの電源を入れた。


「そうね。多少乗り気がある人ならまだしも、由比は全力拒否なんだもん」


朝奈は私の口へチーズケーキを押し込むように食べさせてくる。すごい苦しいからやめて!

そしてそのチーズケーキを食べ終えて、私は眠気と戦い始めた。


「ごめん・・・先に寝る・・・」


ウトウトふらふらという言葉が似合うくらいの足取りで支度を整えて、私は布団へ潜った。

空戦の疲労から来る眠気というのもあり、私は一気に睡魔に飲まれていく。


薄れていく意識の中で、私は部屋にいる三人へ感謝の言葉を口にした。



いつも傍に居てくれてありがとう。と





やっと書き終えました(汗)。空中戦というのは読み合いっこなんですよ!


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