表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
群青の空へ  作者: 朝霧美雲
第一章 -Disappearance of hate-
3/135

第2話 休息






仲夏。

南方に位置するこの島は、雨季に入った。


「雨は嫌いだな・・・」


「濡れるからか?」


ため息混じりに呟くと、反対側のベッドに座っていたライアーが反応した。

私は少し間を置いてから、ゆっくりと話しはじめる。


「あまりいい思い出が無いからな・・・」


「なら無理に聞かないでおこう」


ライアーの気遣いに感謝をしつつ、ベッドに倒れこむ。

・・・やる事も特に無く、ただ時間だけが過ぎていく。


「そんなに暇ならハンガーにでも行くか?」


ハンガーか。そういえば、今私達の機体はメンテナンス中だったな。

友香達の手伝いでもしに行こうか。


「差し入れも持っていこう」


部屋着からジャージへと着替えた後、売店で扶桑国からの輸入品のジュースを数本購入。

ライアーに数本を持たせると少し嫌な顔をされたけど、その後は何事も無く格納庫へと到着。

今はエンジンを外してメンテナンスをしていた。


「あ、由比ちょうどよかった。この間の新型の燃料ポンプだけど」


「ああ。何か問題が?」


「9G近くの加重がかかると部品の一部にクラックが入って、最悪エンジンから出火するよ」


「・・・」


既に元の部品には戻してあって、友香がそのクラックの入った新型を持ってきた。

隣を見ると、ライアーも引きつった表情をしていた。


「耐用試験はしたのかよ・・・」


「一応してあったみたいだけど、9.5Gまで。由比みたいに最大12Gとか掛ける人なんてそうそういないし」


「普通失神しねえか?そんなG掛けて」


配属されて1ヶ月。失神した事は無く、12G掛けてもあと1Gくらいはいけるかもしれないと言った所。

それを伝えると、整備も含め全員が呆気に取られていた。

・・・それって普通じゃないのか。


「まあ、由比は小柄だからそれもあるのかも」


「女性パイロットは男性に比べてGへの耐性はあるらしいからな」





格納庫での作業が一通り終わり、私と友香は浴場へとやってきていた。

とは言っても、この基地に所属している女性はごく僅か。

本来15名の入浴を想定した女性用の浴場は、私と友香だけが使う事が多い。

他の隊員はシャワーで済ませることが多いからだ。


「相変わらず広いよねー、ここ」


「そのうち縮小されないかちょっと心配だけどな」


服を脱ぐと、タオルを巻いて浴室へ。髪と身体を洗い終え、ゆっくりと湯に浸かった。

ここ数日で一番寛げているかもしれない・・・。


「ところで、1番機引き受けちゃって大丈夫なの?今まで列機だったのに」


「私が2番機でカバーをしているよりも、感覚で言えばライアーと背中合わせで戦っていた方がいいんだ」


「なるほどねー」


「例えばこういう動きをした時に」


私は両手を使って戦闘機の動きを真似て説明を始めた。

友香は戦闘機が昔から好きらしく、大雑把な説明をしてもしっかり理解してくれた。

話は動きの話から変わり、お互いの気持ちの話へと変わっていく。


「由比はさ、どうして兵士になろうと思ったの?」


「・・・」


言えない。言いたくない。

わかってる。本当はそんな理由でやってはいけないという事も。

でも・・・。でも、そうじゃなきゃ・・・。


「ごめん、先に出る・・・」






―そうじゃなきゃ、空を選べなかった。






日が沈み暗くなった格納庫に、私は居た。

まだメンテナンス途中のイーグルの、大きな翼の上へと登り寝転がる。

誰もいない格納庫はとても静かで、落ち着くことができた。


「・・・」


私は元々、空に憧れていた。

手を伸ばせば届きそうで、届かない。

遠く、広く、そしてどこまでも行けそうな空。


少しだけ手を伸ばしてみた。

格納庫の天井へと。


「由比、こんな所にいたのか」


聞き慣れた声がすると同時に、何かが飛んできた。

瞬間的に判断して飛んできた物をキャッチすると、身体を起こして声の方を見る。


「ちょっと考え事してたんだ」


ちなみに飛んできた物は扶桑製のアンパンだった。

封を開けて一口齧る。

私はイーグルの翼から飛び降りると、近くの段差に腰掛けた。




「兵士になった理由を話せない、か」


ライアーならわかってくれると感じた私は、先ほどの事を話した。


「ライアーは、どうして空を?」


「俺はそれが自分の選んだ道だからだな。ただそれだけだ」


「そうか・・・。ライアーはすごいな」


そう呟き、再び地面に寝転がった。

少しヒンヤリとして気持ちが良かった。


「俺の理由聞いたんだから、お前も話せ」


「私は・・・」


・・・うん、話そう。


「両親の仇討ち・・・かな」





あの日、私は家にいた祖母に話を聞かされた。

最初は信じたくなかった。でもその日を境に音信不通となった。

でも、なぜか記事には名前が載っていない。何もかもがわからなくなった。


「・・・あまり思い出せないんだ。気が付けば中学卒業間近で、戦争が起きて」


「なるほどな。・・・って、中学だと?」


なにやら慌て始めるライアー。

どうしたんだろうか。


「お前今何歳だよ」


「17。直に18になる」


なんかすごい驚かれたぞ。

なんでなんだ・・・。


「どうりで若く見えるわけだ・・・。実際に若いんだからな・・・」


「・・・うん、なんだかスッキリした」


スッキリしたらなんだか瞼が重くなってきた。

腕時計に目をやると、まだ8時前。


「少し早いけど、私は部屋に戻る。話を聞いてくれてありがと」


私はヒョイッと立ち上がり、格納庫から離れた。




少し遅れましたが2話投稿です。登場人物紹介はまだできてません(おい。

3話の投稿はなるべく早めにしたいですね・・・

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 仇討ち…ワクワクしてきます [気になる点] 用語の補足あるといいかもしれないですね。 (Gとか) [一言] 二話まで読み進めてきましたが、面白くなってきましたー
[一言] 拝読しました。 戦う理由が復讐であることに後ろ暗さを感じる由比にとってライアーは戦闘における相棒としての心強さと同時に、頼りになる大人なのかなと。良い関係性ですね。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ