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群青の空へ  作者: 朝霧美雲
第二章 -The Sky Dominated by Aces in 1998-
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第7話「別れと出会いと、力を知る」





朝早くに起きた私は、眠い目を擦りながら人目につかない格納庫の裏へやってきた。

理由は、先日の朝に発生した突風の正体を探るため。

あの日の朝、私は一匹の虫を追い払いたいと念じた。その直後に室内に突風が吹き、テレビが落ちた。

念じたから突風が吹いたという可能性が高いから、私はこの場所で少しだけ試してみる。


ほとんど風の吹かない格納庫の裏。

つむじ風をイメージしながら、両手を合わせて心の中で強く願う。





「風よ、渦を巻いて」


挿絵(By みてみん)







たったそれだけで、私の周囲で風が巻き起こった。風は周囲の土を巻き上げてすぐに収まる。

それが収まると、数枚の羽が宙を舞っていて、軽い息切れ。

信じられない気持ちと、この力への微かな期待。これを上手く使えば・・・。


「私でも地上で・・・誰かを守れる・・・」


私は小声で呟いた。これで・・・一番守りたい人を守る事ができる。

地上でも空でも、常に私を気にかけてくれていた人。私を相棒と呼んでくれる人。

早く現代へ戻って会いたい。けど今はこの戦争で生き残らなきゃいけない。


「・・・よう相棒、まだ生きてるようで何よりだ」


彼がよく言っていた言葉を口にしてみる。

・・・。会いたい気持ちが徐々に強くなってきて、私は首を横に振った。

これじゃ戦闘に集中できない。誰も守れなくなってしまう。今は我慢しなきゃ。

私は格納庫裏を去り、朝食へと足を運んだ。







◆   ◆   ◆   ◆   ◆






お昼を過ぎて午後の2時。あれから、私は一人で基地の滑走路脇に仰向けで寝ていた。

作戦まではまだちょっと時間があるけど、今回の作戦を最後に千歳を離れなきゃいけなかった。

千歳を離れ、三沢から茨城の百里基地奪還作戦と、そしていくつかの作戦の後に東京奪還大作戦。

聞いていた通りであれば、そこから数ヶ月経過した後に私を撃墜したパイロットとの交戦。


「あ、いたいた。由比ちゃん、起きて起きて」


今後について考えていると、お母さんが私の名前を呼びながら横へ座って何かを手渡してくれた。

よく見ればそれは何枚かの手紙で、私はそれを受け取ってゆっくりと封を開ける。それは智恵とお母さん、そしてこの基地に残る親しい人物達からだった。


「あのね、ふぃーちゃんや朝奈ちゃんも貰ってるけど、由比ちゃんが一番多く手紙貰ってるんだよ!」


「そうなんですね・・・」


この基地から去るのは私と静音のライラプス隊と朝奈、長倉さんと数名のパイロット。

そこへアスタリカ空軍の第6飛行隊と第11飛行隊が加勢する。そして別方面へ203飛行隊が展開。

その代わりに駐留するのがお父さんと連合軍第3戦闘飛行隊とアスタリカ海兵隊の空母飛行隊。

つまり少ないながら戦い生き残った部隊を主力として、アスタリカ空軍の飛行隊も加わりこれからの奪還作戦が行われていく。


「由比ちゃん。これから激しい戦いがあるかもだけど・・・絶対生き残ってね」


「はい。私は必ず生きてみんなに会いに行きます」


私はお母さんの目を見てそう答えた。

時計を見ればもう時間で、これが最後の会話になるんだと理解した。

何かもう一言か二言くらい喋りたかったけど・・・うん。行かなきゃ。


「じゃあ・・・またね。お母さん」


小さく聞こえないようにそう呟いて、私は格納庫へ向かって歩き出した。

けどすぐに、私は後ろからトンと衝撃を受けて歩みを止めた。お母さんが抱きついてきたんだとわかった。


「由比ちゃん、次に会えるのはいつになるかわからないけど・・・どこかでまた会おうね」


次に会うのは・・・たぶんお母さんにとっては20年後になってしまう。

そう考えるとなんだか切なくて、寂しい思いをさせてしまいそうで・・・。


「・・・なんでそんな事を言うんですかっ」


「約束だよ。ボクとの約束」


「・・・はい、約束です。いつかまた会いましょう」


私は涙声にならないようにそう返事をして、涙を堪えながら格納庫へと歩いていく。

格納庫では静音と朝奈が待っていて、すぐに私に気付いた。


「シフィル、今のところ11秒遅刻だよ。早く」


「わかってるよ」


駆け足で愛機イーグルの操縦席へ飛び乗ると、すぐにエンジンを始動させる。

10分ほどで準備を終えて誘導路へと機体を進ませていく。

そこから離陸までの時間は短く感じて、空に上がった瞬間に作戦の内容を思い返す。


今回の作戦は二方面に分けて部隊が展開し、一方は先日撃墜された輸送機パイロット達の救出。

そしてもう一方は私達を主力として、スヴェート級レーザー戦艦の完全撃沈。

私達の戦闘機に搭載された武装は白煙発生装置スモークチャージャーと通常のミサイル。

非常に強力なレーザーを防ぐためにスモークを展開してレーザー光を拡散させるというもの。

もちろん発生時間に限りがあるし、後方だけしか効果を発揮しない。あくまでも緊急防御用でしかない。


『シフィル、もうじきアイツらの防空圏内だよ。気を抜いたら落とされるからね』


「握り締めたお財布を落としそうで怖いな」


静音からの無線に答えた後、ストラトアイからの無線の入電音。

次いで多機能映像表示装置にマップと防空圏内の大まかな位置が表示された。


『こちらストラトアイ。戦艦の攻撃範囲は攻撃の数秒前に表示される。いいか』


「この日のこの機能のために偵察機が3機と、攻撃機2機が撃墜されてるって聞いた」


『そうね。出来れば接近したくないものだけど、攻撃するには近づくしかないものね』


みんなどこかで怖がっているのがわかった。私も正直怖いけど、戦艦アレを撃沈しないとこの先の作戦ができない。

作戦空域まであと3分で到達。その後は目標へ接近して攻撃を加える事になっている。

ただ、目標の周辺には対空防御能力の高い巡洋艦が随伴していて、本体を攻撃するのは難しい状態。


『シフィル、ビーム機動は知ってる?』


「知ってるよ。敵から見て90度真横に移動するように進路を変更する戦闘機動コンバットマニューバでしょ」


これは私も多用している機動の一つで、回避成功の確率が非常に高い。

ただ、今回の敵戦艦ターゲットの性能は私にとっては未知数で、この機動が通用するかどうかはわからない。

一番いいのは射程外からのミサイル攻撃だけど、事前の試験的な攻撃でそれらは全て着弾前に一掃されたと聞いている。


『それにしても、たった数機の戦闘機が心強い味方・・・ね』


『こちらクーガー1、我々では不満か?』


『ええ。でも期待はしているわ』


作戦に参加しているのは私達ライラプス以外に、第6飛行隊第3飛行班としてクーガー隊が参加している。

クーガー隊は今回の作戦の準備として行われた強行偵察で唯一無事に帰還した隊であり、腕は確か。


『ライラプス2からクーガー1へ。キミ達の腕は確かだと聞いているから、お互いカバーしていこう』


『こちらクーガー1、淑女の護衛は紳士に任せたまえ』


クーガー隊については、隊長がイタリアーナ人と扶桑人のハーフ。

お金目当ての傭兵として、一ヶ月前にアスタリカ空軍第6飛行隊に配属されていたけど、いつもは部屋でワインを嗜んでいるという。

どおりで見かけないわけだ。


『状況、敵の防空圏内。全機、作戦開始!』


いよいよ敵の防空圏内なわばりに突入した。ここら先はコンマ数秒でさえ気を抜けない空域だ。

私達はお互いの距離を700メートルほどに保ち、敵戦艦へと向かっていく。


『ほーら来たぞ、回避しろ!』


映像表示装置に攻撃範囲予測が表示され、私はその範囲から離脱するために右へ旋回した。

直後に、前回の離脱行動時には見えなかった青白い直線状の光が私のいた空間を切り裂くように抜けていく。

だけど一つだけ、敵の欠点がわかった。


『ひえー、恐っろしいな』


「ライラプス1から全機、レーザー発射中は一秒あたりの動作角度が低い!その隙を狙って接近していこう」


『こちらライラプス2、私も確認できた。ただ、周りの護衛艦はどうする?』


『クーガー1からライラプス隊へ、我々が護衛艦を片付けよう』


「ライラプス1からクーガー1、任せた」


クーガー隊は速度を上げると、一気に護衛艦へと向かっていく。

それを蹴散らそうとするかのように、戦艦の攻撃はクーガー隊へと向けられた。そして同時に護衛艦からの対空砲火も浴びせられる。


『おーおー、すげえ弾幕だな。湾岸戦争を思い出させる激しさだぞ。おまけにレーザーだ!』


『隊長、一旦引いて多方向からの同時攻撃を提案します』


『そうだな。各機、一旦離脱だ』


彼はそう言うと、一旦高度を上げて私達の斜め後ろについた。


『ライラプス隊へ。今の弾幕を見たか?』


「大丈夫だ。あれくらいなら・・・やれる」


護衛艦5隻の弾幕は確かに激しいが、なぜだか私には怯えて威嚇しているようにしか見えなかった。

当てるというよりも追い払うのが目的のように。


『だそうだ。ライラプスを全力で護衛するぞ』


クーガー隊は意を決して再び護衛艦へと突入していく。

今度は散開して3方向からの同時攻撃をしていく様子が私の目に映る。


『クーガー隊、護衛艦撃沈!あと4隻だ』


『ヒャッホオオオウ!!どうだ、見たか!!!』


黒煙を噴きながら艦首を上に向け始める1隻の護衛艦と、散開し始める他の護衛艦。

なんだか統率が取れていないようにも見えるけど、何かあったんだろうか。


『シフィル、相手の様子がおかしいように見えない?』


「うん。まるで統率が取れていないような、そんな感じだ」


『シフィル、回避!!』


朝奈に言われ、私は即座に機体を旋回させた。

レーザーが右の翼端を掠めたけど、飛行には全く問題は無かった。まだいける。


「ライラプス隊各機、これよりスヴェート級への攻撃を開始!」


了解オーケー!』


『了解』


私達がスヴェート級へ機首を向けると、2隻目の護衛艦が真っ二つに折れるように沈んでいく。

私は無線を入れると、クーガー隊へ称賛の言葉を送った。


「クーガー隊、ナイスキル!」


『さっさと終わらせて今夜はディナーにしようぜ!』


『もちろん隊長の奢りで』


『わかってるさ』


会話の合間にも、敵の砲火は止むことはない。それどころか今度はミサイルまで発射し始めた。

だけど流石はクーガー隊といったところで、落ち着いて回避をしている。


『ライラプス隊、そろそろいけるんじゃないか?頼むぜ』


「わかってる」


私はスロットルを一気に前に倒し、最大推力位置で突入していく。

ある程度近づいてきたところで左へ旋回し、一度ビーム機動で敵の攻撃を引き付けていく。

その隙に静音と朝奈が攻撃を加えて離脱の後に、最後に私が攻撃を加えていく。


『スヴェート級に火災発生を確認!』


後ろを振り返ると、スヴェート級戦艦の一部から黒い煙が上がっているのが見えた。

その直後、警報が鳴り響く。


「っ!」


表示装置に攻撃範囲が表示された。砲塔が私を完全に捉えた状態になっていて、顔から血の気が引いていく。

急いで白煙発生装置スモークチャージャーを起動させながら急旋回を試みる。

強烈な光で目が眩んで、何が起きたかわからない。でも水平飛行している感覚は感じ取れる。


『シフィル!?』


『ライラプス1、無事か!?』


ゆっくりと目を開けていくと、またもや攻撃範囲に捉えられていた。でも今度は避けれる。

落ち着いて速度を上げつつ旋回をすると、無事に攻撃範囲から離脱できた。


「こちらライラプス1、大丈夫ノープロブレム


無線で無事を伝えると、静音が近くへ飛んでくる。


『シフィル!あと3、4回攻撃すればいけるはず!』


『今度は気を付けなさいよ!』


「ああ」


私達は一度体制を整えた後、クーガー隊の援護を受けつつ再び突入していく。

スヴェート級を正面に捉えて加速し、一度散開して回避をしながら接近して攻撃を加える。

攻撃範囲予測が表示され、私達は敵が攻撃パターンを変えた事に気が付いた。


『なるほど、敵も相当焦ってるみたいね』


『一点集中から広範囲への攻撃へ切り替え、か。ホントにゲームみたいな事してくるんだね』


『呑気に言ってる場合じゃない!』


攻撃の周期も、だいぶ短くなって隙が減ってきている。

でも・・・いける!私達なら間違いなくやれる!


「ライラプスからクーガー隊へ!敵の攻撃を引き付けてほしい!」


クーガー隊へそうお願いすると、快く引き受けてくれた。

そうなれば、私達は全力で攻撃に集中できる。


『とにかく、日が暮れる前にやっちまおうぜ!』


『護衛艦と囮は俺らに任せろ!』


クーガー隊は恐れる様子を見せる事なくスヴェート級へ飛び込んでいく。


『・・・呆れるくらいの度胸ね。私達にはマネできそうにない』


『よし、狙いが完全にクーガー隊へ向けられてるうちにやろう!』


私達3機は翼を翻してスヴェート級へと飛び込んでいく。

静音、朝奈、私の順で1回目。朝奈、私、静音の順での2回目。そして、全員での一斉攻撃。

それが命中すると、スヴェート級戦艦は赤い炎に包まれながら海へと沈んでいく。


『全機、作戦成功だ!スヴェート級戦艦の撃沈を確認した!』


『これで奴らも慌てるだろうよ!ざまあ見ろ、ナールズのバカ野郎め!!』


私達ライラプス隊は地上付近で編隊を組むと、千歳基地の方向を横目に見つつ青森県の三沢基地へと機首を向けた。

この時代で千歳基地へ降りる事はもう無いと思うと、少し寂しさもあった。


『シフィル、別れの挨拶は済ませてあるよね?』


「もちろん。でも・・・やっぱり寂しいんだ」


『だろうね。シフィル結構寂しがり屋だもんね』


「う、うるさいっ!落とすよ!落とされたい!?」


私はちょこっと操縦桿を操作して静音の背後に付くと、威嚇射撃をした。

静音はすごい慌てた様子で逃げ始めたけど、私は追わない事にした。


『ライラプス1、いたずら目的での味方への発砲は禁ずる』


「うっ・・・」


兵装の安全装置をオンにして水平飛行をしていると、静音が戻ってきた。

よっぽど怖い思いをしたのか、私から少し距離を置いて飛んでいる。


『ライラプス2、戻ってきなさいよ。もう撃たないだろうから』


『ホントに撃たないんだよね!?』


「もう撃たないから横に来て大丈夫だって・・・」



その後も他愛も無い会話を続けながら、私達は三沢基地へと着陸した。

私達は基地の休憩室へやってきて、救助作戦の方も大成功となった事が知らされる。


「大成功だって、シフィル」


「ああ。確かに殉職者はいるっちゃいるが・・・絶望して自分で頭撃った奴が殆どだ」


「そっか・・・」


私が椅子へ腰掛けると、長倉さんがミルクティーの缶を渡してくれた。


「まあ元気出せ。しばらく作戦は無いから、しっかり休んどけよ」


私の声を聞いて、静音がゆっくりと起き上がった。

朝奈は朝奈で本を読みながら視線をこちらへ向けている。


「あ、由比」


「私はシャワー浴びてくる」


二人を残して、私は一人シャワールームへ向かった。





◆   ◆   ◆   ◆   ◆





シャワーの水音が響く中、私は今日の作戦を思い返していた。

今思えば、レーザーが命中した時に死んでいてもおかしくなかった。

そして、私はある言葉を思い出す。パレンバンにいた時に誰かが言った言葉。



”英雄は先に死んでいくモノさ。一方で悪者はしぶとく生き残る”



でも、それを打ち消すかのようにライアーの言葉も脳裏に浮かぶ。

戦場に正義も悪も無い、と。私は・・・たぶん、敵にとっては悪魔や死神で、味方にとっては英雄だとか何かだと思う。

その考え方でもいいと思う。


「なに暗い顔してんのよ。変な事でも言われたの?」


「朝奈・・・ううん。ただ、私はもしかしたら今日、死んでいたのかなって」


私の言葉に対して、朝奈は大きくため息をついた。

そのまま私の背中を結構強めに叩いてから冷たい水をかけてきた。


「痛っ!?冷たっ!?」


「由比、あんたは今生きてるんだから。そんな考え方はやめなさいよ」


でも、明るい感じの朝奈の声のトーンは暗くなった。

理由は今朝の出来事。


「・・・由比、あんた大空の巫女なんでしょ?」


「っ・・・!大空の巫女?何それ?」


「ごまかさないでよ!私は今朝全部見てた。あんたが起きた後に後ろを尾けて、格納庫の裏で能力を使っていた」


朝奈の目はまるで憎い敵を見ているようで、私は思わず一歩下がる。

かと思えば、すぐにいつもの表情に戻る。


「・・・霧乃宮由比。それがあんたの本当の名前よね。霧乃宮家の直系の女性。大空の巫女と称される存在」


「あんたが苗字を隠していたのも、この時代に生まれていない霧乃宮弘幸の娘だからでしょ?」


私は頷く事も、言葉を発する事もしようとは思わなかった。

だけど次に来ると予想していたものとは裏腹に、朝奈は私へと抱きついた。


「由比、くれぐれも自分の命を大切にして。絶対に自分を犠牲にしようだなんて思わないで」


「朝奈・・・?」


「いい?」


なぜだかわからないけど、否定できなかった。朝奈は何か知っているのかもしれない。

この時代に来る方法を調べている時に何か色々な事を知ったのだろうか。


「・・・うん」


そう答え、私は残っていた泡を洗い流してシャワールームを出た。

髪と体を拭き終えて籠を覗くと、袋に入った何かが置いてある事に気が付いた。


「何これ」


袋から取り出してみると、新品の洋服だった。それもなかなかオシャレな服。

着てみるとサイズもかなりいい具合。色合いも私の髪色に合わせて青と白でまとまっている。

誰がここに置いていったんだろう?静音か、それとも朝奈か。


着替えも済んだところで休憩室へ戻ると、見知らぬ人物が一人座っていた。

朝奈が先ほどまで読んでいた本をぺらぺらとめくりながら、時折首を傾げて悩んでいる。


「お、キミがシフィル?ちょうど良かった。キミはこのナールズ語が読めるかい?」


フライトスーツに身を包んだ金髪の彼女は、私に対して英語で話しかけてきた。

私はその背丈に思わず驚いた。私より結構大きくて、大体165より大きいくらい。そしてアスタリカ人だからかサイズもお母さんより大きいかも・・・。

英語に関してはお母さんからきっちり教わっている事もあって、問題なく答えることができた。


「いえ、ナールズ語は・・・それと、その本はこの後戻ってくるはずの朝奈って人が読んでいたものですよ」


「そっかぁ・・・あ、自己紹介が遅れたね。私の名前はエリ・カロライナで、階級は無し。傭兵だから。キミは?」


「私はシフィル。わけあって本名は明かせないけど、同じ傭兵だよ。よろしく」


手を差し出すと、彼女は両手で握手をしてくれた。そしてそのままハグをされた。

なんだかアスタリカの人ってハグとか多いような気がする。


「格納庫の右翼端が焼けたイーグルはキミの機体?」


「うん。今日の作戦ちょっとでね。明日から修理に入るよ」


「ちょっと操縦席座ってもいい?」


「いいよ」


新設の格納庫へやってくると、F-15Cが2機と、F-16が1機。見慣れない機体が1機。

他に、静音と朝奈の二人がいた。


「あれ、二人ともここにいたんだ」


「ええ。アスタリカの新型機が来たってみんな騒いでいて、気になってね」


「由比、見てよこれ!F-22Aラプターだよ!!」


戦闘機オタクの静音はF-22を見て大喜びしていて、今にも乗り込んで飛びたそうにしている。

一方で朝奈は物珍しそうに見ていた。


「これが私の愛機のラプター。と言ってもまだ量産には入ってないし、ロボットアニメとかでよくある試作機状態」


私はエリの説明を受けながら、エンジンの周りをチェックしていた。

確かこの機体には推力偏向ノズルが付いていて、かなり機動力がよくなっている。

ステルス性もあって、隠密行動にはもってこいの機体。


「じゃあシフィル、ちょっと座るね」


「いいよ」


エリは嬉しそうにイーグルに掛けられたハシゴを上っていき、操縦席へ座った。

そんな様子を見ていると、朝奈が横へ並んで肩を叩いた。


「由比、その服似合ってる」


「もしかして、朝奈が?」


「ええ。だって由比、服のレパートリー少ないじゃない。年頃の女の子なんだから、おしゃれしなきゃ」


「ありがとう、朝奈」


私は心からの感謝を言葉にして伝えた。

格納庫はやる事も特に無いし、私は一足先に寝る事に。三沢基地の宿舎は私達3人が一緒に住む事になっている。

まだ荷物を運び入れたばかりで、散らかっている部屋。片付けは明日以降にしよう。

就寝の準備を終えた私は、今日の事を思い返しながら日記に記していく。


「この日記も・・・20年後にどこかで見つかるように・・・と」


そんな事も書き記して、私は伸びた後ろ髪を結んで寝巻きに着替える。

途中で朝奈達も戻ってきて、特に喋る事無く就寝の準備をしていた。


「あ、由比。明日は施設の案内あるから0800起床だって」


「・・・そんな早く起きられないかもしれないよ」


私が作戦の無い日に起きるのは大体8時半から9時半の間。

作戦のある日はきっちり起きられるけど、いつもはかなり遅く起きる。

朝奈が苦笑いしながら目覚ましを2個渡してきて、きっちり起きろと脅迫染みた言葉をかけた。


「わかったって・・・起きるから・・・」


「じゃあ、おやすみ。由比」


私は布団に潜ると、ゆっくり目を閉じて眠りに入っていく。


今回は赤いパッケージのフライトシューティングゲームのとあるミッションを参考に戦闘シーンを描写しました。そして別れと、出会い。次話はちょっと時間が掛かりそうですが、乞うご期待!!

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