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群青の空へ  作者: 朝霧美雲
第二章 -The Sky Dominated by Aces in 1998-
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6.5話「空と世界」




6月に入り、私はみんなと水泳の特訓の準備をしていた。というのも私が原因で、それはつい数時間前の話。

朝起きてすぐにみんなと朝食を食べていた時に先日のレーザー戦艦の話から海の話へ、海の話から海水浴だとかプールの話に。


「じゃあ今度みんなで泳ぎに行こっか」


「そうだね。水着はいつ買う?」


「ごめん、私は遠慮したい。どうせなら山で魚を釣ってみんなで焼くとかそういうのがやりたいし」


案がまとまりつつあったところで、私は海と間逆の案を明かした。

すると静音は何かを思い出したように頭を抱え、机におでこをくっつけた。


「どうしたの?フィーラちゃん」


「そうだよ、忘れてたよぉ・・・」


「ちょ、ちょっとフィーラ?あの事は言わないで?」


アレを言われると私の印象が下がりかねないし、なによりとても恥ずかしい。

これは今のところ静音だけが知っている私の秘密。私は席を立って静音の後ろに回りこむと、その口を塞いだ。


「むぐぐっ」


「海とかプールはちょっと・・・ね」


「なにか理由があるとか?」


理由・・・。それは。

やっぱり言えない。だから私は黙秘を決め込んだ。でもそれがよくなかった。


「シフィル、あんたまさか泳げないの?」


静音と私の様子をじっくり見ていた朝奈は、答えを口にしてしまう。

でも大丈夫。私には戦場で培った冷静さがあ――。


「うん。シフィルは泳げないんだよ」


「ちょっと!?」


私が口を開き否定する前に、静音がバラしてしまった。恐る恐る周りの反応を見ると・・・。


「ふうん」


「練習したほうがいいんじゃないでしょうか?」


「しーちゃん、練習頑張ろうね!」


なんだかまるで私が泳げないのを知っていたかのような反応で、少しだけ気が楽になった。

お母さんもなんだか乗り気だし・・・。



これがつい数時間前の、朝の出来事。あの後司令に地下水泳場を開けてもらい、練習をする事に。

水着に関しては学校で使うような紺色の水着で、サイズ表を見て教練科の女性コーチに言うと新品が渡された。


「じゃあ頑張ってね」


コーチの退室と同時に着替え始め、私は他の5人と自分の身体を見比べた。

静音には勝ってる。智恵に勝っているのは・・・当たり前と言ってもいい。問題はお母さんと朝奈。特に朝奈。

私より身長も高いし背中まで伸びた黒髪でほんの少しつり目。サイズも私よりあるし足も長いし・・・。


「朝奈、何を食べたらそんな風になれるの?」


思い切って聞いたけど、特にこれといった話は出てこなかった。

というのも朝奈の母親がかなり美人で、その遺伝らしい。

私のお母さんだってかなりスタイルいいのに何で私は・・・。悲しくなってきた。


静音は私と同じくらいで、髪は赤混じりの茶色。私と同じくらいの長さだけど、いつも後ろで纏めてる。

そんな静音が髪を降ろすと、周りから歓声が上がった。


「ふぃーちゃん髪降ろした方がかわいい!」


「そ、そう?でもずっと降ろしてるのもちょっとなぁ・・・あ、由比は髪結ばないの?」


静音がこっちを振り向いて尋ねると、お母さんや朝奈の視線も同時に集まる。

髪を結んだ事が無い私にとっては初挑戦になるけど、結んでみる事にした。


「えーっと・・・ん、あれっ」


中学時代の友達の結び方を思い浮かべながら結ぼうとしても上手く行かず、私はかなり苦戦していた。

イメージは沸くのに実行できない・・・。かといってやってみないわけにもいかないし、すごい悔しい。


「あはははっ。ほら由比、そこ座ってよ。ヘアゴム貸してあげる」


静音に言われ近くの椅子へ座ると、静音は私の後ろに立って髪を弄りはじめる。

手馴れていて、痛くない程度に引っ張ったりして上手に結んでいく静音。


「でも羨ましいなー、由比の髪の色」


「隣の芝生は青いってよく言うでしょ」


「由比の髪は青いけどね」


静音の軽い冗談に、私は数秒の間を置いてからクスクスと笑い出した。

やがて弄るのに飽きた静音は、鏡を持ってきて私へ手渡す。


「いわゆるお団子ツインテールってやつ。もうちょっと伸びたらもっとかわいい感じになるよ」


鏡を見てみると、まるで自分じゃないような気さえする。少し斜め横を向いてみたりしても、バランスよく結んである。

とはいえ泳いでいる時に邪魔になりそうだと静音が言うと、元に戻してくれた。


「朝奈はポニテとか似合いそうだよね」


「よく言われるわね。そういう静音だって、サイドアップとかどう?」


「あーっ、いいかも。今度やってみようかな」


そんな会話をしつつも、私達は準備を終えてプール場に入ってシャワーを浴びた。






◆   ◆   ◆   ◆   ◆





今日はやけに雲の流れが速い。水に浮かび空を眺めて、私はそう感じた。

手を伸ばせば届きそうで届かない。いつもの空だった。

たまには自由に空を飛んでみるのもありかもしれないけど、次に自由に飛べるのはいつだろう。


「由比ー、どうしたの。ぼーっと空なんか眺めちゃって、由比らしくないよ」


「そう?」


「そうそう。由比はいつも何かを探すように空を見てたし」


何かを探すように。言われてみれば、確かにあの頃の私はそうだった。

でも今は何を守りたいかもわかっている。だから何かを探すように見なかったのかもしれない。

眺めているうちに、ふと私がよく不思議な夢を見る事を思い出して、それを静音に話してみた。


「不思議な夢かぁ。例えばどんなの?」


「最近だと、私がどこか遠い空で何かを祈るように手を合わせてたりとか」


これは昨日見た夢。この世界とは思えないくらい美しい空の中で、私はそんな事をしていた。

でもいくつか相違点があって、私のようで私じゃない。誰かの見た景色を見ていたようだった。

そういえば・・・。


「そうだ、その時も確か白い羽が私の周りを舞っていた」


未だに解明していない白い羽の正体だけど、私が時々見るあの景色と何か関係があるのかもしれない。

ひたすらに続く草原と、白い雲の浮かぶ青空。あの場所は一体何なのかも気になりだした。


「由比、私その話を聞いた事があるわ」


「本当に?」


朝奈が何かを思い出し、私達の傍へ急いでやってきた。


「ええ。私がこの時代にやってくる時に使った方法を調べている時に見つけたの。その場所の名称は」



――蒼空の果て。



朝奈が知っている限りだと、何十年に一人だけがそこに存在できるという場所。

そこへ行く方法や、その場所が何なのか細かい事はわからなかった。


「確かに私はそこにいる夢を何度も見てる。でもこの間夢で見た時は・・・ライアーも居た」


一人だけが存在できる場所なら、どうして私とライアーがあの場所に存在したのか。

ますます謎が深まるばかりで、私はしばらく何も考えないようにする事に。


「まあいいや。とりあえず泳ごうよ」


静音は水に潜り、奥の方へと泳いでいった。





一通りの泳ぎの練習が終わった後、私達はパイロット組三人の愛機が翼を休めている格納庫へやってきた。

椅子とテーブルを並べ、昼食タイムを開始。と言っても静音が基地内のコンビニで買ってきたお弁当がメイン。


「蒼空の果て・・・」


なんだろう。私は何か重要な事を知っているかもしれない。なのに、小さな箱から大きなものを取り出そうとする時のように引っかかり記憶の底から出てこない。

そして同時に、喪失感に悲壮感など色々な感情が沸きあがる。これは一体何?

こんな事今まで無かったのに、最近になって異変ばかり。羽に、不思議な力に・・・この感覚。

20年前だけど、私の家に行ってみたら何かわかるかもしれない。


「由比、どうしたの?ボーっとしちゃって」


私が考えにふけていると、朝奈が横から覗き込むように話しかけてきた。


「え?ううん、なんでもない」


「ならいいけど、作戦に支障きたさないさないようにね」


「うん」


朝奈の言う通りだ。この調子で作戦に参加して撃墜されたらそれこそ未来が変わってしまう。しっかりしなきゃ。

私は頬を少し叩いた後、お弁当を一気に食べる。

食べ終えてすぐに静音と朝奈が談笑している事に気が付き、二人を眺める。


「それにしても、朝奈はよく食べるよねー。それでその細さでしょ?すごい羨ましいよ」


「そうかしら?これでもいつもより少なめにしている方よ」


「だっておにぎり3個にから揚げ弁当にお茶、デザートの焼きプリンって結構な量だよ」


横目でチラリと朝奈の食事の量を見ると、確かに結構な量を食べている。

まさかとは思うけど、この食べたものはあのふくらみに行っているんだろうか。


「朝奈、いつも何を食べてるか教えて!」


「えっ?別に特に変わったものなんて食べてないわよ」


「いいから教えて!」


私はメモ帳を片手に朝奈の食事スタイルを研究する事にした。そして数日後、それが失敗に終わった事は言うまでもない。



短いですが6.5話です。これが最後のゆるゆるだと思います。

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