第6話「願いと力」
9月1日(日) 誤字を修正
あの事件から1ヶ月。無事に三沢基地が運用され始めたが、私達の拠点は変わらず千歳基地のまま。
とはいえど、既に秋田は奪還。岩手も現在奪還のための攻防戦が繰り広げられている。
そんな中、私達は山形県奪還のための準備作戦に参加する事となった。
作戦参加指示が出された翌朝、私は奇妙な出来事に遭遇していた。
「・・・なんでこんな事に」
数分前に虫の飛ぶ音を不快に思い、どっか行ってと強めに思念して腕を振った。
すると室内で少し強い風が巻き起こり、テレビを落としたり布団を飛ばしたり・・・。
もうわけがわからなかった。まさかこれも・・・・霧乃宮の女性の力とでも言うの?
「静音、ごめん。起きて」
「もう・・・何・・・眠いんだけど・・・」
「テレビが落ちたから一緒に持ち上げて」
私がそう言うと、静音は一言同意した後にバッと身体を起こした。
「テレビ落ちたってなんでだよ!!!!」
「いや・・・私だってわからないよ」
「・・・」
静音は眠たげな目を擦りながらベッドから這い出て、落ちたテレビのところへ歩く。
見慣れないブラウン管テレビは画面が割れて、床にはガラスが飛散している。
「由比、何か隠してない?」
「・・・ううん。隠してない」
私は嘘を付いた。自分ですら把握できない未知の力を打ち明けられなかった。
静音に手伝ってもらってテレビを戻した後、司令にテレビが落ちた事を報告した。
「そうか。新しいのを調達しておこう」
「ありがとうございます」
私が自室へ戻ると、静音は私へ一冊の本を渡してきた。
ハワイ沖戦争というタイトルの本で、どうやら50年前に起きた数ヶ月で終結した戦争のパイロットに関する話。
「由比はさ、自分のおじいちゃんについて知ってる?」
「ううん」
私は自分のおじいちゃんについて全く知らなかった。顔も見たことが無くて、それどころかいた事もさえも知らない。
生まれて物心ついた時にはおばあちゃんと両親の三人と暮らしていた事しか覚えていない。
「由比の家系、色々調べてたんだけどね。・・・ごめん、知っちゃいけない事まで知っちゃったかも」
歴史に名を残した撃墜王について調べていて、霧乃宮というエースパイロットが50年前にも存在していた事を知った静音。
扶桑は過去にも2回戦争をしていて、今はナールズの一部となった叉納連邦国と、2回目はアスタリカとの戦争。
「由比のおじいちゃんかどうかははっきりわからないけど、霧乃宮義弘って人。2回の戦争を通じて合計79機撃墜」
義弘さんは当時23歳で、アスタリカとの戦争中に戦死。海軍航空隊の魔王と呼ばれるくらい空戦の達人だったと書いてある。
でもその数週間後、原因は詳しくわかっていないけど戦争は終わり、扶桑はアスタリカと国交を回復したという。
「もしかしたら、由比のおじいちゃんは義弘さんの身内にいるかもしれないね。現代に戻ったら一緒に聞きに行かない?」
「い、いいけど・・・あんまり変な事聞かないでよ」
「わかってるって」
部屋を出た私達は、それぞれ別行動となった。静音はシャワーを浴びに、私は食堂へと向かう。
食堂で一人でご飯を食べていると、少し大柄な男が横に座った。最近よく一緒にいる長倉さんだ。
「悪いな。霧乃宮はトレーニング行ってて食べる相手がいなかったんだ」
「私もちょうど食べる相手がいなかったので、大丈夫ですよ」
「そうか」
「そうだ。長倉さん、この間の祭典の時はありがとうございました」
「ああ。あのクマのぬいぐるみはどうだ?」
長倉さんの射的屋で景品としてもらったあのぬいぐるみは、今はベッドで一緒に寝る事が多い。
あのぬいぐるみと一緒に寝るとすごい気持ちよく眠れるし、なんだか落ち着く。
静音からは子供みたいって言われたけど、そこまで気にしていない。
それを話すと、長倉さんは大きく笑った。私もつられて小さく笑っていると、急にため息を付いた長倉さん。
「俺の家族ってさ、今東京にいるんだよ。嫁と娘だ」
「・・・無事、なんですか?」
「さあな。ナールズの急襲で扶桑の領土はどんどん奪われて、そん時俺がいたのは石川の小松基地だよ」
「そんな・・・」
私は何も声を掛けることができなかった。けど、早く取り戻さなきゃという強い想いが芽生える。
そんな私を見てか、長倉さんは私の手を軽く叩いた。
「そんな力むな。爪が食い込んで怪我したらどうする」
いつの間にか私は左手を強く握り締めていたみたいで、長倉さんが私の手を軽く叩いたのはそれが理由。
「あの、娘さんはおいくつなんですか?」
「今年で18になるよ。そういや、お前さんはいくつなんだ?」
「私も娘さんと同じ18です」
年齢を答えると、長倉さんは更にため息をついた。
「ワケアリ、と言ったところか?詮索はしないでおく」
「ええ、まあ色々・・・」
長倉さんはなんだかんだで優しい人だ。あの時諦めてたのは、本気でダメだと思っていたかららしい。
でも私達の飛ぶ姿を見て、考えが変わったと言う。
「どんな状況でも諦めずに挑むのがエースパイロットだったな。でもお前さん、一体どんな空戦したらあんな飛び方ができるんだ?」
私の飛び方は・・・もはや特異なものだと思う。12Gでも失神しないとか、あと血筋もあるのかな。
現にお父さんもお父さんでどんな空戦でも負けていないし。あ、私は一度負けたっけ・・・。
「私は・・・一度撃墜されてるからなんとも言えないですね」
パレンバン撤退の時に、所属不明機と交戦し、あと一歩の状況で形勢逆転をされた。
そういえば・・・そうだ、アイツの事!!!!
「ごめんなさい、ちょっと重要な事が!!」
私は席を立つと、急いで静音を探し始めた。歴代のエースパイロットに詳しい静音なら・・・。
20年経ってもと言っていたあのパイロットについて何か知っているかもしれない。
ずっと心のどこかで引っかかっていた謎を解きたい一心で、私はシャワールームへとやってきた。
ゆっくりとドアを開けて室内へ入ると、ちょうど着替えている静音の姿。。
「どうしたの?そんな深刻そうな顔をして」
「・・・静音、ナールズの最多撃墜王の名前ってわかる?」
私は他に誰もいない事を確認すると、静音に耳打ちで尋ねた。
静音がしばらく何かを思い出している様子を眺めていると、ハッと思い出したように私を見つめた。
「TACネームは霞。由比の以前のTACネームと似た意味」
「そのパイロットの本名は?」
「アレクサンドル・コジェドゥーブ、撃墜数は121機。変幻自在にSu-27を操るナールズの最強のパイロット。この戦争終盤で死んでるよ」
「そのパイロットの戦法はわかる?!」
私はいつの間にか静音に詰め寄ってしまっていた。思わずたじろぐ静音。
なんか頬を赤く染めてるけど、何でだろう。
「えっと・・・優れた反射神経を生かした超接近格闘。敵機に背後を取られた時はこうやって急速反転機動で・・・」
静音が両手を使ってきちんと説明してくれた。
背後を取られた時は、急速反転を活かした正確無比な操縦技術で敵機を確実に撃墜するという。
間違いなく私を撃墜したパイロットだ。アイツは生きていて・・・何かをしようとしている。
それを説明する前に静音が私の口を塞ぎ、入り口の方を指差した。
「誰か入ってくるから止め」
「むぐっ」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
一通りの意見を交換し終えた私達は、今後についてを朝奈を交えて話す事にした。
朝奈もそのパイロットについて知っているらしく、なんでも朝奈のいた現代のナールズ連邦大統領らしい。
そこで決まった私達の目的は、あのエースパイロット・・・アレクサンドルを撃墜し、拘束する事。
未来が大きく変わってしまう可能性はあるけど、よからぬ事を企んでいる以上は野放しにできない。
「二人とも聞いて。あのパイロット・・・アレクサンドルは私とライアーが二人で戦っても勝てないくらいに強い」
「ライアー?」
「なら私に任せて」
静音は立ち上がると、自信満々といった表情で手を挙げた。
でもそこで朝奈がストップをかけて、私達は戸惑い始める。その理由が予想外だったから。
「アレクサンドルの方法を知っていて少数で挑もうとしているなら、あんた達二人は死ぬわよ」
「ちょっ、どういう事?」
朝奈の言葉に静音が反応したけど、私は朝奈の考えがなんとなく予想できた。
「静音、落ち着いて。朝奈の言う通りで間違いないよ」
「でもそんな言い方っ!」
「ライラプス隊とレッドプラム、時間だ」
険悪な雰囲気が漂い始めた時、ストラトアイが部屋のドア越しに出撃を知らせてくれた。
今回の作戦は山形県の酒田市に展開する敵地上部隊排除。私達の武装は固定の機関砲と無誘導爆弾を12発。
朝奈の機体には対地攻撃主体の武装で私達と同じ機関砲に対地ミサイルを6発と爆弾を6発が搭載される。
青森奪還のアルティナ作戦とは違い、今回は航空機は飛んでこない。
そして、地上部隊の6割を排除したところで輸送機が到着し、アスタリカ軍の空挺部隊による残敵の掃討が行われる。
ちなみに、レッドプラムとは朝奈に与えられたコードネームで、これから空ではその呼び名で連携を取っていく事になった。
私達は準備を整え、それぞれの機体に乗り込んだ私達。すぐに管制官と交信をして離陸準備へと入った。
『全機、離陸を許可する』
「了解」
私がハンドサインで横に並んだ二人へ離陸開始の合図をすると、二人はしっかり応えてくれた。
離陸を開始して50分ほど飛ぶと、まもなく作戦空域内へと到達する。
『シフィル、どうしてナールズは扶桑へ侵攻を?』
「扶桑の資源や、長年培ってきた各方面の技術。それらを目的に矛先を、近隣国である扶桑へと向けた」
私は中学生の時の授業の内容をそのまま朝奈へ伝えた。朝奈は素っ気無い返事をした後、バカバカしいと吐き捨てて、少しだけ機体をロールさせる。
『空はどこまでも繋がってるのに、人の心は繋がらないのね・・・』
『人なんてそんなものだよ、レッドプラム』
『そろそろ作戦空域だ。戦闘に備えろ』
私達の会話を遮るように、ストラトアイから空域突入前の知らせ。
兵装の安全装置を切り、私は二人へ高度を下げるように指示をした。
「ライラプス1から各機、高度を下げて攻撃準備」
対地攻撃の練習は・・・訓練学校時代にしかやった事は無い。でも、大体はわかる。
爆撃モードへ切り替えると、HUDに着弾予測の照準が表示された。
私は地上部隊の密集している地点へ向けてゆっくり旋回しつつ、速度を落としていく。
『ライラプス2、爆弾投下!』
静音は既に爆弾を投下して上昇し、次の地点へ向かっている。私も遅れをとらないように敵の密集地点へ爆弾を2発投下して離脱。
一方で朝奈もミサイルで散開した敵の戦闘車両を攻撃しているのが見える。
『レッドプラム、2両撃破』
これで大体1割程度。密集地点や敵車両はまだまだたくさん居て、時々対空攻撃を仕掛けてくる。
でも掠りもしない敵の攻撃に、私達は怯む事はなかった。
『この辺りの敵は一通り片付いたかな。次のポイントへ行こう』
「了解」
次のポイントは10キロメートルほど離れた海岸沿いの敵陣。ここは見晴らしがいい。
静音から絨毯爆撃の提案があり、私と静音で並行に編隊を組む。
『狙うはあの陣地。戦車もいるし、しっかり破壊しておかないと』
「戦車?」
そういえば、さっき静音が一回地上スレスレで飛んでいたっけ。その時に戦車を確認したらしい。
敵陣地と戦車を爆撃し終えると、地上では大きな火柱が上がっていた。
『これで海岸はよし。・・・ん、雷?』
『近くに雨雲は無いわよ。残りの地点も掃討しないと』
確かに分厚い雲はあるけど、それが雷雲には見えなかった。
とはいえ、天候急変の可能性は頭に入れて残りの敵を攻撃していこう。
「各機、残弾の報告を」
『こちらライラプス2、爆弾4発と機関砲960発』
『レッドプラムは爆弾とミサイルは残弾0。機関砲は512発』
私の残弾も爆弾は0。さっきの絨毯爆撃で全部投下して使い果たした。
残りの敵は静音の爆弾とみんなの機関砲での攻撃になる。
「残りの敵を片付けよう」
私達は空中から確認できる敵の陣地や車両へ攻撃を行い、作戦目標である6割の掃討が完了した。
輸送機は北東から来るとの事で、私達は編隊を組んで上空待機をする。
『レーダーに反応。アスタリカの空挺隊だ』
私のレーダーにも距離100キロメートルのところに反応があって、それが護衛目標の輸送機らしい。
やがて合流すると、一機の搭乗員が手を振っている。
『アスタリカのC-17だ。初めて見た・・・』
『今はそんな場合じゃないでしょ』
そんなやり取りが無線を通じて聞こえてくるさなか、私はさっきの輸送機の搭乗員に手を振り返していた。
なんだかちょっと面白いかも。
『そうは言われても・・・』
とその時、空が鈍く光った。辺りを見渡してもやっぱり雨雲は無い。
『なんだ、また空が光った』
次の瞬間には、輸送機の2機がいきなり火を噴いて落ちていく。
レーダーを見ても敵機の反応も、ミサイルの反応も何も無い。
「ストラトアイ、何が起きてるの!状況は!」
『待て!こっちも状況が掴めん!』
輸送機は散り散りになり、必死に逃げようとしている。けどそんな輸送機を、また正体不明な攻撃が襲った。
今度は3機が墜ちていって、誰も脱出できない。翼を折られた機体はきりもみ状態で墜ちていく。
よく見れば、急な破損の直前にその機体の一部が発光している。
『AWACS、状況の入電はまだ!!?』
静音もかなり緊迫した様子で、朝奈も回避機動を取りつつ隙を減らしている。
私でさえ冷や汗をかきつつ二人に合わせて回避をしていた。
『来た!状況、敵のスヴェート級戦艦による長距離攻撃!』
『どうすればいいの!上に逃げるか下に逃げるか!』
『1150フィート以下で北東へ逃げろ!可能な限り速く飛べ!!』
ストラトアイの言葉を頼りに私達は一斉に1150フィート、高度350メートル以下へ逃げ込んだ。
そして、一秒でも早くこの空域を出ないといけない。
『また誰か落ちた!誰が落ちた!』
『バルカン3だ!鈍重な輸送機で1150フィートを飛べなんて嘘だろ!?』
1機、また更に1機と落ちていく様子が無線から聞こえてくる。
後ろ髪を引かれる思いで私達は低空を時速1600キロメートル近くで逃げていく。
空域離脱まであと70キロメートル。もうじきだ。
『うわああぁぁぁぁっ!!!!!!!!!!!』
断末魔が聞こえた。
『シフィル、振り向かない!!』
静音に怒鳴られ、私は振り返ろうとしていたのを止めた。
助ける手段なんて何も無くて、ただ見過ごして逃げるしかなかった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
デブリーフィングで、作戦に参加した私達三人は沈黙している。
今回の作戦は失敗。山形奪還は後回しになり、扶桑空軍上層部の幹部が一人訪れた。
デブリーフィングに乱入するなり、怒りをあらわにして私達の前に座る。
「どういう事か説明してもらおうか」
「どういう事も何も、敵の長距離攻撃によって護衛対象は全て撃墜されました」
いきなり入ってきて説明を求めるという行動で、朝奈が明らかに敵意をむき出しにしている。
朝奈は結構感情を表に出しやすいタイプだから、軍人に向いてるとは言えない。そこは傭兵だからあまり重要視はされないけど。
「ならなぜ攻撃してくる敵を探さなかった?のこのこと逃げ延びて作戦は失敗。何人犠牲が出たと思ってる」
・・・どこにいるのかすらわからない敵を探せ?逃げ延びて?何人犠牲が出たか。
これじゃまるで私達が全て悪いみたいで、私は我慢できずに立ち上がって反論をした。
「いきなり入ってきて、状況だけを頼りに私達が悪いみたいな言い方はやめてくれませんか?」
「黙れ!お前達のせいで山形奪還作戦は白紙だ、どう責任を取ってくれるんだ!この傭兵どもが!」
想定外の事が起きて作戦が失敗して、控えていた作戦が白紙になったら私達の責任?
この人扶桑を奪還する気あるの?呆れた。
「・・・なら今後、私達は扶桑空軍の命令では飛びません。アスタリカ空軍第6飛行隊として活動します」
「えっ、ちょっとシフィル!?」
静音が驚いてるけど、あくまでも一時的な脅しに過ぎない。
これで本当に変わるかどうかわからないけど、ここは彼の判断に委ねるしかない。あとでストラトアイにアスタリカ空軍のお偉いさんにコンタクトとってもらおう。
私は激昂して罵倒してくる高官を無視しながら退出し、ストラトアイのもとへ。
「撃墜された輸送機の搭乗員達を助けたいって?」
ストラトアイのもとへ訪れた私は、心境を打ち明けた。
参謀でも司令でもない、一人の兵士でしかない私なりに考えた案を見せながら鉛筆で書き込んでいく。
「キミ達がスヴェート級戦艦を惹き付けつつ撃破作戦をし、その間にあの地点での救助任務か・・・」
「身勝手な事を言って本当に申し訳ありません。けど・・・あそこはまだ敵が残っています。そんな場所に迎えも無く放置される身にもなってください!」
本当に身勝手なお願いだと思う。でも、彼らにもまだ守りたいものもあるし、家族だっている。
彼らを助けずに放置したら、私は一生後悔する事になる。
「・・・衛星偵察の後に強行偵察、そして間髪いれず救助隊と突撃部隊か」
ストラトアイは私の案が書かれた紙を手に取ると、丁寧にカバンにしまってドアへ向かって歩き出す。
「キミ達の護衛もつけよう。中隊くらいがいいかい?」
「っ・・・!ありがとうございます!」
私はお礼を述べると、ストラトアイへ頭を下げた。
そういえば、ストラトアイってどこかで見たことあるような気がする。どこだっけ・・・。
結局思い出せないまま、また一日が過ぎていく。
私がベッドに仰向けになっていると、静音が私の横にうつ伏せになって話しかけてきた。
「由比ってさ、現代に好きな人いるんだよね?寂しいとか思わないの?」
「寂しい、か・・・」
言われると確かに寂しい気持ちもある。でも、私は今会えない気持ちよりも、この戦いで生き残って現代に戻り、そして会いたいという目標みたいなものがある。
だから寂しいけど寂しくないという、ちょっと複雑な心境ではある。
静音は更に私とライアーの馴れ初めについて知りたいと言い出し、なぜか私の髪を弄り始めた。
髪を弄られながらも42番隊の前隊長が脱走した事や初出撃の日の事を、当時の心境と今の心境を交えて語っていく。
「今思えば、ライアーがいなかったら私は今ここにいなかったかも」
「由比、結構むちゃくちゃに突っ込んでいく事多かったからね。自分を犠牲に誰かを生かそうとする自己犠牲の精神はダメだよ」
「静音だってあの時無茶したクセに・・・」
「・・・」
私と静音はなんだかんだで結構似ている部分が多い。だからこそ空であの連携が取れる。
思い返してみると、ライアーは・・・なんでだろう。似ている部分は殆どないのに。
なんていうか、背中合わせでいつも傍にいてくれる感じがあるからなのかな。安心していられるんだよね。
「おーい?由比?」
「あ。えっと・・・どうしたの?」
「どうしたのじゃなくて、そろそろ寝よって言ったのに聞いてないんだもん」
どうしよう。最近ライアーの事を考えていると周りが見えなくなってる気がする・・・。
もういいや。今日は早く寝てしまおう。
「ごめん。寝よっか」
「うんうん。じゃあおやすみ」
静音はいつの間にか用意していた自分の布団を被ると、そのまま目を瞑った。
おやすみ、と小さく呟き、私も目を瞑る。なんだかふわふわした感じがするけど、すぐに眠る事ができた。
気が付けば、私はいつかの夢で見たあの平原にいた。広い青空の下の、広い平原。
周りを見渡しても誰も・・・と思ったけど、一人の男性がいた。私はその男性へ声を掛けた。
「・・・ライアー」
私の呼びかけに気が付いたのか、ライアーはこちらに気が付いて歩き出した。
これは夢のはずなのに・・・なんだかすごい現実味があって、私は思わず走り出してライアーに近づいていく。
「由比、なんでこんな所に?」
「それは私も聞きたいよ。けど、今は・・・」
色々な事を聞きたい気持ちで一杯だけど、何から聞いていいかわからなくなった。
そんな私を見ていたライアーは、そうだなと言った後に私へ質問をしてくれた。
「お前は今どこにいるんだ?こっちは大騒ぎなんだ。機体ごとお前が消えて、アスタリカとリアストラが全力で捜索してる」
「な、何それ!?じゃあ私が居なくなってるって事!?」
「そういう事だ。ただ、俺や柿本、幸喜がストップを掛けてるから”まだ”大丈夫だ」
「そっか・・・」
私は落ち着きを取り戻す事が出来てからゆっくりと私の状況を説明していく。
いつの間にか1998年のアスタリカへ来ていた事や、ライラプス1となって静音、フィーラと共に戦場を飛んでいる事。
「そんな事ってあるんだな。で、どうだ?まだ生きてるか?」
「うん、まだ生きてるよ。ただ、パレンバンで飛んだ空よりもずっと怖いね・・・」
私はあの長距離攻撃の事を思い浮かべながら、苦笑いをしてみせた。
何かを察したライアーは、やれやれといった表情で私の頭に手を置いた。
「相棒、あの戦争はパイロット全体の技量が高い事で有名だ。気を抜いて落とされるなよ」
「わかってる。まだ現代へ戻れそうにないけど、ライアーも私がいない間に落とされないでね」
「ああ。フカの餌にはなりたくないからな」
まだまだ色々な話をしたいなと思っていたけど、お互いの身体が徐々に薄くなっている事に気が付いた。
「時間だ」
「うん。なんだか不思議な時間だったけど、また会えるといいね」
私は消えていくライアーを見て、とある事を思いついた。いっその事自分の気持ちを伝えよう。
少し勢いをつけて・・・思い切りライアーへ飛びついた。
つもりだった。
「・・・なんで」
せっかくの好機だったのに・・・。私は上体を起こして両手を前に突き出しているだけだった。
暗い自分の部屋と、薄緑色の自分の掛け布団。棚の上の時計と写真立て。横でぐっすりと寝ている静音。
私は悔しさを抑えきれず、乱暴に横になる。時刻はまだ3時半で、起床時間まで時間がある。
「・・・」
そのまま再び目を瞑り、私は残りの時間を起きずに寝て過ごす事に決めた。
なんだかどんどん現実離れしていってる気がする。でもいいや!書いてるの楽しいし!!
というわけで6話です。ゆいしずいいぞ!!




