第5話「空を彩る花々」
祭り当日の朝。私達が夜に開催される祭りに備えてる最中、緊急出動の要請が出た。
三沢へ接近する敵の奪還部隊を迎撃しろとの指示。でも、私達が出る必要は無かった。
青森県の扶桑海側を航行中の空母艦隊が迎撃に当たり、交戦中。状況は圧勝状態の連絡が数分後に入電。
「まあ、今日くらいは出撃は無しでもいいんじゃない?」
「そういうものなのかなぁ・・・」
私は少し納得がいかない部分もあったけど、静音に説得された。
ようするに敵はスズメバチの巣の近くを通っちゃったという事でなんとなく想像がついた。
そしてこの後基地の有事態勢は解除され、今日一日だけアスタリカ海兵隊の戦闘機隊が防空任務に就いてくれる。
そこでようやく一般開放の最終準備が整う。
「ああ、シフィルだっけか?ライラプスの隊長さん」
「あ、はい。どうしたんですか?」
食堂へ向かう途中でお父さんに呼び止められ、私は足を止めた。
なんだか少し戸惑っているようで、手には何か手紙のようなものが握られていた。
「今朝に由美から手紙貰ってさ・・・どう返事したらいいかちょっと悩んでんだ」
私はお父さんから手紙を渡され、じっくりと目を通した。
内容は今日の三沢解放祭へ一緒に参加しませんか?という、いわゆるデートのお誘いの手紙。
デートか・・・。もしライアーがこの時代に一緒に来てたら、私も誘ったのに・・・。
空でも陸でもいつも私を気にかけてくれていたあの声が聞きたくなってきた。
「・・・おい?」
この時代に来てもう数ヶ月経とうとしてるのに防空任務の日々で・・・。
確かに静音は強くて頼もしい2番機だけど、どちらかと言えば友達って感じ。
ライアーは私より歳も結構離れてて結構かっこいい部分もある。それに――。
「おい、戻って来い」
「あっ」
私はいつの間にかライアーの事で一杯になっていて、目の前のお父さんの事がすっかり見えなくなっていた。
でもそういう・・・こっち側の気持ちを考えたらぜひ一緒に行ってあげた方がこっちはとても嬉しい。
「由美さんの気持ちはすごいわかります。一緒に行ってあげた方がいいですね」
「だよなぁ・・・服装は浴衣の方がいいのか?」
服装は・・・中学校の時の事を思い出すと、普通の服でもいいし浴衣でも大丈夫だと思う。
それを伝えると、お父さんは浴衣を選択せずにお気入りの服を着ていくことにしたらしい。
私もお父さんはそういう服の方がかっこいいと感じてた。
「サンキュ。時間とらせたな」
「いえいえ、頑張ってください」
手紙を返しお父さんと軽く手を振って別れた私は、あまり使われる事のない音楽ホールへ足を運ぶ。
その途中で曲がり角から慌てた様子の朝奈が出てきて、避けきれずにぶつかってしまった。
「きゃっ!?」
「うわっ」
二人とも衝撃で尻餅をついてしまったところで、その後ろから静音と長倉さんがやってくる。
とても珍しい組み合わせだけど、朝奈が結構痛そうにしていた。
「朝奈、大丈夫?」
「痛ぁ・・・」
転んだ拍子に左手を痛めてしまったみたいで、涙目になって抑えている。
どう対処していいかわからず戸惑っている私に、静音が包帯と湿布を渡してくれた。
「戦時中だし、常に持っておくといいよ」
「基地内の病院行った方がいいんじゃないか?明日からは通常態勢に戻るし」
「そうね・・・」
応急処置をした後、当事者の私が病院へ付き添う事になった。
その道中で祭典に向けて準備を進める隊員達の姿を目にすると、朝奈は立ち止まってその様子を眺めていた。
「由比は、戦場を生き延びる為に何をしてきたの?」
戦場を生き延びる為に何をしてきたか。
「・・・仲間を見捨てた事もあるし、仲間だった人を撃った事だってある」
でもそんなの自慢できる事じゃない。もっと他に方法はあったかもしれない。
私はただ単に・・・人の屍を乗り越えてきているだけに過ぎない。
「朝奈、空戦は生ぬるい場所なんかじゃない。私達に任せたりして、地上でじっとし」
「嫌よ」
私の言葉の途中で朝奈は否定した。ハッと彼女の目を見ると、すごく強い覚悟をしている事が感じ取れた。
彼女を突き動かすモノは多分、悲惨な別世界の現代なんだろう。
「前も言った。私は最悪な未来を変える為にこの時代に来たのよ。それなのに戦わずに地上で見ていろって?」
静音も朝奈もどこか強さがあるのに、私だけまだまだ弱くて・・・過去を引き摺っている。
もっと強くならなきゃいけないのは私だ。
「それに友達が辛い思いしてるのに放っておけるもんですか」
「ふふっ、そうだよね。・・・朝奈、余計な事言ってごめん」
「ううん。由比は自分だけで抱えようとするから、もっと頼りなさいよ」
この数日でここまで見抜かれてるんだ・・・。朝奈って結構鋭いのかも。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「軽い捻挫だね。明後日には完治するはずだよ。一応湿布と塗り薬出しておこう」
診断の結果は軽い捻挫。私も朝奈もほっと一安心してハイタッチをした。
ちなみに費用は申請書を書いて出せば全てアスタリカ空軍が負担してくれるので、今のところ一文無しの朝奈でも大丈夫な待遇にはなっている。
処方薬を貰って外へ出たところで静音と智恵、そしてお母さんがこちらへ手を振りながら歩いてくるのが見えた。
「シフィルー、朝奈ー。ちょっと早いけどお昼食べに行こうよ」
腕時計に目をやると、11時半になっていた。確かに少し早いけど、お昼ご飯を食べてもいい時間。
私と朝奈は静音たちと合流し、ゆっくりと食堂へと歩いていく。
「ところで朝奈、診断結果どうだったの?」
「診断結果は軽い捻挫よ。心配してくれてありがとね」
「ん・・・?」
静音と朝奈が話している最中、私は建物の影に隠れた何かを視界に捉えた。
その建物との距離は10メートルほど。私達が数歩歩けば到達する距離。
「そっか、よかった。由比は怪我は無いの?」
「・・・あ、うん。怪我は無いよ」
あんまり怪しむのもどうかと思うけど、ここは慎重な判断をしたい。
不審者だったりしたら撃退しないといけないし、私は静音に耳打ちする事にした。
「静音、ちょっと」
「ん?どうしたの?」
静音が視線を進行方向から後ろにいる私へ向けた瞬間、さっきの何かが飛び出してきた。
その目標は私じゃなくて、静音とその側近の朝奈だった。
「静音、朝奈っ!!!」
咄嗟に叫んだけど遅かった。今は武器なんて持ち合わせていない。基地内の防衛に関しては警備兵がいるはず。
どこから侵入したのかわからないけど、今はそんなのどうでもいい!
「しまっ・・・!」
「何よコイツ!?」
朝奈は蹴飛ばされて、静音が捕らえられた。最悪だ・・・。
相手の格好からナールズの特殊部隊と識別できる。
『英語はわかるか?お前たちはいい子だ、頼むから大人しくしていろ』
静音の首筋にナイフを突きつけ、私達を威嚇する。こういう時、どうしたらいいのかわからない・・・。
何も出来ない・・・。このまま見過ごさないといけないのかな・・・。
『わかりました・・・』
私は英語でそう答えると、両手を挙げて抵抗しない事にした。
他の三人も私を見て両手を挙げて無抵抗の意思を示した。
『叫んだらお前たちを始末しないといけなくなる。そうだ、いい子だ・・・』
静音からナイフを離した後、右手でナイフを、左手で拳銃を構えて少しずつ離れた。
それでも私に何もできる事は無くて、少しずつ手が震えてきた。こんな状態で動けばすぐに撃たれるし、特殊部隊くらいの実力だと一瞬でこの場にいる5人は仕留められる。
『ちなみに聞くが、ライラプス小隊と霧乃宮はどこだ?』
その言葉を聞いた瞬間、私の思考が完全にフリーズした。
そっか、ナールズはこうやって私の両親と私を引き離したんだ。特殊部隊を送って、暗殺で有力な兵士を始末しておく方法。
知らないと返答をしたらどうなるんだろう。私達がライラプスである事を教えたらどうなるんだろう。
どっちも怖くて出来ない。ちらりと静音に視線を向けると、静音も恐怖心で震えていた。
「・・・っ」
空の傭兵として雇われて、空で戦果を挙げたところで、私達は地上ではちょっとだけ能力の高い少女でしかない。
例え拳銃を持っていたところで、完全に扱えるわけでもない。
恐怖心と無力感で立っている事さえ難しく感じてきた。このまま何もせずにいたら見逃してくれるだろうか。
「だ・・・誰か助けてよ・・・」
必死の思いで出せた言葉がそれだった。私はそのままその場に崩れ落ちるようにして座り込んでしまった。
立ち上がろうとしても立てない。完全に腰が抜けてしまっている。
『チッ・・・まあいい。この様子じゃしばらくは動けないだろう』
と、相手が武器をホルダーへしまって構えを解いた瞬間を狙って誰かがこちらへ走ってきた。
滲む視界には誰かが敵兵に殴りかかり、取っ組み合いになっている姿が映った。
「長倉のおっさん、頼むッ!!!」
「任せろミスト野郎!」
声からして長倉さんとお父さんの二人。直後に拳銃の発砲音が聞こえ、敵兵がその場に膝を着いて倒れた。
何が起きたかわからない私達へゆっくり歩み寄ってきてくれたのはお父さんで、長倉さんは敵兵をじっくり確認している。
「悪い、遅れた。全員怪我は無いな?」
まだ安心しきれずにいると、お父さんがそっと涙を拭いてくれた。
そのせいで余計に涙が出てきたけど、さすがに今は大泣きしたかった。それを察してくれたお父さんはハンカチを渡してくれた。
10分ほど大泣きした私は、更に数分後の警備兵の事情聴取に応じた。
どうやらお父さんと長倉さんが滑走路横のフェンスを焼き切って侵入する不審な兵士を目撃したらしい。
急いで追いかけたけど敵の足が速くて追いつけず、見失っていたところで私達を威嚇する姿を確認。そして隙を見て攻撃に入った。
航空戦の手法としては正しいけど、もっと早く助けて欲しかったのが本音。
「近くの陸軍にも警備を要請した方がよさそうだな。これじゃあ夜も安心して眠れん」
「司令に掛け合おう。あとアスタリカ陸軍の方も要請した方がいいかもしれん」
様々な対策案が出されていく中、私は何も出来なかった自分を悔やんでいた。
ちょっとした力でもいい。どんな時でもみんなを守れる力がほしい。
「由比・・・ごめん、私が察知できてたらあんな事にならなかったのに・・・」
「静音は悪くないって。・・・私に何か力があれば」
「由比・・・」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
そんな事件があった今日だけど、一応の対策が施されて祭典は無事に開始した。
大勢の人で賑わう中、私達は浴衣姿で祭典の人だかりに紛れる。
「弘幸さん遅れるってー」
「えぇー・・・最初から一緒に居たかったのに・・・」
しょぼくれるお母さんを励ましながら、私達は露店が並ぶ基地中央通りへやってきた。
家族連れやカップル、友達同士の人。色々な人が楽しそうにしている。
「由比は水あめどうする?二本ぐらい?」
「あ、私は三本で」
「じゃあ合計11本だね。ちょっと待っててー」
静音が水あめを買いに行った所で、パンフレットを開いてこの後のスケジュールを確認する。
19時から10分のトークショーがあって、その後19時15分から1時間にわたって花火の打ち上げ。
21時にイベントは終了し、21時半には完全退場。私達は基地の所属なので一時的に自室に戻るようになっている。
「あ、射的やってる」
智恵の指差した先で、見知った人物が営んでいる射的の露店を見つけた。
射的1回につき200円。ちょうどいい金額だし、静音が戻ってきたらやろう。
数分後、静音が戻ってきたところでその射的の露店へと寄り、私達は店主に声をかけた。
「お、シフィル達か。どうだ、やっていくか?」
「あ、是非」
「シフィル、自信あるの?」
「自信は無いけど、こういうの結構好きだよ」
私は長倉さんに200円を払うと、コルク玉を10個貰った。
1個あたり20円なのかな。その玉を詰めてコックを引こうとした時、智恵にストップをかけられた。
「シフィルさん、射的のコルク玉はコックを引いてからの方が威力が高いんですよ」
「えっ。そうなの?」
知らなかった。ちょっと試してみたら、確かにコックを引いてから玉を詰めた方が倒れやすかった。
「譲ちゃんよく知ってるな。もしかして通か?」
「そうですね。毎回祭で1000円ほど射的に使うので」
200円で10発で、1000円で50発発。ちょっと使いすぎじゃない?
朝奈はクスクスと笑ってるし、静音はちょっと引き気味。お母さんは水あめを美味しそうに食べている。
その光景で、私も思わず笑いがこみ上げてきた。
「ふふふっ、智恵使いすぎだよ。それ」
「そうですか?」
何はともあれ、残り6発。なんとしてでも景品の一つであるクマのぬいぐるみを当てたい。
色はクリームホワイトのふわふわしててかわいい顔のぬいぐるみ。とても欲しい・・・。
1発目、2発目は命中しなくて残り4発。すごい悔しいけど、どうやったら当たるんだろう。
「ぷふふっ。シフィル、すごい真剣な表情になってるよ」
「だって欲しいから」
「シフィルさん、ファイトです!」
なんだかまだ1回目なのに周りの人がすごい応援し始めて、すごく恥ずかしくなってきた。
早くこの場を去りたい気持ちもあるけど、当ててあのクマのぬいぐるみを・・・。
と思ってたら、智恵が横に並んで私の持ち手を補助してくれた。ほんの少し上向きに狙いをつけ、撃つ。
パンッ、と乾いた音と共に大きめの的に命中し、的が揺れる。倒れなかったけど、だいぶおしい。
「もうちょっと上ですね」
「上・・・こう?」
「はい。撃ってみてください」
智恵の補助を受けて2発目。的の真ん中くらいに命中して、後ろへ下がった。
あとちょっとなのに・・・。コックを引いて3発目を詰め、智恵の補助を・・・あれ。
「あとはシフィルさんだけで出来ると思います。がんばってください!」
「シフィル、がんば」
よし・・・あと1発。命中させてクマのぬいぐるみを獲得したい!
狙いを定め、真ん中より少しだけ上を狙って撃つ。すると、グラグラと揺れて・・・。
そして、やっと倒れた。
「やったぁっ!!!」
私は思わず声をあげて喜んだ。長倉さんにお礼を言うと、気にするなと言われる。
「しかし・・・。今日は危なかったな」
「・・・ええ。今日は助けてくれてありがとうございました」
私達5人は長倉さんへ頭を下げた後、露店を離れた。
次にやってきたのはチョコバナナの露店で、一人一本ずつ買って離れる。
ちょっと離れたところにあるベンチでゆっくり食べていると、涼しげな格好の男の人がやってきた。
「よう、待たせた。ナンパはされなかったか?」
「あっ、ヒロくん!大丈夫だったよ」
その男の人はお父さんで、お母さんは嬉しそうに駆け寄っていく。
二人とも昔はこんな感じだったんだ。なんかすごく羨ましく思える。
私は首に下げているペンダントを開くと、ライアーとの写真をじっと見つめた。
「ふふっ、由比も恋焦がれる女の子になったよね」
「っ!あんまり見ないでほしい・・・」
尻すぼみに言うと、静音はハイハイと返事をして姿勢を戻した。
でもどこか寂しげにしていて、私は思わず心配して声を掛けた。
「・・・静音は、私の事をどう思ってる?」
「私は別に。ただ単に由比が好きなだけだよ」
えっ?好き?
「好きって・・・えっと・・・」
「いっ!今の無しで!!たこ焼き買ってくる!!」
そのまま静音はたこ焼きの露店へ向かっていってしまった。
今の様子を見ていた朝奈は笑いを堪えているようで、震えながら俯いている。
「はー・・・あんたって面白い人よねー・・・」
ようやく顔を上げたと思えばそんな一言。
でも、言われてみれば静音って・・・結構そういう行動が多かった気がする。
「うーん・・・ねえ朝奈、女の子同士ってどうなの?」
「別にありなんじゃない?あ、戻ってきたわよ」
静音は片手にたこ焼きの入った袋をぶら下げ、気恥ずかしそうに横へ座った。
たこ焼きを貰った後、静音はすぐに立ち上がる。
「ありがと、静音」
「・・・別に」
「百合はいいから。ほら、もうじき花火始まるわよ」
私は腕時計を見た。時刻は19時08分。あと5分ちょっとで花火が始まる。
ここからだと満足に見られないので場所を移す事に。ちょうど基地関係者専用の観覧席があるらしく、私達はそこへ向かう。
その入り口へやってきたところで、私達はちょっとしたミスをしている事に気が付く。
「由比、あんた身分証持ってたっけ」
「あ。ごめん、持ってない!」
うっかりしていた。身分証が無いとなると、ここへ入る為に色々やらなきゃいけなくなってしまう。
書類を書かないといけないし、顔写真撮ったり指紋照会に・・・。
「まったく・・・ほら、入るわよ」
朝奈と静音が身分証を見せ、私達は無事に入る事ができた。
基地関係者用の観覧席はそこまで人は多くなくて、入り口からすぐのところへ腰掛ける。
すぐに花火が打ち上がり始め、夜空を綺麗に彩っていく。
「ねえ由比、戦闘機で上から見る花火ってどうなんだろう」
「花火って地上から見るからいいんじゃないの?それを戦闘機からって・・・」
話の合間にも何発も花火は打ち上げられ、音と共に綺麗に広がる。
打ち上げてる場所はよく見たら誘導路。明日の清掃とか大丈夫なのかなと気になったけど、それは司令が上手い事やってくれるはず。
私達はとにかく楽しまなきゃ。
「花火って夏にやるものだと思うけど、この時期の花火もなかなか素敵ね」
「うん。みんなが楽しめればそれでいいと思う」
「私、こんな規模の花火は初めてです」
私はさっき食べ残したたこ焼きを再び頂きながら、花火を見続ける。
・・・やっぱり、こういうイベントはライアーと一緒に見れたらとても素敵な日になるんじゃないかなって。
でも、彼は今はここにはいない。それが少し残念。
「朝奈、たこ焼き食べないの?」
「じゃあ頂くわね。ありがとう」
「智恵はー?」
「私は明日食べます。夜にたこ焼きはちょっと・・・」
綺麗だなーとか、すげえーと言う歓声が聞こえる中で、私達は黙って花火を見ていた。
何かしら思うところがあるのかな。私は・・・小さい頃に家の近くで見た花火を思い出す。
あの時見た花火が両親と見た最後の花火で、それ以降は花火なんて見なくなった。
この時代の両親と一緒に見るというのもあったかもしれないけど、抵抗感が大きい。
「私は・・・花火を見るのは10年ぶりなんだ」
「私はこれが人生初。私のいた現代じゃとてもできる情景じゃないもの」
「みんな苦労してるね・・・私は2年ぶりくらいだよ。友達と見に行った」
静音だって苦労してる癖に。ただ、それを言う気にはなれない。
少なくともこの3人は結構むちゃくちゃな道を歩んできてる。
だから・・・すぐに仲良くなれたのかもしれない。
「もう30分経ったんだ。残り10分は一斉に打ち上げるらしいよ」
静音がそんな情報を口にした。
パンフレットに目をやると、打ち上げ数は7000発と書いてある。
結構な数を打ち上げるのを知った私は、あらためて空を仰ぐ。
「そういえば、由美さん達は上手く行ってるかな」
「上手くやってるんじゃないかしら。あの二人すごく仲良いように見えるし」
上手く行ってくれないと、私が消える可能性もあるから困るよ・・・。
あと、今日の事件もあって二人の絆はより一層深くなったと思う。
今日のお父さん、すごくかっこよかったし。
「あと20分」
静音はよほどフィニッシュの花火を心待ちにしているのか、しきりに時間を気にしている。
まだたこ焼きも食べ終えてない私は、最後の一口を食べて口の周りを拭く。
そういえば、朝奈は・・・。
「って、食べるの早っ」
「そう?」
美味しそうに頬張っているけど、食べるペースが結構早い。
熱くないんだろうかと心配していると、たこ焼きの箱を差し出した。
「食べたいの?一個あげるわよ」
「あ、別にそういうわけじゃ・・・」
結局、私は朝奈のたこ焼きを一個貰った。
その一個だけなんだかとても美味しくて、思わず表情が緩む。
「ありがと、朝奈」
「どういたしまして」
高い頻度で打ち上がっていた花火は一旦終わり、いよいよ最後の10分間になった。
次々と空へ咲き乱れる花に、願いを込める人もいれば、次の作戦への覚悟を決める人もいる。
私は・・・一日でも早く扶桑へ平和が訪れる事を願った。私が空を駆けるのも、扶桑の平和の為だから。
「いやぁー・・・すごかったね」
「うん。現代でも開催されてるのかな」
「確かされてたよ。4月の24日」
そっか。20年経っても、扶桑解放への第一歩となったこの日は記念日なんだ。
中学の時、歴史はあんまり関心がなくて・・・どちらかと言えば普通の成績だった。
でも、当事者になった今は覚えないといけないのかな。頑張って覚えよう。
花火が終わると、私達は宿舎の入り口で別れた。
私はシャワーを浴びた後に静音と少しだけ話をして、それぞれ布団へ潜り込む。
なんだか今日が終わるのが惜しいけど、またこういう祭典ができるように祈った。
また明日から、戦いの日々。平和が訪れるその日まで、私達は戦い続ける。
それが私達の運命みたいなもの。
第5話はちょっと無理やりですが季節に合わせてみました。花火っていいですよね!!!!
次話も大体の話はできてるので、割とすぐに上げられるかと思います。是非お楽しみに。




