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群青の空へ  作者: 朝霧美雲
第二章 -The Sky Dominated by Aces in 1998-
23/135

第3話「白翼の悪魔と私」



最近、奇妙な出来事が起こりはじめた。思い返せば、何度かその出来事は起きていた。

けどこの時代に転移して、それがより回数を増していた。


「・・・まただ」


敵機襲来に対する迎撃任務の翌日。朝起きると、何枚かの白い羽が私の傍に落ちている。

それは触ると光となって空気中に溶けていくように消えた。

前にこの羽を見たのは・・・。現代にいて、私がこっちへ来る直前。

羽は、出撃回数を重ねる度に増えていた。そして、その羽が増えると私の空での動きも鋭くなっていた気がした。



――白翼の悪魔。



ふと、その言葉が脳裏に浮かんだ。

これは一体何なのか。そして、これが意味するものはなんだろう。

すっかり目が覚めた私は、格納庫へとやってきた。既に整備を終えた私の愛機がそこで眠っている。

青森奪還作戦参加まではあと2日。それまで各自訓練を重ねるように指示が出ていた。


でも、私は何もしなかった。出撃を重ねる度に体力は上がり、反射神経や判断力は鋭くなる。

そして・・・あの羽が増えていく。


「元は・・・・」


元々、垂直尾翼に描かれたあのマークは私が昔描いたもの。それを配備と同時に与えられた愛機の垂直尾翼へ描いてもらっただけ。

それなのに、今はそのマークが私の存在であるかのような出来事。

朝食を終えた後、私は静音にその事を話す事にした。静音なら何か知っているかもしれない。

静音は滑走路脇のベンチに座っていた。私が隣へ座ると、にこにこと笑顔になった。


「おはよう由比。珍しく早起きじゃん」


「うん。静音は朝起きて、自分の近くに白い羽が散らばっていたらどうする?」


「白い羽?」


「さあ?でもちょっと興味あるかも」


そう言うと、静音は立ち上がって走り去ってしまった。

私は資料室へ足を運んだ。ライラプスの時のように、何かしらの情報が出てくる事を期待していた。

だけど時間だけが過ぎていき、出撃合図もかかる事なく日が暮れた。

仕方が無く部屋に戻ると、雨音だけが部屋に響く。どうやら雨が降ってきたらしい。


「由比、いる?」


静音の声がして、ドアを軽く叩く音。私がドアを開けると、静音が一冊の本を持ってきていた。

埃にまみれた少し汚い本。だけど、その表紙には私の名前があった。


「霧乃宮・・・」


「・・・これはあくまでも架空の物語とされてる。でも、ペラペラとめくってたら気になる情報があってね」





◆   ◆   ◆   ◆   ◆




稀有な力を持つ霧乃宮家に女子おなごが生まれれば、空を統べ、世界は変わっていく。




◆   ◆   ◆   ◆   ◆




読み取れたのはそこだけだった。そこから先は滲んでいたり破れていたりで全く読めない。

静音はこの文書をつい先日見つけたらしい。航空機の雑誌や力学の教科書が積まれた中に、まるで知ってくれと言わんばかりに埃まみれだった。


「由比はそういう運命なのかもね。もしこれが本当なら、由比は私よりも強くなるって」


「架空の物語なんだから、私にはそこまでの力はないって。静音はほんと単純なんだから」


私は少し笑いながら言った。けど、もしもその力があれば・・・。

世界を統べるだけの能力があれば・・・私はいずれ自分で命を絶つと思う。

どうせ、どこかの国が戦力として欲して、また争いが起きるから。







翌朝。今日散らばっていた羽はあまり多くなく、誰かが来る前に全部触って消した。

静音と合流し、朝食を食べる。途中で私と同じ髪色の子が静音の横に座り、自己紹介が始まる。


「ボクはこの基地の教育課の岩木由美。いきなりごめんね」


ボク、教育課・・・・岩木由美・・・由美・・・。

そしてよく見れば、記憶の片隅にあるお母さんの顔が・・・一致した。してしまった。


「えっ、おっおかっ・・・じゃなくて、ええええぇぇっ!?」


「シフィルー、取り乱しすぎ。どうしたの?」


私のこの髪色ってお母さんの遺伝だった事もすっかり忘れていて、少し罪悪感を抱いた。

えっと、この場合って名前で呼ばないといけないよね・・・。

自己紹介も噛み噛みになり、私はとうとう机に突っ伏した。朝からなんて日だ・・・。


「二人ともよろしくね。それにしても青髪かぁ・・・。ボク自身以外で初めて見たかも」


それもそうだよ・・・お母さんの子なんだから・・・。

そう突っ込みを入れつつ、私は若いお母さんの顔をじっくり見る。

髪型も、目の形も、顔立ちも・・・。私はお父さんっ子だったけど、容姿は母にそっくりと言われていた記憶がある。


「あ、シフィルちゃんとフィーラちゃんだっけ。二人のその名前ってコードネームだよね?本名聞いてもいい?」


私と静音は顔を見合わせ、慌てて顔を横に振った。

どうやら静音も察してくれたらしく、私の耳元へ小声で話しかける。


「ねえ、あれって由比のお母さんじゃないの!?20年前ってちょうど私達の世代の親の世代だよね!?」


「その通りなんだって!多分あの人私の存在に大きく影響するから逆に怖くなってきた・・・」


絶対、空襲とか何かで重傷になったり亡くなったら私の存在が消える・・・。

待って、お父さんと離れても私の存在消えるし・・・どうしたらいいの!?


「ん?んん~・・・?」


当の本人は小首を傾げてこちらを不思議そうに見てるし・・・。

私は一旦落ち着きを取り戻したように装い、その場を後にした。


「あ」


そうだった。朝食全部食べ切ってなかった・・・。もういいや、どこかでケーキ買おう・・・。

司令の執務室で外出許可を貰うと、一人で近くのケーキ屋さんへとやってきた。

戦時下だというのにこの町のこの場所だけ平和な雰囲気があって、私は束の間の平和を楽しむ事にした。


「あんみつタルトと抹茶のロールケーキ一つずつお願いします」


ショーケースと数分間のにらめっこの後、私はその二つを注文した。

いつもなら洋菓子を頼むけど、たまには和風も食べたくなる。

2年ほど海外にいたし、この後は少し街を散歩してみようかな。静音も連れてくればよかったかも。


「・・・っ!」


抹茶のロールケーキを一口サイズに切って口へ運んだ瞬間、私の目がカッと見開いた。

本物は飲んだことないけど、まるで抹茶を頂いてるかのようにほろ苦さと甘さが口いっぱいに広がる。

これは・・・是非もう一個食べないと損な気がする。


「あの、抹茶ロールケーキをもう一個ください」


ここ数日の出撃のおかげで、所持金は山ほどある。あとは・・・。

抹茶ロールケーキを一切れと1ロール買い、一切れはじっくり味わって食べた。

あとはあんみつタルトを・・・。


「っ!おいひい・・・」


これもまたとてつもなく美味しくて、私はおかわりする為に立ち上がった。

しかし、予期せぬ出来事が起きた。


「ありがとうございました」


一人の男性客が去った後、あんみつタルトのあった場所は何も無かった。

私は思わずスプーンを落とし、愕然と肩を落とす。


「そんな・・・私のあんみつタルトが・・・」


かなりショッキングな出来事に、私は抹茶ロールケーキを片手に店を出た。








◆   ◆   ◆   ◆   ◆








「へえー、結構おいしいねこれ」


「この店ボクがよく行く和菓子屋さんだよ。この街でも有名なんだ」


帰ってきて早速、みんなでロールケーキを食べ進めていた。

静音にお母さんに、そして智恵。それぞれがおいしそうに食べているのを見ていると、私ももう一つ食べたくなってきた。

けどこれ以上食べたらカロリーを大きくオーバーしてしまう・・・。


「由比は食べないの?」


「バッ・・・!コードネーム!!!」


「あっ!」


また静音がやらかした。

恐る恐るお母さんを見ると、またもや首を傾げている。お願いだからこのまま理解しないでいてほしい・・・!

しかしお母さんは手をポンと叩くと、私をジッと見つめる。


「本名はゆいちゃんだね!よぉし、覚えた!」


「ふふふっ」


とうとう私の名前が周知されてしまった・・・。これも静音のせいだ!

私は報復措置として静音のロールケーキを半分くらいに切ると、一口で食べた。


「あああーーーーっ!!!!私の抹茶あぁぁぁ!?」


「もぐっ、ひふへふぁふぁふい!!」


静音が悪いと必死に言おうとしたら、食べてる途中だった為に聞き取れない言葉になった。


「由比ちゃん行儀悪いよ。ちゃんと食べてからお話ししなきゃ」


「シフィルさん、ちゃんと口の中のものを飲み込みましょう!」


智恵だけがシフィルと言ってくれた。ありがとう智恵・・・。

私は智恵を無言で優しく抱いて、頭を撫でてあげた。


「智恵・・・本当にありがとね・・・」





ロールケーキを食べ終えた私は、お母さんと二人だけの時間を作る事に成功した。

今いる場所は教育課の小さな会議室で、元は倉庫部屋だったのを急遽変更したらしい。


「で、ボクは元々――」


お母さんは元々は神奈川県出身で、神奈川の大学へ通う予定だった。

だけどナールズの電撃的侵攻により逃げるように疎開を繰り返して、北海道へ。

北海道へやってきたのはいいけど、どこの大学も既に定員は埋まり・・・。


「それで、たまたま千歳基地ここの新設された教育課を受けたら合格したんだ」


気になる偏差値はというと、京都大学教育科と同じ77。そういえば、お母さんはかなり頭がいいんだっけ。

そして補足。千歳基地ここの教育課は教員育成課の略で、結構綿密なカリキュラムが施されている。


「でもボク、ここに来て本当によかったと思う。ヒロくんと出会えたし」


お母さんは小さく嬉しそうに笑った。


「ヒロくんって・・・あ、えっと・・・」


私はお母さんと言いそうになったのをごまかしながら、その経緯を聞くことにした。

教育課の授業が終わった帰りに外出をしたところナンパをされたそうで、困っていたところをお父さんが助けるという小説でありがちな出会いだった。


「あとね、ヒロくんってすっごい大きな戦闘機に乗っててね!アスタリカの戦闘機なんだけど――」


お母さんは両手を思い切り広げて飛行機の形を作ると、事細かに説明してくれた。

やってる事はすごいなんていうか、天然なんだけど・・・・ところどころに頭の良さがすごい溢れ出てる。


「で、最近は撃墜数が27機になって、扶桑のトップエースだよ!すごいよね!」


27機・・・。私がパレンバン基地に配属されて1ヶ月が経った時の撃墜数だ。

平均で一日一機を落として、尚且つ生き残らないと達成できない。


「本当にすごいですね」


私は心の底からそう思った。私なんて恨みで飛んでいたのに・・・お父さんは何かを守る為に、この人を守る為に。



―誰が無様に撃墜されるって?俺には守りたい人がいるんだ。落とされてたまるかよ。



よく考えると、お父さんもお母さんもすごいな。自分の夢を叶えるために勉強したり、自分の守りたい人を守るために生き残ったり。

すごく・・・すごく誇らしくて、なんだか自然と笑みを浮かべてしまう。

そんな様子を見ていたお母さんは私をジッと見つめた後、私の胸元に手を伸ばした。


「これ、ウイングマークだよね。由比ちゃんも戦闘機に乗るの?」


真剣な表情で聞かれると、自分の親という事もあって答えられなかった。

でも、私は戦闘機に乗らなきゃいけない。乗って、守らなきゃいけないものがある。


「辛いよね、戦闘機乗りって。ヒロくん、どこかで悲しそうな表情するもん」


「でも・・・」


私が言いかけたところで、非常ベルが鳴った。この基地内での非常ベルは、敵機接近の合図。

すごく複雑な気分だった。自分の将来のお母さんの前で出撃をするなんて。


「由比ちゃん、行ってらっしゃい」


「っ・・・」


嫌だ・・・。行きたくないという気持ちが生まれ、私の足を止めた。

この出撃で撃墜されて、もし未帰還になったら、この人はどう思うだろうか。

そして、現代で私の帰りを待っているお母さんやお父さんは。


「大丈夫だよ。由比ちゃんならやれるって!ファイト!」


健気に応援してくれているこの人を見た瞬間、さっきまで浮かんでいた気持ちは少しだけど軽くなった。

私はお母さんに頭を下げてお礼をして格納庫へと急いだ。





F-15のエンジンを始動させ、甲高い始動音が辺りに響き渡る。隣の機体、ライラプス2搭乗機のコックピットには静音がいて、既に準備を終えていた。


『こちら管制塔タワー、ライラプス2へ離陸許可』


了解オーケー。ライラプス1へ、先に上がるよ!』


私はハンドサインで了解の意を伝え、準備を進めていく。

前方の滑走路にはAWACSストラトアイが離陸滑走を開始して、その後に静音が離陸をしていく。

私達のいる格納庫は滑走路へ直結されたいわゆる緊急用格納庫アラートハンガーで、エンジンを始動して離陸許可を貰えばすぐに離陸できる。


『ライラプス1、準備は整ったようだな。離陸を許可する』


私は先に離陸した静音を追いかけるようにスロットルレバーを思い切り前へ倒し、30秒ほどで空へと舞い上がった。

高揚力装置フラップ降着装置ランディングギアのレバーを操作して格納。同時に操縦桿を引いて一気に高度を上げていく。


目標ターゲットは距離350マイル、方位225。高度レベル7』


情報が伝えられ、その情報を元に機体の高度と方位を合わせていく。

途中で静音の機体が左斜め後ろにつき、二機編隊で向かう。


「迎撃に上がったのはたったの二機か」


『いや、三機だ。ようお譲ちゃん、北海道の空はどうだ?』


私達ライラプスの2機の横に、更に一機が加わった。でもこの声って・・・。

もしかしてお父さん?


「とても綺麗だけど、そんな景色を楽しめる余裕がほしいよ」


私は本音を打ち明けた。景色を見て楽しむ余裕がほしいけど、戦時下はそんな時間が少ない。

戦争たたかいが終わったら、ライアーと一緒に遊覧飛行とかしてみたいな。


『そうだな。早く片付けて遊覧飛行でもしようじゃないか』


「ええ」


会話が終わったところで別の機体からの無線が入る。この入電音はAWACSストラトアイだ。


『こちら空中管制機ストラトアイ。まもなく敵機ヤツらの識別圏内だ』


機体のレーダーに数十個の点が写り、私は敵味方識別装置を使った。判定は全て敵。

3機ではあるけど、こっちは数機分の実力がある。更に言えば静音は十機分の戦力とも言える。


『ストラトアイから各機、敵の数は12。全て戦闘機だ』


ストラトアイから敵機の数が知らされ、すぐさま戦闘に備えて散開するように指示をする。

クルっと横方向へ旋回し、私から離れていく二人の機影。


『制空権でも取りに来たんだろうが、生憎こっちもエース揃いだ。好き勝手は出来ん』


『シフィル、油断は禁物だよ!交戦開始エンゲージ


敵機との距離は一気に90キロにまで迫った。私は安全装置を解除し、中距離ミサイルを撃った。

遅れてミサイル警報が鳴り響くけど、まだ回避の必要は無い。


『ライラプス2、FOX3!』


『たった二機で爆撃隊を追い返した小隊チームの腕前、見せてもらうぞ』


お父さんはどうやら私達の噂を聞いているらしく、少し期待を込めた声色。

でも私も同じような気持ちだった。私のこの空戦能力の元となった人物の実力はどんなものだろう。


「そっちこそ、アスタリカにまで轟く霧乃宮の実力を見させて」


とはいえ、私も霧乃宮家の娘である故に少し恥ずかしくなり、顔を横に振った。

自分の苗字を他人のように言うのってすごい勇気がいるよ・・・。



結果として、中距離ミサイルは3発撃って2発のみ命中。撃墜は1機のみ。

二人の報告から、こちらの被弾は無し。撃墜は合計で4機で、お父さんが2機撃墜。


『ライラプス1、機関砲射程内ガンレンジ!』


敵機との距離は250メートルほど。機体の形状は・・・旧式のミグ21だ。

機体が小さいから少し当てにくいけど、一気に距離を詰めて・・・。


「距離180・・・」


180メートルの距離で、敵機が反転しようとした一瞬の隙を狙って機関砲を撃ち込む。

排気口から右翼にかけて命中し、黒い煙と共に炎に包まれていく。

すぐに私の右斜め下方からこっちへ旋回してくる敵機に狙いを定め、まずは回避。

機体を逆さにして操縦桿を思い切り引き、次に左へ旋回。敵機の位置は・・・真後ろ。

それでも、敵機の動きは私を追いかけるためにロールの動きを混ぜながらの旋回。だから今度は右へ傾けてからの急旋回。


「ふーっ・・・!」


後ろを見つつ旋回をしていると、敵の射線から私の機体は大きく外れていた。

続いて操縦桿を一気に引きながらラダーペダルを思い切り右に切り、操縦桿を右に切る。

がむしゃらな操作だけど、機体はグルグルと回転して失速していく。


敵機は・・・私を捉え続ける事が出来ずに追い越していった。

今だ!と出力を全開にして速度を回復させ、今度はこちらが背後を取った。近距離ミサイルを撃つと、避けきれずに命中。

これで2機目。


「っ!まただ・・・」


私は足元に白い羽が落ちている事に気が付き、混乱し始めていた。

とはいえ、先に敵機を撃墜しないといけない。確認と思考はその後。

残り数機の敵も、二人と協力して撃墜しなきゃいけない・・・。








◆   ◆   ◆   ◆   ◆







空戦は無事に全機撃墜で終わり、私は着陸後すぐに自分の部屋へ戻った。

あれは一体何なのか。霧乃宮家の運命に何か関係があるのだろうか。

空中での感覚も回数を重ねる事に鋭くなっているのは事実と言えるし・・・私の身に何が起きているか検討がつかない。


「由比、一緒にお風呂行こうよ」


「あ、うん。ちょっと待ってて」


「由美さんも誘ってくるねー」


暗い考えをしててもいい事は起きないし、お風呂に入って気分転換をしよう。

その後は三人でまた食事をしたり・・・あ、カラオケも行ってみたい。


「・・・なんだかんだで青春してるような気がする」


ここに友香やライアー、幸喜も混ぜてみんなで何かをしたい。

もしその願いが叶うのなら、平和が少しでも早く訪れるのであれば・・・。


「ううん。生き残らなきゃ」



― 生き残るぞ、相棒。



ふとライアーのあの声が脳裏に浮かび、私はいつの間にか微笑んでいた。

私の内に眠るこの力が何なのか、真相はわからない。でも、その力で誰かを守り、戦争を終わらせたい。




「さっき管制室にお邪魔して、由比ちゃん達の様子を見させてもらったよ!」


由美さん・・・お母さんは、何かすごい珍しいものを見たと言わんばかりにはしゃいでいた。

こうして見ると、お母さんって結構美人だなって思う。


「由美さん、結構美人ですよね。・・・胸も、結構あるし・・・」


なんで私には遺伝されなかったのか、すごく悔しい気持ちが沸いた。

どうすれば・・・。







「そういえば、こんな話を知ってる?」


突然のその言葉の後、私達はお母さんから興味を引く話を聞く事ができた。

大地と大海原、そして大空。その3つのそれぞれに関わる人々の心を掌握し、導いていく巫女の噂。

400年前には確かに存在していたらしいけど、今は不確かな情報しかないと。


「ヒロくん、その”大空の巫女”の末裔かもしれないって知っちゃったんだ」


「大空の巫女?」


「そう。掌握した後に何をしたかはまだわからないけど、面白い話だよね」


お母さんは楽しんでいるような表情を見せたあと、小さなため息をついた。

私には、悪い方向で使うか良い方法で使うかの二択が思い浮かんだけど、そこは巫女の意思によって分かれるのかも。

そして。


そのお父さんとお母さんの間に生まれた私は、大空の巫女の血筋という事になる。

人々の心を掌握する力って・・・そういえば、パレンバンにいた時も基地中の人からサインをねだられた事もあった。

それだけ強い影響力があるとすれば・・・ううん、不確かな情報だからまだ何も考えないでおこう。

とにかく、明日から色々と調べていってみよう。いずれ青森やその他の県に行くだろうし、この時代だから見つかるものもあるはず。


「ごめん、私先に上がってる」


二人へ言い残し、私は一番にお風呂から上がった。

基地内のゲームセンターへやってくると、お父さんがいた。

22年前のこの時代のお父さんはまだまだ若くて、ゲーセンで遊んでいる姿を見ていると・・・その。


「少し子供っぽいかな・・・」


そんな感想を抱いてしまった。

ちなみにプレイしているのは格闘ゲームで、他にもお父さんと対戦している友人らしき男性もいる。

あの輪の中に入っていく勇気は私に無くて・・・戸惑っていた。


「ゆーい、何してるのっ」


そんな時に限って、私の同期さんは後ろから普通に話しかけてくる。

悪い気はしないけど、それでも驚いて振り向いた。


「ちょっ、静音!しーっ!」


「どうせどうやって話しかけようか悩んでたんでしょ。こうやって入っていくの!」


静音は100円を数枚財布から取り出すと、それを握り締めてお父さんの隣の台へと座る。

そしてやっぱりお父さんと張り合うように対戦をし始め、私もいつしか観客の中へ混じっていた。


「ライラプスの2番機か!やるじゃねえか!」


「いいぞ!格ゲーチャンピオンのこのミスト野郎をぶっ倒せ!!」


「あぁ!?誰がミスト野郎だ!次お前対戦相手な!」


「ぷふっ・・・あはははっ」


お父さんは思いっきり挑発に乗っていて、思わず私は吹き出してしまう。

ミスト野郎はちょっとずるいって・・・私もミスト野郎になっちゃうし。


この後、私もちょっと対戦したんだけど、お父さんはすごく強くて・・・3敗2引分となった。

一回も勝てなかったけど、工夫を凝らして時間切れまで持ちこたえたり。

お父さんの性格、少しわかったかもしれない。かなり負けず嫌いで、空でもそうなんだなって。




私は、そんなお父さんの娘でよかったと思う。

第3話、投稿完了です。勘の良い方は何の影響を受けたかわかるはずです!


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