第1話「故郷への途次」(※R-15)
このお話にはR-15シーンが含まれます。苦手な方はブラウザバック推奨です。
長野への旅路の途中、少し高めのホテルへと泊まった。以前別のライバーの人から勧められたホテルで、値段以上に質がいいとの事。
無線も非常に繋がりやすく防音性も高い。まさしく配信にうってつけのホテルだ。
早速ノートパソコンを無線に繋ぎ、ディスコDというゲームチャットを起動して友香に通話をする。
『やっほー、到着したみたいだねー』
「うん。ライアーとは別室にしちゃったけど、配信の時以外は一緒にいる事にしてる」
眠そうな声の友香にそんな報告をする。ちなみに5日間の休暇中ではあるけど、配信が禁止されているわけではない。
友香への報告は数分で済ませ、次にVライバーの中でも稀有なフラシム勢のチャンネルを覗く。
そのチャンネルの1vs1というチャンネルに数人がいて、雑談飛行というチャンネルに10人ほど。
どちらに入ろうか悩んだ結果、1vs1のチャンネルに入る事にした。
『あ、空戦の達人来た』
『空奈さんこんばんわー』
「こんばんわ。今どんな感じ?」
他のライバーの人からの説明を受け、今は空戦訓練の最中という事を知らされる。
そして、このチャンネルは私を除いて男性しかいない。中にはバ美肉というボイチェンで女声に寄せている人もいる。
『いつも思うけど、空奈さんE型イーグルでよく皆さんに勝てますね。というか使い方完全にマスターしてるし発音とか本物みたいですね』
物珍しそうにそう言われ、私はどうやって言い訳をしようか悩んだ。使い方はともかく、発音に関しては実際に過去に飛んでいたから本物と言われても頷けてしまう。
多少加減をしているつもりではいるんだけど、自然とそれが出てしまう。いつか身バレしてしまわないか、とにかく心配だ。
「発音は元々英語が得意だったからかな。あとは覚えただけ」
そんな理由でごまかした。ごまかしきれているか怪しい部分もあるけど、現状それについて深堀りしてくる人はいない。
元々vライバーの大半は容姿に訳アリの人だ。私もその一人。
『そういえば空奈さん、今度WarRisingの大会出るんですよね?』
「もちろん。賞金150万貰えるんだから」
実はWarRisingというフライトシューティング/シミュレーターのe-sports大会に出場する予定。2vs2のドッグファイト大会であり、もう一人はもちろん決まっている。
私の生涯の相棒であるライアーだ。彼も今いわゆる野良で腕磨きをしている最中で、つい4日前に始めたばかりでありながら既に高ランクの機体を愛機にするまでになった。
一方で私はと言えば現れるとその試合の相手はみんな抜けていってしまう。なので別のアカウントを使ったりして手加減をしつつ楽しんでいるという状態。
『そりゃ世界ランカーが来たら試合にならなくなるから』
そもそも私がフライトシューティングやシミュレーターの界隈に本格的に来たのは現実世界で戦闘機に乗れなくなってしまったから。
以前は12Gまで意識を保っていられたのが7Gを超えたあたりで失神するようになってしまった。ようやく私も人間らしくなれたという嬉しさと同時に、少し虚しさを感じる。
そんな中で以前よりやっていたシミュなどを日常的にやるようになり、なおかつ同じ趣味のライバー達と巡り合った。そして本当の空中戦を生き抜いてきた勘は健在で、今でも世界トップレベルにあるらしい。
雑談を終えた私はライアーの部屋へと赴き、ベッドの上に寝転がった。いつの間にか1時間半が経過していて、その間ずっと喋っていたようだ。
なんだかんだでライバーとしてのトーク力は鍛えられている実感を得る事が出来てとても満足。だけどその間ライアーを待たせてしまった。
「由比、ちょっといいか?」
「何?」
「Night Flightでもしないか?」
こういう時ライアーが言うNight Flightとはいわゆるお誘いだ。けどここはそういうホテルじゃないし、軽めでと私は答えた。
〇 〇 〇
お互いの愛を軽くではあるけど確かめ合い、シャワールームを出る。勝敗で言えば私の負けだ。いつもそう。
地上ではライアーに色々な場面で勝つことが出来ない。いつか勝てると信じて挑んでも、結局はライアーが支配権を握る。
たまには勝たせてくれてもいいのに。大体そういう時に限ってライアーは執拗に私の弱い部分を狙ってくる。
それでも嬉しくはあるので、定期的にライアーと夜にそれをしたいという気持ちは強い。
着替えを済ませ、ほんの少し赤面しながら再びベッドへと寝転がる。さすがに疲れたし、明日には長野へ向かう事も考えてもう寝なければいけない。
時計の針は日付が変わって30分ほど経っていた。
「由比、8時には起きれそうか?」
「わからない。頑張ってみるけど」
軍属を離れもう数年が経過した今、ライバーの活動形態もあって以前よりも起きる時間は遅くなった。そんな私を心配してくれるライアーだ。
なるべく早く起きれるように頑張らなきゃと、目覚ましをセットして目を瞑る。
「じゃあ、おやすみ」
「うん。おやすみ」




