最終話「群青の空へ」
目覚めた時、私は再びあの世界にいた。真っ白い何もない空間。
それを見てすぐに察した。
私は死んでしまったんだと。
でもあの時と違うのは、目の前に人がいるという事。
それは見覚えのある人物だ。
「いやぁ、いい物を見せてもらったよ」
「いい物って…!」
私が食って掛かろうとした時、彼は手を前に差し出して違うと口にした。
「人類の本当の力はすごいね。そして、キミの意志も」
「私は守りたかった。私とライアーの未来を。ううん、この世界で生きる全ての人々の未来を」
私もライアーも、最初はこの世界なんてどうでもよかった。
だけど二人で過ごし、二人で飛び、二人で誰かを守る。そんな事をしているうちに。
「戦いを重ねるうちに、争いが絶えないこの世界で強く生きる人々がいるのを知った」
「誰かや何かを失っても、それでもなお諦めずに強く生きる人々。私はただ」
ただ、そんな人たちを救う為に。偶然に在った自身の能力を使って守りたかっただけ。
「そしてお前は死んだと」
「否定はしない。私は、この世界を守り切って死んだ。悔しいし悲しいし、けど」
それが運命なら、もう受け入れるしか選択肢は無い。
訪れてしまった運命に、私はその場に泣き崩れかけた。
「馬鹿げてるが、面白い。そうだな」
彼は私の眼前でしゃがむと、一つの提案をしてきた。
「お前に選択肢は無いが、お前の喜ぶ世界をプレゼントしよう。ただし」
その能力と引き換えに。それが彼の提案だった。
「ま、拒否権は無いけどな」
「うん。私が私として、人として生きられるのなら」
「おっと、面白い奴だな。普通の人間なら神として生きたかったと…そうだ、お前は神だったな」
私は少しだけ、彼を面白く感じた。
「最後に一つだけ聞きたいんだけど、あなたの名前は?」
「ナーア・イリーヴ。暗黒に仕えし神だ」
「どういう事?」
「さあな。時間だ」
彼が手のひらをこちらへ向けると、私の身体から青い光が意思と関係なく溢れ出てくる。
青い光は私の後ろに先の見えないトンネルを作り出したかと思えば、私をゆっくりと吸い込み始める。
「じゃあな。闇を破りし光の天空神」
それが、私がこの空間で聞いた最後の言葉だった。
降り続く雨の中、私は一つの社の前で手を合わせて祈りを捧げる。
あれから幾月かを経て、私とライアーは大勢に見守られて正式に結婚式を挙げる事が出来た。
今日はそれを報告し、同時に世界の平和を切に願う。
今も世界では小さいとはいえ紛争が数か国で起きている。自分たちの故郷を守る為に戦う者がいれば、お金の為に戦う者。自分の意思を貫く為に戦う者。
戦争とはそういう物だ。けど無くす為には、あの時のような外敵との大きすぎる戦いが必要。
神々と人間の、何も得られない戦い。
あの戦いと、それ以前の私の儀式。それだけが無かった事にされているのが今の私のいる世界。
とてもとてもと、繋げてしまうくらいには都合のいい現在。だから私は今も生き続けていて、世界の理も崩れていない。
おかげで今もVライバーを続けていて、別の意味で人々の為に活動している。
明後日はイナズキさんとのライブが予定されているから、この後みんなで東京へと旅行に行く。
そう、みんなで。
「由比ちゃん、そろそろ時間だよ!」
黒髪の由里さんが私を呼びに来た。続いてライアーと、静音や友香、朝奈に美羽など。
私にとってかけがえのない仲間たちが迎えに来てくれる。
今の私は空での超越した感覚や重力加速度への耐性を失ってしまった。代わりに得たのは明るい未来。
もう世界を背負う必要が無い。私はようやく普通の人間として、はちょっと無理だけど。
それでも、暗い過去があったからこその明るい未来。自分の犯した過去の罪を償う為に私は歌うんだ。
人々を笑顔にする為に立って、全力で歌う。それが私にできる全力の償いだ。
思えば長いようで短い、無かったようで実在する物語を私は経験した。
これを知っているのは私とライアーや、友香と静音と朝奈と幸喜とボリス、私の両親。
私の周りで戦った人だけ。それ以外の人にこの1年ほどの経過を聞いても、何も大きなことは無かったと口をそろえて言う。
気が付けば雲は消え、見渡す限りの綺麗な空が広がる。
世界の平穏と安寧が、本当の意味で訪れる時を願って。
私の想いよ、群青の空へ。
― F I N ―
この話を最後に、群青の空へは終わりとなります。
正直いつ終わるんだろうだとか、どんな結末で終わらせようだとか色々考えました。
途中で挫折だけは絶対にしたくないという思いと、コメントや応援の声を頂く事もあり、終わらせる事が出来ました。心より感謝します。本当にありがとうございました。
次回作は少しだけ日を置いて、執筆をしていきます。




