第22.5話「変えられぬもの」
ひたすらに続く真っ暗な森の中を歩いていた。空の見えない暗雲が立ち込め、まるで過去のあの暗闇の中のようだ。
いや。
これはきっと、私の過去だ。光を失った私に見えていた未来。どこまでも暗く、光なんて存在しなかった。
ずっとそう思っていた。そんな時に出会ったのが友香と、少し後にライアーと、幸喜。
そこから、私の見ている世界が急に明るくなった。急に光が差せば当然まぶしくて、同時に痛みも伴った。
私の戦う意味を見つけてくれた3人は、今もずっと近くで私の手を引いてくれる。
私は夜明け前にこっそりと抜け出し、海岸へとやってきた。あと少し経てば、きっとこの場所から日が昇るのを見られる。
昨日みんなに見せたあの姿から戻った直後に、手が透けている事を私だけが気付いていた。
きっと、多用と言える使用回数に達する前に私はこの世界から消えてしまう。
そして南極方面での戦いは私の能力を全て使い切る勢いでなければ勝てない。
結局、私は自分の運命を変える事は出来なかった。世界の為に自分の身を捧げるという運命。
けどそれでも、私は一秒でも長く生きて、みんなと共に。
そう考えていた時、後ろから来る足音に気が付いた。その音の方向を見れば、ライアーの姿がある。
「ライアー、どうしたの?」
「起きてみたら由比がいない事に気が付いてな。まあ、ここに来てるだろうとは思ったが」
ライアーは私の横に並ぶと、段々と赤く染まっていく空を見上げた。
「あんまり無理するなよ?お前の異常、全部見てたんだ」
「なっ」
昨日の私に起きた異変は、全てライアーに見られていた。なら、もうライアーに隠し事をする必要はない。
私はライアーに全て話すと、そっと抱きしめられた。
「俺は最後までお前を救う事を諦めない。だから、お前も最後の最後まで生きる事を諦めるな」
「うん」
「俺とお前なら、どんな状況だって乗り越えられるんだから」
「わかってる」
ライアーの温もりは私の悲しみを全て消し去るようで、ただただ安心するばかりだ。
やがて日が昇れば、見える世界が明るく輝いていく。
もしも願いが叶うなら、この記憶が消えないまま都合のいい世界に行けたらいいのに。
私は太陽に向けてそう祈った。叶わぬ願いだとはわかっていても、そう願ってしまった。
全てが輝く世界の中、世界で一番のライアーが私の手をそっと握ってくれる。
「ライアー、この世界はこんなにも輝けるんだよね」
「ああ。まだまだ希望がある。だから」
ライアーは再び私を抱くと、そっと囁いた。
「必ず生き残ろう。生きて、みんなの未来を見よう」
「うん」
「必ずだ」
「約束する」
絶対に生きて帰る。どんな事があっても。




