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群青の空へ  作者: 朝霧美雲
第4章 -Not over as long as I'm here.-
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第19話「望みが絶たれたわけじゃない」



目を覚まして身体を起こした時、私はいつもと様子が違う事に気が付く。

事務所のソファーではなく、病室のベッド。一瞬困惑したけど、すぐに記憶を辿る。

記憶が途切れる前に、私は正体不明の男に扶桑刀のようなもので刺された。でも、どうしてか死んではいない。


「そうだ、由比は!?」


辺りを見渡しても由比の姿は無い。こういう時、傍に居てくれるのが由比。

だけど今は姿は見当たらず。


「友香さん、由比は…」


入ってきたのは幸喜だ。由比はどうなったのかを言おうとして口を噤んだ。

いつもは見せる事のない、心の底から悔しそうな表情で対面へ座る幸喜。


「由比はどうなったの?」


私の問いに対して、幸喜はゆっくりと深呼吸をしてから答えてくれた。

恐らく私の望む事の無い答なのはわかっている。


「由比は黒い霧に染められた友香さんを救う為に」


よく見れば、幸喜もあちこちに打撲の跡があり、首元には絞められたような跡が残っている。

そして、由比は豹変してしまったと聞かされる。私を救う為に。


「そうなんだ」


「ごめん、友香さん。俺は由比を救えなかった」


幸喜は由比の現状について、更に詳しく話をしてくれた。

豹変し悪魔となった由比は扶桑の制空権を掌握し、岐阜県と滋賀県の境くらいの位置にいるという。


「でも由比は死んでない。だからまだ希望はあるよ」


私は諦めていない。あの時のように、由比の命が途絶えたわけではない。

とはいえ、状況を打開する為には情報が必要だ。フィルさんや静音、朝奈ちゃんがいればどうにかできるかもしれない。

由比が身を捧げる未来を変える事が出来たように、この現状もきっと変える事ができる。そう信じている。


「まずはみんなで集まらなきゃ」


「でも朝奈に伝えたら泣き崩れるんじゃ?」


そう。朝奈ちゃんは由比を失わない為に身を危険に晒しながら戦っていた。

でもそこは私が説得をするしかない。現状を伝えつつも、手段を考えていると。

それに、朝奈ちゃんは家系が霧乃宮家に大きく関わっているから何かを知っている可能性もあった。


「あとは由比の両親」


多方面への連絡をなるべく短時間で行う。私たちにとって由比はかけがえのない存在で、だからこそみんなで協力して手段を考えたい。

一番先に返答が来たのは朝奈だった。しかし私たちが予想していた結果とは裏腹に、意外と冷静に話が進んでいく。


『それで、資料をぜーんぶ持ってくから』


だから少し時間がかかると朝奈は言う。次に由比の両親。近くに住んでいる事もあって、私たちの元へ直接訪れた。


「扶桑の制空権が取られたのは知ってたが、まさか由比の仕業だとはな」


「もう、ヒロくんそんな事言ってる場合じゃないよ!地球の危機だよ!」


「わかってる。ただ、焦っても仕方ないだろ」


由比の両親は二人とも、現状を飲み込みつつも焦っている様子は無い。

後はハワイ島にいる静音とフィルさんへの連絡と、どうにかして合流をしたい。


「制空権が取られている以上、ここからハワイ島へ飛行機で行く事は無理だ」


「そうなると、ハワイ島への脱出手段は限られてきますね」


由比のお父さんは船舶での移動を考え始めた。

可能な限り上空を飛んでいる敵に見つからないように、隠密行動でハワイ島へと向かう。果たしてそれは可能なんだろうか。


「俺の権限を行使すれば、艦隊を通してハワイ島へと向かう事ができる」


だけど、それでは時間がかかってしまう。一秒でも早くみんなと合流し、ハワイ島へと向かわなければいけないのに。

他の方法を探す時間はあるのだろうか。


「なら、今は方法を考えよう。明日には朝奈も来るだろうから、その時には決まっているようにしたい」


「わかりました」


気が付けば夜になっていた。私はただ一人、異常気象とも言える雪の中で空を見上げた。

寒くて雪が降るのは当然といえば当然だ。でも雪雲はどこにも存在せず、空は晴れ渡っている。

とてつもなく不気味な現象に、背筋まで凍りそうな気持ちに。


「友香さん、中へ入ってた方がいいよ。今晩は冷えるから」


「そうだね」


幸喜に促されて中に入り、私は上着を脱いでハンガーにかけた。

そこにはつい昨日まで一緒にいた由比の上着があり、思わず手に取って眺める。


「何か手掛かりがあれば由比を救える」


朝奈が言っていた、由比を救う手立てのない未来じゃない。

だから絶対に諦めない。何としてでも由比を救いだす。




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