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群青の空へ  作者: 朝霧美雲
第4章 -Not over as long as I'm here.-
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第18話「終曲の序章」




このハワイ島に召集されなかったパイロットは、いずれも戦犯として収容されているか、または直前に戦死したかのどちらかだ。

静音と俺は、アレクサンドルの姿を見ない事について推測していた。


記録を探ってみれば、アレクサンドルと思わしき人物と交戦した記録は無い。ナールズ空軍側にも、出撃記録は無かった。

理由は静音が教えてくれて、20年前のあの戦争で歴史が変わった事が挙げられる。


「アレクサンドルは20年前の戦争でクーデター軍を指揮していた。連合軍がアレクサンドルを」


静音が資料を読み上げている途中で声を詰まらせた。俺がその資料を優しく取り上げ、その事実に俺も驚く。

どうやらブリタニアのSASによって射殺され、今や存在していない人物であった。

パレンバン基地の資料を当時の司令に電話で送ってもらうと、更に驚く事となる。

あの時由比を撃墜した人物は、ナールズの傭兵パイロットによるものとなっていた。


「過去の事は過去の事だ」


「そうだね。今は世界を救う方法を」


資料を丁寧にファイルした直後、全員にブリーフィングルームへ集まるように放送が入った。


「何だ?」


「行こう」


静音に促され、二人でブリーフィングルームへと急ぐ。

ブリーフィングルームでは既に司令が準備を進めていて、ただならぬ様子だ。


「それでは諸君、まだ準備は万全ではないかもしれないが、緊急事態につきブリーフィングを行う」


大型モニターに映し出されたのは、扶桑列島の地図だ。そこへ赤色でおおよその場所が指定される。


「つい数時間前、扶桑国に飛行型怪異の集団が出現した。従来であれば、50体程度までは扶桑空軍の戦力でも対応できた」


英語で様々な情報が書き加えられていく。見間違えていなければ、ただ1体の怪異によって扶桑空軍が壊滅的な状態とされている。


「何が起きているのか、全くもって不明だ。そこで、腕利きである諸君に今回の作戦をお願いしたい」


作戦内容は扶桑国の状況確認と、正体不明の対象の偵察及び殲滅。

戦力は2回に分けて送り、確実に撃破しようというのが目的だ。


「君たち二人は最後の砦だ。今回の作戦からは外させてもらう」


少し納得がいかないが、このハワイ島の防衛の為に残る事に。

このままブリーフィングルームにいても仕方がなく、まずは部屋へ戻る。


だけど、部屋へ戻ってすぐに異変が起きていた。飾られている写真の由比の部分に、どうしてか黒いインクを垂らしたような跡。

誰かが入った形跡もないのに、そんな状態。


「ティッシュで拭き取ろうとしても消えない」


「静音、由比と連絡は取れるか?」


静音はすぐにスマホを使い、由比への連絡を試みる。結果は期待を裏切り、音信不通だ。

周辺人物へ連絡を取ろうとするも、同様に連絡は取れず。


「何が起きてるか、こういう時こそSNSだよ」


「その手があったか」


ツブヤイターで扶桑国内の状況を検索すると、似たような動画がたくさん上がっていた。

一体の怪異と戦う多数の戦闘機の動画。いずれの動画も、最終的に全ての戦闘機が撃墜されている。


「これ、パイロットの腕が悪いんじゃない。この怪異が強いんだ」


静音は戦闘機の機動を見てすぐに俺にそう伝えた。確かに戦闘機の動きは悪くない。

だが、それ以上に戦闘機の動きを全て読んでいる一体の怪異がとてつもなく強い事が見て取れた。


「攻撃手段、これ何かわかる?」


「いや。少なくとも、機銃による攻撃ではないのは確かだ」


このままでは扶桑の制空権はたった一体の悪魔に掌握され、圧倒的に不利になってしまう。





ただただ時間だけが過ぎていく。このもどかしさの中、ようやく幸喜からの着信。

でもそれは俺たちにとって悲報を告げる為の連絡だった。


「どうした、何が起きた」


幸喜から告げられたのは、スタジオが黒装束の男に襲撃され、友香が攻撃対象になった事。

そして友香が操られ、それを助ける為に由比が原因を取り除いた事。


それによって、由比が怪異へと成り果てた事だった。

以前から由比が口にしていた「ストアリテール」という存在が脳裏によぎる。


『事務所にいたメンバーは全員無事。だけど』


由比はエースとして与えられた白翼の悪魔という名に変わらぬ容姿となったという。

完全な紫色となった髪に血を思わせる赤色の瞳、黒色の装束。悪魔のような外見とは裏腹に、純白の羽。


『ごめん、由比を助けられなかった。二度も』


スマホ越しに、幸喜が悔しそうに泣いているのが聞こえてくる。


「幸喜、二度とふざけた事を言うな。俺たちが由比を助けないで、誰が助けるんだよ」


俺は二度と由比を死なせないと誓った。だから、俺が必ず助け出す。




けど現実は非情だ。




再びブリーフィングルームへと呼び出された俺たちは、更なる緊急事態を告げられた。

扶桑を中心とした空域が完全に掌握されてしまった事と、南極方面に巨大な怪異が出現した事。



世界はまもなく終わるんだろうか。こんな嘘みたいな結末を迎えて。



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