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群青の空へ  作者: 朝霧美雲
第4章 -Not over as long as I'm here.-
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第17話「傍で飛ぶ者は」



ハワイ島 ヒッカム空軍基地



この空軍基地には腕利きのパイロットが集められているが、多くても20機の撃墜をしている程度の奴が殆どだ。

そんな中で一人、以前の戦争を含めて短期間で150機近くを撃墜した猛者がいると聞いた。


「まさかここで再開するとはな」


「キミは確か」


茶色の長い髪を後ろで束ねた少女は、由比や俺の事をよく知る人物だ。

この少女が世界でも有数のウルトラエースとも言えるパイロットである佐倉静音。


「実力は由比からも聞いている。以前の戦争で、着任からたったの数日で15機を撃墜したんだってな」


「飛行機というものをしっかりと理解して飛ばしてあげれば、それくらい」


「それが出来ないのが普通の人ってもんだ。空軍司令から、お前と飛ぶように指示が出てる。よろしく頼む」


「そっか。じゃあ相棒同盟だね」


お互いに握手を交わした後、俺たちの愛機が翼を休める格納庫へとやってきた。

アスタリカ空軍から贈与された旧式であり最新の戦闘機であるFー15X。相性はイーグルⅡ。

俺たち二人用に特別な改修が施されていて、本来後部座席にはシステム士官が乗る。


「でもC型がベースなんだね、この子達」


「他のイーグルⅡはE型ベースなんだけどな」


どうやら俺たちには制空専門としてC型をベースにした機体を寄越したらしい。

扱いなれているからむしろ大歓迎ではあるが。


「じゃあ、スクランブルがあるまでちょっとお話でもしようか」


「そうだな」


それから、俺と静音で互いの知っている由比について語り合った。

士官学校入学当時から静音が撃墜されるまでと、あちらの世界での由比に起きた出来事。

俺の知らない由比が、静音によって語られていく。


「途中から、由比は間違いなく私よりも早く飛ぶようになった。同じ空を、同じ思いで飛ぶ人達を守る為に」


「そうか」


色々な人たちから見ても、由比はやっぱり誰かを守る為に戦っているんだと語られる。

憎悪で飛んでいたあの時からずいぶんと成長した。




時々飛んでいく戦闘機を見ながら、俺たちは新たな基地を一周する。

アスタリカのF-15やF-22、F-35だけではない。ナールズのSu-57やブリタニアのタイフーン戦闘機も配備されていた。

つまり、全世界の戦力をこの基地に集結させているようだ。


「世界から腕利きが集められていると聞くが、静音はどう思う?」


「どう、ね」


そこそこやれる人達なんじゃないかと彼女は言う。彼女からすれば、1対1なら全員を落とせるんだろう。

それなら俺とやったらどうだ。面白い勝負になるんじゃないかと予想する。


「静音、少し面白い事をするか?」


「いいね、ちょうど私も同じ事を考えてたかもしれない」


先ほどまでの、直に成人する少女の姿はそこにはなかった。

そこにいたのは、猛禽類のように鋭く獲物を狙うエースパイロットがいた。


早速基地司令に許可を取ると、着々と準備を進めていく。勝利条件はただ一つだけ。

後方から機関砲による撃墜判定を出した方の勝利。


『どっちが2番機にふさわしいか、これで掛けよう』


「上等だ。叩き落してやる」


離陸してから数分。高度4000メートルの上空へ到達すると、お互いに離脱して距離を取る。

こうしてドッグファイト勝負をするのは由比と出会う前以来だ。正直、作戦に参加して敵機を落とすよりも緊張する。


『それじゃ、模擬戦開始エンゲージ!』


自機の真横を高速ですれ違う静音の機体。間髪入れずに最大推力にして機首を上げ、後上方を見れば静音も同様に機首を上げていた。

空中戦というのは基本的に速度と高度、双方のエネルギーを獲得した側が勝つと言っても過言ではない。特に同じ機体であれば、総合エネルギーの差がかなり重要だ。


お互いの実力は拮抗していて、勝負はつかず。シャワーを浴びた後はイーグルの点検をし、翼の上で反省会をする。

静音の動きは飛行機というものを熟知した上で、どこか猛禽類のような獰猛さを垣間見せていた。

例えば後ろを取れるタイミングで、あえて上昇して上方から攻めてきたり。


「パレンバンの鬼神、という渾名は伊達じゃないな」


「そういうライアーさんだって、冷静にコンパクトな動きの連続で、まるでプロボクサーみたいだった」


直後に、由比とは真逆の動きだと言われる。もしかしたら、由比にぴったりついていけるんじゃないかとも。

言われてみれば、由比は高速度で機体を旋回させ、高い重力加速度の掛かる飛び方をしていた。


「由比のあの飛び方から、なんて言われてたか知ってる?」


「アレだろ?」



白翼の悪魔。



それが由比に付けられた渾名だった。それも、20年前の戦争の時からだ。

時代を超えて由比にその名が付けられたのは、果たして偶然なんだろうか。そう考えると、少し奇妙にも思える。


「静音、由比の渾名が20年前と今も同じって、偶然だと思うか?」


「さあ?よくある事じゃない?」


畏怖と敬意を込めて、昔の大戦で活躍したエースと同じ渾名が付けられる事は稀にある。

由比に関しても恐らくはそういう事だと、半ば無理やり自分を納得させた。


夕飯の時間になり、俺は与えられた自身の部屋へ静音を案内した。

入ってすぐ、静音は2機のイーグルの前に並んだ俺と由比のツーショットの写真を手に取って眺める。


「由比も同じのを持っていたよ、過去に行った時に」


一瞬だけ悲しげな表情を見せたように見えたけど、すぐに静音は微笑んでいた。

夕食は基地内のレストランで摂る事に決め、静音と行動をする。

俺は相変わらずカルボナーラとコーヒーを注文し、メニュー表を静音へと渡す。


「本当にカルボナーラとコーヒーを注文するんだ」


「悪いか?」


「ううん、由比が言ってたんだ。ライアーはカルボナーラとコーヒーがメインだって」


どうやら由比を通して俺の食生活がバレていたようだ。弊害は無いが。

静音が注文したのは、イチゴタルトパフェとストレートティーだ。その注文の仕方はどこか見覚えがあった。


「由比だったら、たぶんこんな感じで注文するよね」


「だろうな。けど、静音は食えるのか?」


「たぶん大丈夫」


由比は炭水化物をあまり摂らず、どちらかと言えばデザートを口にする事が多い。

もう少し食生活を見直した方がいいんじゃないかと、静音を通して考える。


「お待たせいたしました。イチゴタルトパフェとストレートティー、カルボナーラとコーヒーでございます」


料理が運ばれてくると、かなり素材にこだわっている店だと知った。よく見ればメニュー表にもかなり大きな具が使われている。

食べてみれば風味もよく、基地の食堂にしては上出来だ。




食事を終えて基地内を散歩していると、一人の兵士とすれ違った。


「なあ、そこのお嬢ちゃん」


「ん?」


「あんた、20年くらい前にこの基地でバスケやっただろ」


「やったよ」


どうやら、静音を知っている人物らしい。でも、彼は50を過ぎた熟練兵だ。

それに対して静音は由比と同い年の19歳。関わりを持つには難しい年齢差。


「懐かしいな。年を取ってないように見えるけど、どんなマジックを使った?」


「タイムリープをね」


「おい、冗談だろ?」


親しげに話をする様子を見てると、こっちも面白くなってくる。


「って言いたいけど、神様だっているしな」


「そうだね」


神様という言葉を聞いた瞬間、静音の表情が曇った。手を振って別れた後にどうしてかを尋ねた。


「もし由比がいたら、もっと盛り上がったのに」


「ああ、そうだな」


由比には人を惹きつける能力がある。それはきっと、血筋から来るものだ。

だからこそ由比を大切にしたかった。由比には色々な人と出会って、色々な話をしてほしい。



もしも願いが叶うなら、そう願うだろう。



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