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群青の空へ  作者: 朝霧美雲
第4章 -Not over as long as I'm here.-
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第15話「二人の想い」



私は鏡の前に立っていた。空のような青色の髪に首元の羽のような形の痣。

完全に人間ではないという事を突き付けられたようで、自分の容姿を見てはため息をついてしまう。


そして、私の中に渦巻くこの感覚。破壊衝動と何かへの敵意。思い当たる原因は黒い霧をこの短期間で何度も自分の体内へと封じ込めた事によるものだ。

やめればいいのに、目の前で悲しむ人がいるのを放っておけない。この世界で私だけが助けることができるのに、それを放っておけるものか。


『本当にありがとうございましたッ!どうお礼をすれば・・・!』


つい昨日助けた女性の付き添いの男性に言われた言葉が脳裏によぎる。結婚指輪をしていた事から、夫婦だったのだろう。

神格化が無ければきっと助けることは出来なかった。


部屋に戻れば、いつものようにライアーがいる。

でもそれも今日までだ。これからしばらく、ライアーとは会えなくなる。


「ライアー、忘れ物は無い?」


「忘れ物、か。由比との日常だな」


そんな言葉をかけてくれるライアーは、先日再び傭兵として飛んでほしいとの要請が来た。

地上では人ならざる者への対策であるAISASとMIASの配備が一通り終わり、私たちの出番は降ろされた。代わりにそんな要請だ。

出発は今日の夜。どこへ行くのかと言えば、ハワイ島の空軍基地。かつて私が立ち寄った事のある場所。


「しばらくは戻ってこれないかもしれない。けど、必ず生きて帰る」


「信じて待ってるよ」


ライアーなら必ず生きて帰ってくる。なぜかと言えば、最高で最強の傭兵パイロットだと知っているから。

私の無茶な飛び方にも常に必ずぴったりと付いてきたライアーなら必ず。

寂しいし心配だし不安もある。けど、私は妻として夫の言葉を信じるしかない。




お昼を過ぎて、私は歌の配信を始めた。オリジナル曲や、最近覚えたばかりの曲。

色々な人に聞いてもらって、暗雲立ち込めるこの世界で少しでも希望が持てるような選曲をする。

登録者数は相変わらず16万人を突破しない。それでも私は歌い続ける。整備士さんたちの心の支えとなる為に。


「それでは、次。リリー・マルレーンを歌います」


隣で静かに私の配信を見守るライアーへ向けて、歌を歌う。

少しだけ歌詞を変えて。


『再びまた歩こう。あの門の下を』




配信が終わり静寂の最中、私はライアーの横へ座った。まだ昼間ではあるけど、それでも私はライアーを求めた。

ライアーを信じてはいる。でももし帰ってこなかったら?そんな不安がよぎってしまう。

それは20年前のあの日、目の前で長倉さんが散っていくのを目撃してしまったから。

長倉さんだけじゃない。帰ってこなかった人たちを見てきたからだ。



まだまだ冬だというのに、とても熱い。これまで保ってきた一線を越えて、私とライアーは互いを求めている。

後から思い出した時は顔から火が出そうなくらいになる事は間違いない。それでも私は。


ただただライアーの事が好きだ。この世界で一番に思っている。きっとライアーも同じだ。

最高の戦闘機乗りであり、最高の相棒であり、最高の旦那だ。





夜を迎えて、私は駅の前でライアーに今日最後の口付を交わした。

周りの人々は私たちを見ている。でもどうしてか恥ずかしくはない。見せつけるようにして、数十秒の時間が流れていく。


「次に帰ってくる時には勲章をたくさんプレゼントするよ」


「うん。待ってる」


「ありがとう、由比」


ライアーは最後に私へ一言残し、駅のホームへと歩いていく。


またな、と。

それを聞いて、私は思わず駆け出してライアーへ抱き着いた。


「どうした?」


「ライアー」


私も同じように、ライアーへと言葉をかける。


「またね」


「ああ」


再び二人で過ごす日々を取り戻すために、私も力を尽くそう。

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