第14話「喉元に突きつけられる不安」
『え、い、いやあああぁぁぁ!!』
その配信はそれを最後に途絶えた。とある配信者に何が起きたのか、誰もわからない。
恐怖に対する耐性がある人曰く、人ならざる者では無い何か別の存在が出現し始めていると。
「・・・由比は平気?」
「うん。神格化してからだけどね」
隣にいる朝奈は明らかに怯えている。イヤホンでその動画を再生すると、とても悍ましい音が聞こえた。
この地球に存在し得ないような音。普通の人が聞けば、恐らく恐怖で支配されかねない。
「ネジン、ク、ノ、コ、カタクハ、ツ」
「朝奈?」
動画を再生してから朝奈の様子が少し変だ。急にどこの国の言語かわからないもので言葉を唱えだした。
能力を使い様子を見ると、以前の私と同じように黒い何かが朝奈を支配している。
すぐにそれを能力で吸い出すと、ようやく朝奈は平常心を取り戻した。
「朝奈、大丈夫?」
「ごめん・・・ちょっと休ませて」
急激な精神負荷によって朝奈はかなり疲労しているようだ。
私は知り合い全員へ向けて関連していると思われる動画を見ないように注意喚起をする。
外へ出て先ほどの黒い霧を自分へ封印すると、異常なくらいゾクゾクとした感覚が走った。
これが何なのかは不明だ。だけど、自分にとって良薬なんじゃないかと思えた。もっと欲しいという欲さえ湧くほどだ。
「何だろう・・・これ」
誰かに見られる前に戻ろうとした時、フェンスの方から足音が聞こえた。
「由比、珍しいな。外にいるなんて」
「ライアー、おかえり」
私は平静を装いつつ、ライアーの元へ駆け寄る。
「ただいま」
ライアーと共に部屋へ戻り、回復した朝奈がライアーへ挨拶をした。
「ライアーさん、おかえりなさい」
「三島さんか。今日はどうしたんだ?」
今日はこの後お昼過ぎから声優の三島朝奈とVライバーの桜宮空奈の奈奈ラジオという企画をしていく。
以前から私のファンである整備士さんから名前少し似てるからとコラボを要望されていた。
今回はそれをラジオ配信として企画し、今後は色々なライバーや声優さんを招いていこうという友香の提案。
ラジオ配信は第1回という事で15分で終わってしまい、反省会を朝奈と一緒に行う。
私の企画力不足だとわかり、株式会社アップルランドのライバーのラジオ放送を参考にしながら次のラジオの為に勉強。
「じゃあ次はこれをこうして」
ちょっとずつコツが掴めてきたところで小休止を挟む。ツブヤイターを見ていると、先ほど朝奈と一緒に見た動画について注意喚起が行われている。
どうやら色々な人が精神的に傷を付けられ、様子がおかしくなってしまう事が多発しているみたい。
「緊急事態、か」
「どうしたの?」
「ううん。ちょっとね」
ラジオの企画をしている場合じゃなくなってきている。そう判断した私は、キリのいいところでライアーに動く事を伝えた。
変装をしてマンションを出ると、早速近くで反応がある事に気が付く。
小走りでその場所へ近づくにつれ、助けを呼ぶ声が聞こえてくる。どうやら重大な事が起きたようだ。
到着してみれば人が数名倒れていて、その横には救急へ連絡している様子の女性と声を掛けて起こそうとしている二人の女性。
何があったかと聞いたところ、動画を見ていたところ急に支離滅裂な言動を繰り返して倒れたという。
「待ってて。今助けるから」
幸い、まだ全身を蝕まれているわけではなかった。すぐに倒れている数名に能力を使い、一気にその原因を取り除く。
そのまま私の身体へ取り込み封印。とても心地がよくて、思わずその場に膝をつく。
「大丈夫ですか!?」
「だ、大丈夫・・・少し経てば直るから・・・」
言葉通り数分経過後に元通りになる。倒れていた人たちも少しずつ状態がよくなり、救急隊が到着する頃には意識が回復した。
私は女性たちが救急車の到着で目を離した隙を見逃さずに高く飛び上がり、近くの建物へ着地。
「これで大丈夫かな」
「大した事ない件でよかったな」
聞きなれたワードが聞こえ振り向けば、以前私の前から去ったボリスがいた。
「ボリス!戻ってきたの?」
「戻る気はない。それより、このままいけば取返しが付かなくなるぞ」
「取り返しが付かないって、どういう事?」
「自分の容姿を鏡で見てみな」
そう言い残してボリスは氷をピストンのように使って飛び去って行く。
「ただいま」
部屋へ戻ってくれば、朝奈とライアーが出迎えてくれた。でも、私を見て少し唖然としているようだった。
「由比、首のそれ何?」
「首?」
鏡を見たところ、私の首に薄っすらと羽の形の痣のようなものが出来ていた。
思わず唖然としてしまう。すぐに朝奈たちの方を振り返り、わからないと告げる。
「・・・隠した方がいいよね」
「そうね。あと原因の究明も」
私が次にやるべき事が決まった。おばあちゃんの家に行き、資料の探索。
朝奈も三島家の書物を全て調べてきてくれるらしい。ありがたい限りだ。
とはいえ、これから先の私の行く末はわからない。それが一番の不安要素だ。
何事も無い事を祈りたい。




