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群青の空へ  作者: 朝霧美雲
第4章 -Not over as long as I'm here.-
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第10話「平和の意味」





私の初配信は1月17日。この日初めて配信を行った。

1周年記念だというのに、何の祝い事も無いのは私の意向でそういう流れにした。

炎上もしてしまっていたし、何より疲れていた。


「それでも私がいいんだ」


それでも、この界隈は私を選ぶ。




私と友香、美羽、美咲、幸喜。この事務所のメンバー全員で一枚の封筒を見つめる。

送り主はバーチャルライバーというコンテンツの始祖とも言えるイナヅキというライバーからだった。


「ちなみに、私はイナヅキさんに憧れてライバーになったんだよ」


美羽がそう教えてくれる。そして気になる内容。それは彼女とのライブのお誘い。

当然、その場にいる誰もが驚愕を隠せなかった。

なにせVライバーの始祖であり登録者数は310万人とトップの実力。そんなお方からライブのお誘いが来た。

見向きもされていないと思っていたのに。


「由比、どうするの?」


友香からの質問に秒で答える。当然、お誘いを断るはずもない。


「やるよ!」


「そう言うと思った!すでに参加の方向で書類作ってた!」


「・・・参加しないって言ったらどうするつもりだったの?」


その質問をした瞬間に友香は私から目をそらし、別の話題にしようとする。


「そ、それはそうと!由比はこの後どうするの?」


「まだ未定。でも」


言いかけた時、私のスマホに着信。ライアーからであり、緊急連絡用の番号だった。

急いで応じると、どうやら人ならざる者が近くに出現したらしい。


「ごめん、緊急の出動要請。行ってくる」


ふと振り返れば、不安げな表情で見つめる友香。それもそのはずだ。

私は一度死んでいるのだから。


「大丈夫だよ、友香」


それでも友香は不安そうな表情を変えずにいた。





戦闘が完全に終わったのはそれから2時間後だった。

人ならざる者との闘いの後は必ずと言っていいほど虚しさが残る。


何の罪も無い人を救えなかった事。損壊や炎上している建物と、避難して誰もいなくなった街並み。

戦争の真っただ中にいる事を嫌でも認識してしまう。


一体いつになればこの戦いが終わり、平和な日々が訪れるのだろうか。

平和なんてものはただの理想でしかないのだろうか。


「相棒、考えたって始まらない。俺たちは常に誰かの為に戦うだけだ」


「・・・」




戦いは終わる事は無いんだろうか?





夕焼けで町が染まっていく中、私はただ一人作業をしていた。

能力を使い、町中に散らばる瓦礫を一か所に集める。せめて、人々が戻ってきた時に少しでも復興が早くできるように。


「由比、お腹空いただろ?携帯糧食レーションだ」


「ありがと」


今日は配信は出来そうにない。遠く離れた町での戦闘だった為に、帰るのは明日になるだろうから。

枯れ葉や新聞紙、乾燥した木材を使い火を起こす。ナールズにいた時と比べると少しだけ暖かい。

逆に言えばナールズが極寒の地であり、扶桑人にとっては慣れない環境だ。


携帯糧食レーションとは言ってもただの缶詰で、中身は茶碗一杯分くらいのとり飯とウインナーの缶詰。

不味くは無いけど、特別おいしいかと言えばそうでもない。それでも今の私にとっては涙が出るくらい特別なものだった。


食事を摂り終えてからは近くの家の倉庫にこっそり入り、そこで寝袋を使い寝る予定。

そうでもしないと風をしのげないからだとライアーは言う。


「風なら心配ないよ」


「・・・ああ、そうだったな。お前は」


私は元より半神で、風を操る事ができる。神格化した今は無制限に。

辺り一帯の風をぴたりと止ませた。それでも野営は少し不安の為、やはり倉庫へと入った。


「これで共犯だね」


「ははっ、明日の朝にはさっさと逃げないとな」


「うん」


避難指示は既に解除されている。だから、明日の夜明け前にはここを抜けて帰路につく。

私たちには帰る家があるから。


「由比、おやすみ」


「うん。おやすみなさい」


今日は少しだけ特別な夜だ。

そう考えながら、私はゆっくりと目を閉じた。

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