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群青の空へ  作者: 朝霧美雲
第4章 -Not over as long as I'm here.-
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第8話「一人じゃない」




「1、2、3、4」


掛け声に合わせて、私はダンスの練習に精を出していた。

どうやらこの体は能力を使っていない時はただの人間らしい。徐々に息が上がってくる。

それでも元軍人である故の、一般人から見たら底なしの体力。美咲さんは完全に息が上がっているのに、私は平然とダンスを続けている。


「はっ・・・はっ・・・空奈さんすごい・・・」


「わたあめも走り込みやってみる?」


美咲さんは首を思い切り横に振った。



世界は終焉へと向かっている。いろいろな界隈でそんな言葉が飛び交っている。

もちろんVライバー界隈も例外ではない。だけど、私は常々否定している。


「大丈夫。世界は終わらないから」


そう優しく、諭すように。ライバー活動の合間を縫って、私は世界各国で起きる異常現象の根絶や怪異との闘いを続けている。

どんなに大きな怪我をしても、神格特有の回復能力を使えば元通りになる。


「でもそれは体だけ・・・」


そう。体だけが元通りになる。

精神的なダメージというのは全く治らない。それどころか蓄積し、疲労の根源となっていく。

由里さんが時々辛そうに涙を流す理由がよく理解できる。本当に病んでしまいそうだ。


「はいストップ。由比、メンタルちぇーっく」


そういう時、友香が一番に見抜いて動いてくれる。いつも私のお姉さんを自称するけど、間違っていない。

本当に私の事を大切な妹として見てくれていて、助けてくれて。


「やっぱり友香にはごまかせないね・・・」


苦笑いしながら、近くの椅子へ腰かけた。

私のメンタルを落ち着かせた後に友香が話してくれたのは、最近の会社の置かれている状況だった。


「今の状況だと、由比も気づいてると思う。由比と美咲ちゃんと、講師を呼ぶ形態じゃ間に合わないの」


他にもライバー企業からスカウトが来てたり、合同ライブ、いくつかの案件が来ている。

でも間に合わない。間に合わせる事が出来ない。


「このままだと、・・・ごめん。事実を伝えるよ」


友香の口から紡がれたのは、私のライバーとしての限界だった。

今のチャンネル登録者数は15万人ほど。100万人までまだまだ遠すぎる。


「由比さん・・・」


「今考えられる選択肢は二つだけだった。ごめん、私が不甲斐ないから・・・」


一枚の紙を取り出した友香。手が少しだけ震えていて、とても辛そうにしている。


「大切なお知らせ・・・」


それは活動休止をするという内容が綴られた紙だ。

活動休止か、継続か。継続するとしても、このままだと何年も伸び悩む事になる。


「由比がこのまま活動を続けたいなら、これは破り捨ててデータも完全に削除するから」


私は活動を続けたい。でも、ライバー活動だけに専念するわけにはいかない。

みんなを守りたい。その為にいろいろな場所へと赴いて戦わなければいけない。


「由比の成長スピードはかなりのもの。だけど、ライバーはそれだけじゃダメなのはわかるよね」


バーチャルライバーというのは日々の配信だけではなく、案件にしっかりと応じて初めていろいろな方面へ認知される。

私の今の状態ではとてもいろいろな案件に対応するのは難しかった。


なら、答えは一つ。


「大丈夫だよ。友香」


悲しそうに俯いている友香へ、私は笑顔で答えた。


「今の状態じゃ無理なら、耐えて、それで壁を打ち破るしかない。私は何度も壁を、過酷な戦場を必死で生き抜いてきた」


だから大丈夫。


「この戦いを終わらせて、専念できるようにする」


だから今は待ってて。


「友香はそれまでしっかりサポートして」


ようやく友香は微笑み、活動休止の紙をびりびりに破いた。


「由比はまだ限界じゃないって事だね。ごめん、まだまだ由比の事わかってなかった」


由里さんの意志を継いで、しっかりとこの戦いに終止符を打つ。

そして人々の希望に、偶像になりたい。


「由比さん、私応援してますから!死なないで頑張ってください!」


「うん!一緒に頑張ろう!」


二人で手を合わせたところへ、友香と美羽が手を重ねる。


「一人じゃ高くて届かない場所なら、みんなでね」


美羽はそうして100万人を目指していた。


「友香さんも一人で抱え込まないでください。元有名ライバーがここにいるんですから!」


「そうだね。みんなでなら!」


私は一人じゃない。私と友香の二人だけじゃない。みんながいる。


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