第7話「甘い覚悟」
世界は刻々と状況が悪化していて、負の感情がいろいろな所に存在するのがわかる。
そしてそれは私の身近にも起きている。つい先日、友香のお母さんに不幸が降りかかった。
「私が止めなかったらもう・・・」
友香がふとしたきっかけで実家に戻った時、友香のお母さんが能力を使っているのを目撃した。
分類は氷で、あのまま使い続けていたら全身が氷に覆われ人ならざる者へと変貌していただろう。
目撃した瞬間に友香が叱り、何事かとやってきた父親に状況を説明。
どうにか人ならざる者になっていく事を防ぐ事が出来た。とはいえ、段々と私の身近にも迫ってきている。
もしかしたら私の友人である美羽にもそれが訪れるかもしれない。
配信を終えてスタジオを出てすぐ、ライアーから電話が掛かってくる。
数分間話をした後に能力を使って瞬間的に家に戻りドアを開けた。
「ただいま」
「おかえり」
どんなに状況が悪くても、私たちの住む部屋の中は平和だ。
それだけが私にとっての救いだ。これが無ければ私はきっと耐えることはできない。
「今日の夕飯は肉じゃがを作ろうと思う」
「そうか。手伝う事は?」
「じゃあジャガイモの皮むきとか」
「了解」
ライアーにそうお願いすると、快く引き受けてくれた。
私もライアーも料理は手慣れていて、気が付けば完成寸前まで来ていた。
「あとはしばらく煮込むだけ」
「だな」
ハイタッチを交わした後、二人でテレビの方を見る。いつになればこの状況が終わるのか。
テレビの画面には最近出現し始めた鳥のような怪異を扶桑空軍の戦闘機が撃墜している様子が映されている。
「由比?」
「何?」
「お前、目が赤いぞ」
目が赤いと聞いて、私は充血しているんだと考えた。でも違った。
鏡の前に来てみれば、目とは言っても瞳が赤く変わっていたんだ。それはすぐに青色に戻ったけど、これはいったい何だろうか。
知り得ている知識では判断できないし、今はもう由里さんはいない。
「・・・」
ライアーは不安げに私を見つめている。こんなにも不安そうにしているのは初めて見た。
だから私は精一杯、大丈夫だよと言ってライアーの頬にキスをする。
「落ち着いて、ライアー」
「わかってる。けど・・・」
「いいから。私は死なないよ、二度と」
「お前がそう言うなら」
私がキスをして、ライアーはようやく落ち着いた。それでもまだ、ライアーの不安な気持ちは消えていない。
神格になってからというもの、ライアーの感情がよくわかるようになった。本人には内緒にしているけども。
ライアーと夜の事々を終えてシャワーを浴びていると、外が少し騒がしい。
服を着て外へ出た時、警察官の一人が私へ駆け寄ってきた。
「すぐ家に戻ってください!近くにまだ」
そう私へ告げ終える事無く、警察官の胸から鋭い何かが突き出た。
数秒後には力無くその場に崩れ、シャツが赤く染まっていく。
「あ、こんな所に発見!」
警察官に何かを刺したのは、見覚えのある少女。私を殺した人物だ。
瞬間的に憎悪に支配されかけた時、私の髪飾りが青白く光る。
それによって私は理性の制御が可能な状態へと戻る事が出来た。
「今すぐ答えて。どうしてあなたは私を殺したの?」
「えっとね、君を神様にする為だよ!」
つまり、元から私の事をわかっていて目的は定まっていた。
「でもごめん!今は君に構っている暇はないよ!」
私は逃がすまいと彼女を強力な風で封じ込める。けど、その風を遮るかのように彼女を氷が包んだ。
「氷?!」
大体わかっていた。私へ会う事が少なくなっていた事で、彼に何かが起きていた事は。
「悪いな。ここでお前とは道を違えることになる」
「ボリス、どうして!」
彼は由里さんを慕っていたはずなのに。
「慕っていたから、だ。最後にこれだけ渡しておく」
ボリスは私に紙切れを渡して、それを利用して私の手を伝い全身を凍らせようとしてきた。
でも今の私は人間じゃない。すぐに能力を使って途中で止める。
「コイツはいずれ俺が処理する。手出しするなよ?」
「でも・・・!」
「大した事ない覚悟でやれる奴じゃない。下がってろ」
ボリスは私へ殺意の籠った目で私を睨む。そのまま彼女を回収して、どこかへと去っていく。
騒動を聞いて降りてきたライアーが私を見るなりMIASを使って変身する。
「何があった?」
「いろいろと」
私の表情を見て察したのか、ライアーは変身を解除した。
ボリスや由里さんが覚悟を決めて行動していたのに、私は甘いままだ。
「私は甘いよね」
「その甘さが人を救う事もある」
「・・・」
人を救えたことなんて。
ロックウェル姉妹も長倉さんも救えなかったのに。




