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群青の空へ  作者: 朝霧美雲
第4章 -Not over as long as I'm here.-
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第6話「罪と傷跡」






あの日の事件から1週間。私は一つだけ朝奈について疑問に思っている事を尋ねた。

少し前から自身の身の回りで不可解な事は起きていた。それの理由は恐らく。


「朝奈、もしやとは思うけど」


「何?」


「能力を使える限界が来てたりしない?」


もしも能力を使えていたら、私が死ぬ事だって朝奈が防ごうと何かしらの事が起きているはずだ。

でもそれが一切無かった。何事も知らぬかのように、朝奈と手を振って別れた。


私の問いに、朝奈は目を細めて涙目になりながら何も話さずにいた。

少し間を置いてから朝奈の身に起きている事を話し始める。


「私にも限界はあったみたい。由比を守る為にほんの少しの時間遡行を多用しているうちに、儀式を行う為の力を失った」


だから由比が死ぬ未来を防げなかったと、朝奈は力なくつぶやいた。


「前々から、由里さんに多用はしないようにって言われてたの」


それでも私が傷つくのを防ぐ為にいろいろな場面で能力を使っていた。それがこんな事態になるとも知らずに。

だけど私は何も言わない。何か言ったところで、この展開はどうしようもないから。


由里さんが生き返るわけでもない。私が人間に戻れるわけでもない。全ての結果は誰にもわからないのだから。


「神様ってすごいなっていうのはわかった。寝なくても全然動けるし、食べなくてもいい。飲まなくても大丈夫」


近くで起きている事だってすぐにわかる。今のところ人ならざる者の発生もない。

そして、能力も無限に使える。




ただそれだけだ。




由里さんを取り戻せるわけでもないし、クリスさんだって戻らない。

人の命を呼び戻すことは叶わない。そんな事が出来ればこの世界は成り立たなくなる。いわゆる理の崩壊だ。


朝奈と少し話をした後、私はおばあちゃんの家に朝奈と一緒にやってきた。


目的は掃除をする為。でも由美さんが手入れをしていた事もあって、そこまで汚くはなかった。

私と朝奈にとって私のおばあちゃんと由里さんが過ごしていたこの家は宝物だ。

由里さんがいたから霧乃宮家と三島家が繋がっていた。おばあちゃんがいたから両親が生まれ、私が生まれた。


私は能力を使い、風を起こしてこの家の埃を全て外へと出していく。


「由比、大丈夫?」


「全然大丈夫。むしろ使った方が調子がいいかも」




夜になり、私はスタジオへと歩いて向かっていた。あの時と同じように、人通りの少ない駅前。

その駅前で、今度は私と同じくらいの少年が目の前を塞ぐように立ちはだかる。だけど扶桑人では無く、ヨーロッパ系の顔立ちだ。


「お前、霧乃宮由比だよな」


「・・・誰?」


英語を話す彼は少しだけ震えていた。どうしてかと疑問に思った直後に腰のバッグから黒い鉄の塊を取り出す。

よく見ればそれは拳銃で、私へその銃口を向け睨んでいる。


「お前だよな、僕の親父を撃墜したのは!」


「・・・」


「親父の同僚が言っていた!白い羽が描かれた戦闘機に撃墜されたと!その戦闘機にお前が乗っているのを僕は突き止めた!」


これは復讐だと彼は涙交じりに叫ぶ。私は銃口へ迷いなく歩いていく。私がやっていたのはそういう事だ。

いつか来るんじゃないかと考えていた時が来たんだ。


「脅しなんかじゃない!僕はお前を殺しに来た!」


「わかってるよ。あなたには私を撃ち殺す義務がある。だけど」


だけど、義務があっても彼に私は殺せない。私が神格となったのも一つの理由だけど、もう一つ理由がある。


「ほら」


私は銃口を首元へ引っ張るように当てがった。あの時の私なら相手を迷いなく撃ち、自分へ銃口を向けて引き金を引いていた。

背負う物も失う物も何も無かったあの時は。

それから何分か経っても彼は引き金を引かずにいた。いや、引けずにいる。


「あなたにはまだ母親とか兄弟とか、大事な恋人とかはいる?」


「・・・本国に母と姉と、来月結婚する幼馴染の彼女がいる」


「そっか」


彼が引き金を引けない理由は、守りたい人がいるから。私みたいに地獄を知れる環境にいるわけではないから。


「例えば今私を殺した時、あなたは一生後悔してしまうと思う。だからこっち側へ来ないで」


「こっち側って」


「私もアスタリカの軍部に両親を殺されたと思って復讐をした。でも違った。両親は生きていた」


幸喜と出会った時、両親の存命を知った。その時私は自分の犯した罪の重さに耐えきれず、崩れかけた。

でもライアーや友香といった支えてくれる存在がいたからどうにか踏みとどまる事が出来た。


罪を償いきれないとわかっていながら、私は偶像となる道を選んだ。

人々を守りながら誰かの希望となって、少しでも償えるようにひたすらに道を歩んでいる。


「復讐をしちゃだめだなんて言わないよ」


「なんだよ・・・どうしてだよ・・・」


彼の父親は戻ってこない。私が犯した罪によって、奪ってしまったから。

私は泣き崩れる彼をそっと抱いて、頭を撫でて慰めていく。謝罪をしながら。


「ごめんね。本当にごめんね・・・」


大切な人を失い、彼の心には大きな傷跡ができている。

私が犯した過ちによって。





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