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群青の空へ  作者: 朝霧美雲
第4章 -Not over as long as I'm here.-
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第5話「近いようで遠い」


久しぶりの晴れの日。私は一人で駅前を歩いていた。

半年前と比べると出歩く人の量は大きく減り、すれ違う人の数も多くない。


時々来るRainや、ツブヤイターの多数の通知を処理しながらコンビニ前で止まってみた。

コンビニはそこそこ人がいるけど、以前のように人々の笑顔があるわけでは無い。とても悲しいように見える。


「どうしたのよ。浮かない顔をして」


「ううん。別に」


コンビニ前で止まったのは、朝奈と待ち合わせをしていたからだ。朝奈は最近、私と友香の事務所へ出入りする事が多くなった。

どうしてかと言えば、Vライバーに関しての知識を得る為の勉強。周りにVライバーが増えてきたからと、付き合い方を勉強している。

そんな朝奈を友香は歓迎し、しっかりと教育している。


「なんだか不思議よね。世界は異変にまみれているのに、私たちの周りは少しだけ穏やかって」


「みんなそうだと思う。少しだけ他人事で、時々他人事じゃない。そんな感じ」


実際私もMIASを使用しての要請が落ち着きつつあり、世界的な異変が遠のいたように思えた。

それにはちゃんとした理由がある。


数多の異変を経て、能力が与えられたからと使わないように政府や有識者、インフルエンサーが呼びかけ始めたから。

使う度に強まる能力は、使わなければ強まることは無い。そして、強まらなければ人ならざる者となる悲劇も起こる事は無い。


私もその情報を得てから、配信で時々呼びかけている。能力が与えられても落ち着いて、決して使わないように。

MIAS使用者から見れば、人ならざる者の発生が少なくなれば心を痛める事も無くなっていく。


「せっかく私も人気が出てきたのに、雑誌の取材とかキャンセルになっちゃって」


「そうなっちゃうと大変だよね」


「そういうあんたはどうなのよ。雑誌の取材とかはあるの?」


つい最近、私は雑誌の取材を受けた。ちょうど3日ほど前の事だ。

大人気だったVライバーの音羽イブキの意志を継いだ小さな事務所のライバーとして、どんな心境かを尋ねられたりした。


「オリジナルソングもだいぶ増えてきたし、今度CDデビューしようかなって」


「Vライバーってそういうところフットワーク軽いよね。私もなってみようかしら」


「でもライバー活動ってかなり大変だよ。コネがなきゃなかなか伸びるものも伸びないし」


特に私はイブキこと美羽がいなければ、ここまで来るのに何年掛かるかわからなかった。

でも半年ほどで登録者数10万人近くまで来る事が出来た。


少しだけ歌が上手で歌が大好きなだけの私は、他にあるとすればフライトシムだけ。

それ以外の事は特段上手というだけでも無くて、練習に練習を重ねても有名ライバーには勝てっこない。



コンビニで買い物を済ませた後、私と朝奈は小さな喫茶店へやってきた。

大き目のアップルケーキを頼む朝奈に対して、私は小さめなスフレタルトチーズケーキを注文。


「あの時は大変だったよね」


「あの時?」


あの時とは、20年前のあの時代で喫茶店を出た後に起きた交通事故。

朝奈が子供を庇い車に轢かれ、偶然近くにいた静音と共に救護をした事。

未だに克服できない血への恐怖で、一時はどうなる事かと思った事を朝奈へ話した。


「今思えば、子供を風で少し飛ばして回避すればよかったな」


「そんなものは後からいくらでも思いつくものよ。由比にとってはあれが当時の最善策だったんでしょ?」


「うん。あれ以外思いつかなかった」


そんな話をしているうちに空が曇りはじめ、私と朝奈は早々に食べ終えて席を立つ。

会計を済ませた後は少しだけ話をして、雨や降雪の前に帰ろうと手を振って帰り道に付いた。


交差点で信号が赤になり、私はふとスマホに目を移した。由里さんからメッセージが届いている事に気が付き、通知をタップする。

内容は短く簡潔だった。


「どういう事…?」


『由比ちゃん。今すぐ急いで逃げて』


そう書かれた文章は、正直意味のわからないものだった。どうしてそんな事を送ってきたのか。

考えている途中で私へ声を掛ける少女の姿が視界の端に映る。


「ねえ、君は何色が好き?ウチは――」




赤色。




それが私が聞き取れた最後の言葉だった。何が起きたかわからないまま、呼吸が浅くなっていく。

意識を保とうとしても成す術なんてない。手放すしか選択肢が無い。

最後には地面が近づいてくる事に抗う事さえ。

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