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第九夜 華道部室②


 背に腹は変えられない。こいつを成仏させ(ぶっとばさ)なくては、道は開けないのだ。

 

 確か、SMのSはサービスのSだ。サービスサービス……と無理やり心に念じながら、近くの机の上に足を組んで座る。畳に座っているこいつよりも高い場所を陣取った。

 

「ところで、あの忌々しいことりはどうしたの?」

「こ、ことり様は」

「様ァ?」

「こっ、忌々しいことりめは、しばらく姿を見ていないですっ」

「そう。ちゃんと答えられて、偉い子ね」

「はう……」

 

 威圧してからよく出来たと褒めたところ、とたんに身を震わせて顔を覆いだした。

 あぁ、塩をひと袋叩きつけてから走り去りたい。

 

 しかしそうか、ことりはここにはいないのか。

 

 この怪異の元凶が一人なのか複数なのかは分からないが、どちらにせよ大元はことりなのではないか? とうっすら思っているのだが。

 しかし、こいつは今のところ関係なさそうだ。 

 

「で、なんで貴方はそんな気持ちの悪い格好なわけ?」

「はっ! す、すみませんっ!」

 

 直視しないよう気をつけつつ、再度見た目について言及すると、慌てた御桜は着ていた制服のネクタイを抜いて首元に巻き付けて傷を隠し、口元の血をグイグイ拭った。

 なんか宴会中のオッサンみたいになったな、と思いつつ、かなり普通寄りになった姿に内心安堵する。

 

「後ろからワイヤーで首を絞められて殺されたのは覚えているのですが、他はさっぱり……」

「使えない子ね……」

 

 これみよがしにため息をつくと、御桜が勝手なことを言い出した。

 

「すみません、女王様!」

「……誰が、いつ、どこで、この私を勝手に女王様と呼ぶことを許したのかしら?」

「ひっ!」

 

 机から降り、畳にきちっと正座した御桜の頬をばちんと叩いてやる。

 

「私を女王様と呼びたいのなら、それ相応の行いをして、役に立つことを証明してからにして頂戴?」

「はっ……ははぁー!!」

 

 ばっと平伏す御桜。

 はぁ……。なんかもうドッと疲れた。

 

 この後もこんな感じのやり取りを嫌々ながら繰り返し、以下の情報を得た。

 

 まず、御桜が死んだのはこの華道部室。華道部部長の御桜は、ことりに呼び出されて長期休暇で封鎖された学園にこっそりとやって来たそうだ。

 そして、何者かに殺された。

 

 何故成仏できないのか? という点については、殺されたからでもなんでもなく、呆れるような内容が原因だった。

 

「ことりは確かに俺のことを犬として沢山使ってくれましたが、それだけでした。お仕置きやご褒美をおねだりしても、面倒がってか周りの目を気にしてか、全くしてくれなくて……」

 

 要するに、ことりのSMにはサービスの心が足りず、不満だったということらしい。それでも自分の本性を暴いてくれたのがことりだけだから、付き従っていたと。

 

 それに全力で「アホか!!」と頭突きしたところ、ありがとうございます!! と叫ばれた。

 

 ……とにかく、生きている時の事情については概ねそのような感じだった。

 そして死んで目覚めてからは、前々から優秀なご主人様候補であると考えていた私のことを思いながら、ここでぼんやりしていたらしい。

 

 はぁ……。繰り返すが、ほんと疲れる。何だかんだと逃げてきたが、もう十夜に会いたい。癒されたい。

 

 そんなことを考えつつ、興奮でぜえはぁしている御桜へと最後に手を差し出した。

 

「ご苦労さま。それじゃ、最後に一度だけ許してあげるわ。……貴方の望む呼び名で、私を呼びなさい」


 毅然として微笑みそう言ってやると、御桜は恍惚とした表情のまま恭しく私の手を取り、手の甲に軽く口付けた。

 そして顔を上げて、涙ぐんだ目で口を開いた。

 

「感謝します、俺の女王様……! ……これでもう、思い残すことはありません」

 

 そう言った御桜は、本来の気弱そうな顔でへにゃりと微笑んだ。

 そうして華道部室のドアをすっと指さしてから、ふわりと空気に溶けて消えていった。

 

「…………」

 

 私は思った。

 

 ――初手から、キャラ濃すぎだろ、と……。

  

ネタキャラ御桜君、成仏(笑)

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