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第十一夜 謎バリア


 視界が暗いオレンジ色に染まっている……と思ったのは一瞬で、光を透かした瞼をゆっくりと開けば、そこにはニコニコとしながらこちらに手を伸ばす十夜がいた。

 

「っておぉおおい!? こら、近づくな! しっ! しっ!」

「そ、そんな犬みたいな扱い……」

 

 ずざざっと身を引けば、捨て犬のようにしょぼくれる十夜。しかし今がまだ“昼”とはいえ、油断は禁物だ。こいつは前科一犯なのである。

 

「な、何しようとしてたの」

「そろそろ時間かなと思いまして。起こそうとしてただけですよぅ」

「あ、そか……ごめんね」


 そうだ、安全な“昼”のうちに十夜に見張りをしてもらいながら仮眠を取ったんだった。

 それを思い出して謝れば、十夜はいーえ、と言ってにっこり笑った。

 

「そろそろ夜になると思いますが、今日はどうしますか?」

「激しく行きたくないけど、華道部室の先に……行くしかないわね」


 げんなりしつつ、まず華道部室であった出来事を十夜に詳しく話す。

 

 御桜と出会ったこと、やはり夜は欲望に負けやすくなること、よりによって御桜はSMが願望だったこと……。

 そのくだりで十夜は爆笑して呼吸困難になったりしていたが、最後に御桜が出口を指さして消えたと伝えると「やはり、幽霊を退治することで道が拓けるようですね」と真剣な顔になった。

 ……その一秒後にはまた噴出したが。

 

「ふっふふ……普通、幽霊を成仏させる時ってもっとこう、人生相談に乗ってあげるとか、思い出の品を取ってきてあげるとかがセオリーですよね。なんでよりによって初っ端からSMなのか……ふふふっ」

「はぁ。リアルに鞭で打ってくれとか上に座ってくれとか、そういう行為を要求とか……そういうのじゃなかっただけマシかしらね……」

 

「そんなのさせませんよ」

 

 うぉ。

 

 にっこり笑いつつも冷たく硬い声で一刀両断した十夜。

 その声のまま「……触られたりしませんでした?」と聞いてきたが、手の甲にキスされたことを告げたらロクなことにならない予感しかしなかったため、お口チャックしておいた。

 

 

 さてさて、華道部顧問室前に来た。今はまだ“昼”である。

 この部屋の先に行く前に、試すべきことがある。

 

「十夜、どう?」

「そうですね……前みたいな威圧感は感じません」

 

 御桜がいた時は、十夜だけ謎バリアに阻まれて通ることが出来なかった顧問室。

 御桜が成仏した今ならいけるのでは?と思ったのだ。

 

 謎バリアが相当痛かったのか、十夜が恐る恐る手を伸ばす。

 その手がドアノブに触れる……が、何も起きなかった。

 それに顔を見合わせる。思わず歓声が出た。

 

「十夜!」

「はい……!!」

 

 ぐっと力を入れてノブを回せば、顧問室のドアはすんなりと開いて十夜を迎え入れた。

 

 つまり、この先の未知の領域も二人で行けるのだ!!


 それが嬉しくて手を取り合いきゃっきゃしていたのだが、一緒に喜んでいた十夜がハッとした顔で呟いた。

 

「……夜、どうしましょう?」

「…………あ」

 

 再び顔を見合わせる。

 

「……気合いでどうにかならない?」

「……ならない気がします……」

「……縛っておくとか……」

「幽霊ですし、たぶんすり抜けとか……」

 

 ぽりぽりと頬をかきながら苦笑いする十夜をどつきたくなるも、キリがないので我慢する。

 

 ホラー緩和に喜んじゃったけど、これ、十夜が入れない場所を早急に探さないといけないってことだ……。

 

 その事実にまたげんなりしつつ、ひとまず二人で急いで華道部室を抜けた。

 

  

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