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異世界で見つける家族の在り方  作者: Aruki2
一章 幸せの中の挑戦者
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8.魔力運用講座

 

「ランド君、本当に大丈夫ですか?」

「はい、急に泣いたりしちゃってすいません」


 俺の心が落ち着くにはあれから少しかかった。沈みかけていた夕日は完全に姿を消し、部屋の中にはシャンデリアのような家具から発せられる光が温かく広がっている。


 俺たちはネスキアの提案を二つ返事で受け入れ、一週間ほど大教会に滞在することになった。

 滞在するのは俺とセイラの二人。ボンドはベルーグでの仕事があるため一週間空けることはできず、仮眠を取って夜中のうちにベルーグに再び出発するらしい。

 きっと本当にかつかつのスケジュールの中、俺のために時間を作ってくれたんだろう。それだけにどうにかなる目処が立って本当に良かったと思う。


 セイラは俺たちが泊まることになっている部屋に荷物を持っていき、掃除や晩ご飯の準備をしてくれている。アンジェはセイラの手伝い。ボンドは少し名残惜しそうにも俺に頑張るよう言って仮眠に入り、その間に俺は魔力の治療を受けることになっているのだが。


「あの、僕の治療って、そんなに簡単にできるものなんですか?」

「えぇ、実際にすることはあまりないですよ。まぁ治療というより学習に近いですからね」

「学習……えっと、何か本を読んだりするんですか?」

「言葉のままの意味ではないですよ。実地を伴う学習ですから」


 ふふん、と得意げに笑みを浮かべるネスキアは再び俺に手を差し出すよう促してくる。それに俺もまた素直に応じる。ただ少し違うのは今回、俺は掌を上に向ける形になっていることだ。

 ネスキアは俺の手が動かないよう掴めば空いた手で懐から何か棒状のものを取り出した。あれは……万年筆?


「ランド君の症状を抑えることは実はそんなに難しくはありません。ようは勢いの強すぎる魔力の流れを抑えてやればいいのですから」

「……でも、それだと魔具自体使えなくなっちゃいませんか?」

「良い着眼点ですね。その通りです。でもそれだと意味がありません。だから抑えると言っても少しは流れる程度に、その上少しずつ操れる魔力の量が増えるよう抑える力は少しずつ減らすように……そうすればランド君も自然とみんなと同じように魔力も魔石も扱えるようになりますよ」

「じゃあ、ちゃんと魔力を使えるようになる目安が一週間くらいってことですか?」

「はい。こればかりは感覚で覚えてもらわないといけないので、どうしても時間はかかってしまいますね」


 話しながらネスキアは万年筆を宙でふらふらと揺らす。するとそのペン先の動きに合わせて宙には光りの線が描かれる。暗闇の中でペンライトを勢いよく動かした時に出る光の線のようだが、この万年筆の線は宙に残り続けている。あれも魔具なのだろう。


「そして魔力を抑えるための枷をつけるのに使うのがこの万年筆です。正しくは魔法で抑えつけますがね」


 意味を持たずに振られていたペン先がネスキアの意思に従って線を描き始める。宙に描かれていく曲線に直線。それらは時に触れあい、幾層にも重なり、複雑に絡み合っていく。

 そうやって描かれたのは一つの紋様。サイズ自体は子供の掌程度だが、その紋様には魔力が込められているのが分かる。初めて見ることになるが、きっとこれが魔方陣、術式なんだ。魔法についてほとんど知らない俺でもそう感じ取れるほどなのだから実際に込められている魔力量は凄まじい物なのだろう。


「術式のことは知っていますか?」

「母さんに一通りは聞きました。昔は魔法を使うのに魔石よりも術式が主流だったって」

「そうですね。ただ魔石の術式に刻まれていない魔法も多くありますから、それについては自前で術式を用意しなければなりません……さて、今からこの術式をランド君の体に刻みます。特に痛みなどはないと思いますが、もし何か体に変化があれば言ってください。」

「刻む……えっと、ということは僕の体にその術式が残り続けるんですか?」


 かっこいい魔方陣が体に刻まれている、と言えば中二心がくすぐられないでもないが、やっていることは焼き印と似たようなものだ。ボンドたちにせっかくもらったこの体に傷はあまり付けたくないのだが……


「大丈夫ですよ。刻むと言ってもそれは魔力的なものですから。洗っても取れたりはしませんが時間が経ち、魔力が弱まっていけば自然と消えてなくなります」

「そうですか……よかった」

「何か他に不安なことはありますか?」


 ネスキアの言葉に首を振って示す。それにネスキアは頷けば宙に浮いているその術式が万年筆の動きに合わせて、形を崩すことなくゆっくりと下りていき、俺の手首に触れた。

 触れた瞬間に激痛が走る、なんてことは起こらず。本当に何も感じない。万年筆のペン先が弱く俺の手首に当たっているが、もちろんその程度で痛みを感じるはずもない。

 術式は俺の肌に触れれば少しだけその光りを強くする。しかしそれも短い時間だ。すぐに光りは収まりそれと同時に俺の手首にぴったりとくっついた。

 それを見届けたネスキアは万年筆を俺から離して懐にしまい直した。


「これで終わりです」

「え……もうですか?」

「はい、終わりです。言ったでしょう? そこまで難しいものではないと……複雑な術式なので書き間違えたら少し面倒なことになっていましたが」


 おいちょっと待て。なんだその情報。

 ネスキアは声を小さくして最後にぽつりと呟いていたがばっちり聞こえてしまっている。術後に手術のリスクを伝える医者ほど怖いものはない。


「こほん。とは言っても私が今日何かするのはこれで終わりなだけであって、ランド君がしなくてはならないことはまだあります。これを見てください」


 そう言って今度は机の上に置いてあるものにかかっている布を取る。

 中から出てきたのは水晶玉のようなもの。サイズはサッカーボールほど。玉の中は先ほどまで出ていた夕焼けのような淡い赤色の靄がかかっている。それは玉の中心に近づけば近づくほど濃くなっているように見えた。


「これは高純度な魔石の原石です。属性は火、術式はまだ刻まれていないものですね。ランド君にはこれから一週間、決めた時間にこの魔石に魔力を流し込んでもらいます。目的は魔力の扱いに慣れてもらうことですね」

「そんなことして、また壊れたりしませんか?」


 高純度、原石、とかなんとか。前の世界でも高価なものによく付いてくる枕詞だ。ただでさえ魔石は高価なものなのに、そんなものを壊したりしたら大変なことになるんじゃないだろうか? 嫌だぞこの年で借金まみれの人生は。


「大丈夫ですよ。このサイズの魔石ならランド君の魔力も受入れることができますし、そもそもそういうことにならないように君の魔力に制限をかけさせてもらいましたしね」

「そう、ですか……僕ももう何も壊したくないですし」

「確かに他の人は大丈夫なのに自分がやったら壊れるというのはあまり心によくないですよね……術式の入っていない魔石、ということは魔力を込めても何も反応しない、ということですから、誤作動も絶対ありえません。安心して魔力を流してください」

「分かりました」


 俺がするべきことは本当にそれだけらしい。魔石の原石を持ち出すということができないため俺はここに滞在しなければならないらしい。なんでも教会の重要品なんだとか。そんな良いものを俺に使って良いのかと不安になったが。


「壊れるわけではないですし、使わないと宝の持ち腐れですからね」


 と簡単に言われてしまった。ネスキアは格好こそ聖職者なのだが、考えはかなり緩い気がする。それともこの世界の宗教はそれほどに自由度が高いものなのだろうか? 訳あり子持ちっぽいネスキアが教会でも高い位にいるのだから厳しいと言うことはないのかもしれない。


 取り扱いには十分注意すること、また魔力が切れるまで魔力を流し込んだりしないこと。その他教会で生活するに当たって気をつけることを教えてもらってネスキアによる魔力講座は終わりとなった。本格的に練習するのは明日からだそうだ。

 なので今日は晩ご飯を食べ、体を洗いすぐに布団に入る。教会のベッドだから固い物かと思っていたがそんなことはない。うちのベッドにも負けず劣らずの素晴らしい物だ。


 一週間後には俺も普通に魔力を使えるようになる……本当にこの世界に仲間入りだ。

 生活に使えるような小さな魔法くらいでいいから使えるようになりたい。と考えつつもせっかくだからもう少しすごい魔法を、いやもっとすごい魔法をと。希望が出てきた俺の思考は今までの緊張が嘘のように次々と欲が出てくる。

 最終的に過去に類を見ないほどの大魔法使いになった辺りで俺の意識は途切れ眠りに落ちる。

 その日の夜は、夢にまで魔法が出てくるほど浮かれていた俺だった。








「ん……ふぁぁ……」


 目が覚める。

 昨日は色々妄想したせいで寝付いたのはいつも寝る時間より2時間以上遅かったのに、起きる時間はいつもより1時間近く早い。なのに体の調子は快調だ。眠りの質が良かったということだろう……それくらい、魔力のことは俺にとってストレスになっていたのかもしれない。もしくは魔力の上達が楽しみで仕方がなかったか。うん、こっちだな。遠足が楽しみな子供か俺は。


 同じ部屋で寝ているセイラを起こさないよう静かに部屋を抜け出し、昨日の客間に向かう。

 魔石は昨日と同じ場所に置かれたままになっていた。この教会での生活を許されているとは言ってもあまり他の部屋には入ってほしくはないのだろう。

 まぁそれはこの教会の重要性を考えれば当然だ。特に気にしてはいない。


 さて、早速魔力の練習開始だ。

 とは言ってもすることは本当に少ない。魔石に触れてただ魔力を流し込むだけ。正常に流し込めていれば魔石が淡く発光するらしい。

 ネスキアには一回に行なう魔力を流し込む作業は10回くらいまでと言われている。それを越えると俺の魔力量では昨日のように魔力切れを起こしてしまうらしい。

 せっかく魔力の練習が出来るようになったのだからそんなこと気にせずどんどんやりたい。が、その気持ちはなんとか自制する。

 こういうのは経験として知っている。調子に乗れば間違いなく失敗する。伊達に合計21年生きていない。まぁ経験の割には昨日も魔力切れを起こしていたりするがそれはノーカンノーカン。


 と、言うわけでネスキアの言うとおりに魔石に魔力を流し込むことにする。

 昨日のように体全体で魔力の流れを感じるほどではなく、せいぜい指先で感じる程度に抑えながらだ。


「流れろ……」


 意図して口にしたわけではない。なんとなく(・・・・・)だ。だがその呟きと同時にぽつんと小さく滴が水面に落ちるような感覚を覚える。

 この感覚が魔力が魔石に流れ込んでいる感覚だと実感するには少し時間がかかった。だって、全然違う、今までと。

 今までは本当に体温の一部が持って行かれるような感覚だったのが、昨日の今日でこれだけ小さな感覚になっているんだ。最初は何かの勘違いかと疑ったくらいに流れ出る魔力量は少ない

 きっとネスキアに刻まれた術式のせいだ。これが流れ出る魔力を制限しているということなんだろう。だが、驚いた理由はそれだけじゃない。

 ぽぅ……と淡く魔石が発光していた。

 そう、本当は、これだけで良かったんだ。

 俺がいかに必要以上に魔力を流し込んでいたのかが分かる。たったこれだけ流し込めば魔石は反応してくれるんだ。


「燃費が悪い、なんてレベルじゃないな……」


 これだけ無駄に魔力を無理矢理流し込んでいれば魔具も壊れるというものだ。

 苦笑いを隠せないが、すぐにそれは歓喜の笑みに変わる。

 確信を得た。

 この練習を続ければ、俺は本当に魔力を使えるようになる。

 それが嬉しくて仕方がない。昨日からもうそればかりだ。でも本当なのだからこれも仕方がない。

 自分を律しつつ、もっと練習したい心そのままに俺は魔力の練習に没頭していった。






 魔力の練習をしつつ、教会での生活も進んでいく。

 朝一の魔力練習が終わればセイラ、ネスキア、アンジェの三人ももう起きていた。他に人がいないと言うことは住み込みは俺たち四人だけということだろう。

 朝食ももうできていてどうやら俺のことを待っていたらしい。まだ料理は冷めていなかったのでそれほど時間は経っていなかったようだが、それでも申し訳ないことをしてしまった。

 料理を前に手を組み神ライザースにお祈りをする。これは場所によって祈る相手が違う。場所によってその土地を守護している神様が違うからだ。ベルーグなら森神様にお祈りすることになる。

 元々一般的な日本人である俺にお祈りという習慣はあまり馴染みがなかったが、いただきますというかけ声が長くなったものだと考えればすぐに受入れられた。


 朝食には肉料理が出ていた。この時点でベルーグにいるときより豪華な食事なのだが、教会とかって精進料理じゃないのだろうか?


 日中はネスキアの手伝いで軽い物を運んだり花壇の草むしりをしたり昼食の調理を手伝ったりだ。やっていることがしょぼいのは俺が子供だからというのもあるが、無理矢理作った仕事だからという方が強いだろう。正直暇なのだ。

 びっくりするくらいにすることがない。合間に魔力練習はしているし他の合間にも魔法の妄想をしたりもしている。それでも時間が有り余ってしまう。この数年全力で生きることを念頭に置いてきたせいで暇な時間というものがものすごくやるせない。

 暇つぶしに教会探検をしようとしたらセイラに見つかり怒られた。ダメと言われたらやりたくなるお年頃なのだ許してください。


 そして夜は朝や昼と一緒でお祈りを済ませてから食事をいただく。作っているのはセイラとアンジェなのだが、あまり食べたことのない味付けの料理もあることから多分アンジェが作った物だろう4歳で料理ができるとはやりおる。それともこれも何かしらの魔具の力なのだろうか?


 寝る前にもう一度魔力練習をしてベッドに入る。結局今日は最後までネスキアは介入してこなかった。どうやら本当に術式を刻んで終わりのようだ。

 充実しているかと聞かれれば微妙。魔力に関してはこれ以上ないくらいに充実しているのだがそれ以外の部分が何もなさすぎて±0というところだ。もっと頑張れることを増やしたいのだが……明日は教会の本でも借りて暇な時間は熟読してみようか。






 次の日の朝。聖都に来て3日目。

 寝起きの俺にいきなり降りかかってきたのは妙な気だるさだ。

 なんかこう、疲れが抜けきっていないというか、気疲れのようなものが残っている。おかしい、昨日はあんなに快調だったのに。一日でこんなにも体調が変わる物だろうか?


 ここに来てしていることと言えば魔力練習だ。もしかしたら俺の魔力にまた何か……と不安になってネスキアに聞いてみると


「あぁ、それは術式の副作用みたいな物ですね」

「副作用、ですか……?」

「はい。その術式は魔力の動きを制限するものですから、魔力の回復にも支障をきたすんですよ」


 だからなぜそういうことを手術前に言わないんだ......

 そうツッコミたいのを堪え今はネスキアの言葉に頷いておく。


「とは言ってもこの副作用も術式が消えればなくなるものです。魔力運用も上達すればするほど使う魔力は減っていきますから、ランド君の一日の回復魔力量が半分くらい減ってもなんとか大丈夫です。これが理由で練習に問題が、なんてことはないですから安心して続けてください」

「あはは……心読まれました」

「だって分かりやすく顔に書いてありますしね。もっと練習したいよーって」


 読まれすぎて恥ずかしい……

 顔が赤くなっているのを自覚しつつ苦笑いする。それくらい魔力の練習が楽しいんだから仕方がない。


 担当医からのお墨付きを得たので、体の怠さは無視して魔力の練習をする。

 ネスキアは時間の経過と共に魔力を抑える術式の効力は弱まっていくと言っていたが、正直昨日と今日とで大きな違いは感じない。そんなすぐに上達するものでもないし、こんなものか。

 具体的にどれくらいの時間を空けて次の練習をしていいかは言われていない。なので体が楽になったら練習するという風に結構アバウトにしている。昨日の感覚だと楽になるまで2時間ほどだったためそれだけ時間が空く。


 その時間は読書に当てようと決めていたため、ネスキアにお願いして俺が読んでもいい本を貸し出してもらったのだが……これがまたでかい。大きめの辞書くらいありそうだ。装丁はまっさらで綺麗な白色。まさに聖なる本という感じだ。

 ネスキアは何を考えてこんな大層な物をあえてチョイスしたのだろう?


 もしかしたら何か意味があるのかもと考え少し期待して読み始めるが……中身も外見に見合った重厚量だ。一応使われている言語はもう理解できているため読むことはできる。だが内容がまったく頭に入ってこない。

 なんだか学校の教科書で勉強しようと思ったら大学院レベルの論文を持ってこられたような感覚だ。もう言葉の言い回しから意味が分からない。本当に何でネスキアはこんな大層な物をあえてチョイスしたんだ……


 ただ、そこで投げ出すのはそれはそれで悔しい。俺は数学の問題は分からなければ分かるまで粘るタイプだ。つまり解ける可能性があるなら悩み続けるタイプ。

 だからこの本も諦めない。理解できないとしてもせめて読み切ってやる。分からない単語などがあっても先を読んでいけばなんとなく意味が分かってくることだってあるもんだ。何事もネバーギブアップである。


「……」


 ぺら、ぺら。ページをめくる音がこの部屋を支配する。

 気持ちいいくらいに雑音がないせいか俺の集中力はどこまでも高まっていく。

 前の世界から集中力はある方だと自負していたが、よかった。それはこの体になってからでも変化はないらしい。


「……」

「……」

「……」

「……?」

「……っ!」


 迫り来る飽きやストレスを追い払いながら読書に没頭していると、背後から視線を感じた。

 なんとなくそちらを振り返ってみるとそこにはまた体を半分隠しているアンジュが。ちなみに今回は扉に半分隠れている。

 ……こうも露骨に怯えられるとさすがに辛いものがある。


「えっと……どうしたの? なにかあった?」

「……」


 なるべく怖がらせないよう落ち着いた優しげな声色で話しかけるが結果は芳しくない。

 アンジェはこちらを観察するような態度を変えてくれず、そのまま微妙に距離が空いた状態でのにらめっこみたいになる。いやこれはだるまさんが転んだ状態か。

 そもそも俺は人と仲良くなることに関しては絶望的なまでに下手なのだ。コミュ障発症者だ。もしもコミュニケーション能力があれば前世であんなことになっていない。

 生唾を飲み込みたくなるほどの緊張状態が続く中、先に折れたのはアンジェだった。


「ぁ、の……お昼、できました……」

「え……あ、うん」


 俺が返事をするよりも早くアンジェは顔を引っ込め廊下を走り去ってしまった。

 一週間とはいえせっかく一緒にいるのならアンジェともある程度仲良くなりたいのだが……それが中々上手くいかない。

 人見知り、という話だがあれはかなり重傷な気がする。

 アンジェ。ネスキアの娘。人見知り、無口、キレイ。

 アンジェに関する情報と言えばこれくらいだ。本当に何も知らない。

 そうだ、俺はアンジェのことは何も知らない。相手が人見知りというのであれば、こちらから行動しなければどうにもならないじゃないか。

 例えばアンジェの好きなことの話であれば聞いてくれるかもしれない。


「ちょっと頑張ってみるか……」


 ひいては俺のコミュニケーション能力向上のため、この大教会での一週間をより楽しいものにするため。

 アンジェと仲良くなってみよう。

 この大教会に来てから次々と目標が決まっていく。それが楽しくて仕方がない。




 お昼を食べて午後はアンジェの情報を集めながら魔力運用の練習に励んだ。





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