やっほー
登山を趣味としていた男は、休日を利用して山登りに来ていた。一時間ほどかけて山頂に到達した男。澄み渡る空気に綺麗な景色、それは登頂した者だけが味わえる感動だった。
男は山頂から遠くの山々に向かって叫んだ。
「やっほー!!」
…。
山びこは返ってこない。声が小さかったかと、今度はもう少し大きめに叫んでみる。
「やっほーー!!」
…。
しかし山びこは返ってこなかった。そこへ、遅れて山頂にやってきた親子連れの子供が、山々に向かい叫んだ。
「やっほー!!」
…やっほー!!
山びこは返ってきた。
「声量は子供より自分の方が大きかったが、何かコツでもあるのだろうか?」と男は考える。そんな男の様子を見ていた山小屋の主人が、男の元へやってきて言った。
「いくら叫んでも無駄ですよ。ほら、あそこ。」
主人が指差した先には、『山びこ10回 500円 登頂の記念にどうぞ』と書かれた看板があった。
「お客さんもどうですか?」
と聞かれ、男は迷わず、
「ああ、買うよ。」
と答えた。
山びこが有料になり、誰しもが世知辛い世の中になったと思うが、苦労の先の楽しみを味わいたいのは皆一緒のようだ。