第5話:新しい出会いは物語開始を表します。
「お母さーん、これでいいの?」
「ええ。圭一、それも取ってくれる?」
「わかった。」
「あ、誠一さん!それも!」
「……あぁ。」
今日は朝からデパートに来ていた。
新生活が始まり家具が足りないからだ。
もともと高知から持ってきたものは大きな家具のみで、これから生活するのには足りないものだらけだった。
それに、私たちには個室ができたのでそれ用の家具も揃えなきゃだめだから。
「悠妃ー?次行くわよ?」
「…うん。」
母に促され家族の後をついていく。
今いる場所は某大手家具屋さんで、今がセールということもありここでほぼ全てを揃えるつもりらしい。
先ほどからカートを引いているが量が多く、何度もレジに取り置きをしておいてもらってる状態である。
まだ買うの…、私の気力は開始一時間でゼロに近かった。
「いい買い物出来たね!」
「ふふ、そうね。」
午前中に家具屋と電気屋を回った後、ファミレスですっきすきのお腹に美味しい料理をいれる。
食べながら母と姉は上機嫌だった。
父はあまり変わらず、表情がないと言われやすいその顔に、凝らして見ればわかるほどの疲労を浮かべていた。
兄は母に似て童顔で甘いマスクだが、その笑顔は少し疲労が見て取れる。
かくいう私ももちろん疲労が出ているのだけれども。
まぁ私は父に似てあまり表情に出ないと言われるから、あまりわからないだろうけど。
なぜ女の人は買い物があんなに長くて疲れているはずなのに、あんなに楽しそうなんだろう。
わたしも一応女であるはずだけど、そこはいつも共感出来なかった。
午前中に買ったのはざっといえば、私たち子供のための買い物だった。
机に椅子、高さの低いテーブルにカーペット、本棚など、ほとんど私たちの意見そのままに買ってくれた。
電気屋ではケルトや目覚まし時計、あとノートパソコン。
ノートパソコンはオネダリしたんだけど…。
今回急に東京に引っ越すことになり、友達や親戚、祖父母と離れて暮らすことに、お父さんは気にしていたみたい。
一個だけ好きなものを買ってあげる、そう言われて私と兄はノートパソコン、姉は…なんだっかな、美容系のものだったと思う。
それを買ってもらったとき、三人でハイタッチをした。
「…次はどこに行くの?」
「それはねぇ…!」
私が楽しそうに会話している母と姉に質問すると、二人ともにっこり含み笑いをして、じっと私をみた。
「……?」
「午後からは男女別行動よ!せっかくのセールなんだからいっぱい買いましょう!」
「やった!さすがお母さん!悠妃、カワイイの選んであげるから!」
「…え、別にい…」
「だめよ!東京といえばおしゃれの街!可愛くしてないと!」
「…それはお母さんたちがそうしたいだけなんじゃ…」
「ほらごちゃごちゃ言わない!いいよね、お父さん!」
「…あ、あぁ。」
二人の圧力に押されつつもなんとか抵抗してみるも無駄に終わった。
最後の頼みと兄をみると、苦笑いされた。
助けてくれないの…!!
今まで持っていた荷物を男二人に任せ、私は母と姉に引っ張られファミレスをあとにした。
「…ここ、どこ」
あれから何時間もいろんな店にいれられ何度も試着したりを繰り返して、沢山服や靴、バックなどおしゃれのための道具をたくさん買った。
それにまだ要らないと言っているのに化粧品まで…。
二人とも私まだ中学校に入る前ってこと覚えてるのかな。
少し、ちょっとだけでいいから!と押し切られ、姉のオススメのコスメを買い、さあ次は小物よ!と店の移動中、CDショップに目を奪われている間に、二人の姿が視界から消えた。
…完全に詰んだ。
あの頃は高校でスマホを買ってもらっていたけど、今はまだ中学へ入学前ということもあり、買ってもらうにはまだまだ先だろう。
つまり、私には連絡手段がないのだ。
「……さっきの店は…って、今ここどこよ。」
迷子だと気づいてからふらーっと歩きながら考えていたせいで、現在地すら分からない。
…どうしよう、完全に詰んだ。
「……どうする…っか、!?」
ドンッと背中に衝撃を感じ、振り向けば私より少し小さい女の子がいた。
「ご、ごめんなさい。…大丈夫?」
「は、はい…。」
ぶつかった女の子は鼻を抑えて少し涙目だ。
衝撃が結構あったからもしかしたら急いでいたのかもしれない。
「…ご、ごめんなさい…。」
「え、大丈夫よ。貴女は…」
「わ、私は大丈夫!」
ばっと私の顔をみた女の子はもう涙を浮かべていなかった。
そこからお互いに誤りあい、私の今の状況を話してみた。
「へー、悠妃お姉ちゃん迷子なの?」
「う、えぇ。…トーリスって店の場所探してて…。」
女の子は穂波ちゃんといい、お兄さんと一緒に買い物に来ていたらしい。
まぁ穂波ちゃんもお兄さんとはぐれたらしいけど。
「それならこっちだよ!」
「え…、ちょ穂波ちゃ…!」
「穂波!」
「え、あ!お兄ちゃん!」
穂波ちゃんに腕をつかまれ、引っ張られそうになった時、後ろから男の子の声がした。
声の持ち主はすぐに私たちの視界にはいってきた。
「こら、勝手に行くな!」
「ご、ごめんなさい…。でも悠妃お姉ちゃんが迷子だって言ってたから…!」
「あのなぁ、お前もさっきまで迷子だったんだぞ。」
「む!穂波じゃなくお兄ちゃんが迷子だったんだもん!」
「おい…。」
その男の子は穂波ちゃんのお兄さんだったらしく、そのまま口喧嘩?を始めてしまった。
ど、どうしよう…。と私が焦っていたところ、お兄さんと目が合った。
「あ、…すみません。」
「いえ…。」
「お兄ちゃん!悠妃お姉ちゃんは迷子だからトーリスに連れていくの!」
「は?トーリス?」
「あ、はい。そこで待ち合わせしてて…。」
迷子になっならここね、と言われた場所はあったけど、聞いてる時は迷子にはならないと思っていたから…。
なったけど、…なったけど!
「…なら、行くか。」
「うん!」
「え、」
二人につれられそこに向かう途中、お兄さんもとい、
田辺尚志くんと同い年で彼も同じ中学に通うことがわかった。
穂波ちゃんは一歳年下らしく、来年私も行くから!と元気に言っていた。
目的地に行くまで会話が途切れることがなく、楽しい時間をすごした。
東京にきて同年代と話してなかったからどこか新鮮で、とても有意義な時間だった。
「悠妃!」
目的地に着くと母と姉が駆け寄ってきた。
そのままギュッと抱きしめられて窒息しそうだけどね!?
「…う、…息が…!」
「あ、ごめんなさい。」
「ありがとう、悠妃を連れてきてくれて…。あの子少しぼんやりしてるから…。」
「いえ、気にしないでください。…では、」
「悠妃お姉ちゃん!またね!」
「うん、また…。」
ぼんやりはしてないぞ、お母さんよ。
そのまま二人とわかれた。
多分尚志くんとは入学式に会うだろう。
仲良く出来たらいいな…。
「悠妃、……スマホ買うわよ!」
「…へ?」
とりあえずお母さんたちを落ち着かせてなきゃ。
それでもこの後、お父さんたちと合流したときに私の迷子の話になり心配した家族からスマホを買うように強制されたんだけど。
スマホを買いに行ったときの家族の会話(実際作者はこれをしました。)
「黒に白、それと赤か…。」
「俺は黒かな。父さんは?」
「…黒だ、な。」
「私は白!お母さんは?」
「うーん、そうねぇ。…私も白かしら。」
「「悠妃は?」」
「…え、どれでも…。あ、なら白で…」
「あ!悠妃は赤ね!これは赤って言っても薄いから女の子っぽいもの!」
「いいわね!」
「え、…私は、」
「悠妃、赤でいいわよね?」
「………うん。」
これにて中学準備編、もとい中学入学前のお話は終了です。
年明けからとうとう入学し、中学生活をスタートします。
どうかこれからもお楽しみいただけたら嬉しいです。