第9話:ちょっと待って、何それ……?
とうとう今日は春の遠足だ。
私たちの学年は山を散策し、川の近くでカレー作りをするらしい。
学校に集まり、そこから各クラス別のバスに乗り出発するらしい。
山を散策するのかー……、と少し気が重く感じたけど、そんなことは言ってられない。
これも青春のひとつ!と気を入れなおして出発しました。
家を出る時、お母さんは頑張ってお弁当作ったからね!と満面の笑みで渡してきました。
少し量がいつもより多い気がするけど、私はそんなに食べれないよ?
バスの座席は自由らしく、私の隣に杏里がいて私たちの後ろの席にナオと柊馬が座っている。
あの頃から仲良くなった私たちは遠足の班も一緒になったのだ。
出発したバスの中はとても賑やかだった。
その中心にいるのが下村先生。お祭り好きでよくはしゃいでいる。
下村先生の席の近くに座っているこれまた賑やかなグループが盛り上がっているため、バスの中は笑いが止まりません。
杏里もワクワクしているのかさっきからそわそわしている。
そして私と喋ったり、通路を挟んで隣の席の女の子と楽しそうに話している。
私はというと、この賑やかな雰囲気に乗り込めきれず、少し外から傍観しています。
前が大学生だったこともあり、こんなに若くはしゃぐのが久しぶりだからかなぁ。
「悠妃!これ食べる?」
「ん、もらうー。ありがと。」
杏里が差し出してきたのは何種類かある一口タイプのチョコレート。
その中からイチゴ味をセレクトして、口に運ぶと甘みがふわーと広がった。
「美味しいね。」
「でしょう?」
美味しいと伝えると、とても満足そうに微笑んだ杏里。
しかしだよ、杏里。まだ出発して十分も経ってないのにもうお菓子開けたの?
早くない?
「悠妃ちゃーん、これも食べない?美味しいよー!」
「うん、ありがとー。……なぁに?これ。」
通路を挟んで隣の席の女の子から差し出されたお菓子を手に取るとそれは二色のブロックみたいなものが入っていた。
ピンクに黄色だったから、桃とレモンかな?と当たりをつけて食べると少し酸っぱいものの、美味しいガムだった。
「ん!美味しい……。」
「ふふ、良かった!」
「あ、私のもどーぞ?」
「ありがとう!」
貰ったからには何かを渡さなきゃ、と開けてなかったお菓子を手渡す。
新作だよ!と姉さんに渡されたものだったけど、丁度その日の前の日に杏里と食べたものだった。
姉さんには内緒にしたけどね。
そんなこんなでバスは目的地に着いた。
バスから降りるとそこはとても瑞々しく、田舎に負けないくらい空気が美味しかった。
まずはカレー作りをするらしく、少し歩いて屋外で作る用のスペースに移動した。
私たちの班は私と杏里にナオ、そして柊馬の四人。
他の班もそのくらいの人数で固まっていた。
そこで始まった料理なんだけど……、ちょっと待って。
「ナオ……、何やってるの?」
「……すまん。」
役割を振って、私はお米を洗うかかり、杏里はサラダで男子二人は柊馬の希望により具材を切る係になったんだけど……。
ナオが切っていく食材がとても歪だったり、玉ねぎなんてどこまで剥いだらいいか分かんなかったらしく、小さくなっていた。
様子を見に来て、その光景にびっくりして慌てて止めに入った。
杏里はわたわたしてて、柊馬はナオを向いて笑っている。
「……料理経験は?」
「…………ないな。」
「……それは別にいいのよ?でも、まず先にそれを言おう?」
「……おう。」
落ち込んでしまったナオだけど、当番を変わり杏里と一緒にサラダを作ってもらうことになった。
幸いにもお米はすぐにできたから問題は無いからね。
「柊馬、ナオが出来ない事知ってたでしょ?」
「ぶは、いや……あそこまでとは知らなかったぜ?」
まだ少し笑いが止まらないみたい。
柊馬の話では、小学校の調理実習はほとんど女子がして男子がやることはなかったらしい。
それでも少しやる機会があり、卵焼きを作るときに塩と砂糖を間違えて物凄くしょっぱくなったらしい。
どこの漫画なの。と、ツッコミをいれるとまた柊馬は笑っていた。
色んなことがあってヒヤヒヤしたけど、なんとか定時までに完成した。
盛り付け、先生の差し入れのフルーツをと一緒に食べる。
やはり自分たちで苦労して作ったからか、とても美味しく感じた。
上手く出来たなー、と食べてる時掬ったスプーンの中を覗くと歪な形の人参が入っていたけど、私は何も見てないデスヨ?
食事が終わり、片付けも終わると、次は先生から班ごとに地図を配られた。
そこにはこの山の中にお宝を隠していて、その地図と裏側のクイズを解いて探してくるらしい。
やったよねー、昔“お宝を探せ!”みたいな遊び。
裏の問題をみると面白く作られており、そしてその地図もなかなか面白くできていた。
杏里と柊馬にみせるとハテナが何個も頭の上に浮かんでいたけど。
……ねぇ、もしかして柊馬も頭悪かったりするの?
時間ぴったりにスタートし、我先にと全部の班が駆けていった。私たちも遅れを取らないように歩いていく。
クイズは全部で三つあった。
“ ①トロワに3をかけるといくら?
②158-208÷8×50=?
③二葉亭四迷は「I love you」を「わたし、死んでもいいわ」と訳しました。夏目漱石は「I love you」を何と訳しましたか?その訳で出てくる物はいつもどこから出てくる?
この三問を次の文に当てはめてお宝を探せ!
「③のほうへ地図の①cmほど進んで②の箱を開けよ。」”
とあった。
……子供だまし?というか、これって中学生、それも一年生は解けるのかしら?
「……と、ろわ?」
「なんだこれ、普通に訳せよ。」
……だよね、わかってたよ。
「悠妃、解けたか?」
「ええ、定規ある?」
「一応、筆箱持ってきてるからな。」
「よかった。それ貸して?」
「「なんでわかる!?」」
バカは置いといて、ささっと紙に書き込んで目的地に丸をつけた。
「……あれ、もうすぐそこじゃない。」
「…………え?」
適当に歩いていたら、丁度私たちに支持された場所の近くにいた。
……運がよかったのかな。
「よっと」
「え、待って悠妃!」
「……え?」
静止が間に合わず、さっと見つけた箱を開けてしまった。
中に入っていたのは……、紙?
開くとそこには“お宝交換権”と書いていた。
「……お宝って交換できるの?」
「……はは。」
とりあえず元の場所に戻りましょう。
「え、お前たちもう終わったのか!?」
「あら、早いわねぇ。」
集合場所に着くと下村先生と松木先生がのんびりお茶をしていた。
他に生徒は来ていないらしく、私たちが一番だった。
「はい、交換おねがいします。」
「くっそ!面白くねぇ奴らだな!……もっと難しくしとけばよかったか?」
「……いえ、丁度知っていたからですよ。他の子には難しいんじゃないですか?」
面白くなくねすみませんね……!
それに実際、私とナオはわかったけど杏里と柊馬はわかってなかったし。
「まぁお前達二人は学年トップだからなぁ。」
「え、悠妃たちってトップなんですか!?」
「おう、こないだのテスト、この二人が一位だったからな。」
あ、こないだのテスト、ナオと同じだったんだ。
……でも同じのはちょっと複雑だなぁ。もっと頑張らなきゃ。
まだ先生たちと柊馬や杏里はなにか騒いでいたけど、私とナオは静かにベンチに座り景色を見ていた。
三十分もするとちらほら生徒が戻ってきて、一時間後には全員が帰ってきていた。
まぁタイムリミットもあったしね。
お宝はお菓子の詰め合わせらしい。
お宝なのか?とみんなブーイングしてたけど、私は好きなお菓子が入っていたから別に良かったけど……。
そして一位だった私たちの班は特別にもう一つもらった。
それは帰ってからのお楽しみだ、と帰りに渡されるらしく大人しく私たちは待つことにした。
帰りのバスの中は、みんな疲れたのかシーン、としていた。
所々から寝息も聞こえる。
杏里は私の肩に頭をあずけて寝ている。
私は眠気が来ず、そのまま窓から外の景色をみて過ごした。
こうして私たちの春の遠足は終わった。
[オマケ]一位の景品は……。
「……わぁ。」
「……へー。」
「ってえぇ!?」
「……景品じゃねぇじゃん!」
先生プレゼンの筆記用具でした。