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6 ドラマの役がらどおりの性格

 ジョシュアに連れられて、朝乃たちは管理局の中を歩く。廊下などですれちがう職員たちは、芸能人のドルーアに驚いている。

「Hi.」

 ドルーアは笑顔で、愛想を振りまく。ジョシュアはあきれたように、彼を見た。

「裏口から出ましょう。車を用意しています」

「分かりました」

 ドルーアはにこやかに答えて、朝乃は首を縦に振った。

 小さなドアから外へ出る。そこはせまい路地裏だった。人気はなく、しんとしている。管理局のビルと、ほかのビルに挟まれた細い道だった。少し離れたところに、背の高いワゴン車が一台止まっている。朝乃たちはジョシュアを先頭にして、車に向かって歩いた。

「これで人目につかずに、市庁舎へ行けます」

 ジョシュアが安心したように言う。彼は、衆目にさらされるのが苦手なようだ。

「人目についても、いいのではないですか?」

 ドルーアは軽く笑った。

「あなたが一緒だから、裏口に車を用意したのです。外出するたびに、写真を取られたり追いかけられたりして、あなたは疲れないのですか?」

 ジュシュアは嫌そうに顔をしかめる。

「僕は慣れています。ただ朝乃まで注目されるのは、好ましくないですね。彼女は、僕の宝物ですから」

 輝くような笑顔でのたまう。ドルーアののりに慣れた朝乃は何とも思わなかったが、ジョシュアは口をぽかんと開けた。

「キザでナンパ、ドラマの役がらどおりの性格ですね」

 ため息をついて、肩を落とす。それから、車の前部座席のドアに近づいた。が、突然、パン! と破裂音がして、ジョシュアの左肩から血が吹き出た。朝乃は息をのんで立ちすくむ。

「ジョシュア!」

 信士が血相を変えて、ジョシュアのもとへ走る。ジョシュアは信じられないという顔をして、左肩を手で押さえる。銃声がまた響いて、朝乃は震え上がった。ドルーアが、朝乃の腕を乱暴につかむ。

「狙撃だ。建物の中へ戻ろう」

 あせった声で命令する。彼は朝乃を引きずるようにして、ドアに向かって走る。朝乃はパニックだ。知らない男たちの怒声や、どたばたという足音が背後でする。ドルーアの背中に、大きな針のようなものが刺さった。

「ドルーアさん!?」

 朝乃は驚いて、声を上げる。ドルーアは朝乃の腕を離し、ひとりで前のめりに倒れていった。朝乃は駆け寄り、いまいましい針を彼の背中から抜き取る。多分、麻酔銃で撃たれたのだろう。功が撃った小さな矢と似ている。

 しかし次の瞬間、朝乃は誰かに背後から肩をつかまれた。ごつんと、こめかみに何か固いものをぶつけられる。銃だ。朝乃は全身を固まらせた。

「振り返らずに立ちなさい」

 知らない男の声だった。不慣れな日本語でしゃべっている。朝乃はがたがたと震えた。

「村越さん、動くな!」

 いきなり信士の大声がした。朝乃の背後で、ひゅっと風が動く。朝乃の肩にあった手と、こめかみにあった固いものはなくなった。

 朝乃は反射的に振り返った。長い足をけり上げていた信士が、足を降ろす。彼のそばでは、緑色と焦げ茶色の迷彩服を着た男が倒れている。おそらく朝乃を拘束していた男だろう。

「今、無事なのは君と私だけだ」

 信士は厳しい顔をして、朝乃にしゃべった。

「私は、ジョシュアとミスター・コリントを守る。君は管理局に戻り、助けを呼んでくれ」

 彼の後ろで、迷彩服にヘルメットの男が、曲がったナイフで襲いかかってくる。

「うしろっ」

 朝乃が指摘するよりもはやく、信士は振り返り、迷彩服の男をけり倒した。いったいこのせまい通りに、何人の人がいるのだ? 銃を持った迷彩服の男が五人? 十人? どこから来た何者なのだ?

 ジョシュアは血だまりの中に倒れている。朝乃はまごついて、動けない。

「朝乃、人の多い場所へ逃げるんだ」

 ドルーアが、がくがくと震えながら上体を起こす。ジャケットの内ポケットから、レーザー銃を取り出した。

「はい。すぐに助けを呼んできます」

 朝乃は金縛りがとけて、裏口のドアへ向かって走る。

「田上さん、朝乃についていってください。ねらわれているのは彼女だ」

 ドルーアの必死にさけぶ声。

「ですが、……くそっ」

 信士の困惑した声と、何かが倒れる音。朝乃はドアノブに手をかけた。

「あなたとジョシュアを放っておくわけには」

 ドアノブを回したとたん、背中にちくりとした痛みが走る。視界が急に暗くなる。ドアノブをつかんだまま、体が崩れ落ちていく。

「朝乃!」

 ドルーアの悲痛な声が、耳に届く。麻酔銃で撃たれたんだ。自分のまぬけさに、血の気が引く。

「ミスター、――危ない、よけて」

 朝乃は何とか意識を保ち、ドアを開けようとする。嫌だ。倒れるわけにはいかない。

「田上さん!?」

 ドルーアの悲鳴が響く。彼を守りたい。管理局に戻り、警察を呼ばなくてはならない。けれど……。朝乃の意識はとぎれ、手はドアノブから離れた。

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