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5 君は忍者のまつえい

 予想していなかった話の流れに、朝乃はとまどった。ジョシュアは笑みを浮かべて、朝乃とドルーアの方を向いた。

「私は、管理局に勤めるジョシュア・スミスです。あなた方は本日午前九時半ごろに、不審者たちに襲われた。この事実に、まちがいはありませんか?」

「はい」

 ドルーアが警戒した様子で返事する。彼らは引き続き、月面英語でしゃべっている。

「しかしなぜ、それを知っているのですか?」

 ドルーアは問いかけた。

「警察から管理局へ、報告がありました。ある犯罪の被害者である少女には、密入国の疑いがあると」

 ジョシュアは言う。ドルーアは苦い顔をした。朝乃も、再びげんなりする。つまり朝乃は、警察から密告されたらしい。

「私が管理局側の担当者になり、この件について警察の方々と話しあいました。その結果、ただの金目当ての誘拐未遂事件とは思えませんでした。また朝乃さんについていた発信器のことも気になります。なので話を、市長である鈴木タニアまで持っていきました」

「分かりました」

 ドルーアは答える。

「では、朝乃がねらわれた理由もご存じですか?」

「私は知りません。ただ鈴木市長は、知っているように思えました。それで市長は朝乃さんを保護するために、あなたの家に市庁舎の職員を派遣しました」

 朝乃はびっくりした。市庁舎の職員が来たなんて、ぜんぜん知らなかった。ドルーアはポーカーフェイスだ。

「あなたの家の住所と連絡さきは、警察から聞きました。けれどあなたと朝乃さんは入国管理局へ移動したので、入れちがってしまいました」

 そして事情を知らない信士が朝乃の担当者になり、管理局のコンピュータに朝乃の名前を入力した。それでジョシュアは朝乃が管理局にいることを知り、市長に連絡した。

「市長は、朝乃さんの身を心配しています。安全な市庁舎に連れてくるように、市長から命令されています」

 ドルーアはうなずいた。それから朝乃を見て、ちょっとだけ悩んだ。

「今の会話も理解できたかい?」

「はい」

 朝乃は肯定した。ドルーアは、困ったように笑う。

「エンジェル、君も裕也と同じく、超能力者だ」

「でも、私は……」

 超能力なんてない。……いや、あるのか? 朝乃は月に来てから、自分を取り巻いていたすべてに自信がなくなっている。ドルーアは表情を引きしめた。

「君が超能力者かどうかの審議は、後にしよう。それで朝乃、どうする? 市長の鈴木さんは、信頼できる人物だと思う。きっと彼女は君の亡命を受け入れ、君を守ってくれるだろう」

 市長が女性であることに、朝乃は驚いた。日本では政治にかぎらず、女性がトップに立つことはめずらしい。だが今は、市長の性別は気にするところではない。

「市長に会いたいです」

 朝乃は決断した。

「あぁ。僕も、その方がいいと思う」

 そしてドルーアはジョシュアの方を向いて、黙った。奇妙な沈黙が流れる。朝乃とジョシュアは、首をかしげた。するとドルーアは朝乃に向かって、まゆを下げて笑った。

「英語はしゃべれないのか? つまり聞き取れるけれど、話せない」

 朝乃はあっと気づいて、赤面してうなずいた。ドルーアは、朝乃が英語でジョシュアと会話すると考えたのだ。しかし朝乃はしゃべれない。さすがに、Helloとかyesとかは話せるだろうが。

 日本語が分からないジョシュアは、ふしぎそうに朝乃たちを見ている。ドルーアは分かったと軽く言ってから、ジョシュアに英語で話しかけた。

「僕たちは、市長に会いに行きます。案内をお願いします」

「喜んで」

 ジョシュアは、にこりと笑った。

「じゃあ、信士。通訳のためについてきてくれ」

 だが信士は断った。

「村越さんに、通訳としての私は必要ない。彼女にはミスター・コリントがついている。それに彼女は、英語が聞き取れるようだ」

 朝乃は首を縦に振った。ジョシュアは少し驚いている。

「なら護衛として、ついてきてくれ。君は忍者のまつえいで、超能力者でもあるだろう?」

 忍者で超能力者? 朝乃は、うさんくさそうに信士を見た。彼は、あきれたように顔をしかめる。

「確かに私は日本出身だが、忍者やさむらいのまつえいではない。周囲がおもしろがって、言っているだけだ。超能力もあるとは言っても、ランク外だ」

 Cランクやランク外の超能力者は、意外に大勢いる。信士は、その大勢のうちのひとりらしい。

「けんそんしなくていい」

 ジョシュアは笑った。

「君を頼るように、市長から言われているんだ。それから、視線が痛い。はやく人の少ないところへ行きたい」

 彼はため息をついてから、周囲を見回す。朝乃も、まわりを見た。おもしろいぐらいに朝乃たちは、ロビーにいる人たちに注目されている。もちろんスポットライトを浴びているのは、大スターのドルーアだ。

「内緒話に向かない環境だな。私もついていこう」

「助かるよ」

 信士はまじめに言い、ジョシュアはほっとした。ちなみにドルーアは苦笑して、肩をすくめていた。

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