目覚めの朝
「子孫よ、目覚める時がやってきた・・・さぁ立て、立ってこの世を正しき道へと導くのだ」
おれは夢を見ていた。ひどく嫌な夢だった。ヒゲをたくわえたジーサンが延々と説教をたれる夢である。
黙っててくれないか。ただでさえ高校入学したてで、部活どうするかとか、勉強どうするかとかいろいろ悩むことがあるんだよ。
口うるさいのはうちの母親だけで十分である。
「瞬一!早く起きないとアンタ遅刻するわよー」
気付いたらもう起きるはずの時間から十五分も経っている。・・・くそあのヒゲジジい・・・・一階から聞こえてくる
口うるさい母親をだまらせるためにオレはすぐさま返事をし、まだ着慣れていない制服に袖を通し階段を駆け下りた。
テーブルの上には昨日の晩の残り物だ。忙しい日本人の朝にはとても不向きなおでんが用意されていた。
「ちゃんと食べていかないと学校で力がでないわよ~」
ク・ソ・バ・バ・ア!ただでさえ遅刻しそうなのにこんなアツアツなもの朝から食えるものか!
「うん、やっぱコンビニのおでんより母さんの作ったおでんがうまいや」
おれはハフハフしながら笑顔でおでんを胃袋に放り込む。クソババアを黙らせるにはこれが一番の方法だからだ。
気持ちはありがたいのだがこの年頃の女性というのはどうもこういうふうになりがちだ。
おれは口の中でできた火傷の具合を舌で感じながら足早に家を出た。学校まで自転車で二十分。
思いっきり飛ばしていけばギリギリ間に合う。
おれはとにかく必死でペダルをこいだ、入学早々遅刻なんてしたらクラスの奴らにどう思われるか。
まだ名前覚えてないけど、あのかわいかったあの娘に不良だなんて思われたくない。正直モテたい。
中学校の頃はちょこちょこ女子と話すくらいだったけど高校生になったらワイワイハジけてあの娘をゲッチュするんだ。
初めが肝心。そのためには遅刻なんか絶対しちゃだめだ。
そうこう考えていると目の前に急な坂があった。いわゆる地獄坂である。
家から学校へ行く最短ルートでここを上りきれば見事、学校裏の自転車置き場に到着だ。
おれは左手の腕時計に目を向けた。なんとか間に合いそうだと安堵のため息つきそうになった時、
坂のてっぺんあたりで道を塞ぐ不良達のかたまりに遭遇した。こいつらは一体なんなんだ、ここまで来たらさっさと学校へ行けよ。
マズい、ここを引き返したら確実に遅刻する。かといってこの不良達の間をタダで通り抜けることができるのか。
嫌われたくない。クラスの人気者になるためには初めの印象が大切なんだ。
「・・・す、すぃぃまぁせぇぇぇんん!!!どけてくださぁぁぃぃ!!」
おれは突っ込んだ。不良達にどけろと言わんばかりに空で右手を右になぎ払った。いくら不良といえども一言ことわって素早く自転車で
立ち去れば大丈夫だと思った。
思いのほか、サッと不良達は避けてくれた。意外と素直でいい人達なんだなと思って彼らの顔を見てみると白目をむいている。
・・・・こ、怖すぎる。不良も上級者になるとこうなるものなのか。こんな人たちと関わり合いになりたくない。おれはさっさとこの場を去り教室へと向かった。
「いやぁ~やれやれ、ふぅ~間に合った」
朝から起こった色々な出来事を思い返し、机に座るとつい自分らしくもなく独り言を呟いた。しかし、今日は朝から大変な一日だった。
悪夢をみるわ口の中は火傷するわ、不良達に遭遇するわで大変だった。全く、早く学校に慣れて平穏を取り戻したいものだ。
そういえば今週はクラスの役員選出があったな。役員といえば一般的に学級委員、風紀委員、図書委員等があるか。ここは一発、学級委員とかに立候補してみるか。
いやいや落ち着け。・・・・あぁあのかわいい娘と一緒の役員とかになれたらいいなぁ。
いやでも本当にあの不良達の白目は後を引く気持ち悪さだったな。