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君を守る


降り積もる粉雪が頬に冷たく触れて、やがて無くなった。


鼻を真っ赤にした近所の男の子が


「雪が降ってるよ!!!」


とはしゃいでいる。


あたしは手を伸ばし、手の上に雪を載せようと試みた。


当たり前なのにすごく冷たく感じられた。


もうあたしの隣には誰もいない。


あたしの冷たい手を温めてくれる温かな手も


温かな笑顔も


温かな瞳も、


あの誓いも


もう無いんだ。


「寒いよ。」


あいつがいなくなってから


ちょうど3年が過ぎた。









「上原!あんたでしょ?

こんなことしたの?」


あたしは上原太一と言う名の男の前に立ち


自分の英語のノートを見せた。


彼はきょとんとしていた顔を一変させ


笑いを堪え切れぬと言わんばかりに笑っている。


そこにはとんでもない落書きが書いてある。


「落書きにも程があるでしょ?!


{わたし(井上優夏)はバカです。

最近に小学生に騙されました。

あと、財布落としました。

さらに島にフン落とされました。}


こんな恥ずかしいこと書かないでよ!!


本当にあったことだけどさ…」


あたしは最後の一言を言って気を落とした。


確かにここに書いてあることは事実だからだ。


そんなあたしの顔を見て嘲笑うかのように


太一は笑った。


「本当のことなんだろ?(笑)


さすが俺!」


この自信ありげな態度は


尋常じゃないですね…


「むかつく…ってん?


上原…鳥と島っていう字、間違えてる!!


高校生にもなって普通 間違えないでしょ!!」


上原はあたしの指摘したことを聞いて


少し顔を赤らめた。


「わざとだよ、わざと!!


お前が気がつくかどうか実験してたんだよ!」


あたしは相手の弱みを知ったかのように得意気になった。


「ふーん?それはどうかな?」


下を向いた上原の顔を覗いた。


「優夏には先約があるんで。」


そんなあたし達の間に入り、


あたしの友達の小川麻奈がそう告げた。


その言葉にあたしと上原は声を合わせた。


いや、詳しく言えば声が合ってしまった。


「「えっ?」」


そんなあたし達の顔を見た麻奈はため息を吐いて


廊下のドアを指差した。


そこには1人の男子生徒が立っていた。


彼はあたし達に背を向けるようにして立っていたから


誰だかはわからなかった。


でも服装や上履きを見る限り同学年だと考えられる。


「どちら様?ってか先約って何?」


あたしは麻奈に尋ねた。


麻奈は再度ため息を吐いた。


それはさっきよりも深いように感じられた。


「2組の長谷川くん。


知ってるでしょ?


あんたのことずっと待ってたらしいよ?


けどあんた上原と話してて気がつかなかったでしょ?


だからあたしが今、あんたを呼びに来たの!


あんた彼氏欲しかったんでしょ?


クリスマス前だし、良かったじゃん!


行ってきな!


ってことで上原。


あんたは残念ながら一歩遅かったみたいね☆」


麻奈はあたし達にそう告げたら去ってしまった。


それに続くかのように上原も去って行った。


あたしはとりあえず長谷川くんという男に近づいてみた。


「あの~長谷川くんですか?


なんかすみません。」


彼の後ろから声を掛けた。


が、声を掛けても反応が無かった。


何度か声を掛けたが動きもしなかった。


まさか寝てる?!


そう思い彼の耳元で大声で彼の名前を呼んだ。


「は~せ~が~わ~く~ん?」


彼は飛び上がった猫のように


驚いたという素振りを見せた。


それと同時にあたしの肩を思い切り突き飛ばした。


あたしは突き飛ばされ、その音は廊下中に響いた。


「おいっ!井上大丈夫かよ!」


上原はあたしの元に飛んできてくれた。


「ありがと…上原。


ち、ちょっとあんた、何するの!!」


あたしは長谷川という男に向かって叫んだ。


彼の顔を見ようとしたが、


生憎首を痛めて上を見ることができない。


そんな痛みと裏腹に懸命に上を見ようとしている


あたしにクスリと笑いかけた。


それは正しく長谷川という男の行動だった。


「あんた、何がおかしいのよ?!


人に危害加えといて!


何とかしてよ…上も向けなくなったんだから!


あんたの多分へんてこりんで醜い顔も見れないしね!」


あたしは必死に叫んだ。


痛みは治まりつつもまだ全身が痛い。


特に首の痛みが酷い。


そんなあたしを心配してくれる上原の存在を忘れていた。


「ちょっと先生呼んでくる。


あんま動くなよ。」


「うん。」


上原はあたしの傍を離れ走り去って行った。


上原の足音が小さくなっていくにつれて緊張が走った。


2人っきり?


それまで気がつかなかったことを


今、この場で気がついてしまったのだ。


あたしは逃げようと試みたが無駄な行為に終わった。


それでも逃げようとしてやっとの思いで壁に寄りかかり


歩きだすことができた。


その瞬間だった。


膝に何か硬いものがあたった。


ガンッ!!


「いったあ」


あたしはまた座り込んでしまった。


そして背筋が凍った。


背後に人影を感じる。


さっき膝裏に物を当てたのはその男に違いない。


「あんた最低よ。


何するの?」


首の痛みが治まったことがわかり


後ろを振り返ったその瞬間だった。


今度は壁に思い切り体を押さえつけられた。


全身に衝撃が走った。


意識が朦朧としてきたとき、上原の声で目を覚ました。


目を開けた瞬間、飛び込んできたのは


知らない人の顔…がふれている。


あたしに…ふれている…


押さえつけられてキスされてる…


「いやっ!かみ…は…ら……たす…け」


あたしの声で長谷川は上原が近づいてきたことに


気がついて逃げて行った。


肩が震えている。


あたしは男と縁が少ないということもあり


ものすごく怖かった。


「泣くな、井上…。」


上原が発した言葉を聞くまで


自分が泣いていることに気がつかなかった。


そんなあたしを上原はそっと優しく抱きしめた。


「先生、呼びに行く時に気がついたんだ。


長谷川っていう男、俺達の学年の格好してたじゃん?


けど長谷川なんて男いないからさ。


それでちょうど3年の不良の連中が通ってさ。


お前の話してたんだよ。


{喰う}って言ってたからまさかって思って


ここに戻って来たんだ。


そしたら…」


横隔膜が痙攣して声を出せなかった。


ただたった一言言うことができた。


「怖かった。


助けにきてくれてありがと。」


上原は微笑んだ。


「俺がお前を一生守ってやるよ。」


上原はあたしに誓ってくれたんだ。























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