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けれど、狼と吸血鬼  作者: ハイたん
第四月 【守る物、護る者】
74/87

其の十二 『守護』③

 まず始めに断らせていただくと、私は吸血鬼だ。

 最近は結構みんなから『おまえって吸血鬼っぽくないな』というニュアンスの言葉を言われちゃう私だが、それでも吸血鬼なのだ。誰がなんと言おうと吸血鬼なのだ。これだけは譲れないのだ。いーっぱい血を吸っちゃうのだ。

 人間が作り出した物語の中では、吸血鬼という種族は強い存在として描かれていることが多い。というか、それが大半を占める。

 確かに、その認識は間違いじゃない。

 私たち吸血鬼は、人間よりも優れた身体能力を持つし、争いごとに特化した異能さえ持つ。だから人間と戦闘すれば、まあよほど油断しない限り負けないだろう。

 でも。

 そんな吸血鬼の私だが、心は人間と同じぐらい弱いのである。

 大好きな人と喧嘩すると、やっぱり悲しいし。

 女友達から子供扱いされると、ちょっと腹立たしいし。

 そして――誰かと離れ離れになる瞬間は、泣きそうになるぐらい辛いのだ。

 これは比喩ではない。

 私ことシャルロットは、あのサトリの少女――こころちゃんとの別れを目前にしていた。

 太陽が彼方に沈んでいく。

 まるで熟れた鬼灯のような夕焼け。

 ゆっくりと見上げた空は、思わずため息が漏れてしまうほど美しい赤色だった。

 けれど今は、その美しいはずの夕焼けが憎たらしいと思った。

 赤ければ赤いほど――なんだか寂しさが増すから。

「――シャルロット」

 ふと、士狼の声が聞こえた。

 ぼんやりと空を見上げていた私は、その一言によって我に返る。

 ――私たちが集まっていたのは、暦荘の真ん前だった。顔を見せているメンバーは、私と、士狼と、雪菜と、ニノと、忌野と、こころちゃん。ちょうどあの事件に関わっていた面子である。

 事情はよく分からないけど、とにかくこころちゃんは私たちと一緒にいることが出来ないらしい。それは、こころちゃんがサトリという妖ゆえだ。

 当然のことながら、私を含めたみんなは、もっとこころちゃんと一緒にいたいと思っている。

 しかし、それは無理なのだ。絶対に。

 士狼も、雪菜も、そして――ニノも。この三人は、本当に大人なんだなぁと感心する。だって悲しいはずなのに、それを表に出さず気丈にも笑っているのだから。きっと笑顔でさよならを言うつもりなんだろう。

 だからじゃないけど、私も笑顔でこころちゃんと別れようと思う。

 うん、だって永遠にお別れじゃないしね。

 すぐにまた会えるしね。

 絶対に会えるもんね。

 そう勝手に約束したしね。

 あはは、そうだよ、私とこころちゃんは友達だもんね。……頭を、撫でさせてくれないけど。

「……おまえ大丈夫か? 今にも泣きそうな顔してるけど」

 呆れたような顔をして、士狼が私の顔を覗き込んできた。

「っ――べつに泣いてないもん!」

 なんだか恥ずかしくなった私は、俊敏な動作で後ろを向いた。忍法、隠れ身の術である。

「そっか、そうだよな。おまえは泣いてないよな、シャルロット」

「……へ?」

 やけに優しい士狼の声。

 私の予想としては「嘘つくな、バカ吸血鬼。さっきから瞳が潤んでんだよ。マジで泣き虫だよな、おまえって」みたいな発言が襲ってくると思っていたのだが。

 私は、服の袖で瞳を拭ってから(べつに泣いてないけど)士狼のほうを向いた。

「なんだか、今日の士狼は優しいね」

 伺うように言うと、士狼は苦笑した。

「まあ優しいかどうかは横に置くとして。ただ俺は、おまえが泣いているなんて、これっぽっちも思ってないだけだよ」

「……どうして?」

 自慢じゃないが、私の瞳はさっきから潤みっぱなしのはずなんだけど。

 それに恐らく気付いている士狼は、さらに続けた。

「本当に泣いているヤツがいるからな、あそこに」

「……ああ」

 士狼が示した先には、鮮烈な赤い長髪を風になびかせる――ニノの姿があった。

 あの狼少女は、こころちゃんと一番仲がよかった。それはもう嫉妬しちゃうぐらいに。なんていうか、あの二人は、本当に姉妹のように見えたのだ。

 だからこそ。

 本当に泣きたいのは、本当に泣いているのは、私じゃなくてニノのほうなんだろう。

 一つ断っておくと、ニノはこれっぽっちも泣いていない。むしろ明るく笑っている。

 その笑顔は、どこまでも自然だった。

 けれど――ここで問題があるとするならば、それはニノの表情ではなくて――


「――なんで泣きそうな顔をしてるのよ。最後ぐらい笑って別れましょ。それが、いい女である条件よ」


 ニノは、こころちゃんと目線を合わせるようにしゃがんで、そんな格好いいことを口にする。

「……うん」

 しかし、こころちゃんの表情は晴れない。

 今にも泣きそうな顔。

 というより、あれはもう泣いていると言っても過言じゃない。

 こころちゃんは何かに耐えるように唇を引き結びながら、ずっとニノを見ていた。時折、浴衣の袖で瞳を拭っているのは……まあ、心の汗ということにしておこう。

「また会えるわよ。絶対に、また会える。だから泣かないで、ね?」

「……うん」

「いい子ね、こころは。きっと将来はウチみたいな美人になるわよ」

「……うん」

「もう少ししたら背が高くなるし、腰も細くなるし、胸だって大きくなる。そうなったら、こころも大人の女ね。まあ、さすがにウチには敵わないけど」

「……うん」

 こころちゃんは、ただ頷くだけだった。

 きっと――なにか言葉を紡いでしまうと、それと同時に、頑張って抑えているモノが溢れ出してしまうのだろう。

 例えば、涙とか、ワガママとか。

「――悪いけど、そろそろ時間だ。もういいかい、お二人さん」

 ニノとこころちゃんの様子を後ろで見守っていた忌野が、わりかし真面目な顔で、終わりの言葉を口にした。

 これからこころちゃんは忌野に連れられて、青天宮経由でお母さんの元に移動するらしい。ちなみに、忌野が親切にも護衛についてくれるという。いっぱい怪我をしているのに、ご苦労なことだと思う。

 ――そうして、別れの時がやってくる。

 ニノは明るい笑顔を浮かべたまま、こころちゃんはニノの服を名残惜しそうに掴んだまま。

 やがて、士狼とこころちゃんが別れの挨拶を始めた。

 それを見つめながら私は、あうーこころちゃんの頭を撫でてあげたいよー、とか懲りずに思っていた。

 だって今日が終わってしまえば、もうしばらくは会えないのだ。

 だから一度ぐらいは、こころちゃんの頭を撫で撫でしたいのだ。

 その感触を糧に、これからを生きていこうと思うのだ。

「――あっ!」

 無意識のうちに、素っ頓狂な声を出してしまう。

 なぜならば、あの士狼のおたんこなすが、さりげなくこころちゃんの頭を撫でていたからだ。

 しかもまったく不自然じゃない。

 士狼は朗らかに笑っているし、こころちゃんも気持ちよさそうである。

 ……うぅ、し、士狼めぇ……まさか抜け駆けをするなんて……許すまじ……許すまじだよ……。

 ふん、べつにいいもんねー。

 こうなったら拗ねてやるもんねー。

 あれだよ、あれ。確か……グレる、だっけ?

 へへーん、髪を金色に染めて、赤いカラーコンタクトとか着けちゃうもんねー。

 それぐらい不良さんみたいになれば――って、あぁ!? いま思い出したけど、私の髪って元々金色だし、それに瞳だって赤いじゃん!?

 つ、つまり、どう足掻いても不良さんには……なれない?

「……がくっ」

 拗ねることさえ取り上げられた私は、その場にしゃがみこんで、膝の間に顔を埋めるようにした。いわゆる現実逃避の格好である。

 すると。

「……あ、あのっ」

 勇気を振り絞ったのが丸分かりの声が聞こえてきた。

 なんだなんだと思って、唇を尖らせたまま視線を上げてみた。

 そこにいたのは、落ち着き無さそうに目を泳がせる――こころちゃん。

「あぁ……こころちゃんかぁ。もしかして、あれかな? 私に頭を撫でさせてくれるとか……なんて、そんなオチはないよね」

 自分で言ってて悲しくなってきた。

 どうせ私は、こころちゃんの頭を撫でることなく終わるんだ。

 まあ、べつにいいもんね。

 私なんて、しょせんバカで泣き虫な吸血鬼だし。

 みんなから子供扱いもされてるしね。

 そんな女が、こころちゃんの頭を撫でるなんて至高の行為をしていいはずないよね。

「……べつに、至高じゃ、ないです」

「へ?」

 今度雪菜から呪いの方法を聞こう――そう思っていた私は、こころちゃんの言葉によって思考を止めた。

「……だ、だからっ」

 一世一代の告白をするような感じで、こころちゃんは――その小さな頭を、私に向けて差し出してきた。

 こ、これって……もしかして……。

「あのう、こころちゃん。もしかしてとは思うんだけど」

「……はい」

「頭を撫でても……いいの?」

 どうせ否定されるだろう、と思った次の瞬間。

 こころちゃんは、小さく、けれどハッキリと頷いたのだった。

「本当に、いいの?」

「……は、はいっ」

「絶対だよ? もう前言撤回とか出来ないよ?」

「……大丈夫っ。……です」

 恐怖に耐えるようにして、こころちゃんはぎゅっと目を瞑った。

 そこまで恐がらなくても――と言いたくなったけど、こころちゃんの頭を撫でることが出来るのなら、もう何でもいいのだ。みんなハッピーなのだ。特別に士狼のことも許しちゃうのだ。えっへん。

 しかし、いざとなると緊張してしまうのが私である。

 頭を撫でちゃダメ、と言われると拗ねるのだが、頭を撫でてもいいよ、と言われても躊躇してしまうというか。

 ……とまあ、もう考えるのが面倒になってきたので、一思いに、こころちゃんの頭の感触を楽しんじゃおうと思う。

「……えいっ!」

 そんな間抜けな声を出しつつ、こころちゃんの頭に手を置いてみる。

 すると、こころちゃんの身体が小動物みたいにビクっと震えた。

 やはり無理をしているのだろうか、とちょっとだけ心配になった。

「……いえ、無理は……してない、です」

 私の心を読んだのか、それとも自分に言い聞かせているのか、こころちゃんは途切れ途切れの発声をした。

 しかし残念ながら、私はそれどころじゃなかった。

 だってだよ?

「うぅ~! き、気持ちいいよ~! 柔らかいよ~! こころちゃんってば、可愛すぎるよもう~!」

「――わわっ。……えと、シャルロットさん……ちょっと、痛いです……」

 ささやかな抗議が聞こえてきたような気がしたが、まあ勘違いだと思うことにした。

 こころちゃんの頭は、まさに魔性と呼んでも過言じゃないぐらいの手触りだった。

 男性は、女性の胸を触りたいと思うらしい。

 つまり私ことシャルロットにとって、こころちゃんの頭こそが、男性にとってのおっぱいだったのである――!

 でも――こうしてこころちゃんと触れ合えば触れ合うほど、別れたくないという想いも強くなる。

 私でさえ、これなんだ。

 このサトリの少女と姉妹のように仲が良かったニノは、一体どんな気持ちなんだろうか。

 想像さえ出来ない。

 同情は――しない。だって、ニノは同情が大嫌いだから。

「あの……お、お粗末さまでした」

 私に頭を撫でられたこころちゃんは、そんな的外れっぽい感じの言葉を口にした。うむ、可愛い。

 それから――私が幸せすぎて呆然としている間に、雪菜とこころちゃんが別れの挨拶をしていた。

 あまり接点がなかったはずの二人だが、やけに話が弾んでいる。……いや、あれは話が弾んでいるというよりも、雪菜がボケて、こころちゃんがツッコミを入れるという一種の漫才。

 まあ微笑ましい光景であることは間違いない。


「――別れの挨拶も済んだ頃だろうし、もういいだろう」


 終わりを告げられてから始まった別れの挨拶――まさにサッカーのロスタイムのような時間だったが、それもとうとう時間切れ。

 忌野は、こころちゃんの小さな手を握って、引率するようにした。

「……ちょっと忌野。アンタ、こころに変なことはしないでしょうね?」

 目尻を吊り上げながら牽制したのは、もちろんニノだった。さすがお姉ちゃんである。

「ギクっ――な、なにを言ってるのかなぁニノさんは。俺っちは紳士なんだぜ? 幼女に手を出すなんて、絶対にありえないよー」

「……半分本当、半分嘘……です」

 両目を薄く閉じていたこころちゃんは、忌野の本心を見抜くと、じとーとした目で彼を見た。

「ふむ――私は勘違いをしていたようです。忌野くんって、実は恋多き男の子だったんですね」

 道端に捨てられているゴミを見るような目で、雪菜が言った。

「や、やだなぁ雪菜さんはー。そんなの勘違いに決まってるじゃん。俺っちほど一途な男も、そうはいないよ?」

「ウインクしないでください。キモいです」

「せめて気持ち悪いにしといてくれ、雪菜さん……」

 うんうん、どうやら雪菜と忌野の仲もよくなったみたいだし、何よりである。

「――とまあ、そろそろ本当に行くよ。あまり時間もないからね」

「ああ、とっとと行けや。こころを頼んだぜ」

 一歩前に出たのは、白い髪の男性――士狼だった。

「……けっ! おまえなんか、どっか行っちまえ!」

 すると忌野は、地面に唾を吐く真似をした。

「はあ? 急にどうしたんだよ。悪いもんでも食ってきたのか?」

「うるさい! 俺っちは、あんたになんか負けてないもんねー! いずれ勝つもんねー! 覚えてろだもんねー!」

「よく分からないが、とにかく病院に行くことをオススメしとくわ」

 あっかんべーと舌を出す忌野と、子供を宥めるように相手をする士狼。

 しばらくお茶目な口論をしていた二人だが、やがて忌野の顔つきが変わった。

「――”白い狼”ねえ。狼っていう生き物は、特に家族を大事にする生き物だっていう話だけど」

「ああ? なんだって? 男なら、もっと大きな声で言えや」

「いんや、なんでもないよ。ただ――宗谷士狼さん」

 軽く頭を下げたあと、忌野は続けた。

「――雪菜さんのこと、絶対に護ってやってくれよな」

 その神妙な言葉を受けて、士狼は愉快そうに口端を歪めた。

「――当たり前だろうが。雪菜は、俺の妹みたいなヤツだからな」

 これも男と男の友情というのだろうか。

 なんだか互いに分かりあったように、ふっ……、という笑みを浮かべる二人。うーん、いいなぁ。私ってば、こういうの大好きなんだよね。

 ちなみに後ろのほうでは雪菜が「私なんてですね、しょせん妹ですからね、ふふふ、ふ、ふ、ふ」と怪しげな笑いを漏らしつつ、自称陰陽師モードに入っていた。

 さて、そんなこんなで滅茶苦茶な――けれど私たちらしい別れの時間が、とうとう終わりを告げる。

 見慣れた暦荘前の景色。

 遠くに細く伸びた人道。

 その夕焼けに染まった道を、忌野とこころちゃんが手を繋いで、太陽に向かうようにして歩いていく。

 だんだん離れていく背中と背中。

 それを見送る士狼と雪菜、そして頑張って涙を堪える私と、こころちゃんを見護るようにして佇む――ニノ。

 私たちの一番前に立っているものだから、ニノの顔は見えず、ただ赤い長髪を流した背中だけが見える。

 こころちゃんは、名残惜しそうに何度も振り返っていた。もう涙を隠すこともできず、ちいさな瞳から大粒の雫をボロボロとこぼしながら、ずっとニノに手を振っていた。

 そしてニノは――笑顔だった。

 決して作り笑いじゃない自然な笑顔。

 でも――とても寂しそうな笑顔。

 うん、そうだ。

 私たちは――私と士狼と雪菜は、もう分かっている。

 ニノは笑っているけれど、本当は笑っていないんだって。

 気丈に振舞っているけれど、本当は振る舞い切れていないんだって。

 なぜなら。

 顔の表情よりも強く感情を示す、ニノ自慢の獣耳は――ずっと元気なく震えていたから。

 要するに、ニノも泣いてたのだ。泣きたかったのだ。

 しかし、いい女が涙を見せていいのは好きな男の前だけよ、なんて持論をこころちゃんに言っちゃったもんだから、簡単には泣けなくなってしまったのだ。

 だってニノは――こころちゃんの前では、格好いい女じゃないといけないから。

「ねえ、ニノ。……泣きたいなら、泣いてもいいんだよ?」

 あれから、どれほどの時間が経過したのか。

 こころちゃんの背中が消えたあとも、私たちは暦荘の前にいた。ニノが動こうとしなかったからだ。

 もう日は沈んでしまい、あたりには暗い夜の帳が目立ち始める。

 妖と出会う時間帯と言われる逢魔刻は終わりを向かえ――本格的な夜が幕を開けた。

「……べつに、これっぽっちも泣きたいなんて、思ってないわよ」

 相変わらず私たちに背中を向けたまま。

 ニノ=ヘルシングという名をした私の友達は、意地を張るように強がりを言う。

「ううん、嘘だよ。ニノは泣きたいはずだもん」

「しつこいわね。大丈夫だって言ってるでしょ。もうあっちに言ってよ、へっぽこ吸血鬼」

 今だけは、悪口を言われても怒ろうとは思わなかった。

 私は、ニノのちょっとだけ後ろまで歩み寄った。横顔が見えるか否か、ギリギリの位置だ。

「ねえ、ニノ」

「なによ、シャルロット」

 そして私は、続けた。

「――悲しいときは、無理をしなくてもいいんだよ」

 もうこころちゃんはいない。

 だから、ニノが気丈に振舞う必要はないんだ。

「べ、べつに無理は」

「あのさ、ニノの耳ってさ、とっても可愛いよね」

 ゆっくりと手を伸ばして、寒さに震えるように縮こまった獣耳に触れた。

 しかしニノは反応しない。

 だから私は――

「こころちゃん――行っちゃったね」

 ――ニノの頭を包み込むようにして、ぎゅっと抱きしめた。

 ちょうど私の胸あたりには、ニノの顔がある。

「――ぅ」

 微かな嗚咽。

「これなら、私以外にはバレないよ、きっと」

 後ろを確認してみると、士狼と雪菜は、わざとらしくそっぽを向いていた。

 その優しさが、暦荘の住人らしいと思った。

「っ――ぅ、あっ――!」

 押し殺したようなニノの声。

 私の胸元に縋りつくようにして、赤い長髪の人狼が黄昏に泣く。

 ニノとこころちゃん。

 この二人の出会いは、とっても運命的だったけど、その後の人生までは約束されていなかった。

 ならば神様は、一体どんな思惑があって、二人の逢瀬を決めたのだろう。

 最終的に別れてしまうのならば、そんなのは悲しいだけなのに。

 それとも、その悲しみに意味があるとでもいうのか。

 ――ああ、そうなのかしれない。

 人狼とサトリの姉妹は、離れ離れになってしまうからこそ、きっと意味があるのだ。

 だって、この二人の絆は、ちょっとやそっとの距離なんかじゃ壊れやしないのだから。

 護る者がいて、

 守る物があった。

 ニノとこころちゃんがいて、

 決して破られることのない約束を交わした。

 それは、姉と妹の関係。

 もう一度遊ぼうね、という約束。

 ――こうしてニノは、私の自慢の友達は、また一歩成長していくのだろうか。

「好きなだけ泣くといいよ。ぎゅ~って、抱き締めていてあげるから」

 私の胸の中で、ニノが小さく頷いた。

 いつもはお姉さん風を吹かす狼少女も、このときばかりは小さな女の子みたいで。

 いつもは子供扱いされてしまう私も、このときばかりは年上のお姉さんみたいだった。

 ――そう。

 ニノとこころちゃんが交わした約束は、きっといつの日か果たされる。

 二人は、もう一度出会う。

 ……ていうか、それにしても。

「ニノの耳――可愛いなぁ」

 眼前でピコピコと揺れる獣耳を見つめながら。

 私は、いつまでもニノを抱きしめ続けたのだった。




****




 諸悪の元凶となった妖は、忌野によって祓われ。

 サトリの妖であったこころは、在るべき場所へと帰り。

 そうやって、すべては終わった。

 しかし――この世には『一難去ってまた一難』という言葉があるように、平和な時間なんて長く続くもんじゃないのだ。

 さて、これから何が起こるのかを話そう。

 すっかりと日が沈んで、それなりに腹が空いてきた時間。

 ノスタルジックな夕方が終わり、俺の大好きな夜さんが本領を発揮し始める時間。

 その御飯時とも言える時間帯に、俺はなぜか自称陰陽師こと凛葉雪菜の部屋の前にいた。

 ――午後七時ぐらいに、お待ちしております。

 確か雪菜は、そう言っていた。

 だから俺は、苦虫を噛み潰したような顔をしながら、雪菜の部屋を訪ねようとしているのである。

 ――だって考えてもみろ。あの雪菜だぞ? 自称陰陽師とか名乗る雪菜だぞ? 俺が部屋に入った瞬間「きえー!」とか叫んで、変な呪いをかけてくる可能性もある。そりゃあ苦虫を噛み潰した気分になるってもんだ。

「……はあ、だるいなー」

 お月様を見上げながら、ほとんど無意識に呟く。

 だけど、これは約束だったから仕方ないのだ。

 それに雪菜は、気持ち悪いぐらい嬉しそうだった。俺に手料理を食べてもらう、という些細な約束一つで、あそこまで喜べるのなら、まあ付き合おうかなという気にもなる。

 暦荘の渡り廊下には、どこまでも食欲をそそる美味そうな匂いが立ち込めていた。ちなみに発生源は雪菜の部屋だ。恐らく煮物とか、そのあたりを調理しているのだろう。

 これは余談だが、さっき匂いに釣られたシャルロットが「わぁ、美味しそうな匂いがするー!」とか言って、深紅の瞳を輝かせながら出現したのだが、絡むのが面倒だったので退治――じゃなくて、部屋に叩き戻してやった。食欲旺盛なバカ吸血鬼であった。

 とまあ、これ以上無駄に時間を潰しても仕方ない。

 呪われるかもしれないが、怪しい結界に取り込まれるかもしれないが、とにかく雪菜の部屋に突入しよう。そして華々しく散るのである。

 暦荘の204号室こそが、雪菜の部屋。

 俺の部屋が205号室なので、言ってしまえば隣人さんに当たるわけだ。

 だから雪菜の部屋を訪ねる手間は、自室で服を着替えて、靴を履いて、そして数メートル分の距離を歩くだけ。実に楽チンだ。

 しかし――それだけに心の準備を整える時間も、俺には与えられていない。

「……あばよ、みんな。今まで楽しかったぜ」

 暦荘を見渡しながら、俺は自分なりの格好いい笑みを浮かべつつ、別離の言葉を口にした。

 すぅ、と深呼吸をしてから、雪菜の部屋のドアをノックする。

 小気味よい音を二度ほど鳴らしてやると、迅速にリアクションが返ってきた。

 具体的に説明すると、俺がノックをして一秒ぐらいでドアが開いたのである。


「――士狼さん。さっきから密かにお聞きしていたのですが、まるで死地に向かう兵士のようなことを言っていたのは、私の気のせいということでよろしいのでしょうか」


 開け放たれる扉と、投げかけられる言葉。

 薄暗い渡り廊下に立っていた俺は、部屋の中から漏れてくる光に、瞼を細めることとなった。

「ああ、おまえの気のせいだ。だから――」

 そこまで言って、しかし俺は口を噤んだ。

 発声ができない、ではなくて、紡ぐべき言葉を考える脳の活動が停止してしまった、といったほうが正解。

 それだけ俺の眼前に広がっていた光景は、思わず鼻血が出そうになるぐらい常軌を逸していた。

「……どうでしょうか」

 すこし気恥ずかしそうに雪菜は俯いた。

「いや、どうって言われても――」

 正直な話。

 このとき俺は、俺の目の前に立っている女はどこの誰だ? と思っていた。

 もちろん第一候補に挙がるのは、凛葉雪菜だろう。

 鏡のような艶やかさを持った長い黒髪。

 まだ踏まれていない新雪のような白い肌。

 認めるのは癪だが、そこらの女なんて話にならない程度には可愛いんじゃねえか、と称してやってもいい顔立ち。

 そして雪菜という女を語る上で最重要なのが、やはり和服だろう。

 春夏秋冬という一年の季節、晴れの日はもちろん、雨の日も、雷の日も、嵐の日も、雪の日も――そのすべてを和服で過ごすのが、俺の知る凛葉雪菜だ。

 しかし。

「――おまえって、雪菜だよな?」

 口にしてから、これは間抜けな質問だったと後悔した。

 でも仕方ないと思う。

 なぜなら――俺を出迎えてくれた雪菜は、なんと和服を着ていなかったからである。

「はい、私は凛葉雪菜ですが」

 首を傾げながら、なぜそんなことを聞くのだろう、という顔をする雪菜。

 だが首を傾げたいのは俺のほうだった。

「あのな、まず一つだけ確認しておきたいんだが」

「はあ、構いませんが」

「おまえが着ているのって――和服じゃねえよな?」

「そうですね、そうなります」

「やっぱりそうだよな。ということは、おまえが着ているのって――学校の制服?」

 恐る恐る聞いてみると、やはり雪菜は恥ずかしそうに俯いた。

 ――そう、なにを隠そう、自称陰陽師こと雪菜が着ていたのは、学校の制服なのだった。

 ほとんど新品に見える真白のブラウス。……なんだか卸し立てに見えるような。

 シンプルにデザインされた紺色のスカート。……なんだかアイロンかけたばかりに見える気が。

 足先から膝下までを覆う黒いソックス。……絶対に異性には肌を晒さない、私は夏でもタイツを履きます、とか言ってたような。

 しかも、である。

 なぜか雪菜は、普段はストレートに流している黒髪を、後ろで一つに結っていた。その役目を果たしているのが、雪のように白いリボンであった。

 頭の高い位置――後頭部あたりで結ばれた髪は、ポニーテールと称すほど快活なイメージを浮かばせない。むしろ浴衣を着た女がうなじをオープンにするような、そんな艶やかさがある。

 ……おかしい。

 どうして雪菜は、わざわざ学校の制服を着ているのか。

 しかも今日の雪菜は、無駄に露出が多い気がする。可愛らしい膝小僧が見えてるし、うなじだって開放されている。

 いったい何が目的なんだろうか。

「……あの、士狼さん。どうでしょうか」

 俺から視線を外して、雪菜はさりげないふうを装いながら、しかし興味津々な感情を言葉に含ませつつ、問うてくる。

「どうって言われても――まあ、いいんじゃねえか?」

 本当は、こいつってスカートを穿いたりしたほうが可愛いんじゃないか? と思ってしまった俺だが、もちろん口には出さない。

 いつもの雪菜は、まさしく大和撫子といった感じだが。

 いまの雪菜は、清純派アイドルと呼んでも惜しくは無いほど完成されていた。

 よく分からない感じで緊張していた雪菜だったが、俺の印象が悪くないということを知ると「よかったですー」と両手を合わせて、微かに口元を緩ませた。

 どうして制服で俺を出迎えたのか――真相は分からないが、なんだか聞いてはいけない予感がしたので、追求はナシにした。

 それから俺は、問題なく雪菜の部屋に入ることができた。見たところトラップの類はないようだ。

 その際、雪菜は気品溢れる所作で、深く頭を下げて「いらっしゃいませ、士狼さん」と言った。

 ――雪菜の部屋は、和風というよりは洋風にコーディネートされている。青を基調とした配色で、勉強机の上には観葉植物が置いてあったりと、住人に落ち着きを与えるような配慮がなされていた。

 部屋の中央には、小さな丸テーブルがちょこんと鎮座している。その丸テーブルの側に、俺は腰を下ろした。

 キッチンのほうでは、花の模様がプリントされたエプロンを纏う雪菜が、手際よく調理を進めている。ちなみに、手伝おうか、と言ってみたのだが、丁重にお断りされてしまった。

 手持ち無沙汰になった俺は、雪菜に許可を取ったあと、テレビをつけることにした。

 適当にチャンネルを替えて、なにか面白そうな番組はやっていないか探してみる。

 ……それにしても。

 どうして女の部屋というのは、こうも綺麗に整頓されていて、しかもいい匂いがするのだろうか。前者はともかくとして、後者は本当に謎である。

 やっぱり男と女は、根本的な部分からして違うのだろうか。

 それとも人間や吸血鬼を初めとした生き物が特別なだけなのか。

 基本的に人間は、男よりも女のほうが綺麗だ。しかし自然界の中で見ると、これは異例。多くの動物は、雌よりも雄のほうが美しいのだ。

 美しい女性は、本当に美しいと思う。意味が重複しているが、そう思うのだ。

 キッチンで機嫌よさそうに調理を進める雪菜の背中を見ながら、俺はそんなことを考えていた。

 やっぱり美人は、身の回りまで綺麗にするものなのか。

 雪菜の部屋には、ゴミどころか埃一つさえ落ちていない。

 完璧であり、そして完全でもある整理整頓。

 ……でも、これはさすがに綺麗すぎる気もした。

「なあ、雪菜」

「――はい? なんですか、士狼さん」

 呼びかけると、雪菜は振り向かないまま返答をよこした。きっと鍋から目が離せないのだろう。

「おまえって、いつも部屋を綺麗にしてるんだな。ちょっと感心した」

「そ、そうですか? ……もしかして、好感度アップだったりしますか?」

「まあ少なくとも好感度ダウンはしないな。しないが――」

 部屋をキョロキョロと見渡しながら、俺は続ける。

「――やけに綺麗だなぁ、と思って。まるで前日に大掃除でもしたみたいだ」

 そう口にしてみると、雪菜の背中がギクっというように震えた。

「い、いやですねー士狼さんは。箪笥たんすを動かすのが大変だったとか、千鶴ちゃんに手伝ってもらったとか、ぞうきんを絞るときに水が冷たかったとか、そんなことあるわけないじゃないですかー」

「なるほど。したんだな、大掃除」

「わー大変ですー。お鍋が吹き零れちゃってますー」

 とても棒読みだった。

 それから俺は、雪菜に話しかけて邪魔をするのも悪いなと思い、一人寂しくテレビなどを見ていることにした。

 丸テーブルの上に肘を乗せて、それで頬杖なんかを突きつつ、液晶に注目する。……なんだか、亭主関白な男みたいで嫌だった。

 ちなみにテレビでは、恐らくは連続ドラマだろう番組が流れていた。当然のことながら、毎週ストーリーを追いかけているわけではない俺には、話の筋がこれっぽっちも分からない。 

 パッと見たところ、年若い男女の恋愛が中心らしい。男前の俳優と、可愛らしい顔をした女優が、にこやかに談笑していた。

 それにしても楽しみだ。

 いくら雪菜を妹みたいな存在だと思っているとしても、美人に手料理を振舞われて喜ばない男などいないのだ。

 ただし、相手は雪菜。

 この部屋が自称陰陽師のテリトリーである以上、最後まで油断してはならない。どこにトラップが潜んでいるか分からないからだ。

 なんて緊張感だろう。

 実は――これまで見てみぬフリをしてきたが、すでに呪いっぽい痕跡が多々見られる。

 例えば、ベッドの下から藁人形わらにんぎょうっぽい手足がはみ出していたりするのは。

 例えば、可愛らしく飾られた勉強机、その教科書を収めるスペースに『よく分かる! 初心者から始める黒魔術(中級編)』という本が置いていたりするのは。

 ……いや、落ち着け、落ち着くんだ宗谷士狼。

 すべては見間違いだ、見間違いに違いないのだ。

 おまえは何も見なかった、そういうことにしておくのだ。

「――どうかしましたか、士狼さん」

 そのとき、俺の葛藤を見透かしたようなタイミングで雪菜がやってきた。

「なんでもない。なんでもあるわけがない。だから、俺は何も見てないんだ。本当なんだ」

「……ふむ、士狼さんが何を仰りたいのかが今一つ分かりませんね」

「そ、そうか。分からないか。そりゃあよかったぜ」

「ところでこの藁人形についてですが」

「――分かってるじゃねえかっ!」

 恐るべし、自称陰陽師であった。

「そういやおまえ、鍋の様子とか見てなくてもいいのかよ」

「はい。大丈夫ですよ」

 言いながら、雪菜はエプロンを外す。

 そして誇らしげな顔をして、自称陰陽師は続けた。

「もう完成しましたから」





 テーブルの上に並べなられた料理を前にして、俺は色んな意味で驚いた。

 かつて雪菜の料理を堪能したという姫神千鶴は「雪菜ちゃんが作る料理は、まるで宮廷のそれだったよ……」と遠い目をして言っていた。だから俺も覚悟していたのだが――

 実際のところ、俺の眼前に広がっているのは、そんな豪華な料理ではなかった。

 銀色に輝く白米。

 絶妙な加減で焼き上げられた魚。

 色彩にも気を遣われたサラダ。

 温かな湯気を放つ味噌汁。

 そして主菜だろう――肉じゃが。

 あとは漬物が少々があるぐらい。

 それは――俺が予想していたよりも遥かに家庭的で、そしてありきたりなメニュー。頑張れば俺でも作れそう。

 二人分の食事が並べられた丸テーブル。

 相変わらず甘い展開を繰り広げているテレビのドラマ。

 一見魔境かと思いきや、その実はちゃんと女の子をしている雪菜の部屋。

「さて――料理が冷めてももったないですし、いただくとしましょうか」

 キッチンのほうで茶を淹れていた雪菜が戻ってくる。

 雪菜は肩にかかった髪の房を背中に流してから、スカートを押さえながら座るという実に女子っぽい仕草で、俺の対面に腰を下ろした。

 和服を着ているときはもちろんだが、学校の制服を着ているときでさえ、相変わらず気品が漂っているというか、とても上品に見える。しっかりと躾けられてきたのだろう。今時の日本では、珍しい。

「まあ――食うか?」

「どうして疑問系なのかが分かりませんけれど、どうぞ」

 抑揚のない口調で言いながら、雪菜は料理を示した。

 なぜかと言うべきか、やはりと言うべきか――雪菜は自分が作った料理に疑問を持っていないように見える。

 つまり失敗したわけでも、手を抜いているわけでもないということ。

 ならば姫神の言っていた話は嘘だったのだろうか?

 今夜の雪菜は相当気合が入っていたみたいだから、俺にも宮廷料理が振舞われると思っていたんだが。

 ……まあ、考えていても仕方ない。

 とりあえずは食べてみてからだ、と思った俺は、雪菜が用意してくれた箸を掴んだ――瞬間。

「いけませんよ、士狼さん。めっ、です。食事を始める前には、いただきます、と挨拶をしなくては」

 まるで幼い児童を躾ける保母さんのような声で、雪菜は言った。……それにしても、この俺に「めっ」と言う女がいるとは。

「……ああ。悪い悪い、忘れてた。じゃあ」

 ここで言い訳させてもらうと、普段の俺はちゃんと「いただきます」を言っているのだが、今夜は雪菜の料理に戸惑ってしまっているせいで、うっかりと忘れていたのだ。

「はい。それでは」

 どこか嬉しそうに雪菜が相槌を打つ。

 そうして――花のような上品な香りと、料理の美味そうな匂いが立ち込める雪菜の部屋に「いただきます」という二人分の声が響いたのだった。

 雪菜に怒られてしまったせいで遅くなったが、とうとう俺は料理を口にしようとしていた。

 箸を掴んで、何から食べようかと思案する。

 いい具合に焼き上げられた魚や、よく出汁の効いていそうな味噌汁も魅力的に見えるのだが、ここはやっぱり主菜である肉じゃが様から食べるべきだろう。

 パッと見たところ、肉じゃが様を構成している具は一般的なものばかり。牛肉、じゃがいも、玉ねぎ、糸こんにゃく。これだけである。

 とりあえずは、と無難に牛肉を食ってみることにする。

 ちなみに――さっきから雪菜は「な、なにから食べようか迷いますねー本当にー」とか棒読みで言いつつ、顔は食卓に向けつつ、しかし視線を俺に向けている。要するに、上目遣いの形で俺を観察しているのである。

 どうやら自分が作った料理がお気に召されるか、心配している様子。

 ちょっと迷ったが、追求するほどでもないし、俺は食事を進めることにした。

「それじゃあ――」

 雪菜が気にしているようなので、今から食べますよー、といった合図のために、そんな声を出してみた。

 案の定と言うべきか、雪菜の視線が鋭くなる。

 そして、とうとう肉じゃが様の”肉”の部分に当たる牛肉が、俺の口へと――

「…………」

 無言で噛み締める。

 よく味わうために、味覚だけに神経を集中させるために、瞳さえ閉じた。

「……どうでしょう?」

 不安そうな声。

 薄っすらと半目はんめを開けて見てみると、雪菜は怯えるように眉を寄せていた。両手を胸の前で組んで、なにかにお祈りするときのような体勢で、じっと俺のことを見ている。

 しかし俺は、雪菜に言葉をかけてやることができなかった。

 不安そうに縮こまる雪菜を無視して、次の料理に箸を伸ばす。

「……あの、士狼さん」

 雪菜は、沈黙に耐え切れなくなった様子。

 ちらりと見てみると、雪菜は黒曜石のような瞳を僅かに潤ませながら、飽きずに俺を見ている。

 しかし。

 俺はなにも言わずに食事を続けるだけだった。

 銀色に輝く米を食って、絶妙な加減で焼き上げられた魚を食って、漬物を食って、豆腐とわかめの味噌汁を飲んで、そして雪菜自慢らしい肉じゃがを喰う。

「……し、士狼さんっ」

 捨てられた子犬のような顔だと思った。

 思わず頭を撫でてやりたくなるというか、庇護欲をかきたてる姿というか。

 それは雪菜にしては珍しい。だから、思わずそんな顔をしてしまうほどにコイツは不安なんだろう。

 無言の時間が続き――やがて三分ほどが経過した。

 俺は黙ったまま、雪菜は何も口につけずに俺を見つめたまま。

 ただテレビで流れる恋愛ドラマの声だけが、唯一の音源。

「……ごめんなさい、士狼さん」

 ふと、雪菜が悲しそうな声で言った。

 そこで――ようやく俺は、口を開いた。

「――やばいな、これ、めちゃくちゃ美味い」

 空になったお椀を突き出して、おかわりを催促する。

 対して、雪菜は大きな瞳をパチパチと瞬きさせているだけだった。

「どうした? 俺は早く飯を食いたいんだよ。おかわり、入れてくれ。大盛りでな」

「……ええと、あの、士狼さん」

 呆然としたまま茶碗を受け取る雪菜。

「なんだよ」

「……さっきの言葉、もう一度聞きたいです」

「さっきの言葉?」

「ダメ、でしょうか……?」

 俺が”さっき”という時間に言った言葉は山ほどある。

 しかし、雪菜が聞きたがっている言葉はすぐに分かった。

 だから繰り返す。

 何度でも繰り返す。

 だって、それが偽りなき本心だから。

「――なあ雪菜。おまえの作る飯は、本当に美味いよ。きっと、いいお嫁さんになれる」

 雪菜は瞳を閉じた。

 まるで――俺の言葉を反芻するかのように。

 雪のように真っ白だった肌に、ほのかな朱が差した。

 羞恥と、興奮――だろう。

 やがて夢見るような表情で、雪菜は薄っすらと瞳を開く。

「――おかわり、沢山ありますよ」

「ああ。俺が満腹になるまでに足りなくなったりしたら承知しないからな」

 はいっ、と弾む声で頷く雪菜。

 抑揚のない口調ではなく、感情の滲み出る口調。

 俺と出会ったばかりのころの雪菜とは、変わりきってしまった口調。

 しかし、その変化は、きっといいものだ。

 俺に出来ることは。

 ちっぽけな力しか持たない俺が、この凛葉雪菜という女の子にしてやれることは――いつか、こいつが自然な笑顔を浮かべることができるように。そう、してやりたいのだ。

 楽しかったら笑えばいい。

 泣きたかったら泣けばいい。

 喜びも、悲しみも、みんなで分かち合えばいい。

 それが出来るのが暦荘の奴らだ。

 そして俺は、雪菜の笑顔を間近で見ていたい――いつの日にか、雪菜が愛する人間を見つけ、暦荘を、俺のとなりを離れていくまで。

 神様に喧嘩を売っているような人生を送ってきた俺でも、それぐらいは許されるだろう。否、許して欲しい。

「はい、士狼さん」

 炊飯ジャーではなく、おひつに入れられた白米。

 手元に戻ってきた茶碗は、俺が要求したとおり大盛りだった。

「じゃあ食うか。ていうか雪菜、おまえも俺ばっかり見てないで食えよ」

「……べつに士狼さんなんて、見てないです」

「へー。俺じゃなかったら、なにを見てたんだ?」

「ええと――あれです」

 雪菜が示した先には、相変わらず甘さ全開の恋愛ドラマがやっていた。

 しかも容姿の整った男女が、一つ屋根の下で食事をしているシーンだった。つまり偶然にも、今の俺たちと同じなのである。

「ふーん、まあ何でもいいけどな」

 特に興味を惹かれなかった俺は、食事を再開することにした。だって、早く食べたかったからだ。

 雪菜が炊いた白米は、水分が多すぎることも少なすぎることもなく、米粒の一粒一粒がしっかりと立っていて、思わず「どうやったらこんな飯が炊けるんだ!? ああ!?」と文句を言いたくなるぐらい美味い。

 丁寧に焼き上げられた魚の焼き加減は、ちょうど俺の好みぐらい。調理中、一秒も目を離していなかったんじゃないか? と勘繰ってしまいそうになるほど、絶妙なのだ。

 特筆すべきは、やはり肉じゃがだろう。大家さんもよく美味しい肉じゃがを作ってくれるのだが、そういうのとは一線を画してしまうのが雪菜のそれだ。まさしくキング・オブ・肉じゃが。敬意を込めて、肉じゃが様と呼ぼう。

 他にも出汁の効いた味噌汁や、色彩鮮やかなサラダや、箸休めにピッタリの漬物や。

 これら一品一品は、主婦ならば簡単に作ることができるものばかり。

 けれど。

 もしも全国の女性が、一斉に料理を作り、それらを並べて、俺に試食してみろと言ったとして。

 ――きっと俺は、その中からでも雪菜の作った料理を見分けられると思う。絶対に。間違いなく。

 姫神の言っていたことも、恐らくは正しい。

 雪菜は、やろうと思えば、和食における最高峰の味を生み出せたはずなのだ。文字通り、宮廷料理のようなものを俺に振舞えたはずなのだ。

 しかし実際に彼女が作ったのは、ごく一般的な献立ばかり。

 要するに、雪菜は。

 俺が食ったことないものを作って、その物珍しさで驚かすよりも。

 俺が食ったことのあるものを最高のレベルで調理して、その家庭的な美味さで勝負することにしたのだろう。

 そして、それは成功だった。

 あえなく俺は――雪菜の料理に舌鼓を打つことになったのだから。

 これから毎日、この料理を食べることが出来るのなら、それは男にとって最大級の幸せに違いない。

「にしても、マジで美味いよなぁ。これから毎日、俺に料理を作って欲しいぐらいだ」

 冗談のつもりで言ってみた。

 それは雪菜も分かっているのだろう、彼女は上品に箸を動かしながら、小首を傾げた。

「士狼さん、さすがにお世辞が――」

 過ぎますよ、と言おうとしたのか。

「あん? 急にどうしたんだよ」

 雪菜の視線が、俺の背後あたりに集中している。

 なんだなんだと思って見てみると、そこでは恋愛ドラマの野郎が元気に放映されていた。ちなみに、年若い男女が、一つ屋根の下で料理を食べているシーンだ。

 しかも、である。

 男の俳優が「これから毎日、美雪の料理を食べていきたいな」とかキザなことを口にして、女優が涙ぐみながら「……もう。プロポーズ……遅いわよ……っ」とか言っている。

 へえ、ロマンチック……なのか?

 まあどうでもいいのだが。

「ははは、なんか感動的なシーンだなぁ――って、雪菜?」

 ふと気付くと、雪菜はとても真剣な顔をしていた。

 その鬼気迫る顔を見て、俺は思い出す。

 ――そういえば、さっき俺はなんて言った?

 冗談のつもりとは言え「これから毎日、俺に料理を作って欲しいぐらいだ」とか口走らなかったか?

「――士狼さん」

 ゆっくりと箸を置いた雪菜は、こくこくとお茶を飲んだあと、俺に向き直った。こいつは正座しているもんだから、余計に真面目な話をしようしているように見える。

「……なんだ?」

「いえ、皆まで言わなくて結構です。もう士狼さんのお気持ちは、しっかりと受け取らせていただきましたから」

「は?」

「士狼さんと出会ってから――早二年ですか。振り返ってみれば、時間の流れは早いものだと実感しますね」

 しみじみと呟く。

 なんか手で瞳を拭うような仕草もしてるし。

「ちょっと待て。なんだ、この空気は」

「お父様、お母様、今までありがとうございます。そして、申し訳ございません。今夜を持って、あなた方の娘である雪菜は、大人の女になります」

「――おい雪菜! テレビの、しかもこんな甘さ全開の恋愛ドラマなんかに影響されてんじゃねえ!」

「大丈夫ですよ、士狼さん。私がテレビと友達になったのは、五年以上も前なんです。ぱないでしょう?」

「ぱなくねえよ! ていうか、ぱないってなんだよ!?」

「……ふう」

「おい、その可哀想な人を見る目は止めろ」

「士狼さん」

「なんだ、もう変なことは言うなよ」

「おつぽよですー」

「――テレビなんか捨てちまえっ!」

「はい? いまの言葉、もう一度だけ仰っていただけますか?」

「なんで喧嘩腰なんだよ! キレるところ間違ってるだろ!」

 相変わらず掴みどころのない自称陰陽師だった。

 それから俺は、全力で勘違いをしている雪菜の誤解を解いたあと、食事を再開することにした。

 その際に、雪菜が「そうですか、そうですよね、どおりで半年ぐらい前に見た夢に似てる展開だと思いました」と悲しそうに言っていたのが印象的だった。

 ちなみに――これ以上勘違いが起きても面倒なので、テレビを消そうとしたら雪菜に止められた。

 本人曰く「消さないでください、このドラマは参考に――こほん、この幸せそうな男女の行く末を見守りたいと思いまして」とのことらしい。

 まあ元はといえば、このドラマにチャンネルを合わせてしまったのが俺自身なのだから、仕方ないのかもしれない。

 ――が。

 やはり俺は間違っていた。

 あのときに断固たる決意を持って、チャンネルを変えておくべきだったのだ。

 それは、俺が茶碗三杯目の飯をおかわりしたときのことだった。

「どうぞ、士狼さん」

「ああ、悪いな」

 手元に戻ってきた茶碗、盛られた白米を前にしても、いまだ俺の食欲は衰える兆しを見せなかった。

 まあ俺が大食ということもあるのだが、それ以上に雪菜の料理が美味しすぎるのである。だから悪いのは、雪菜なのだ。

「それにしても、おまえの作る料理は――」

 とかなんとか続けようとしたのだが、雪菜の視線が、俺の背後あたりに集中しているのに気付いて止めた。

 ……最高にイヤな予感がする。

 しかし真相を確かめないわけにもいかないので、俺はゆっくりとテレビのほうを見た。すると、やはり例の恋愛ドラマが続いている。しかも、まだ男女の食事シーンのままである。

 ここで問題なのが、男女の距離感と、彼らの間に流れる空気だろう。

 なんだか気持ち悪いぐらいラブラブな男女が、そこにはいた。

 しかも、である。

 女優が「はい、あーん」とか言いつつ、男の俳優が「ふふふ、悪いね。美雪に食べさせてもらうと、美味しい料理が、もっと美味しく感じるよ」とか言いつつ、さらに女優が「女だったら、好きな男の人に『あーん』をするのは当然よ」とかほざいている。アホかと。

 まあでも――さすがの雪菜も、これには影響されないだろう。

「――士狼さん」

 ゆっくりと箸を置いた雪菜は、こくこくとお茶を飲んだあと、俺に向き直った。

 やばい。

 超絶なまでの既視感がする。

「……なんだ、雪菜」

「いえ、正直申し訳ないと思いまして。私としたことが、女としての務めを果たさないばかりか、殿方への気遣いも忘れてしまうなんて」

 古来の日本には、男尊女卑という思想があった。

 これはそのままの意味で、男のほうが偉く、女のほうが偉くない、ということである。

 しかし近代において、その風潮は当てはまらないことが多い。

 最近は、女性だって仕事をするし、男性だって子供の面倒を見るのだ。

 だから雪菜は、別に女の務めなんて果たさなくてもいいし、殿方への気遣いを忘れていてもいいと思う。

 ただ――この凛葉雪菜という女は、和風かつ古風な家柄に育ったせいか、考え方も非常に前時代的なのだ。

「大丈夫だ。だから、おまえは黙って飯を食ってろ」

「まあ、やっぱり士狼さんったらツンデレさんなんですね」

「はあ? 突然なにを言い出すんだよ」

「実はですね、すこし前に周防さんが教えてくれたんです。『宗谷は隠れツンデレだから、あいつが否定したことは、すなわち肯定なんだよ』と。ちなみにツンデレさんというのはですね、周防さん曰く――」

「――周防ぉおおおおっ!」

 そろそろ周防に地獄を見せてやろう――そう決意した。

 あいつが蒔く種は、いつも俺にとって不幸しかもたらさない。

 確か、この間シャルロットにも意味不明な知識を仕込んでやがったし、ニノにも男が喜ぶ方法(もちろん間違っている情報)を耳打ちしていたし。まあ姫神にはトラウマがあるからか、必要以上には近づかないのだが。

「さて士狼さん。準備はよろしいですか?」

 雪菜は箸を持つと、箸先をくいっくいっと動かした。

「よろしくねえよ。ていうか、おまえは何をするつもりなんだ?」

「…………ぽっ」

「無言で頬を染めんな!」

「失敬ですね。ちゃんと”ぽっ”と口にしましたよ。よって、無言ではありません。ですから謝罪を要求します」

「こんなに謝りたくないと思ったのは、生まれて初めてだ」

「まあ、士狼さんの初めてを偶然にも貰ってしまいました。どうしましょう? これは、私が責任を取ったほうがよろしいのでしょうか?」

「取らなくていいわ! さっきから何が言いてえんだよ、てめえは!」

 俺が怒鳴ると、雪菜は打ち捨てられた猫みたいに丸くなった。

 ――それからもとびっきりの胡散臭さを発揮し続けた自称陰陽師であったが、俺を侮るなかれ、雪菜と過ごした二年という月日は無駄じゃなかった。あしらい方は、もう完璧。

 自称陰陽師に困っているヤツがいるならば、俺に相談してくれれば万事解決なのである。

 さて、そんなこんなで食事も終わる。

 キッチンの方で洗い物をする雪菜を見て、俺は今度こそ手伝おうと思い、そして実際に手伝った。

 初めは遠慮していた雪菜だったが、ほとんど無理やり手を貸してやると、唖然としたあとにちょっと嬉しそうな顔をして「じゃあ、お願いしますね」と言った。

 狭い流し場で、二人並んで洗い物を終える。

 食後には、雪菜が熱い日本茶を淹れてくれた。もちろん美味い。きっと、お茶っぱにも拘りがあるのだろう。

「士狼さん、どうでしたか?」

 部屋の中央に鎮座する丸テーブル。

 それを中心として、俺はあぐらをかいて、雪菜はきっちりと正座して、向かい合うようにして腰を下ろしている。

「ああ、マジで美味かったよ。お世辞抜きでな」

「……そう、ですか」

 唐突に。

 そわそわする雪菜。

「ん? どうした」

「いえ……あの、士狼さんは、私の作った料理を美味しいと思ってくださったのですよね?」

「そうだな。美味しいと思ったぜ」

「じゃあ――」

 そこで区切ったあと、何かを決心するように沈黙したあと、雪菜は続けた。

「――たまには、こうして私と二人きりで――」

 雪菜は言う。

 私に料理を作らせてほしい、と。

 士狼さんと一緒に夕飯を食べたい、と。

 お願いですから、私の料理を食べてください、と。

 それを聞いた俺は、こいつって実はシャルロットと同じぐらいバカなんじゃないか? と思った。

「……なあ雪菜。おまえって、結構バカだよな」

「はい? ……あの、それって」

 バカ、という一言によって、自分の提案を断られたと勘違いしたのか。

 雪菜は二重まぶたの瞳を悲しそうに伏せた。長いまつ毛が影を落とす様子は、どこか大人の女という感じがして、昔の雪菜を知る俺からすれば感無量だ。

 俺は言った。

「そういうのはな――俺のほうから、お願いしたいぐらいだ」

 きょとん、と首を傾げる雪菜。

 はて、いったい士狼さんは何を言っているんでしょう? みたいな顔。

 やっぱり雪菜はバカだった。

「だから。こんな美味い料理だったら、俺のほうから土下座してでも作ってほしいって言ってんだよ」

 すると、ようやく雪菜は理解してくれたらしい。

「――ま、真ですかっ?」

「まことだよ。どうでもいいが、古くさい言い回しだな、それって。おまえも女子高生なんだからよ。もっと可愛らしい言い回しに馴染めよ」

「可愛らしい、ですか? ……えっと、士狼さんは嫌いですか? 直したほうがいいと思いますか?」

「いや、俺はどっちでもいいよ。ただ周りの人間は、どう思うか分からないって話」

「なるほど、理解しました」

「そりゃあよかった。まあ適当に少女漫画でも読んで――」

「士狼さんが嫌いでないなら――直さないことにします」

 ちょっと勇気を振り絞るような感じの一言。

 どうですか、と言わんばかりに俺を見つめる雪菜。

「……まあ、勝手にしろ」

「えっ、それだけですか?」

「他になにを言えってんだよ。とにかく、おまえの好きにすればいいじゃねえか」

「……はぁ、そうですよね、それでこそ士狼さんですよね」

「はあ? それでこそって、どれでこそだよ」

「ふむ、まあこの際ですし、私がじっくりと説明しましょうか。そう、じっくりとです。今夜は――帰しませんよ?」

「その台詞をなんで女のおまえが言うんだよ! それを言うなら、俺がおまえを帰さねえよ!」

「……そんな。私たちには、まだ早すぎますよ士狼さん。せめて結納を終えてからでないと、身体を許す気にはなれないです」

「バカっ、例えの話に決まってるだろうが! ていうか俺も前から思ってたんだよ、大体おまえはな――」

 そうして夜も更けていく。

 俺と雪菜は、飽きもせずに同じような話題を何度もループさせていた。

 話していて思う。

 やっぱり雪菜は、いい女だ。

 頭はいいし、ルックスはいいし、料理は上手だし、気立てはいいし、何事もそつなくこなすし。

 きっと雪菜と結ばれる男は――幸せになれると思う。いや、思うじゃなくて、絶対になれる。

 だから、俺の務めは。

 この凛葉雪菜という少女が、どこかの白い髪をした奴みたいな悪い男に引っかからないように、見護っていくことだけだろう。

 


 ――まあ、それまでの間。

 雪菜が俺をとなりに置いておいてくれるかも、分からないんだけどさ――





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