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けれど、狼と吸血鬼  作者: ハイたん
第二月 【星見の夜】
15/87

其の三 『相談』

 

 『――果たし状。

 宗谷士狼殿を我が生涯の敵と認める。

 ついては明日夜十時、河川敷まで一人で来られたし。

 姫神千鶴――』



 これが昨日、俺の部屋に届いた一通のふみの内容であった。

「……なるほど、話は分かりました士狼さん」

 自称陰陽師は、読み終わった果たし状(白い紙)をテーブルに置く。

 俺たちは雪菜の部屋で、頭を抱えながらテーブルを囲んでいた。

 俺はあれから悩んだ挙句、雪菜に相談することにしたのだった。コイツなら姫神の扱いにも手馴れてるし、同時に対策だって打ち出してくれそうな気がしたからだ。

 夕食を終えたばかり――具体的に言うと、現在の時刻は午後七時過ぎである。昨日果たし状は届いたので、約束の時間までは後三時間ほどしかない計算になる。

 行くべきか、行かざるべきか。

 いや、そんなことよりも俺が河川敷に行ったら、もしかして本当に決闘が始まるのだろうか。

 ハッキリ言って実感がまるで沸かない。

 女子高生から果たし状を受け取る男――なるほど。字面にして見ると、とてもイヤだった。

「分かってくれたか。それじゃあ早速で悪いんだが助けてくれ」

「はい、助けましょう。ところで以前から聞こう聞こうと思って忘れていたのですけど、どうして千鶴ちゃんは士狼さんにそこまで執着するのでしょうね」

「どうしてって、そりゃあ」

 言いかけて止まる。

 雪菜に昔姫神を助けてやったことは話したが、暦荘に来る以前の経歴はまったく明かしていない。俺の過去を知ってるのは、ここらではシャルロットぐらいだと思う。

 自分の経歴なんて、普通に生活していたのでは語る機会など滅多にないのだ。第一、傭兵をしていた――などと言って信じてもらえるのかすら怪しい。

 それらを踏まえると雪菜の主観では、『姫神に助太刀したはずの俺がなぜか助けた側の姫神から執拗に狙われるようになった』という感じになる。

 確かに常識的に考えてみれば少しおかしい。感謝されこそすれ、なぜ勝負を挑まれるのか。理不尽すぎる。

 まあ相手があの姫神というのならば、それも分からなくはないが。

「……はい、それでは一つずつお聞きしましょう。士狼さんは、千鶴ちゃんに決闘を申し込まれるようなことをした覚えはありますか?」

「うーん、どうだろうな。俺は一応、知り合いが困ってそうだから助けてやったつもりなんだが、姫神からするとプライドを傷つけられるような出来事だったのかもしれないな」

 言ってしっくり来た。

 ――そうだ、きっと俺は姫神のプライドとか誇りみたいなものを傷つけてしまったんだ。俗に言うアレだ、私は一人でも勝てたのだ――みたいな。

「そうですか。では次、お聞きします。士狼さんは千鶴ちゃんに勝てますか?」

「……ああ。勝てるぜ」

 いくらアイツが強いといっても、それは精々一般人レベルでの話だ。

 言ってしまえば、姫神は武道というスポーツの達人で、俺は戦闘という命の賭け事のプロだった。その差は大きいというよりも、恐らく比べる土台自体が違うのだ。異種格闘技よりも、もっと違う世界同士の争い。

 本来ならばぶつかる機会などなかったのに、姫神が強く望むことによって実現しようとしている。

「ならば話は簡単ですね。――あのですね、士狼さん。いっそのこと、千鶴ちゃんをやっつけちゃえばいいのですよ」

「やっつけるってお前、俺は基本的に理由もなく女子供をだな」

「理由ならありますよ士狼さん。これは千鶴ちゃんの言葉を借りるのなら、決闘なのです。そして貴方は引き受ける側なのですから、むしろ彼女の相手をすることは一つの善意なのではないでしょうか」

「うーん、でもなぁ」

「それにですね、よく考えてみてください。士狼さんの話ですと、士狼さんはいつも千鶴ちゃんに挑みかかられて大変迷惑をしているのだとか。ならばここで実力の程をハッキリとさせてしまえば、今後は平和な生活を満喫できるというものです」

「なるほど、確かにそれは一理あるかもしれん」

 いつも姫神をのらりくらりとかわしていたが、案外一度勝負してやればアイツもスッキリするんじゃないか。俺が勝つにしても、姫神が勝つにしても、白黒つけた後ならば文句は言われないだろう。

 しかし、と思う。

「……雪菜。お前人を乗せるの上手いな、詐欺師とかになれるんじゃねえか?」

 すると雪菜は和服の袖で口元を隠し、

「イヤですね、士狼さん。詐欺師なんて胡散臭いものではありません。私は自称陰陽師ですよ」

 本当に失敬そうにそう言った。

 どちらかというと詐欺師より自称陰陽師の方が胡散臭いのでは、と思ったが口に出さないことにした。

 ――それから俺と雪菜は話をより密に進めていき、姫神をどうするべきかという一点のみを一時間以上に渡って話し続けた。様々な案が出ては消え、時々話が脱線して戻りを繰り返し、結局は単純明快な一つの結論にたどり着いた。

 やがて自分の部屋に戻る。時計を確認すると現在の時刻は午後八時半を回ったところだった。

 あともう少しである。


 ――俺は今夜、姫神千鶴との決闘を受けることにしたのだった。



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