其の一 『姫神』
あれは何が発端だったのか、結局よく憶えていない。
とりあえず周防の野郎が、星見をしようと意味の分からないことを言ったのだけは記憶にある。
けれどそれが本当にあの夜の始まりだったのかと問われれば肯定できないし、かといってならば何が始まりだったのかと聞かれると、俺はやはり首を傾げるしかない。
結局は考えても分からない――という答えに帰結する。しかしよくよく考えれば、特に正解などいらないのだ。
物事の始まりはいつだって突然で、待ってなどくれない。だからその発端となったきっかけを探し当てようとすることこそ、そもそもの間違いに違いない。
さて。
あの星見の夜を語る前に、まずはいくつかの小さな話をしよう。
現在の暦荘にはあまり住人が残っていない。俺を除いて、五人というところか。年末が近いので、ほとんどの者が実家に帰るなり、仕事が忙しかったりで部屋を空けているのだ。
勿論里帰りするのが自然であり、どちらかと言えば正月が近づく忙しいこの次期に、暦荘に残っている俺たちのほうが異端だろう。
その五人とは。
暦荘の大家さんでもある高梨沙綾。
最近住み着いたばかりの金髪赤眼の吸血鬼、シャルロット。
常に和服を着た、自称陰陽師の凛葉雪菜。
――そして後の二人の話を、紹介の意味を込めて語ろう。
それではまず二人の内、融通の利かない格闘娘――姫神千鶴の奴から、話していこうと思う。
ある晴れた日の正午過ぎ。
宗谷士狼は暦荘二階の渡り廊下で、大家さんに貰った牛乳を飲んでいた。本格的な瓶の牛乳である。あの人は暇つぶしに牛乳を渡してくるから要注意だ。
割と都市化が進んでいるこの街で、暦荘は唯一の良心といってもいいぐらいに居心地が優れている。とまあ、利点はぶっちゃけるとそれぐらいしかないのだが
外見こそ幾度のリフォームによって小奇麗に保たれているものの、防音性は薄いし夜は寒いしで、間違いなく一般の女性からは人気が得られないと思う。
しかしそれでも何故か、暦荘に居つく人間は女も多いから不思議である。この建物にはきっと黄金分割みたいな、人を惹きつける何かが計算され尽くしているのかもしれない。
別に毎日会社に出勤するわけでも、家でコンピューターを使ってハッカーみたいにキーボードを打ち鳴らす仕事をするわけでもない俺は、はっきり言ってヒマである。
仕事をしていないこともないが、精力的に働いているとも胸を張って言えない。ただし貯金自体は結構な額があるので、働かなくても食い物に困ったりはしない。
だからこういう日はのんびりと過ごすことが多い。
瞼を閉じると、どこからか小鳥の鳴き声が聞こえてくる。あのチュンチュンという囀りには、きっと平和の象徴大賞(注、いま適当に作った)を与えてもなんらおかしなことはないと思う。
俺はそんなバカみたいなことを考えながら、渡り廊下の鉄柵に体を預けて牛乳を飲んでいた。
「――こんなところにいたのか、宗谷」
母親の中で眠る胎児のような気分でこの平和な幸福に浸っていたところ、まるで赤子を取り出す医師のような冷静さで声がした。
俺の勘違いかもしれないが、さっきまで鳴いていた小鳥たちもどこかへ飛び去っていったような気がする。
空を見ていた俺は反射的に振り返った――そこには。
スカートを動きやすいように短くさせて、そのモデルようなスレンダーな身体を制服に包ませた、姫神千鶴の姿があった。
「……ぶ」
俺は咄嗟にどう反応していいか分からず、口に含んでいた牛乳を少しだけ瓶に吐き戻してしまう。
「さあ、宗谷。今日こそは私と勝負してもらうぞ、決着はまだ着いていないからな」
「……あのさ、姫神。お前、女子高生だよな?」
「そうだ。それが何か不都合でもあるのか?」
「むしろ都合のいい事のほうが少ないけどな」
その女特有の高い声で格好よく喋り、そして少し日に焼けた肌と凛々しい顔立ちをした彼女は、名を姫神千鶴という。
肩程度まで無頓着に伸ばした黒髪に、スラリとしたスレンダーな身体、そして片時も気を抜いたことがないような鋭い眼差し。部活の帰りか、彼女は今、一般的なそれと比べると随分と可愛らしいデザインの制服を着ている。
姫神の姿を認めるたびに思うが、今時の高校生としては珍しいぐらいにお洒落というやつに感心がない。
――はっきり言って勿体無い。綺麗な洋服を着て髪を伸ばせば、きっと望んだ男を余裕で振り向かせられるだろうに。その整った顔立ちは美形と評しても何ら問題はない。
姫神は握り締めた拳を俺に突きつけて。
……なぜか、仇敵と相対するかのように構えを取った。
「私にとって宗谷の言うことなどどうでもいい。それより勝負てくれ」
「なに、勝負? え、俺って何か決闘を申し込まれるようなことしたっけ」
「ああ、したさ。宗谷はあの日から、色褪せることなく私の心に息づいている」
「……姫神よ。お前はもうちょっと羞恥心とか、言葉が持つ微妙な意味とかを勉強したほうがいいぜ」
牛乳をぐびぐびと飲みながら言うと、姫神はどこかイラついた風に首を振った。
「黙れっ! 宗谷はいつだって、そうして煙に巻こうとする。私はお前を倒さない限り、自分に自信を取り戻せないんだ」
姫神は拳を握り締めて俯いた。トラウマを発症したボクサーみたいだ。
――姫神千鶴ははっきり言って、少し常識とズレたところがある。何でも実家は代々続く華道の家柄――俺でも聞いたことがあるような――の分家筋で、本人も幼いころから花と共に生き、花と共に育ったらしい。
しかし姫神は何が原因か、武道に強い興味を持っているらしく空手を続けている。しかも全国に名を轟かせるほどの腕前だ。その無駄に与えられた才能が結果的に、より姫神を格闘技に傾倒させているようである。
挙句の果てには家族と反発して、家出同然の身でこの暦荘に辿り着いたというのだから始末が悪い。締まらないったらないだろう。
その姫神千鶴という人間が、なぜ優しい隣人こと俺にそれほどまで強い執着を示すのか。……これにはまた、誤解というか仕方なかったというか、とりあえず深いような気がする訳があった。
あれはもう半年以上前のことになる。
ある日駅前のゲームセンターの裏で俺は、奇天烈な格好を強く主張する不良さん達数人と対峙する姫神を見た。
後から訳を聞いたところ、どうも他人からカツアゲをする不良さんを見かねて止めに入ったらしい。正義感が強いとかいうよりも、この現代日本でそんな偽善染みた行動を取る女子高生がどこにいようか。
とにかく姫神は、その不良さん達に圧倒的な実力で立ち回ってしまった。相手も相手で逃げればいいのに、中途半端なプライドが許さないのか、刃物や道端に落ちていた角材を持って姫神に迫ったのだ。
恐らくそんな状況でも負けはしなかっただろう。――ただし、身体に幾つかの傷がついていいのなら、という前提ならば。
それを俺は偶然を装って助けてしまった。いくら強いと言っても姫神は女だ。それも、とびっきりのいい女なのだ。黙って傷つくのを見過ごすわけにはいかないだろう。
軽く横槍を入れただけのつもりなのに、姫神にはそう見えなかったらしい。どうも俺が、実はどこかの引退した格闘家とでも思ったらしく、ことあるごとに勝負を挑んでくるようになった。
もちろん俺が強いなんていうのは彼女の気のせいに過ぎない。
なぜなら宗谷士狼という男は、ただの元雑兵に過ぎないからである。
「とりあえず落ち着け。もしお前があともう少しでもおかしな事を言い出したら、俺は優しいお医者さんを紹介しないといけなくなる」
ぽん、と気張った姫神の肩を叩く。牛乳をぐびりと飲み込む。
――するとなぜか顔面に拳が飛んできた。
「――うお、あぶなっ! いきなり何しやがる、暴力女!」
なんとか首を捻って回避するものの、咄嗟のことに動転して、空になった牛乳瓶を落としてしまう。落下したのがパックならば幸いだったのだが、残念なことにそれはガラス瓶だった。
パリン――と眼を瞑りたくなるような音がしてガラスが廊下に散らばる。色々と面倒は増えたが、音だけは景気がよかった。
……あーあ、後で絶対に大家さんに叱られる。
「ふん、やっぱりな。私の一撃をこうも軽々しく避けることができるとは――それがすでに宗谷の強さを証明してる」
「はあ? 身の危険をかろうじて回避できた人間にかける第一声がそれかよ。いきなり殴りかかられる身にもなってみろってんだ」
「お前が悪いんだ。私の心を強く掴んで放さない……。例え宗谷がどこに逃げようと、私はこの身が続くまでお前を追い続けてみせる」
「……だからさ、第三者に聞かれたら誤解されるようなこと言って、聞かれたらどうするん――」
言いかけて、扉の開く音がした。キィと蝶番が軋む。
ちなみにもう一度言うが、ここは暦荘二階の渡り廊下である。
「――何やら面白いお話をなさっていますね、士狼さん。あれ、千鶴ちゃんもいたのですか」
この庶民の香りが漂う暦荘の中で、唯一といってもいいほど煌びやかな服が目に映る。和服である。
自称陰陽師――凛葉雪菜、堂々の登場であった。
確かに今思うと、俺たちが口論――拳も一部出ていたが――していた場所は、コイツの部屋の真ん前だったらしい。
先ほどまで謎の決意を固めていた姫神千鶴は、雪菜が姿を見せると同時に顔を赤くして、もじもじし始めた。
力のない声で呟く。
「あ、あの、雪菜……ちゃん」
相変わらず。
普段の無駄に凛々しい姫神が、人をちゃん付けするのはひどく違和感があった。
雪菜は、その一世一代の告白染みた一言には何も返さず、しゃがんで割れた牛乳瓶の欠片を摘んでいた。
ガラスの欠片を光に透かしたりして弄んだあと、悲しそうな瞳で姫神を見る。
それはどこか芝居がかっていた。
「――ダメじゃないですか、千鶴ちゃん。こんなことをしてはいけません。貴女はとても可愛らしいのですから」
普段は感情の起伏に乏しい雪菜の顔に、花のような笑顔が咲く。
その微笑みと、可愛らしいという言葉を受けて、姫神はますます顔を赤くして俯いてしまった。
「え、でも……そ、宗谷が私の話を聞いてくれないから仕方なかったんだ」
「ほら、また。めっ、ですよ千鶴ちゃん。そんな男の子みたいな話し方をしては、せっかくの魅力も台無しです」
エンドレスである。
雪菜は口を開くたびに姫神を褒め、それを聞いた姫神は際限なく照れて顔を赤くする。まったく持っていつもの光景だ。
雪菜は姫神に歩み寄って、風によって乱れた髪を手櫛で整えてやる。
「女の子は可愛くなくてはいけません。いいですか、千鶴ちゃん。貴女のような可愛い女の子が乱暴な言葉遣いをすることは、それだけで罪なのですよ」
「……う、うん。分かったから、もう少しは、離れてよっ、雪菜ちゃん」
とうとう耐え切れなくなったのか。姫神はくるりと後ろを向いて、吐息の荒くなった体を鎮めるように深呼吸した。
――そう。
何を隠そうこの姫神千鶴という女は、今まで男のように真っ直ぐと生活してきた為に、『可愛い』と言われることに耐性がないのだった。それも、弱点と称しても過言ではないほど圧倒的なまでに。
姫神は女子高に通っているのだが、もちろんそこでカッコイイと言われることはあっても、可愛いとだけは天変地異があっても言われない。
それだけに姫神は、雪菜に苦手意識のようなものを持っていて、顔を見るたびに羞恥心をあらわにするのだ。
「士狼さんもダメですよ、千鶴ちゃんを苛めては」
「いやいや、どう見ても俺が苛められていた方だろ。それよりお前ら学校はどうしたんだよ。今日は平日なうえに、まだ午後になったばかりだぞ」
「も、もう冬休み、だからな。私も、雪菜ちゃんの学校も」
なるほど。その長期休みをすっかり失念していた。
姫神が制服を着ているものだから、まったく持ってややこしい。
「あーあ、学生は気楽でいいよなぁ。お前らさ、今のうちにせいぜい青春を謳歌しておけよ。俺みたいに大人になったら、忙しくてそれどころじゃなくなるぜ」
「確かにそうかもしれないな。……しかし宗谷。一つ疑問なのだが、そう言うお前は割とヒマそうに見えるんだが、気のせいなのか?」
「……俺はこう見えて、けっこう忙しいんだよ。……けっこうな」
冷たい風が吹く。
やや気まずい雰囲気になる俺と雪菜。しかし真っ直ぐすぎる姫神のヤツだけは、理解できていないように首を傾げていた。
やがて凍てつく空気の中を突貫するように、雪菜が「と、とりあえず私の部屋にでもどうですか? 先日、家から良いお茶を持ち帰ってきたんですよ」などとぎこちなく提案した。それを聞いた姫神は「え、雪菜ちゃんの部屋……?」と不安そうに気を落としていた。
そうこうする内に、俺たちは雪菜の部屋にお邪魔することとなる。
暦荘が誇る自称陰陽師の部屋は、怪しい札や藁人形の類が散乱していると思いきや、案外女の子らしい華やかな飾りつけである。
ベッド、カーペット、カーテン等は水色を基調とした配色で、部屋の中央には小さな丸テーブルがちょこんと鎮座していた。おまけにちょっと甘い匂いもしやがるし。
俺と姫神はクッションに座ることを勧められたあと、互いに違う意味でそわそわとしていた。
いつもは俺を見かける度にサムライのような掛け声で挑みかかってくる姫神も、この時ばかりは借りてきた猫のように大人しくなっていた。一言で言うと――凄くオロオロしている。
しばらくして、雪菜が高級そうな湯飲みを持ってやってきた。その際に思ったことだが、暦荘だけでなくこの部屋――つまり自分の部屋にも和服は似合っていなかった。せいぜい武家屋敷とかでようやく映えるレベルだろう。
淹れられたお茶を三人揃って、ずずっと平和に啜る。……しかし失念してはいけない。俺たちは今、敵地にいるのだということを。
何を隠そう、あの胡散臭い自称陰陽師のホームグラウンドである。もしかしたら雪菜は、この部屋にいる間はパワーアップしたりするのかもしれない。そして俺に正体不明の札を突きつけて「きえー!」とか叫びだしたりするのだ。
もちろん俺の妄想だが。
「――時にお二方。先ほどは一体、何をなさっていたのですか? 第三者的な私の意見を言わせていただくと、どうも争ったらしき形跡が見られたのですが。どうなんでしょうね、千鶴ちゃん」
割れた牛乳瓶でも思い浮かべているのか、雪菜は人差し指を唇に当てて、何かを思い出すようにそう言った。
ちなみにガラス片はまだそのままにしてある。手元に箒やチリトリの類がなかったからだ。あとで大家さんに掃除道具を一式借りることにしよう。
姫神が――なぜか正座している――悪戯を咎められた子供のように背筋を伸ばした。……それを見て、絶対に雪菜は確信犯だと思った。
おろおろと助けを求めるように俺を見てくる姫神。しかし俺は被害者なので、特に加害者を庇う理由もなく、視線に気付かないフリをした。
ずず、という音。
雪菜も意地悪く、即座に追求を繰り返すことはなかった。
「千鶴ちゃん」
「――はいっ!? どど、どうしたの? 雪菜ちゃん」
まるで電気ショックでも流されたかのように飛び上がる姫神。
「私は何をしていたか、と聞いているんですけど、聞こえませんでしたか?」
「……え、えーと、私はね。つまり宗谷と決闘を」
「――決闘?」
遮る。
姫神は慌てて口を閉じて、あわあわと視線を泳がせた。
「……千鶴ちゃん、私の耳は少しばかりおかしくなっていたようです。今、貴女のその口から『決闘』という言葉が聞こえた気がしたのですが」
「ひぃっ! いい、言ってません言ってません!」
頭を千切れそうな速度で左右に振り、必死に否定する。
気付けば――姫神はクッションの上に座っておらず、カーペットに正座していた。
遠慮して座らなかったのではない。ただ本人が知らず知らずのうちに後ずさるものだから、必然的にそうなってしまったのだ。
それに雪菜は気付いたようだったが、特に指摘はしなかった。
「なるほど、言っていないのですね。そうですか、私は安心しましたよ千鶴ちゃん。
先ほど部屋で勉強をしていたところ、どうも外で言い争うような声が聞こえてきたと思ったら、ガラスの割れるような音がしたんですよね。暦荘は防音性に優れているとは言いがたいですから、そういうのはついつい聞こえてしまって。――はい、ついつい色々と聞こえてしまうんですよねぇ千鶴ちゃん」
「うぅ……そ、宗谷ぁ」
「あら、またしても聞き間違えてしまったのでしょうか。まだ高校生である千鶴ちゃんが、成人している士狼さんを呼び捨てにするなんて、あるはずないですよね」
「……ぅっ」
もはや涙目の姫神である。
――やはり雪菜のやつ、ホームグラウンドであるせいかいつもより色々と強くなっている気がする。
さすがに可哀想になってきたので、仲裁してやることにした。
「少し落ち着けって、雪菜。姫神も悪気は――うーむ。あったのか、なかったのか」
「まあ。当事者の一人である士狼さんが即座に否定しきれないほどに、千鶴ちゃんからは悪意らしきものが感じられたと。そういうことですね士狼さん」
和服の袖で口元を隠し、大げさに驚く。あーわざとらし。
助け舟を出したつもりが、どうも追加攻撃を入れてしまったらしい。
「……ぐすっ、うわーん! 雪菜ちゃんのバカバカバカー!」
突如ふらりと立ち上がったかと思うと、姫神は泣きながら部屋を飛び出していった。普段はブレることのない鋭い眼は、幼子のように頼りなく揺れていた。
乱暴に扉が閉められる――と思いきや、音は全くといっていいほど無かった。恐らく、向こう側で姫神がノブを握って調節したのだろう。
パニックに陥っても無くさない変な律儀さが、これまた姫神っぽかった。
「おいおい、イジメすぎだろさすがに」
「そうですか。はい、私もちょっとやりすぎたかなとは思いました」
「アレでちょっとかよお前。本気出したら変な黒魔術とか使い出すんじゃないだろうな」
「違います士狼さん。黒魔術ではなく、私は自称陰陽師です。しかしですね、ちょっとは考えませんでした? あ、可愛いなぁって」
「ま、ちょっとだけな」
「ですよね。私、可愛い子は可愛くなくちゃダメだと思うんですよ。どこかのクソ吸血鬼――あ、間違えました。吸血鬼さんを除いて」
「…………」
思わず閉口する。
ちょっといいことを言い出したかと思った矢先に、全てが台無しになった。呆れている俺を見て、雪菜は「どうしました? あ、お茶のお代わりですか?」と言った。
それから部屋を出るまでしばらく。
雪菜はとても満足そうな顔でお茶を飲んでいた。