僕は結末を知っている
読書家・佐藤くんの悩みは、時間が足りないことでした。そんな彼に、退屈した神様が「あらすじがわかる能力」を授けたのは、ほんの悪戯心からでした。
最初は本に触れるだけで、数秒で内容を把握できるようになりました。しかし、神様の想定を超えて能力は研ぎ澄まされていきます。
映像作品はDVDのパッケージに触れるだけで、犯人も結末も「視える」。
勝負事はスポーツ中継の番組表を見れば、スコアまで「わかる」。
ついには、人の肩に触れるだけで、その人生のあらすじが完結まで「読める」ようになったのです。
佐藤くんはこの能力を活かし、占い師として開業しました。
彼の予言は「絶対に外れない」と評判を呼び、予約は数年待ち。瞬く間に莫大な富を築き上げました。
ある晩、佐藤くんが豪華な書斎で本を捲っていると、空間が歪み、あの神様が現れました。神様は皮肉たっぷりに笑いかけます。
「すべてを知る気分はどうだい? 結末がわかっている本を捲り、終わりの決まった人生を眺める。そんな『あらすじ』だけの世界は、さぞかし退屈だろう?」
神様は、絶望し、人生に飽きた佐藤くんの顔が見たかったのです。
しかし、佐藤くんは優雅にワインを一口啜ると、不敵な笑みを浮かべて答えました。
「いえ、最高ですよ。感謝しています」
「強がるな。内容を知っている物語を読み直すことに、何の意味がある?」
佐藤くんは手元の古書を指差しながら、ニヤリと笑いました。
「神様、大きな勘違いをしてらっしゃいますね。僕が好きなのは『物語』じゃありません。誤字、脱字、印刷のズレ、そんな『間違い』を探すことなんです。」
神様が絶句する中、佐藤くんは続けます。
「あらすじなんて、最初からどうでもよかった。能力のおかげで占いで大儲けできて、嫌な仕事もせず、一日中大好きな『校正作業』に没頭できる自由時間が手に入った。これほど幸せな人生はありませんよ」
神様は、自分の与えた「究極の知」が、単なる「校正の効率化ツール」に成り下がったことを知り、肩を落として消えていきました。
佐藤くんは今日も、あらすじのわかっている本を開き、活字の海に紛れ込んだ小さなミスを見つけては、至福の笑みを浮かべています。




